第六十七 『もってんひゅらんし』神
いつも読んで頂きありがとうございます。
少し投稿が遅くなりすみません。物語が佳境に入り少し苦労して書いております。
第六十七話
『もってんひゅらんし』神です。
謎の敵の出現まで遠い道のりでした。第一部終了までラストツーになります。
第六十七 『もってんひゅらんし』神
巫女の『みゃん』は、『天使』様の世話係りをするようにとの神命をうけた。『天使』様は、『もってんひゅらんし』神様の『天使』だという事だった。
繭で神命を受けるとまゆが勝手に開き、『もってんひゅらんし』神様の神殿へは別の十人程の巫女といっしょにやってきた。道取りなどは知っていた。
『みゃん』は何の疑問も質問もなく神殿に入り『天使』の世話をした。
今日の『天使』は、何の意味があるのかヌメヌメの手で『みゃん』の身体中をペタペタと触った。この『天使』が何故そんな事をするのかは不明だ。
『みゃん』は、綺麗な服が『天使』の粘液でベトベトになるのを感情の込もらない顔で見下ろした。
女の子としての『みゃん』なら耐えられるはずもないが『みゃん』は全く感情らしいものは湧いてこない。ただ人形のようにされるがままだ。
彼女の仕事は『天使』のお世話だ。巫女は、時には『天使』の食欲を満たすために身を呈する事すらある。何をされても耐える事が彼女に課せられた神命だ。
『天使』は、体長二メートルを超え体重は五百キロを超えるだろう。
力も強く、意識的に強く触っている訳ではないだろうが、強く押されて『みゃん』は小さな悲鳴をあげてしまう。
「静かにせんか」
御簾の向こうから、神官の叱咤する声がかかる。
「すみません」
細い声で『みゃん』が謝る。
「やまから ぴっぷる しっひりゃん すみか」
『天使』が意味不明な何かを語った。
神官がさっと跪いた。
「『みゃん』、お前は直ぐに下がる様にとの事だ」
どう言う事だろうか。『天使』が巫女に御神託を下すなど聞いた事がない。
「早く下がれ。 薄のろが」
神官の叱咤が飛ぶ。
「はっ!」
『みゃん』は慌てて身繕いをして、『天使』に礼をするとベトベトに濡れた服を両手でたくし上げる様にして足早に御簾を跳ね除けて回廊に走り出た。
「あっ!」
神乱流かと思ったが違った。空気がグラリと揺らいだと思ったら長身の男と巨大な鎧を着た者と青で統一された『みゃん』と同い年ぐらいの少女が立っていた。
その青色の武具を着た少女が目にも止まらない素早速さで『みゃん』を通り越し御簾を剣で吹き飛ばして『天使』の住居に走り込んだ。
その直後に青色の少女の行動に対して、『みゃん』の意識で神命に作られた部分が悲鳴を上げる。なんと、その青色の少女は、片手で『天使』の手を掴むや巨大な『天使』を投げ飛ばしたのだ。
ぎゅー! と『天使』の口から空気が漏れるような音が鳴った。
『みゃん』は、慌てて『天使』を助けるために飛び出していた。
『みゃん』と同じように神官が『天使』に駆け寄っている。
今度は青色の少女が神官の腕を取りひきちぎらんばかりに引っ張った。神官は魔法を唱えようとしていたが口をパクパクさせてから昏倒してしまった。
今度は『みゃん』の番だ。恐ろしいと言う感覚は無い。神命に身を投げ出すだけだ。
「ひゃーぃ」
『みゃん』が可愛い声で天使を助け起こそうと駆け寄る。青色の少女の攻撃は無い。
何も見え無いと思ったら目をつむっていた。何故目を閉じたのか不明だった。頭を振って目を開く。
目を開いてギョとする。目の前に女の子の美しい顔があったのだ。。
『みゃん』は、その女の子に右手を突き出した。何故自分の手がそんな事をするのか理解できていない。頭の中で変な行動を強いる部分がある。
しかし、突き出した手は造作もなく掴まれた。頭の中に強い光が差すような痛みが走り身を竦める。
意識を失った『みゃん』にとって幸いだったのは『みゃん』は何の恐怖も感じる事がなかった事だろう。
✳
アール達が『転移』すると、青姫があっという間に、飛び出していた。
巫女を通り越して御簾を切り裂き『天使』の間に飛び込む。
次の瞬間には、『天使』は投げ飛ばされていた。
神官が何か喚いて『天使』を助けようするが、青姫は神官も投げ飛ばした。次に巫女が『天使』に走り寄る。
巫女が青姫に殴りかかるが、手刀一発で昏倒させられた。
何が嬉しいのか、青姫はニコニコ顔で倒した三名を見下ろしている。
アールが直ぐに『天使』の側に行く。
『天使』は、白目を向いて倒れている。口からは泡ぶくを出している。
アールは、『天使』の頭に手を置いて闘気魔法で直接、『天使』の頭を覗いた。
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なるほど。とアールは、直ぐに納得した。この『天使』は、罠だったのだ。
『天使』の頭の中は、特別な結界になっているようだった。アールの意識が『天使』に入るや否や恐ろしい速さで『天使』の意識が閉じてどこかの結界の中に閉じこめられたようだ。
『天使』は、見た目は醜い巨大カエルだが頭脳はかなり高度で複雑なようだ。アールは一瞬だか『天使』の頭脳をサーチしていろんな事がわかった。
『天使』は、人間と神の頭脳の一部を模した二重構造になっていて、異質な『もってんひゅらんし』神の頭脳と人間の頭脳の橋渡しをする為に創造されたもののようだ。
『天使』の『もってんひゅらんし』神側の頭脳は、異質過ぎて一瞬ではさすがのアールも意識を読み取ることはできなかった。しかし人間部分の頭脳をサーチする事ができた。
彼らは、アールが想像していたような存在では無いようだった。ただ、思考を覗いた事で、この結界にアールの意識を閉じ込めたのは『もってんひゅらんし』神だという事がわかった。
さらに『もってんひゅらんし』神は、新任の魔界将軍である『ぎゅきゅちゅしゅ』という将軍に配下一万五千名の魔界騎士で神殿を取り囲ませる手筈となっているらしい。
“お前達は何者か?”
