第六十八 神々の饗宴
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第六十八 神々の饗宴です。
第六十八 神々の饗宴
何処からか不思議な音が響いた。
シャン! シャン! シャン!
『もってんひゅらんし』神が、口を大きく開けて。
グガァー!
と、鳴く。シャンシャンの音に合わせているようだ。
《『みゅらんりんらるららら』神ガ 参ラレタ。 寿ギ奉ラン!》
『もってんひゅらんし』神は短い手を振り振りしている。先程とは違いずいぶん明るい雰囲気だ。
『もってんひゅらんし』神の結界に何かがぶつかる感触がある。別の結界がぶつけられているのだ。結界が重なった。
結界が重なると空間が広がるのが感じられた。
最初は、黒い影のようなものが次第に姿を表す。『もってんひゅらんし』神とは全く別の何者かだった。
『もってんひゅらんし』神は、言わば裸だ。大きなカエルのまんまだ。しかし、『みゅらんりんらるららら』神は、服を着ているところが違う。しかも一人でも一種類でもない。
その中の一人、蟷螂のような複眼を持った甲虫を思わすような気持ち悪い色の甲冑を来た奴がスっと前にでた。
《『みゅらんりんらるら』ニゴザイマス》
そいつはそう言うとスッと後ろに下がった。
次に、赤色の六つの小さな目がとても気持ち悪い。その目は、黒色の甲殻にはり着いている。そしてすみれ色の薄い布のような服を羽織ったものが前に出た。
《『みゅらんりんらるらら』ニ ゴザイマス》
と、自己紹介した。
次の奴は、白い目玉が形容し難い気持ち悪さだ。その白目は無数に甲殻の表面にある散りばめられている。三匹の中では一番気持ち悪い奴が進み出る。藁のような蓑を着ている。
《『みゅらんりんらるららら』ニ ゴザイマス》
と、自己紹介する。『ららら』のつき方が順番に増えたが、まだ名乗りを上げていない『みゅらんりんらるららら』神が背後に大勢いる。どの様に名乗りを上げるか見ていると。
《『みゅらんりんらる』等ニ ゴザイマス》
皆が一斉に言った。三神と他大勢と言う所のなのだろうか。ら(等)という事なら人数の少ない一人に『ら』が付くので逆だが。『ららら』が多い方が偉いのだろうか。
ジャンジャカ! ジャンジャカ!
今度は何かの楽器を奏でるようなそんな感じの音が響く。
《『ちゃっむつてっきっぱって』神ノ 先触ゾ》
『みゅらんりんらる』等の中の誰かが言った。
アール達には、もちろん発音はできない『ちゃっむつてっきっぱって』神は劇的に登場した。
『ちゃっむつてっきっぱって』神は、巨神だった。テカテカの甲殻のいやらしさが際立ち、複眼が体のあちこちにあるのも気持ち悪い。長い手が前にだらんと垂れている。その手から触角が髪の毛のように無数に生えている。
その触角が気色悪く蠢めくのも嫌らしい。
派手な楽隊のようなわけのわからない音は、それらの触角の先から奏でられているようっだった。
さらに『ちゃっむつてっきっぱって』神の背後には、何万もの異形の神々が群がるように蠢めいているのが分かる。全ては見えず、『ちゃっむつてっきっぱって』神に同化するようについているがそれら一つ一つが別の何かであることが分かる。
《無限神『ちゃっむつてっきっぱって』及ビ 百万ノ 眷族神 参上ス》
サーリが『ちゃっむつてっきっぱって』神のあまりの悍ましさに身震いする。
更に、一人の神、多くの眷族神を引き連れた神々が数えられぬほど参集してきた。
アール達の上下左右前後のあらゆる方向は異形の神々が無限に広がっている。
神々の参集はいつ終わるのもなく続くようだ。
“レイライト様。彼らはどれほどの数になるのでしょう?”
メイア・スライサイドが圧倒されたように尋ねた。
しかし、その数は誰も答えられないだろう。
“これだけの神々が全て我等の敵であるなら絶望的かもしれぬ。たとえ絶望的であってもできることをせねばなるまい”
アールが力強く言った。
“皆に相談だが。謙ってお願いするか? それとも対等の立場を貫くか、皆の意見を言ってくれ”
“やっつけてやれ!”
