誰だって間違える
「間違えちゃった」
僕は背中を真っ二つに切り裂かれて倒れる王様の姿を見ていた。
お尻を蹴った瞬間に、あ、なんか王様っぽい気もするぞ、と思ったけどもう遅かった。
僕はその前に立っているのが魔王なのか王様なのかなんて正直どうでも良くなっていて、魔王を倒したことで発生するギャランティやその他恩恵の数々がどこまで膨れ上がるかしか考えていなかった。
だからお尻を蹴って背中を切りつけるのは、ひとつのルーティーンみたいにしか考えてなかった。お尻を蹴ったら、背中を切る。その繰り返し。逆に言えばお尻を蹴らなきゃ背中は切らないし、背中が切りたいのならまずお尻を蹴らなきゃ――
――もういいや、そんなことよりこの有様をどうしようか。
間違っても僕が魔王と思って間違えて殺したなんてことがバレてはいけない。
でも王様から流れ出る赤黒い何かは既にどうしようもなく、王様がただのお肉になっていることを示唆している。目を背けたくなるくらい悲惨な光景だけど、ここで逃げ出せば後で僕がどうなるかわかったものじゃない。
現に僕は間違えただけだ。魔王だと思ったら間違えちゃったんだ。それだけのこと。間違いは誰しもあるし、それが変身する魔王なら尚更間違える。
とりあえず、このままだとマズそうだから王様の死体を移動させよう。
でも王様は太っているから僕には持てない。仕方ないから足を引きずって運ぼう。
絨毯が王様から流れ出る何かによって汚れちゃうけど、仕方ない。
そうして向かう宛もなく歩いていると兵士の一人が僕を見つけてやって来る。名前はなんだったかな、ちょっと思い出せない。
「勇者様、魔王は見つかりましたか……って、えっと、勇者様? そちらに連れているのはもしかして」
さぁ困ったぞ。なんて答えようか。
「……王様が魔王に殺られた!!」
「な、なんと!! ではこちらの亡骸は……」
「……王様だ」
「なんとおおおおお!!」
この際もう魔王はどうでもいい。王様をどうするかの方が僕にとっては大事な問題だ。
「この事実を早くお前の上官に伝えるのだ。私はひとまず皆がよりパニックにならないように王様の亡骸を隠しに行く」
「了解いたしました!!」
走っていく兵士を見送って、僕は一息つく。
さてと、これからどうしようか。
■ □ ■
「なんてことだ、なんてことだ!!」
王様が魔王に殺されてしまった。これはこの国始まって以来の一大事だ……どうしようどうしようああああ。
落ち着け、落ち着け俺。必要以上に取り乱してしまうのが俺の悪い癖だ。今はとにかく勇者様に言われた通りにあの事実を上官に伝えなくては。
すると前方に混乱を鎮めるために、コックやメイド達に声をかけている上官がいた。あの上官に一刻も早くこの事実をお伝えしなくては!!
「上官、上官!!」
「むっ、どうした、そんなに慌てて!? 今兵士が慌てたら誰が指揮をとるんだ、シャキっとしろ!!」
「は、はいいい!!」
「それで、何をそんなに慌てて私のところに!?」
「そ、それが、報告がありまして!!」
あああああ、怒られちゃった、どうしようどうしよう、でも早く伝えなきゃ、ああああ、でも焦っちゃダメだ!!
あれ、何を伝えればいいんだっけ……えっとえっと、確か王様が、魔王に……いや、魔王が王様に――
「――魔王が王様に殺されました!!」