試しにアールが聞いてみた。応えはない。
やはり『もってんひゅらんし』神は、何を考えているか全く分からない。
アールは闘気を高め覇気に進化させさらなる高次元の神魄にまで高めた。
ここでアールが用いた神魄とは、そもそも聖力を高次元にまで高めた神技と、魔力を高次元にまで高めた魔技を一緒に作る事により、聖力と魔力とを混合して闘気を作る要領で神技と魔技を混ぜてつくる究極の魔法技である。
アールが高めた魔法のエネルギー量は、もはやエネルギー量を自乗したかのような急激な高まり方をしていた。
分かりやすく言えば、魔力と聖力が、四の力とすると、闘気は十六の力、覇気は二百五十六の力、神魄は六万五千以上の力に大きくなるという事だ。闘気魔法ですら、地上界では無敵の強さを示していた事を思うと恐ろしい力となっている。
アールは、その神魄の力で彼の精神エネルギーを高め『もってんひゅらんし』神が作ったと思われる結界を無理やりこじ開けると、自分の体と仲間達を『もってんひゅらんし』神の結界の中に『転移』させた。
『転移』してきた、仲間達は、最初、少し驚いた様子で辺りを見ていたがアールの仕業だとは直ぐに気づいた。
「レイライト様。ここはどこでしょう?」
ヨランダードが尋ねた。
「あのカエルの親玉が私の精神を取り籠めるために作った結界の中だ。
ひとまずその結界に皆を『転移』した。次に、この結界を足がかりに奴等の本拠地の世界に行こうと思う」
アールが颯爽と宣言した。彼は敵の罠を逆手に取ろうと言うのだ。
未知の敵の本来の本拠地が何処なのかは全く不明だった。それが分かるかもしれないのだ。
アールは、敵の気配に向けて、神魄魔法を繰り出した。強力な魔法は、相手の結界をも貫いた。
無理やり相手の気配を掴むと引き込むようにして相手の結界をこじ開ける。
『もってんひゅらんし』神の気配が慌てている感覚がある。
空気がねっとりと水の様な粘度を持ち始めた。
ボチャンと水の中に入った感覚だった。
その空間は空気が水の粘性を持つ不思議な空間だった。
『もってんひゅらんし』神は、大きなカエルのようだった。二足歩行できるのだろうかと思われるような小さな足と小さな突起のような手がついている。
魔物を見慣れている彼らも『もってんひゅらんし』神は、奇怪に映る。まずヌメヌメとした粘液のようなものがいけない。生理的に受け付けない。
突然現れたアール達に『もってんひゅらんし』神は驚いたのか、手足をパタパタとしている。
《オ前達ハ 何者ダ? ドウシテ 神乱流ニ 入ル 事ガ デキル?》
アール達の頭の中に『もってんひゅらんし』神の強い思念が響いた。その思念の強さだけで『もってんひゅらんし』神のレベルが普通ではない事が伺える。
“侵略神よ。我等は長年侵略を受けて来た世界から遥々(はるばる)やって来たものだ。
何故我等の民を拉致し世界を侵食して、己が世界に取り込むのか?“
アールの思念が皆に響く。アールの思念の強さも『もってんひゅらんし』神に負けていなかった。否。『もってんひゅらんし』神に合わせたのだと仲間達は心強く思った。
《神乱流ニ 入ルモノハ 我等ト 同等トミナス 神々ノ 禊祓ヲ 受ケルガ良イ》
『もってんひゅらんし』神は、アールの言葉等無視するかのように言った。禊祓とは何だろうか。
《神々ヨ 此処ニ オイデクダサレ》
『もってんひゅらんし』がさらに強い思念を放った。仲間の神々を呼んでいる様だ。
この時、アールは皆に『鋭敏触手』で接触していた。
“どのような神々がいるのか様子を見る。心配しなくとも、元に戻れる様に『触手』を張り巡らせている。攻撃する場合は合図する”
アールは、仲間だけに聞こえるように伝えた。
次回はいよいよ第一部最終話になります。
楽しんで頂けると嬉しいです。




