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良くある転生物語 聖と魔  作者: Seisei
第一部終章

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第六十六 異界の天使

いつも読んで頂きありがとうございます。


第六十六 異界の天使


です。

第六十六 異界の天使



 魔界騎士上級大佐の『ぴゅーざんしゅ』は、部下達を見下ろした。


 空は薄明るい赤色だ。全部が薄赤く見える。この世界には赤色と黒色の二色しかないように感じる。


 上級大佐『ぴゅーざんしゅ』は隊長級の部下達に命じた。


「そろそろご降臨される。隊列を整えよ。左右の者としっかりと腕を組ませろ! 神乱流かむらるに巻き込まれるな!」


 その声以外は静かだ。ご降臨の間際は神巫かんなぎの力で、全ての音が無くなると言われている。


 隊長達が散って行った。しばらくして各隊長達が命令する声が聞こえた。


「隊列! この線に合わせよ! 『いぇーるばんりゅかきゃーるにゅ』神の神乱流かむらるに飲み込まれるぞ! 隊列! 真っ直ぐ!」


 隊長の号令に、隊列の緊張感が高まるのを感じる。


「そろそろです」


 後から副官の声。うむと頷いた。


 ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ! ガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!


 ざわめくような音が広範囲から聞こえる。


神乱流かむらるだ。押されるな!」


 隊長の一人の叫び声が聞こえた。


 ザザザザ!


 何処からともなく水の流れの音が響く。兵士達の隊列の目と鼻の先の空気が急に粘性を持ったかのようにドロドロと流れ出す。


 水が流れているような感覚だ。突然目の前に水が流れ始めたように見える。空気がドロドロと流れ出した感じだ。


 それと同時にゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴと大量の水が流れているような音が響いた。


 その水の流れと化した空気の中に、何かの影が現れた。それは魚の姿をしているように見えたが、何故か泳がず立って歩いているように見えた。


 薄っすらとした影のような存在だ。なかなか実体化できないという感じで見えたり消えたりしている。


 最初、数体の影が現れたかと見えたが直ぐ無数の影が現れたり消えたりしつつ兵士達の目の前を行進し始めた。


 視線を後ろに変えると、街の方から姿のハッキリした魚の群れがやってきた。彼らの周りを大勢の魔界騎士が守るようにやってくる。


「隊列、『天使』様方が神乱流かむらるに入られるぞ。そこを開けよ!」


 隊長の一人が号令を掛けた。


 隊列が開かれた。魚の姿の一群が神乱流かむらるの近くまでやってきた。


 動きが鈍く、死んだ様な目が真っ黒に虚空を見つめている。パタパタと歩く足音が響いた。


 魚は全部で六十ほどだろうか。


神乱流かむらるにお連れしろ!」


 魔界騎士の一人が、部下達に号令を掛けている。


 魚の群れは、神乱流かむらんの中にトポン! トポン! と入って行く。


 中に入ると、他の魚の影と同じように歩き始める。ハッキリしていた魚の姿が次第に薄くなり影になってゆく。


「隊列。神乱流かむらるを塞げ!」


 しかし、一瞬遅かった。何者かが走って神乱流かむらるに飛び込む。


 バシャ! 水の飛び散るような音が響いた。しかし、それは飛びこもうとした何者かの血飛沫だと皆には分かっている。


 神々に魅入られた兵士の一人だ。


「早く神乱流かむらるを閉じろ」


 兵士達が腕を組んで、神乱流かむらるを閉じる。


 なぜか、こうして兵士達が腕を組みあげると神々に魅入られる者がいなくなる。腕を組んで取り囲むと結界になるようだ。


 無数の魚の影は、神乱流かむらるの中をしずしずと行進してゆく。


 神々の行進は数時間にわたり続いた。その間に神々を魅了して隊列の中からさらに何人かの兵士が飛び込んだが皆、血飛沫ちしぶきを上げて粉々になるだけだった。


 どうして、あの奇妙な一群の一員になりたいのか分からない、しかし強い力で魅了されるのだ。


 最後の魚影ぎょえいがしずしずと神乱流かむらるの中を通り過ぎてゆくと、不思議な事に神乱流かむらるは、普通の空気に変わる。


 水の流れも流れの音も何もかもが無くなり普通の風景に戻る。


 彼らの前には赤色と黒色の風景が何処までも続いていた。





 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は、魔界騎士多数を伴って市街の中を進行していた。


 天空には、緑色の日が差し、辺りは何もかもが緑色と黒色の二色に見える。


 西の空には、赤色の神の日が地平に沈もうとしている。


 市街には、市民の一団が黒いローブのような物を頭からかぶって、綺麗な隊列を作りながら行進しているのが見えた。


 人数は三百人ぐらいだろうか。彼らがなんのためにそんな事をしているのかは不明だが見るからに、ご神託しんたくに基づいて行進しておるのだろうと思われた。


 『ぎゅきゅちゅしゅ』は、彼らが通り過ぎるのを待つために手を上げて隊列を停止させた。


 市民が市街地を進行するときはなぜか黒いローブで全身を隠す事が義務付けされている。いろんな人種が混じっている。規則正しく行進して行く。


 一団が通り過ぎると、魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は、魔界騎士達を前進させた。


 通りの前から魔界貴族が魔物『ばゃにゅらさ』に乗ってやって来る。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は、隊列を止めて彼が騎乗していた『にまりゅかきち』から降りた。