威勢の良いのは青姫だ。
“このカエル野郎は何で仲間を呼びやがったんだっけ?”
フリンツが尋ねた。
“確か禊祓をするとかいってたわね”
紫姫が答える。
“どうも穏やかな響きじゃないね。そんな物んに晒されより前に攻撃しちゃおうか”
意外にもヨランダードも攻撃的だ。
“アールティンカー様。禊祓は、我々の汚れを落とさせると言う意味だと思われます。集団攻撃ではないでしょうか?”
サーリが言った。
“レイライト様。奴等はレイライト様の力を見て、初めて自ら姿を現しました。したてに出ても良い事はありますまい”
ツウラ・トウサが述べる。
“奴等も我等の事は何者か分からず数で神威を示すと言うところでしょう。
政治的には、こちらも力を見せるべきですが“
悪魔上皇ヨロンドンが言った。
何千年も生きたヨロンドンは、意外なほどに狡智に長けている。
“レイライト様。私も皆の意見と同じです。彼等から見下されるのなら二度と対等にはなれないでしょう。最初が肝心です”
魔神種エルシアも同じ意見だった。
“分かりました。ではまずこの神々の結界に、我々の領土を確保しよう。それと私の十二使徒とその配下やメイアの召喚できるもの、青姫の黒曜竜など全戦力を集結させよう”
そうアールは言うと、神魄魔法の威力を使い結界を作成し空間系魔法『空間創造』で空間を作る。十二使徒と全ての配下を顕現することのできる結界を創造する。
アール達の背後を取り囲んでいた神々が遠ざかる。広かった空間に十二使徒を召喚した。召喚した十二使徒は以下の通りである。
①第一使徒魔大帝プリサタ
②第二使徒悪魔大帝アルマンディスク
③第三使徒女神大帝カサノバ
④第四使徒神獣大帝ガロリア
⑤第五使徒神龍帝ギランデス
⑥第六使徒魔獣帝王バーデバー
⑦第七使徒剣神帝マローン
⑧第八使徒精霊帝 白夜
⑨第九使徒魔獣王アラマンキーズ
⑩第十使徒妖魔王サルカンタール
⑪第十一使徒聖獣シャロー
⑫第十二使徒光神サタヨナ
「全配下を呼べ」
アールは十二使徒に命じた。プリサタの八十万の魔神軍を筆頭に無数の配下が召喚される。
アールの側には、聖女神サーリ・スバイト、太歳神ツウラ・トウサ、大魔法剣士ヨランダード・ドートマルキ、魔神帝エルシア、悪魔上皇ヨロンドン、白帝ラーサイオン・フュラス、ドラゴンライダー青姫マリアージュ・サースランと黒帝ドラゴン・クロ、大剣士紫姫アルテミシア・サースラン、大召喚師メイア・スライサイド、魔剣士フリンツ・ホップルの十一人と、十二人の使徒が取り巻いていていた。
《我等は、天地魔界の三界を治める人間種、天神種、魔神種、悪魔種、竜種を代表する者共也。我等は汝等に問う。我等の世界を侵食し我等の同胞を攫い、改造せるはいかなる権利をもってなしたるか?》
《動議ガ 発動サレタ。神議ヲ ナシマショウ》
アールの丁度真上に当たる位置にいた神がアールの言葉に反応した。
《オ待チ アラム。ワレハ『もってんひゅらんし』也。 神々ニ 参集ヲ 願イ 出タル者也。 コレナルハ 神住セシ 神乱流ニ 許可無ク 侵入セルヲ以テ 禊祓シムルヲ 願ウモノ也》
《禊祓ヲナシマショウ》
今度は、『もってんひゅらんし』神の真上の位置の神が言う。
アールは、どうするべきか判断に迷ったが、神議を明らかな敵である『もってんひゅらんし』神が避けようとした事から神議を主張する事が賢明だと判断した。
《神議を成しましょう》
アールが言った。
《神議を成しましょう》
サーリが同じように言う。
《神議を成しましょう》《神議を成しましょう》《神議を成しましょう》《神議を成しましょう》
アールの仲間達唱和する。
《神議ヲ ナシマショウ》
《神議ヲ ナシマショウ》
