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良くある転生物語 聖と魔  作者: Seisei
第一章 幼少期
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第八 悪魔召喚

文章がダブっていたのを訂正しました。

第八 悪魔召喚


 ハルト皇太子は、諸侯を前にしてニコやかな笑みを見せた。


 上機嫌だった。


「アールティンカーが二歳になった。あの子は特別なので感慨もひとしおだ。二歳のお披露目の誕生会は盛大に開催したい。諸侯には準備方をお願いする」


 二歳でお披露目とは、皇太子殿下も飛んだ親バカだとは大勢の陰口である。


 マキシミリアン王朝でもその様な幼少のお披露目はあまり事例がない。


 世間ではアールが少し特別な赤ん坊だとはあまり知られていない。


 アールの特異性は反対勢力には随分と驚異に映るに違いないはずだった。マキシミリアン王朝の将来の王様は想像を絶する天才なのだ。


 このお披露目には政治的な意図が含まれているはずであった。



✳︎



 ハルト皇太子の発案のお披露目式はとても盛大に行われる事になった。


 開催は三ヶ月後に決まった。確かに盛大な催し物と言うのには時間がかかるものだが少し遅目にされたのには意味があった。赤ん坊の成長速度にとって三ヶ月の差が大きいかったからだ。


 二歳のお披露目の赤ん坊が本当は二歳と三ヶ月だったとしても誰もその三ヶ月の差に異議を感じる者もいないであろうし、たった二歳の赤ん坊が何て凄いんだろうって思わせるには、二歳の赤ん坊のイメージと実際のアールとのギャップが大きければ大きいほど効果的だったからだ。


 ハルト皇太子はできるだけ大勢の者に己が子の天才ぶりをアピールしたかったのだ。やっぱり親バカなのかもしれなかったが、各国の要人に是非とも参加したいと思わせる様な宣伝のための期間が欲しかったのだ。


 アールの天才振りと、誕生日披露宴の開催の報が全世界に宣伝された。


 あらゆる国、種族に招待状が発せられた。



✳︎



 ハルト皇太子とサファリ皇太子妃が揃ってアールの部屋に入ってきた。


 サファリは満面の笑みでアールを抱き上げに来た。アールはこう言う人には唯の赤ん坊の時の気持ちを優先させる様にしている。


 キャサリンに可愛いがられる時などもそうだが、唯の赤ん坊の気持ちで接しないと申し訳が無い。それにアールの脳は前世の記憶だけで機能しているわけではない。


 前世の記憶もそれ程強いって訳でも無いのだ。うまい具合に赤ん坊のアールと前世記憶が混じり合った様な感じだった。


 因みに前世の有用そうな記憶はハッキリ思い出す事ができる。


 例えば電子発光という自然現象だ。蛍光塗料もこの現象を利用した物だがこれは簡単に言うと電子にエネルギーを与えると光る現象だ。


 この世界では魔法や神威・奇跡が発達したためアールが知るような科学の知識は酷く遅れている。


 科学は万人に平等に恩恵を与えたが魔法神威は魔力聖力の強い物に恩恵を与える事になった。


 アールは前世の科学知識を応用して万人に平等に恩恵を与える事ができないかって事を考えている。


 神威で光を作るには多大な聖力を必要とする。


 初級のライトの神威などはランプを持って来いって言いたくなるほどショボい。


 そこそこ明るい蛍光灯程度の光ですら上級の神威だっだったりするのだ。太陽の明るさってことになるとさらに上の奇跡なのだと言う。


 しかし、電子発光の原理を使うと低級の移動の魔法でも簡単にそこそこ明るい光を作ることができるのだ。


 電子をチョコっと移動させてやれば発光するんだから簡単だ。


 アールは電子発光の実験で太陽の何倍にもなる光を夜空に作って見せたが、思いつきでした実験でほんの少しだけ遊んだら大騒ぎになって父親並びに乳母達メイドの方々に深くお詫びをする事になった。