 先頭の魔界貴族の後ろに魔界騎士が約五百騎が彼らの前を通り過ぎた。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』の前を通り過ぎるとき魔界貴族が軽く礼をした。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は更に深く頭を下げた。


 貴族が通り過ぎるのを待ち、部下に騎乗を命令し進む。


 また、市民達の一団が黒いローブをまとって通り過ぎる。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は止まれの号令をかける。


 市民達が横切るのを待つ。通り過ぎるてから前進する。市民達を通り越すこと三度。


 ようやく『もってんひゅらんし』神の神殿が見えてきた。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は魔物『にまりゅかきち』から降りると、『もってんひゅらんし』神の神殿に入っていった。部下達には目立たないところで待機を命ずる。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は、『もってんひゅらんし』神の神殿の中をスタスタと進む。


 途中、魔界貴族にすれ違う時は深く立礼し、彼と同じ尉官級の士官に出会うと敬礼試合う。


 神官達がそそくさと通り過ぎるときは、片膝をついて頭を下げた。


 神殿でもなかなか進めない。


 魔界騎士大尉『ぎゅきゅちゅしゅ』は天使の間に入ると御簾みすの前でひざまずいた。


 御簾みすの中から異形の生物が動くのが感じられる。


 パタン! パタン! となんの音か分からない音がする。


「天使様は、昨日ご入殿されたばかり、不用意な態度をとるな」


 神官が『ぎゅきゅちゅしゅ』に耳打ちする。『ぎゅきゅちゅしゅ』は黙って頭を下げた。


 御簾みすの中から、キュルキュルと不思議な音がする。神官が耳をそばだてていたが『ぎゅきゅちゅしゅ』の耳元で。


「侵入者が『もってんひゅらんし』神様の御神域ごしんいきを荒らすとの御神託ごしんたくだ。お前は、魔界将軍会議に『もってんひゅらんし』神の御神託ごしんたくを伝えろ」


 『ぎゅきゅちゅしゅ』はハッと頭を下げた。と、その時、神官が「ひゃ!」と悲鳴をあげた。


 悲鳴の方を見ると、御簾みすの中から、カエルの手のような物が出てきて、『ぎゅきゅちゅしゅ』の頭に伸ばされているのが見えた。


 『ぎゅきゅちゅしゅ』は身を固くして縮こまる。べたりっと両生類のようなヌメヌメの手が『ぎゅきゅちゅしゅ』の頭を撫でた。ぬるぬるの液体が頭をビショビショに濡らした。


 『ぎゅきゅちゅしゅ』は、頭を下げたたまま小さくなる。


 しばらくそのままでいると彼はすっくと立ち上がった。彼は『もってんひゅらんし』神から直接ちょくせつ御神託ごしんたくを受けたのだ。


 神官が奥から煌びやかな衣装を持ってきて『ぎゅきゅちゅしゅ』に羽織らせた。


「魔界将軍様。御神威ごしんい高揚こうようを」


 彼に煌びやかな衣装を羽織らせた神官がおごそかに言った。


 いつの間にか、神官達が集まってきていた。


「魔界将軍様。御神威こしんい発揚はつようを」


 神官達が口々に囃し立てた。


「『ぎゅきゅちゅしゅ』魔界将軍様に御神令みかむれが下された。発揚はつやうせよ」


御神令みかむれが!」


御神令みかむれだ!」


 神殿にいる、騎士や貴族が集まってくる。


「『もってんひゅらんし』神様が御神令みかむれを下された。『ぎゅきゅちゅしゅ』魔界将軍様の御新発みあらたはつだ!」


 『ぎゅきゅちゅしゅ』魔界将軍は、神殿を出発した。何処から現れたか、大勢の市民が『ぎゅきゅちゅしゅ』に歓声を上げる。


 何十年も無かった魔界将軍の新たな発令だった。淵魔界の市民がこれ程熱狂する事は無い。





 アールはローブを頭からかぶって集団の中を歩いた。いろんな人種が混じる市民に扮する事は簡単だった。


 アールは、市民の何人かを『鋭敏触手』で絡め取ると彼らの思考を読み取った。


「魔界将軍が新たに発令されたと言う事らしい。『もってんひゅらんし』神が何の神かは誰も知らない。


 神々の姿すら見た事のある者は稀なようだ。あの神殿には神々の天使と呼ばれる異形の生き物がいるらしい。


 市民の思考を読んでも大した情報にはならないな」


 アールがサーリの耳元に呟く。サーリが頷いた。


「あの、魔界将軍を絡め取れば情報を得れるので?」


 ヨランダードが呟く。


「いや、この者達の思考を読むと、魔界将軍が発令されるのは相当に稀な事のようだ。


 我々がその現場に居合わせると言うのは偶然が重なり過ぎだ。罠と考えた方がいい」


「しかし、僕たちが侵入したと誰も知らないはずだよ」


 ヨランダードが食いさがる。


「サーリ姫は、どう思います?」


「私の『慧眼けいがん』は、レイライト様と同じように、現状を異常事態と捉えています。先程までの市街の静かな状況と変わり過ぎました。速やかにこの賑やかな場所から退避するよう、警告しています」


