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良くある転生物語 聖と魔  作者: Seisei
第一部終章

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第六十五 魔神種エルシア

いつも読んで頂きありがとうございます。


第一部 終章


第六十五 魔神種エルシア


です

第六十五 魔神種エルシラ



 エルシラは、聖霊アザニエルに呼び出されて機嫌が悪い。


 彼女は、美しく黄金に輝く虹彩こうさいを煌めかせてアザニエルを見つめた。


わたくしがどうして人間や天神種などに従わないとダメなのでしょう」


 彼女は、優雅な身のこなしで玉座から立ち上がると大声で宣言するように言った。


 アザニエルは、顔をしかめた。


「エルシラ。そなたはエデンビラーゴの女帝だが、それが尊重されたのは一万五千年も昔の事だ。今ではソナタは、忘れられた種族の族長程度に過ぎない。


 本当のところ、私としては魔神種が私を召喚してくれる事を祈っていたのだが、結論としては人間種が私を召喚した」


 エルシラは、ムッとする。アザニエルの長い話は理解できた。それは満更知らない情報でもない。アザニエルを始めとしていにしえの賢者達が大勢で創出した大プロジェクトが発動し大詰めを迎えようとしている事は理解していた。


 しかし自分が選ばれるはずだと思っていたのにアザニエルが選んだのは人間の少年だったのだ。


「アザニエル様。そもそもこのプロジェクトは魔神種が発動させたはず。ならばそのプロジェクトの最終シーケンスの主因子としてわたくしが選ばれるのが当然ではないですか」


 アザニエルはため息をついた。


「エルシラ。君が彼に従うのを拒むなら、君はプロジェクトから排除されるだろう。そうすればプロジェクトの成功率はかなり低くなる。


 さらに、もし君を最終シーケンスの主因子に変更すればこのプロジェクトは二十パーセント程度成功率が下がるだろう」


「何を根拠にそんな事を仰るの? 貴方のプログラムは古すぎて正確な答えを導き出せないのではなくって?」


「その可能性は有る。ならば、エルシラが自身で確かめたらどうだ」





 その少年は、人族ながらなかなか立派で素敵だった。種を超えた魅力を感じさせた。


 しかし、エルシラは少年の発言があまりにも失礼なので心の底からの怒りに耐えなければならなかっな。


「この、天神種の娘と闘えと?」


「そうです」


わたくしは、これでも魔神種の女帝で、魔神種の中でも史上最強であると自負しております。それでもこの方と戦わないと貴方はわたくしと戦いたくないと仰いますか?」


「陛下。こちらのサーリ皇女も天界の皇女で史上最強の一人です」


「天界にはツウラ・トウサという最強の戦士がいるという事ですが、彼女はツウラ・トウサよりも強いのでしょうか?」


「陛下。彼女の強さはツウラ・トウサと比べても勝るとも劣るものではないでしょう。彼女は自分の本当の強さを知りませんが」


 そのように、少年が言った。ツウラ・トウサの強さは魔神種の情報網で把握されていた。


 エルシラも一度手合わせしたいと思っていたが、この娘がツウラ・トウサに匹敵すると言うなら戦ってもいいだろうと思った。


「しかし、サーリ皇女は見たところ闘えるようにみえないが?」


 エルシラが指摘した。


 少年が何か魔法を発動したのが感じられた。無詠唱で魔法を発動したのだ。なるほど、少年の発動した魔法で少女が綺麗な武装をまとったのが分かった。


 この少年は錬金術師なのだろう。見事な創造魔法だ。


 見ていると、少女がその武具の形状が気に入らなかったみたいだ。機能的で美しいフォルムの鎧だったが、何が気に入らないのか、少女が胸の辺りを隠して嫌々をしている。


 少年が少女にしきりに謝り、直ぐに、もう少し胸の辺りが丸く覆う形状の鎧を出していた。


 最初の鎧は、少女の胸を強調したような形状だったのが嫌だったらしい。よく理解できない。


 次に少年は、自分が腰に差している変わった形の黒い刀身の剣を抜くと少女に渡した。


 無様な事だが、少女はその剣を受け取ると派手によろけた。


「レイライト様。この様な剣は私には振ることも叶いませんわ」


 少女が、剣を重そうに持ちながら言った。


「エルシラ陛下。サーリ姫は剣術の素人なので、素振りの稽古をさせてください。申し訳ありませんがしばしお待ちください」


 レイライトという少年がエルシラに済まなそうに言った。


 そもそも、急な勝負を挑んだのはエルシラの方だからやむを得ない。エルシラは憮然ぶぜんとした顔で頷くしかない。


 見ていると、少女はフラフラと剣を振るうがうまく扱えないようだ。確かに重そうな剣だがあまりにも無様だ。


 しばらくそうして練習をしている。なかなか成長が早いようだ。次第に曲がりなりにも剣術の型を取れるようになった。


 振りもなかなか鋭くなっている。


 いい動きをするようになってきた。見ていると、少年と少女は何かの糸で繋がっているようだ。


 なるほどと納得した。少年が思念で少女の動きをトレースしているようだ。多分、二人はあの奇妙な糸みたなもので精神的に繋がって、運動神経を共有するような形で剣術を練習しているのだろう。


