第六十二 竜帝
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第六十二 竜帝
です。
第六十二 竜帝
青姫は眼前の巨大な竜を見つめた。
「お前は、美しい」
青姫は、そう言った。
■お前は、何者だ?■
頭に太い声が響く。竜の声が頭に響いているのだ。
「私は、青姫。お前のライダーだ」
■俺様に乗ると?■
黒く綺麗に輝く竜が首を傾げた。
■俺様は、見ての通りお主には、大き過ぎるのではないか?■
「ちょうど良い大きさになれ!」
青姫は、全く怖気付く所がない。
■青姫とやら。ライダーとは、俺様よりも強い必要があるが分かっておるか■
「もちろんだが、お主を殺してしまっては意味がないではないか」
青姫は、闘う気はあるが、殺してしまう可能性が高そうだった。黒曜竜は、それほどの威圧感を出ししていた。
■ならば、俺様の必殺の突きを止めてみよ。止める事ができたらお主の勝ちと認めよう■
「強そうだな。私が勝ったらお前の名を決めさせてもらうぞ」
■俺様には、黒帝という渾名がある。それで十分だ■
「もっと良い名を付けてやる」
青姫が宣言した。
青姫は、持てる全ての力を黒曜竜の受けに回すべく肉体強化をかけた。黒曜竜の三つの角のうち真ん中の一番長い角が自分に向かって激突してくるはずた。
真っ向から勝負して、完全に受けきるつもりだ。
「おい。お前の角は鋭そうだが折れないか?」
■気にするな。俺様の体は本来エネルギーそのものだ自在になる■
「竜とはエネルギーなのか? 私には炎龍の友達がいるがそんな事は言ってなかった」
■炎龍だと。それはおかしい。炎龍と言えば巨大なエネルギーを炎にして圧縮したような竜だ。暑くて普通の人間には近づく事も叶うまい■
「そうなのか? 奴が炎龍かどうかは私にはどうでもよい。かかってこい」
青姫は、頓着しない。
黒曜竜は、青姫から距離を取ると姿勢を低くした。三本ある角のうち真ん中の一番長い角を青姫目掛けて焦点を合わせる。
次の瞬間だった。黒曜竜の動きは想像を超えていた。助走を取って次第に速度を上げ青姫に激突することを予想していた者がきたなら飛び上がったことだろう。
ほとんど爆発のような勢いで、青姫目掛けて飛び出したのだ。むしろ巨大な大砲の砲撃と表現する方がしっくりくるだろう。
黒曜竜は、しかし青姫に見事に受け止められていた。
青姫は、黒曜竜の角をヘッドロックみたいな形で受け止めている。
体が十メートルほど後ろに流され、尻餅をついてようやく停止する。
「凄いな、お前。ますます欲しくなったぞ。もう一度だ」
黒曜竜は、自分の敗北だと思っていたが、青姫はキッチリと止め切るつもりだったようだ。
■青姫。少し手加減をしてしまったぞ。驚いたのはこちらの方だ。今度は本当に本気で行くぞ。もし、一歩も退かず、一ミリも動かなければお主の勝ちだ。それで良いな■
「当たり前だ。もし、お前が勝てば殺さずに自由のままだ」
■恐れ入った人間だ。これ程有利だと思った条件で負けはしまいが、その後の解放の約束をこれ程有難く感じるなどとはな■
黒曜竜は、ギリギリの助走距離を取った。それだけで黒曜竜の方が格下だと認めているようなものだった。
先程から青姫は、あまり動いていないのだ。
勝負事で、ちょろちょろ動く方が弱いに決まっている。
全力で戦ってもこの青姫とやらには勝てる気がしない。
黒曜竜は、全身をバネにして、飛び出し、その後は飛翔能力を最大にして加速する事にした。黒曜竜の場合この距離でも音速を超えることができるだろう。
この速度でぶつかると多分、後ろの溶岩流に突っ込むだろうが仕方あるまい。もちろん黒曜竜といえども溶岩流に突っ込めばただでは済まないが誇りをかけた勝負だ。
黒曜竜は、魔力の全てを飛翔の力に変えるべく腹に力をいれた。
■行くぞ■
次の瞬間、黒曜竜は先程の速さよりも何倍も速くそして全ての魔力を使って加速した。
青姫に激突する時には音速の何倍もの速度に到達していた。
目にもとまるまい。
✳
