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浴衣は見せるために着る 9


 タダがちょっと動いたのでビクッとすると、ふっ、と笑う。いや可笑しくないから!と思いながらまた睨んでしまう。

 ドーン!と花火が空に登った。

「花火」とタダが言う。

「…」花火が何だっつうんだよ。

「なあ?」とタダ。

「花火が何!」キツい口調でまた睨みながら返してしまう。

 上がった花火の落ちる欠片がタダの顔を照らす。今度は目を反らさないからな、と思って頑張る私の目をしっかりと見返しながらタダが言った。「一緒に見れて本当に嬉しいからなオレは。簡単にあんな事しねえわバカか」

 胸がズキュッとした瞬間に空の高い所でまた、ダーーーン!と花火が広がった。




 ヒロちゃん達が戻って来て、私はタダの方へ寄らなければならない。

「トイレ混んでた!」とユキちゃんが私に聞く。「さっきも混んでた?」

「…うん」行ってないけどトイレ。

「浴衣だと大変そうだな」と笑いながら言うヒロちゃん。

「ヒロト!」とユキちゃんがヒロちゃんのわき腹を肘で小突きながら言った。「それセクハラ!ねえ?ユズちゃん?」

「そうだよ!最低ヒロちゃん」

「そんな事はねえわ」とヒロちゃんが言ったと同時に、花火がまた連打され始め私たちは黙って空を見続けた。



 空を見続けたが気まずい。

 あんな事して…あんな事してタダはなんで普通なの?しかもちょっと『ごめん』て言っただけ。

 やっぱり私の事好きなの?好きだよね?だって一緒に来れて嬉しいってはっきり言ったし。結構キツく抱きしめて来たし…と思い出したら顔が熱くなって来そうだったのでブンブンと頭を振ったらタダとヒロちゃんがビクッとした。

 感情の浮き沈みがハンパないな…ヒロちゃんにあんな事言われた後にタダにあんな事されて…


 いやでも、ヒロちゃんから今まで振られた2回ともタダはそばで笑ってた。そして妹だって言われた事も、今日の事も教えた後に抱きしめられたのだ。

 感極まったって言ってたのって…あれってもしかして…

 ヒロちゃんに対して『よく頑張ったな!』のハグ?でも簡単にあんな事しない、って言ってた。バカかって言ってた。でもはっきり『好きだ』とは言われていない。



 帰り際、ユキちゃんが帰る前にもう1回トイレ行っておきたいと言って、今度は私と一緒に行こうと言う。

 その時点で怪しい予感はあったが、トイレの順番に並びながら、「トイレの順番待ちながらこんな事言ってごめん」とユキちゃんが切り出した。

「みんなで海行った時、私も一緒に居させてくれてありがとう」

そんな事はないよね。あれはユキちゃんと二人きりにまだなれないって言い出したヒロちゃんがタダを誘って、3人はちょっとって言い出したタダが私まで誘ったのだ。

「私こそ…」と言いかけたのに、それを遮るようにユキちゃんが言った。

「今日もありがとう。一緒に来れて嬉しかった。3人幼馴染のところに私が混ざってしまって…」

 そんなわけないよ。ヒロちゃんは本当はユキちゃんと二人きりが良かったに違いないんだから。

「私こそ…」とまた言いかけたのにユキちゃんが畳み込むように続ける。

「タダ君にもそう言ったら…」

なんだ、タダにも言ったのか。

「あ、ごめん」とユキちゃんが言う。「それはいいや。とにかくユズちゃんとまた一緒に来れて良かった」

「私こそ…海でごめん」

やっと言えた。

「ううん」とぶんぶん首を振るユキちゃん。「私ユズちゃんが羨ましい。小さい時からヒロトと一緒にいて、いっぱい遊んで。ヒロトはユズちゃんの事見る時すごく優しい顔してる」