✳︎



 ハルト皇太子がアールのお披露目をするつもりになったきっかけは、ある晩突然外が真昼の様に明るくなり宮殿が大騒ぎになった事件がきっかけだった。


 あまりにも明るいために外に出ると目が眩み暫く何の行動も取れなかった。恐ろしい出来事だった。


 外の明かりは宮殿だけでなく首都エバーハークの全機能を一時的に完全に停止させた。


 様々の対魔法、対奇跡の大掛かりなリジェクト魔法や奇跡の恩恵対象変換が作動したが全く効果が無かった。つまり歴史上初めての奇跡だって事で対処法が分からなかったのだ。


 都市の安全に対する魔法や神威は有効に作動しておりこの事件での死傷者はいなかったのが幸いだった。


 原因が我が息子ではないか? と天啓があった。ハルトがアールの部屋に入った時、バルコニーから女の悲鳴がした。


 ハルトはそこで恐ろしい光景を見た。


 空には、もはや目を眩ます様な光は無くなっていたが、代わりに夜空全てを覆い尽くすような魔法陣が描かれていた。


 しかもその魔法陣は魔物の召喚魔法陣の様だ。確かアールに与えた絵本に描かれていた複雑な魔法陣だ。あの魔法陣は子供が誤って描かない様に相当複雑な紋様だったはず。


 天才の所以か。あれ程の魔法陣をいとも安安と大空に描いているのだ。


 大空に巨大な魔法陣を描くというのはいかなる奇跡だろうか? しかも奇跡で魔物を召喚しようと言うのだから訳が分からない。


 見ると、魔法陣に想像を絶する魔力が注ぎ込まれているのが感じられる。


 魔力の知覚能力のない一般人でも、次第に明るさを増す魔法陣の様子を見ていると何が起こっているか想像できるだろう。


 ついに、召喚魔法が完成し、巨大な魔法陣の真ん中から黒い巨大な何かが闇の中からゆっくりと姿を現した。


 ハルトは、その存在に思わず仰け反った。


 見たことも無いがそれは相当に強大な魔物であることが一目でわかった。


 その魔物にはコウモリのような羽とネズミのような尾を持ち目は赤く光っていた。


 体型は人族と変わらない。


 肌は黒く爬虫類の様な感じだった。


 しかしその巨大さは何であろうか。視界全てがその魔物に覆われる感覚だ。


 その魔物は、召喚魔法陣に現れると何が起こったのだろうとキョロキョロと辺りを見回した。


 暫くしてハルト達の方に注意を向けた。これはハルトにも経験がある召喚された魔物はそんな感じで召喚したマスターを見る。


 次に起こることも想像できた。魔物は召喚魔法を破ろうと必死で抗うのだ。


 魔法を使える魔物は最大の魔法を放ってくる。


 召喚魔法で最初に習うのは自分よりも上位の魔物を召喚してはならないって事だ。召喚直後の抗いで強い魔物に食われてしまうのだ。


 ハルトはその教えを思い出し、目前の想像を絶する魔力に視線をそらして周囲を見回し最後にアールを見た。


 アールは空を見上げて両手を広げている。


 後ろ姿なので顔は見えないがその姿を見るだけで召喚したのがアールだと分かった。


 魔物は、その恐ろしい程の巨大さだけでなく、一目で想像を絶する魔力を纏っていることが感じられる。


 天に描かれた巨大な魔法陣の中を天から逆さまになって歩く。


 あんな代物を召喚できるのも凄いがどう考えても使役できるはずがない。


 魔物は己の置かれた状態を理解したのかニヤリって余裕の笑みをもらした。


「弱き生き物どもよ。何億年もの長き月日の中でたった一度だけ、勘違いしたる弱き者共が我が一族の端くれを今宵の様に召し取ろうと試みた事があった」


 魔物は、恐ろしい音量でいった。非常に淡々とした話し方だ。その淡々とした話し方は高い知性を感じさせた。


 その声を聞いただけで気が遠くなりそうだ。


「その過ちを其奴らは永遠に知る事は無かった。何故か? それは一瞬で死滅したからだ」


 魔物は悠々と笑った。お前達もそうなるのだと言わんばかりだ。


 それだけではない、巨大な魔物はあろう事か結界となっているはずの召喚魔法陣から出てくるではないか。


 その魔物は魔法陣の持つ結界を無効化する能力を持っているのだろうか。


 見ているとこちらに飛んでくる様だ。みるみる巨大な大きさがさらに大きくなって来る。