【時間を少し遡り、黒曜竜が、飛び出す少し前。青姫の視点ではこの様に見えていた】
黒曜竜が後ろに退がる。青姫は、先程の受けでは全然足りない事に気付いている。次の激突は、さらに強化されるのは避けられない。
先程までの遊び気分から本気になった黒曜竜の威圧感は経験した事がない物がある。
この威圧感は、危険だ。この目の前の黒曜竜は、唯の竜ではない様だ。黒帝という渾名があるとか言っていたがまんざら嘘ではあるまい。
あの威圧感はつまり、少なくても闘気を出せるレベルだと言う事だ。
青姫は、これは死ぬなと覚悟した。覚悟ができたら後は最善を尽くすだけだ。
気を練る。可能な限り、気を練る。
その時だった。彼女の腹の底から何かが爆発したのが分かった。しかし、それが何かは分からない。
次の瞬間、それが双子の妹が何かしたのだと感じる。実は丁度その時、紫姫がフリンツに飛びかかって行った瞬間だったのだ。
青姫は、ニヤリと笑って紫姫に感謝した。
沸き起こる膨大な覇気を全身に漲らせて、飛んできた黒曜竜を片手で受け止めていた。
✳
丁度、この瞬間、空中をマッハ十の途方もない速度で飛翔する存在があった。
白帝ラーサイオンである。
成竜になった彼は、何もしなければ体長八十メートルの巨体に表皮の温度は三千度になる。しかし、それをコントロールすれば炎龍の癖に鱗は真っ白で体長も三メートル半ぐらいにもなれる。
ベグネド火山の火口が見えてきた。
火口に飛び込む。直ぐに見えてきた。
「何だ、もう乗ってるじゃないか?」
ラーサイオンがその竜の前に立って言った。
「ラーサイオンか? 真っ白だな」
ラーサイオンが怪訝な表情で、青姫が跨っている竜を見た。
黒い。テカテカだ。
ラーサイオンは、本能的に身構えた。その時にその黒曜竜は、ラーサイオンに激突してきた。
全身の闘気を身に纏い竜の突撃を受け止めた。
その衝撃に、数メートル後ろに引きずられる。
「ラーサイオン。情けないぞ。それしきの突撃で後ろに退がるな!」
青姫は、やんややんやの大騒ぎだ。ラーサイオンは、黒曜竜の角を掴むと横に投げ出した。
黒曜竜は、大きさが普通四十メートルはあるはずだが青姫に合わせているのだろう二十メートルほどの大きさになっている。しかし重さは元の六十トンのままだ。
軽々と持ち上げだラーサイオンが凄い。さすが白帝となったラーサイオンだ。
「おお! 凄いぞラーサイオン」
青姫の馬鹿なはしゃぎは収まらない。
ラーサイオンがため息をつと大剣を抜いた。そして、助走もせずにジャンプし、青姫に鋭い斬撃を叩きつけた。
しかし、何処に持っていたのか、黒光りする長大なランスで彼女は、ラーサイオンの大剣を受けて止めていた。
見るとそのランスは、直ぐに先がトゲドケの金槌みたいなメイスに形を変えた。
さらにメイスは長さが自在な様だ。これが噂に聞く竜槍なのだ。自在に長さ大きさに重さを変える武器だ。
ドラゴンの一部を武器化したものだ。ドラゴンが強力であればあるほど武器の威力も強くなる。
恐ろしい勢いで振り下ろされたメイスをラーサイオンは、受け止めた。
「青姫。この竜種は、黒曜竜ではありませんか?
竜種の中でも最も凶暴で手が付けられぬ暴れ者ですぞ」
「そうか。ラーサイオンも随分立派になったな。私の渾身の打ち込みを軽く受け止めたな。成竜になったのなら大きくなってみろ」
青姫がそう言った。
「おい、クロ。お前も大きくなってみろ勝負だ」
黒帝は、クロと名付けられたようだっだ。黒曜竜のため息が聞こえそうだ。
ラーサイオンが巨大化する。次第に赤く光りだした体が暑くなる。
「ラーサイオン。やっぱりお前は凄いぞ。お前の背中に乗ってやろうか?」
助けに飛んできたラーサイオンを青姫は茶化して喜ぶのだった。
二人の関係は、二人がどれくらい成長しても何時も一緒なのかもしれない。
しかし、二人の友情は、さらに固く結ばれるのだった。
そろそろ、魔界編のおわりですね。
仲間達も淵魔界に行く程に力を付けました。しかし、もう一人仲間が必要です。
次回、魔界の神の予定です。
楽しんで頂けると嬉しいです。