《神議ヲ ナシマショウ》
あちこちで同じ意見が出された。アールの想像した通り、この数え切れない神々の全てがアール達を侵略している者達では無いのかもしれない。
《禊祓ハ 神議ニヨリテ 結セン。 我ハ 神議ノ 長神 『さいひゅう』也》
《我ハ 長神 『かんりゅう』也》
《我ハ 長神 『ばんりゅう』也》
《我ハ 長神 『てんきゅあ』也》
《我ハ 長神 『あんちょう』也》
《我等 神議ヲ オサテマショ》
《三界ノ神、人間種、天神種、魔神種、悪魔種、竜種ノ 代表ヨ 汝等ノ 動議ヲ 発揚スベシ》
治神『さきひゅう』が言った。
《我等は、『もってんひゅらんし』神等の神々に、我等の眷族を攫われ改造され、我等の土地を奪われた。我等は『もってんひゅらんし』神等に抗議する》
《三界ノ神、人間種、天神種、魔神種、悪魔種、竜種ノ 代表ヨリ 動議ガ 発揚 サレタ 『もってんひゅらんし』神 反対動議ガ アルヤ否ヤ?》
《吾『もってんひゅらんし』ヨリ 申ス 彼ノ地ハ 古ヨリ 吾等 三千ノ神々ニヨリテ 統治セシ 地也。 吾ハ コノ者達 三界ノ神々 ナルハ 初見也。 我等 イサオシ神々ナルハ 神戦ニヨリテ 彼ノ地ヲ 獲ン》
“結局こいつらは、我々を滅ぼす事しか考えていないのでしょう”
ヨランダードがあからさまな怒りを見せながら言った。
“しかし、この全ての神々を敵としなくとも良いようだ。これは朗報だ”
アールが言う。
《我々は、三千の神々が誰とも知らない。戦うのであれば名乗り給え》
さらにアールが要求した。
《三千ノ神々ヨ。三界ノ神ヨリノ要請ニ 従ウヤ?》
長神『さいひゅう』が告げる。
《吾は『いぇーるばんりゅかきゃーるにゅ』也》
無数の魚の神々がアール達の前に現れる。魚の神々は奇妙な立ち姿で歩いている。何故泳がないのか。
魚の神々はアール達に絶望の影を落とした。なんという数。本当に数えられないほど無数に歩いている。彼等の能力も不明だがなんという数だろうか。
《吾ハ 『むらんきゃしんけ』也》
次に現れた神は、想像すらできない不思議な生き物だ。何が目で何が顔で何が手でなどということは常識から分かるものだ。百足が気持ち悪いのは見た目が異質だからだが、今現れた『むらんきゃしんけ』神こそ異質と言わねばならない。
反吐を吐きそうなるのをアール達は必死で堪えねばならなかった。
しかも絶望的なのはその数だ。奇妙で異質で恐ろしい数、気持ちの悪さは限界だった。
思わず逃げかえりたくなるのを必死で堪える。
こうして三千の異界異形の反吐を吐きたくなるような神々が怒涛のように名乗りを上げて行った。
三千の神々なら何とかなると考えたアール達は自分達の考えが甘かった事を知った。。
“我々の敵である異界の神々は、神々の中でも特に異質だ。見ているだけで叩き潰したくなる。しかし何という数だ”
フリンツが顔を顰めながら言った。
《三界ノ神々ヨ。三千神ノ名乗リハ 済ンダ 神戦ニヨリテ 三界ノ 所有ヲ 決スルガ 三界ノ神々ハ如何ニ》
治神が言う。
《我等は、三界に住する。三界は創造神が作った世界。原始より我等が種として所有するもの。神戦で三界の所有を決する必要を感じない。一方三千の異形の神々は絶対多数で優位であり負けても失うものは無い。あまりにも不公平ではないか?》
アールが主張した。
《三界ノ神々ヨ ナラバ 汝等ハ 如何ナル 解決策ヲ 望ムノカ》
《我等は、見ての通り弱小である。準備期間を要求する。また、我等に味方してくれる神はおられぬか?》
アールが言った。
《準備期間ハ 十年トスル ソノ間ニ、汝達ニ 味方セル 神々モ 自ラ 探スガ良イ》
《承知した。三千の神々よ。有史以来絡め取られた者達を元に戻し解放せよ》