 アールが頷く。


「やむを得ない。目立つが、百人程、支配下に置くのでその真ん中に隠れるぞ」


 アールが皆に言う。


 アールが市民達を『鋭敏触手』で支配下に置く。そのまま行列を作り、歩き始めた。


 見た感じは、自然な感じだ。支配下に置いた市民の思考を読み取ると『むらんきゃしんけ』神の神殿に向かうようにという意識が多いので、その集団以外を支配下から外す。


 結局三十人程になったが、『むらんきゃしんけ』神の神殿に向かう事にする。


 彼らの姿を見つけた、別の市民達が先頭の『ちゃきらんて』に謝罪すると列の後ろに入ってくる。


 集団に遅れたと思ったのだろう。うまくいったようだ。


 新将軍の発令に沸き立つ一角を足早に去って行く。


 アールの横に悪魔上皇ヨロンドンが擦り寄ってきた。


「レイライト様。私は、こんな行列と一緒に行くのは嫌です」


 ヨロンドンは何故付いてきたのだろうか。アールにも不明だ。


 聞くとヨロンドンは、悪魔の中で最も偉大な大悪魔だがそんな素振りは無い。


 臆病にコソコソしている。


 アールは、ヨロンドンの意見を聞く事にする。


「上皇様は、どうするのが良いと?」


「市街地は、目立ち過ぎるので、何処かの施設を占拠するか、市街地から離れたところから『ビジョン』で監視するか、『支配』で配下を作って情報を得る事が良いのでは?」


 意外な程、立派な作戦だった。


「では、何処かの施設を占拠しましょう」


 先程、市民の思考を読み取っていると、なんの施設か分からないが大きな施設が市街地の中にたくさんあるという。そこからは大勢の魔界騎士が出入りしているというのだ。


 アールは、その施設がどのような施設なのか先ず調べる事にした。





 その施設は、石造りで大きな遺跡のようだった。製造するのに相当人手が掛かったと思われる大きな施設だった。


 入り口には魔界騎士が五人程、監視していた。アールが無言で手を振ってフリンツに合図した。


 フリンツが旋風鞭せんふうむちで五人を始末する。


 ヨランダードが、騎士達に飛びつくと、魔界騎士を『転移魔法』で飛ばした。


 そのまま、施設に入って行く。施設の中は、広い回廊だった。確かにこの回廊なら大勢の魔界騎士が通れるだろう。


 施設は、地下に広がっているようだ。回廊は結構な勾配で下って行く。


 回廊は、薄暗い。


 アール達は、黒いローブを被った市民に扮して入って行く。


 すれ違う騎士達は、彼らに全く興味が無いようで、どういう訳か分からないが、市街地と同じように隊列を作ってアール達がしずしずと進むと彼らはジッと待っているだけだ。


 施設の最下層に入ったのだろう、巨大な空間に出た。


 見ると、なんだろう巨大な大木のような物がたくさんあるように見える。


 魔界騎士達が大木の周りに群がっているように見えた。


 アール達は、大木に近づいてみて初めてそれが何かわかった。それは、一言で言えば、騎士のなる木だった。


 大木には何百ものまゆがぶら下がっている。そのまゆの中に魔界騎士が入っているのが分かった。


 アールが何十人もの騎士の思考を読み取る。


「彼らは、一人一人、生きた時代が違うようだ。あのまゆは、兵士を仮眠状態にして何十年も何百年も保存する装置のようだ。


 この施設だけで、ざっと三万の魔界騎士が保存されているようだ」


 アールは皆に説明する。


「破壊しますか?」


 青姫が尋ねた。


 アールは冷徹な顔つきで顔を振る。


「放って置こう。この施設は、先程の市民の思考から市街地に約六百あると言う」


 つまり、一千八百万人の魔界騎士が保存されているという事だった。なんと言う物量だろうか。


「飛ぶぞ」


 アールは周りの魔界騎士達を支配下に置いてから『転移』の魔法を使う。


 先程、魔界将軍が発令されていた神殿の近くに実体化する。先程の喧騒が嘘のように静かになっている。


 周りを見ると魔界騎士が十数名ほど、こちらに気づいたようだがアールがすぐに彼らを支配下に置いた。


 彼らの思考を読み取る。


 ここは、『もってんひゅらんし』神と言う神の神殿だと言う。


「この神殿を占拠してみよう。奴等の神の一人『もってんひゅらんし』神と言う神だそうだ。どんな神か実際に拝見しようじゃないか」


 アールは、そう宣言した。

次回は、アールは生涯で初めての大ピンチに合うかもしれません。


楽しんで頂けると嬉しいです。


2015/11/18改訂 神殿名『もってんひゅらんし』神と『むらんきゃしんけ』神とを一部間違えていました。訂正します。すみません。

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