 この巨大な魔物が暴れれば只事では済まない事が簡単に想像できた。思わずハルトは宮殿に逃げ込みたくなる。


 しかし、魔物は、なぜかある位置で停止しこちらをじっと見ている。


 ハルトは魔物の様子に違和感を持ち視線をアールに移した。


 するとアールは、何か光る鎧の様な物に包まれている。それはハルトも感知した事がないほどの強力な力だった。


 手には同じような光でできた槍を持っている。


 アールはそれを投げようと身構えている。

 身体能力の高いハイエンドの子供とは言え二歳になったばかりの赤ん坊とはとても思えない構えだ。


 魔物は遂には後退し始めた。


 アールは槍を投げる構えを止める。


 魔物は召喚魔方陣に貼りついて無言でアールを睨みつけている。


「あなたはどなたですか?」


 どの様な方法で行っているのだろうか? アールが巨大な魔物と同じ程の大きな声で言った。


「我はマニエル。大魔王サナエル様の十二将軍の第三位将軍である。ソナタが大魔王様の支配を破り我を召喚せし者か? ソナタは何者なるか?」


「私は出生してわずかに二年の若輩者。アールティンカーと申します」


「二歳でこれほどの召喚魔法を行ったのか?」


 巨大な魔物が驚いているのが伺える。


「ソナタは我に何を希望するのか?」


 その言葉は、この強大な魔物が使役される事を認めた瞬間だった。


 しかし、ハルトが驚いたのは次のアールの言葉だった。


「マニエル様。わたしは幼いゆえに誤りました。この召喚魔法陣が正しく機能するとは考えていなかったのです。この召喚魔法陣は架空の模様だと思って描きました。このように無理やり召喚してしまいマニエル様の貴重な時間を無駄にしてしまいました。本当に申し訳ありません。マニエル様の主人のサナエル陛下にも大変ご迷惑をかけてしまいました。どうすればお許し頂けるでしょうか?」


 支配した魔物に許しを請うなど前代未聞だが、ハルトは我が子の天才性をこの瞬間に一番感じた。


 アールが恐れているのはこのマニエルという魔物ではなく彼の背後で支配しているという魔物であろう。この目の前の魔物を使役できてもバックに大物がいた場合本当のところの戦力は分からない。マニエルは自分を十二将軍中三位と言っていた。つまりマニエルより強いと思われる将軍が二人とマニエルより格下だがいかほどに強いか不明な九人の将軍。そしてこの見るからに大変強そうなマニエルを支配するというサナエルと言う存在、これら全てが敵となる可能性がある。アールはそれを懸念したに違いない。


「ソナタが幼いがゆえに誤ったという事は分かった。サナエル様に処分を聞いて参るゆえ我を解放せよ」


「承知しました」


 アールがそう言うと魔法陣が消失した。


「暫し待つが良い」


 巨大な魔物がかき消える様に消える。その魔法だけでこの魔物がいかに想像を絶する存在かが理解できる。どこに消えた分からないが、あれ程の巨体が一瞬で消えたのだ。しかもアールと同じく無詠唱だ。頭がクラクラする。


 しばらくして天地を揺るがすようなドラのような音とともに魔物が姿を現した。まだ数分しか経ってない。


「待たせたな。我が主人は、ソナタの過ちを許すには我が主人を楽しませるような贈り物をせよとの仰せだ。我のソナタを許すための条件は、我を二度と召喚せぬことを誓うなら許す」


 マニエルが赤い目を光らせて言った。


 ハルトはアールがどうするのかと気が気ではない。


 見るとアールは掌に何やら球体の様な物を持っている。


 よく見るとそれは小さな嵐の模型だ。アールが部屋で良く作っていた擬似世界だった。

 いつの間に作ったのか。


 アールは手を伸ばすとその球体はフラフラと宙に舞い上がる。


 スーと巨大な魔物の方に飛んで行った。


 魔物は目を細めてアールの贈り物を見ていた。


「これなら我が主人もソナタを許してくれるであろう。アールよ。我が主人はソナタの対応の素晴らしさにとても感心している。困った時は頼るが良いとの仰せだ」


 そう言うと魔物は跡形もなく消えた。


 ハルトは大きなため息をついた。そのため息の音を聞きつけたアールがハルトの膝元までヨチヨチと歩いてくるとハルトの顔を覗き込む。ハルトの顔色は蒼白だ。アールはその顔を見て申し訳無さそうに深く頭を下げて謝ってた。