 少女の不思議なほどの上達は、この少年のせいなのだ。この少年はやはり只者ではないようだ。


 エルシラはサッサと少女を破り、少年と勝負するのが楽しみになってきた。


「そろそろいいでしょう」


 少年が言った。


「サーリ姫。剣はこれと変えて闘ってください」


 少年はそう言うと、輝くような大剣グレイモアを魔法で創出した。


 本当に見事な錬金術だ。創出した大剣グレイモアも見事だ。かなり強い魔法がかけられているのが分かる。


 少女は、剣を交換した。見るからに先程の剣よりも重そうに持っている。


 立派な剣だが、この少女に扱えるとは思えない。


 少女は、剣を両手で持って二度ほど振った。


「大丈夫そうです」


 何が大丈夫か分からないが少女はそう言った。


「準備は整いました」


 少年がエルシラに言った。


 エルシラは、静かに闘技場に入って行く。


 少年が少女の肩に手を乗せて話している。


「無理しないでね。危ないと感じたら試合を止めるからね」


 エルシラは、二人の仲の良さが何だか気に食わない。可哀想だが少女には痛い思いをしてもらう事になる。


 エルシラは細身剣レイピアを片手に持って構える。細身剣レイピアと言っても刀身の幅が少しばかり細いだけだ。エルシラはスピードを重視しているのだ。


「いつでも良いぞ」


 そうエルシラは言った。エルシラは決して油断していたつもりはない。どんな攻撃が来ても直ぐに避ける用意があった。


 魔法で肉体と運動神経を強化する。魔神種だけができる技だ。情報によるとこの集団にも魔神種とは違う肉体強化魔法があるようだが大した事は無いだろう。


 腰を落とし、構えを取る。見ると少女は、両手で剣を構えている。


 少女は、魔力と聖力が混合したような不思議なオーラをまとっている。


 エルシラは魔力を練り上げて防御壁を作り、聖力を練り上げ肉体と精神の強化を同時に行う。


 強化レベルを最大にした。もしかしたら少女は即死するかもしれないが構っていられない。再生魔法は逸失してしまったのでさすがに殺してしまうとまずいが。


 次の瞬間、少女の姿がブレたように見えた。突然『転移』魔法で移動したかのように少女がエルシラの目の前まで、肉薄しており大剣グレイモアがエルシラの顔面に叩き込まれる。