《承知シタ シカシ我等ノ神々ニ同化セシモノハ元に戻スコト 能ワズ》
『もってんひゅらんし』神が答えた。
アール達も要求を呑むしかなかった。
神議でアールが交渉して、事態が好転したとは言えなかった。あれ程多数の神々と戦うとなると勝てる見込みは殆どない。
もし、三千の神々以外の多くの神々が味方してくれるのならなんとかなるかも知れない。十年は長いようだが短い。
《委細 承知した》
アールが答えた。アールはこれからの十年間に準備が整うとは思えないが最善を尽くすしかないだろう。
しかしアールには、神魄魔法と科学魔法がある。それらと自分達に味方してくれる神々もあるだろう。まだ完全に希望が無くなった訳ではない。
異界の敵はあまりにも強大で異質でアールの想像を超えていた。
《神々よ。私達は弱小である。どうか我々に援助をくだし給え。三千の神々よ。我々の三界より囚われた者達と侵食した魔界を解き放ち給え。『治神』よ停戦期間の十年間に我等が如何なる神々から侵略されない様に見張ってくだされ給え。神々よ我等に慈悲を垂れ給え》
アールが言った。
《神議ハ 決シタ。 神々ハ 慈悲ヲ 垂レ給ウ。 弱キ 三界神ニ 停戦期間ヲ 垂レ給ウ。 諸神ハ 慈悲ヲ 垂レント欲シ 三界ノ要請ニ 応エン 諸神ヲ 説諭セシメテ 味方ナスガヨイ 治神ハ 三界神ノ 要請ニ従イ 『審問官』ヲ 置クデアロウ 神議ハ 裁定シタ 禊祓ハ 神議ノ 裁定ニヨリテ 成サレタモノトス 神々ノ参集ハ コレニテ 終結ス》
やんや! やんや! 神々が大きく騒く。そして劇的に神々が消失した。
残ったのは、アール達と『審問官』と言われた神だけになった。『審問官』は有難い事に美しい妖精のような神だった。
《『審問官』殿。我等に助言をくだされ》
「妾は、『審問官』だが、ソナタの味方でもある。弱き神の誕生を言祝ごう。妾は『さいひゅう』の『ミサ』と申す。ソナタらに助言をしましょう」
「ありがとうございます。一緒に参られますか?」
「ソナタらと共に参りましょう」
アールは、十二使徒と配下を聖霊に戻した。
「それでは『ミサ』殿。参ります。皆もお疲れだった。戻るぞ!」
アール達は淵魔界に『移転』した。
淵魔界は、赤色と黒色のニ色の世界から、魔界の世界に戻っているようだった。
淵魔界に囚われた魔界騎士や市民達は呆然と市街地に佇んでいた。意識を取り戻したのだ。
彼等を至急救済しなければならないだろう。自分達が攫われて何千年も時間が経っていると知ったらひどいショックを受けるだろう。
アールは自分達の未来を考えたときあまりにも間近に迫った破滅の期限を思い、為すべき事の多さに頭がクラクラする思いだ。
「アールティンカー殿下。命令を」
そう聞いたサーリの顔は冷たく引き締まっていた。貴方は悩んでいる暇がないのですよと無言で教えるかの様だった。
アールはそんなサーリに力強く頷いていた。全てが終わり全てが始まろうとしていた。
第一部
皆さん。最後までお付き合い頂きありがとうございました。
第一部 完結です
第二部題は『覇王の誕生』です。
第二部は、下の方に表記させて頂いた、新連載のお知らせの『覇王の誕生』をクリックして頂ければ第二部の『覇王の誕生』プロローグが読めます。
続けて第二部も楽しんで頂けたら美しいです。
【2015/11/22、午前8時頃、内容を変更しています『審問官ミサを同行するように変更』ご迷惑をおかけします。申し訳ありません。
○ヨッ君の姓がドートマルキが正しいのですがマルキドートに間違えてました。
全編で幾つか間違えてましたので訂正しましました。お詫びします。(2015/11/27)】