 うん。私を今日私を見てくれた時はとても優しい顔だった。でも一番優しい顔で見るのはユキちゃんだってもうちゃんと認められる。でも私は意地悪なのでそれは言わない。



 家までの帰りは花火大会の後半以上に気まずかった。シャトルバスで駅までは4人だったが、そこからヒロちゃんはユキちゃんを送るために、二人は別のバスに乗り、私はタダに送られる。

 タダと二人きりになってすぐに、「…なんか…私、一人で帰れそうな気がするんだけど」と、そっと言ってみる。

「夜に一人で帰せるわけねえじゃん。しかも一緒の方向なのに別々に帰る意味がない」

「ちょっとタダんちから遠回りになるでしょ?うちまで送ってくれたら」

「…気にしてんの?」

「…」

「オレが…した事」

「気にしてるよ!気にしないわけないし」

「そっか。なら良かった」

「…」


 ダメだ。今のタダの言葉にまた無駄にドキドキする。マジで一人で帰りたい。先に歩き出すと、「なあ」とタダが後ろから言う。

 返事をせず振り返りもしない私はそのまま歩くが、また「なあ」と言われる。それでも振り向かないでいると、「大島!」と嘘みたいな大声で呼ばれた。

「ちょっと…」と言いながら振り向いたら、パシャッと音がしてタダがスマホを私に向けていた。

「ちょっと!!今何撮ったの!?」

「大島。口開けながら振り向くからすげえ変な顔してるわ」

撮った写真を確認しながらしれっと言うタダ。

「大きな声で呼ぶからでしょ?」

「最初で振り向かねえからだろ」

「もういいからそれ消して」

「消しません」

「消してって」

「消さねえっつの。…じゃあもう1回ちゃんと撮らせて」

「イヤだよ」

「じゃあ今の変なヤツ、ヒロトに送る」

「バカじゃないの!?」

 あ、道行く人たちに見られてる…



 あんまり周りの人たちにもじろじろ見られたために、タダが急に私の手を掴み、すぐそばにあったコンビニの駐車場に入り、「じゃあ撮り直してやる」と言う。

「いやいいよ。いいからさっきの消してよ」

「撮り直せないとこれ送る事になるんだって」

「何言い出してんの!?…撮り直して…それどうすんの?」

「ヒロトに送っといてやるから」

…ヒロちゃんに?「ヒロちゃん…いらないんじゃないかな」

「いらねえわけねえよ」


 そうかな…今日また振られたのに?みんなで撮ろうって話にもならなかったし。帰りのバスでヒロちゃんたち二人で撮ってるかもしれない。

「ヒロちゃんはユキちゃんのしか欲しくないよ」

「もういいから。ホラ早くちゃんとしないと、また変なの写してそれ送る」

「止めて!」

 仕方ないので1回普通に撮られて、すぐに前の変な顔のを消去させる。

「こっちのもおもしれぇから消したくねえけどな」と画面を見ながら言うタダ。

「いいから早く消してって」

「こっちも可愛いのにな」

「…あんた、基本私をバカにしてるよね?」

ハハハ、と笑うタダ。



 そんなこんなでタダに家まで送られ母に挨拶もされて、帰り着いてから私は自分が結構バカな事をしたんだって事に気付いた。

 しばらくしてからクラスの友達のユマちゃんからラインが来たのだ。

「なんか女子の間で、タダ君とユズちゃんが付き合ってるって回ってるみたいだけど、いつから?なんで私に黙ってんの?なんか駅の近くで写真撮り合ってたんだって?そんな人多いとこで二人で写真撮るとか、花火大会で一挙に盛り上がったの?」

 いや、撮り合ってなんていない。けど、そんな事どうでもいい。

 花火見てる最中は人の多い所は歩きまわらなくて、誰とも会わなかったからすっかり油断してた!

 わ~~~と思う。慌ててユマちゃんに電話して今日の事をだいたいを教えた。抱きしめられた事はもちろん秘密だけど。

「なんだそれ、」とちょっと笑いながら喋るユマちゃん。「やっぱ付き合ってんじゃん」

「付き合ってない」


  取りあえず学校の補習が終わってて良かったかも。


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