「お父様。驚かせて申し訳ありません」


 ハルトは、さすがに疲れ果ててアールにもう同じ魔法は使わないように申し聞かせると自室に帰った。


 その事件によってアールの知略がハルトの想定よりも深い事に改めて気付かされた。


 神祖一族の血を最も強く継いだアールが普通の子供であるはすがないがこれ程になると言うのは想定外だった。


 アールは天才であるばかりでなく素晴らしい人格者であると乳母キャサリンは太鼓判をおしていた。キャサリンはアールの信奉者なので完全に信用できないが天才に有りがちな人を見下したところが無いのだそうな。


 アールには早い段階で異種族に慣れさせるために様々の亜人間をメイドにした。キャサリンもその一環で乳母となった。皇太子妃のサファリは乳母に亜人種を用いる事に強く反対したが国王の意向と有っては誰も逆らう訳に行かなかった。


 ハルトには父王ギルの真意が分かりすぎる程に分かる。ハイエンドはあまりにも傲慢になった。ゆえに次第の王は亜人種に寛大であるべきで差別意識は理屈だけでは直し難いからだ。


 アールは亜人種のメイド達の中でも最も人から離れた八本腕の銀色のメイドが特にお気に入りだと言う。


 それにアールはどのメイドにも丁寧な言葉遣いで接していると言うからギル王の思惑通りに行ってるように思う。


 アールはこの事件の後、自室から出なくなった。この事件の前は、時々空に向けて嵐の魔法や何か分からない魔法の実験をしているとはキャサリンの報告で知っていた。


 剣士ロンハードは、誰の発案で採用したか忘れたが中々上手くいっているようだ。素性の卑しいノーマル出身なのをサファリは恐れていたが粗野だが人格者でもあるのだろう、キャサリンを始めメイド達からは評判が良い。


 さすがにあまりにも幼いので剣技の上達までは無理みたいだが見よう見まねで棒切れを振り回すようになったらしい。


 魔法は賢者サロンの方針を受け独学させているがアールが望む事に全力でサポートすることとしている。


 真昼の様な光で首都全体を照らしたり、さらには信じられない様な魔法陣を描くやら挙句の果てに魔神級の魔物を召喚するのはちょっとやり過ぎだと思った。


 ちなみにアールが召喚したのは歴史上の魔神だった。今は存在しないはずだからアールは歴史を飛び越して魔神を召喚したらしい。


 ただ、魔神マニエルは、魔神ユリエルの敵対者とされており大魔王サナエルというのは歴史に残っていないらしい。


 大魔王のくだりは、マニエルのはったりだったのではないかと歴史学者が言っていた。


 どちらにせよ、歴史上最大級の魔物を召喚しそれを従えたという事が重要である。


 ただ、マニエルはアールの魔方陣の支配を解かれてから独力で一旦自分の世界に消え、この世界に戻ってきたはずで、歴史学者の説が正しいならマニエルも歴史を飛び越す能力があった事になる。