 エルシラは反射神経でレイピアを跳ね上げていた。


 「「「「ズカーン!」」」」


 大きな爆発音がしたと思ったらエルシラは強い衝撃を受けて跳ね飛ばされていた。


 何という衝撃だろうか。必死で体勢を立て直す。


 何十メートルも跳ね飛ばされた。ギリギリで態勢を整えようと必死で踏ん張った。強化魔法を調整して足腰を強化する事でようやく持ちこたえた。


 エルシラが立ち直ろうとした次の瞬間、また少女の影が目の端に飛び込んできた。


 エルシラは思わず、その影に向けて細身剣レイピアを叩き込んだが、それはフェイントだったようだ。、少女の影は反転して、逆サイドに回っている。


 恐ろしい速さだ。エルシラは細身剣レイピアを横にないだ。


 剣が少女に当たる直前、腕に激痛が走り、細身剣レイピアが飛んで行った。


「参りました」


 容赦の無い第二撃が脳天に入る直前にエルシラは言った。大剣グレイモアがエルシラの頭上で寸止めされていた。


 エルシラは、鋭く少女を睨んでいた。


 まんまと少女の策にしてやられたと悟ったのだ。この少女は綺麗な顔をしているがとんだ策士だ。


 自分の力量を全力で出しているように見せながら、剣の重さの違いを上手に利用してエルシラに目の錯覚を誘って勝ったのだ。


 彼女の脳天への直撃は大した攻撃ではなかった。エルシラの方が剣術の腕は何段階も上だろう、必死で剣を振るう少女の姿に全く嘘が無かったので、まんまと騙されたようだ。


「その剣はどれ程の重さが有るのだ?」


 エルシラはアールに尋ねた。


「七百キロ余りだね」


 少年が答えた。エルシラは笑いがこみ上げて来るのを抑えられなかった。


 この世に七百キロもの重さの剣を常帯じょうたいしている剣士がいるとは信じられ無かった。重い剣は多少有利な面もあるが重すぎると不利になるばかりだ。


 しかし、その重さを制御する腕力があれば断然有利になるのだ。


 もちろん、この少年は、それ程重い剣を使っても全く苦にならず、有利だと判断出来るほどに剣の腕が高く、それを制御する能力も強いということだろう。


 だいたい、彼がその剣を扱っている様子を見ても全く重さを感じさせない。


 そんな剣を操る存在と対峙するなど考えるだけで恐ろしい。なんと恐ろしい奴。


 エルシラは剣の腕は魔神種でも飛び抜けていてそれは強化魔法の天才だったからだ。元々の才能から強化魔法に熟練した彼女の早業には誰もついてすら来れなかった。


 そのおごりもエルシラにはあったかもしれない。少女の使う不思議な魔法はエルシラの強化魔法を凌駕しているようだ。


 さもなければ七百キロもの剣を振りまわせるはずがない。


 あの大剣グレイモアも相当に重い長大剣なのだろうが七百キロの剣と比べれば紙の剣のように扱えたのだろう。


 大剣グレイモアに持ち替えた時のわざとらしい少女の演技にこそ注意すれば良かったのだ。


 エルシラは、アザニエルの判断が完全に正しい事を認めざるを得ないと肩を落とした。


 この少年は凄すぎる。


 こうしてエルシラは、アールの部下となる事になった。





 アール達は、アザニエルに仲間の居場所を訪ねてみた。魔界だけでなく全世界から莫大な情報が流れ込んでいるはずのアザニエルなら情報があるかと思ったのだ。


 はたしてアザニエルは、皆の位置を承知していた。


 アールが『転移』魔法で次々に仲間を連れてきた。


 エルシラはやって来たメンバーを見ながらただただ呆れ果てた。


 最初に驚いたのは黒曜竜だ。


 馬ぐらいの小さな黒曜竜だが、それは見掛けだけだと魔界の住人は分かっている。竜は変身する動物だ。


 黒曜竜はエルシラも良く知らないが凶暴な種だった筈だ。黒光りする竜。イコール脅威の象徴と言うのが魔界の常識だ。


 本能的に身構えるエルシラだったが、黒曜竜の背には小さな可愛い青色で統一された少女が乗っかっている。


 エルシラは少女と目が合って初めて心臓が飛び出しそうな衝撃を味わった。


 恐ろしい鬼気迫る迫力がエルシラに向けられている。今にも飛びかかって来そうだ。


 跳びのきたくなるのを必死で堪える。


 その横には真っ白な竜が立っていた。初めて見る竜種だ。


 その二人だけで充分にもうエルシラはお腹いっぱいと言いたかった。


 しかし、次に連れてこられた二人もエルシラには衝撃的だった。


 一人は不思議なアーマードに乗っていたが部屋に入るなり、アーマードが消えた。ギョッとして見ていると、中の人族は服装が変わり、剣が出現、剣帯けんたいした。


 その人族の男は、一緒に現れた、紫色の少女に何か聞くと両手を上げて見せ。次の瞬間には少し違う服装になっていた。見事な錬金術の技だ。これ程見事な錬金術をこのメンバーの者達は先程の勝負の時に見せた少年と言い二人もできるのだ。


 紫色の少女はさっきの青色の少女と良く似た感じだがそっくりなだけに違いが目立つ。


 ニッコリとエルシラに笑顔を見せた愛嬌の良さとは裏腹にエルシラとアザニエルには、防御の構えを取っているのが分かる。


 もし、斬りつけたらどれ程の反撃が来るのだろうか。


 青色の少女と紫色の少女が顔を合わせた瞬間だった。二人の間で殺気の応酬があり、二人が擬似的な勝負をしていることが分かった。


 二人の応酬は余りにも高度過ぎて、エルシラには完全には理解できなかった、しかし二人の勝負は紫色の少女が勝利を収めた事だけは分かった。


 ところが負けた方の青色の少女の方が嬉しそうな顔をして紫色の少女にエールを送って合図をしているのが印象的であった。


 次に現れた一団は、四人だった。一人は、確か悪魔上皇のヨロンドンの筈だ。一人は噂のツウラ・トウサ。その聖力の翼で天神種と分かる。大きな翼で堂々とした立ち姿だ。


 後の二人の人族の男女も美しい男女だった。それだけでも飛び抜けているのに、二人の魔力・聖力の大きさにエルシラは驚いた。


 明らかに調整しているのに二人の魔力・聖力は凄いことが分かる。


 よく見ると少女の方は使役精霊が付いているのだ。その精霊の魔力・聖力が少女と加算されてそれほどの量となっていることが分かった。これ程の精霊を使役できるこの少女は相当に優秀な召喚師なのだろうと思われた。


 もう一度、少年の方に目を向けなおす。やはりこの少年の魔力・聖力は異常だ。何と言う魔法師だろう。


 彼等が紹介された後、エルシラは自分がこのメンバーのリーダーになるつもりなど全く思わなくなっていたのだった。

次回から淵魔界に入ります。


楽しんで頂けると嬉しいです。

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