 時空を飛び越す能力とはいかがなものか分からない。彼らの脅威は拭いがたいものがある。


 学者共にその辺の研究を申し付けている。


 話を戻すと、あの事件以来、アールは自室でキャサリンに魔法陣の研究書を読んでもらっていると言う。


 キャサリンは一日何時間も本を読まされて疲れが溜まっているようであった。


 ハルトはこの魔物の召喚の一部始終を見ていてアールがただの二歳児なのではなく立派に政治を理解できる存在だと確信した。親バカなのは言うまでもないが。


 彼は考えた。お披露目までに政治の勉強をさせれば面白い事になるはずと。


 こうしてハルト皇太子による政治の猛勉強が行われる事になった。



✳︎



 サファリは、夫ハルトがアールの披露宴を開くという発案に大賛成だった。


 彼女は自分の子供がアールのように可愛くて賢くて大天才であることは自分の手柄であるように感じられてとても嬉しかったのだ。


 アールの魔法やオツムの才能よりも、サファリにとって気掛かりなのは宮廷での振る舞いや知識の欠如によってアールや彼女が恥をかかないかであった。


 彼女はアールにいろいろ教えないとと決心した。



✳︎



 電子発光の応用実験でやり過ぎてしまいました。ネオンサインみたくなかなかいい感じだったんだが。


 そもそも電子発光は失敗だった。


 賢者サロン師の忠告に従ってちゃんと空に向けて大きな魔法をかけてみたんだが効果が思いの他、メチャメチャ強かったのだ。


 この世界は魔法が盛んだが科学はてんでダメ。ところが科学と魔法の応用たるや恐ろしい結果なる。


 確かに原始崩壊なんてことをすればあの忌まわしい科学結果が発生しちゃうんだから恐ろしい。


 電子発光も電子崩壊もさしたる違いはない。原爆だって魔法で出せちゃうんじゃないだろうか? この世界では知識の制御で世界を守っているような気がします。


 とにかく、電子発光は大失敗だ。メチャ制御が難しい。夜に真昼のような明るさって目に悪いって! これは女性陣にも評判が悪かった。そこでネオンサインを思いついた。


 とってもキラキラ綺麗かったのだ。


 夜空に魔法陣描いてたらとっても驚かれて喜んで描いてた。


 少し調子に乗ってしまったと感じるのはまだ何の知識もない魔法陣をオモチャにした事だ。


 その魔方陣は母親のサファリがくれた綺麗な装丁の絵本に描かれていたものだ。表紙にも大っきく描かれている。


 とても繊細な細工の美しい本で転生前に本好きだったアールにはとても大切な物となっている。


 物語の中でいろんな魔法陣が描かれていてその模様の美しさにいつもその魔法陣を真似て空中に描くのを想像したりしていたのだ。


 電子発光の原理で空に魔法をかけて行くとネオンサインの様に美しい模様ができる事に気付き絵本の魔法陣をを思い出して描いてみたのだ。


 まぁ、女性陣のウケ狙いって事だったんだが。


 魔法陣に魔力を注入すると魔法が発動されることも知らなかった。がそもそも電子発光も魔法の注入で無理やり起こしているのだからそんな物で描けば魔法陣が完成すれば自然に魔法が発動してしまったのだ。想定外というやつだ。


 まさか絵本の魔法陣が機能するとは思ってもみなかった。これは本当だ。


 しかも、こんなに複雑なのに記憶の魔方陣が正しい訳ないって思ってたんだもん。


 現れた魔物にも驚いた。魔力はアールの祖父の三倍程もあるだろうか。


 こんなに強い魔力はアールには初見であった。しかし賢者サロンの様に魔力を制御できていないので恐ろしくは感じなかった。


 そいつは現れるなり、何やら訳の分からない事を言っていた。


 しかしそれがはったりだとは直感で分かった。


 しかし折角悪魔くんが一芝居打って頑張ってるのに顔を潰すのもってそんな感じ。


 アールは悪魔くんの大デモンストレーションには笑っちゃった。


 悪魔くんのは単なるポーズだったと思う。彼は魔方陣に縛られていない風を装っていたが魔方陣から外には出ておらず魔方陣の上というか真下に移動しただけだった。


 うまい見せかけのフェイントだった。


 ここはアールも本気で戦うふりをしてやる事にした。


 そこではたと考えあぐねる。考えて見ると今まで魔法での戦いを想定した事がなかったのだ。


 日頃ロンハードに教わり独自で開発した闘気しか思い浮かばない。だって魔法も奇跡もバリエーション無いんだもん。


 ただ自分の魔力聖力を使わずに闘気を作ってみる事にする。


 何だかこの悪魔くんはちっとも怖く無いがもしかしてそれがアールの想定外だったら自分の魔力聖力は温存するべきだ。


 アールの周囲から魔力聖力を集めてそれを練り上げで強い闘気を作る。


 それを全身に纏いかつ一本の槍のような物を作って投げつけようとした。


 近づいて来る悪魔くんがあまりにも大きいので少し不安になって来る。


 そこで悪魔くんの魔力と聖力も半分ぐらいを頂戴して闘気を練り上げた。


 悪魔くんの魔力聖力を奪った瞬間に悪魔くんは、とても驚いて移動を停止した。


 アールにとって魔力聖力を奪うのは何でも無い事だった。賢者サロン師のように魔力聖力を常に制御していないと好きに使いなさいって感じだ。


 チョロいもんだった。


 自分の魔力聖力を奪われた悪魔くんはスゴスゴと退散しはじめた。


 戦意喪失って奴だろう。


 ここでようやくアールも冷や汗をふいてようやく一息ついた。


 何もかもちょっと想定外で驚いちゃいました。皆にも驚かせすみません。本当にすみません。


 その後悪魔くんは、何だかかんだ言っていたがアールは本気で取り合わ無い事にした。


 でも顔を潰さない様に悪魔くんの話に合わせてやる事にする。さっさと自分の世界に戻って欲しかったけど面倒な悪魔くんはあの手この手で脅しをかけてきて本当にウザい奴だった。大した事無いくせにって思ったが良く知りもしない世界で喧嘩なんてできない。


 しかし、周りから見ていた大人たちはアールのようにチート過ぎるアドバンテージが無いのだからとても驚いていたのは言うまでもなく、その原因が自分がはしゃぎ過ぎたためなのだから本当にごめんなさい。


 アールは皆によ〜くごめんなさいをしておいた。皆許してくれた。


 この事件でアールは決して良く知りもしない魔法をむやみやたらと使わないと決心した。


 先ずは魔法陣の事を勉強する事にした。


 魔方陣の勉強は先生がいないので本を要求。直ぐにとても分厚い本が届けられた。誰が用意するのか分からないがとっても難しい奴だった。


 キャサリンに読んでもらった。キャサリンは喉が枯れ枯れになるまで毎日よく付き合ってくれた。


 しばらく魔法陣の発動理論を読んでもらったアールはある仮説に行き着いた。魔法陣は、幾つかの部品を並べて意味を持たせているのではと。


 その部品があまりにも部品っぽく無いので意味が掴みにくいのだ。


 アールは部品を分解してみていろんな魔法陣モドキを作り小さな魔力で魔法陣モドキを発動し魔法の動きを良く観察してみた。


 三週間ほどで魔法陣の謎が大まかではあるが理解できた。


 こんな実験をするのはアールだけだろう。なぜなら皆は魔法がどのように機能しているのか見えないのだ。しかしこの実験で次第に魔法陣の謎が解けて行った。


 この頃になって、アールは二歳の誕生日披露宴を行う事を知った。


 王族ならそんな事もあるのだろうと思って気にも止めなかったがその日からアールの生活が大きく変わる。


 午前中にロンハードの剣術のお稽古と世間話。この世間話はロンハードの人生訓みたいなものらしい。最近彼が白状した。無口な癖によく喋ると思っていたのだ。ロンハードの教育の一環だったのだ。相手に教育されている事を分からせずに教育するとはロンハードって意外に凄い奴かも。


 そして、午後から父ハルトの政治の講義、夕方から母サファリの宮廷常識の講義、夜の自由時間で魔法の実験をすると言う生活となった。



✳︎



 慌ただしく三ヶ月が過ぎた。アールは二歳三ヶ月だ。


 この三ヶ月は今までに増して濃い内容となった。親バカ二人の愛情がブレンドされた講義は大変熱がこもっており二人との親密度もグッと上がった。


 二人ともアールの聡明さに思わず抱いたり頬ずりしたりって感じだ。


 そんな時はアールも赤ん坊の心になって対応している。


 その可愛さに二人ともアールの虜になってしまった。


 ハルトの政治論はとても参考になった。マキシミリアン王国は地上で最大最強だが全世界を支配しているわけでは無い。


 これは人間族の支配に反発した高等な異種族が結束して反発しているためだ。


 しかし、実際のところ非支配地が残されているのは内政の様々の問題を表面化させ無い事が狙いだとハルトは説明した。


「全世界を支配したら最後、ハイエンドが支配者でそれ以外が被支配者となる。この二極化の顕現により、いずれハイエンドは吊るし上げられる事になる。本気で全世界を支配しようとしてはなら無い」


 耳元でハルトが囁いた。


 ハルトの話はそんな事が中心だった。


 二歳の子供に聞かせる話か? って突っ込みたくなる話ばかりだ。


 逆に母サファリの話は宮廷の世間話が中心だった。どの公爵がかっこ良くてアールの仇敵になるかもだとか、誰それのせがれは優秀なので警戒して置けだのだ。この知識も実生活ではとても重要な事なのだろう。


 マキシミリアン王国の諸侯や神祖一族の分家やらそれらの由緒序列やら何やら。


 アールは興味は無かったが母サファリの熱心さに感動してしっかりと教えてもらった。


 美しい母親の愛情は、赤ん坊の側のアールにはとても心地よく感じられる。


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