第六十 誕生の代価
いつも読んで頂きありがとうございます。
モッチーさんレビュー憂しかったです。ありがとうございます。
本当にアニメ化なんてなったら凄いですね。
では、第六十話 誕生の代価
です。
青春期ももうすぐ、クライマックスです。
第六十 誕生の代価
ラーサイオン・フュラスは、柄にも無く悩んでいた。目の前には、溶解泉がある。
誰かが入ってこないか、待ちに待ったが誰も入って来なかった。
ラーサイオンは、今までの姿や性格が、好きだったのか改めて自問してみた。
しかし、答えはない。自分の事を嫌いだと思う者がいたら、これ程悩まない。しかし、ラーサイオンは意外な感情がある事に気づく。
はぐれ竜として、出自を卑しみ、人生を軽く見る癖も、アールと会ってからは考えを改めるようになっていた。
ここでラーサイオンは、改めてアールの事に考えが及んだ。
アールは、偉大だ。あれ程の才能と実力があれば、普通はずっと尊大になる。尊大にならないにしても、灰汁のような物が出てくる。
それを、貫禄とか、只者でない雰囲気とか言うのだろう。アールは、その気になれば、広範囲に死を降らせることも可能だし、どんな強者だろうと、跪かせるだけの迫力を持っている。
容赦の無さも厳格さも申し分ない。それでいて雰囲気がとても柔らかく灰汁と言うものを感じさせない。
アールは、種を超えて尊敬に値する人物だ。だから、天界の神々をも彼の前に膝を付いて、首を垂れる。
ラーサイオンは、アールに憧れているのだ。その人懐っこい性格。明るい雰囲気。フレンドリーだが、時として厳格、巨悪に対しては峻厳だ。
考えてみると、アールはいろいろな場面で常に最高の性格を紡ぎだす。要は自由で偏りがないのだ。
そこで、ラーサイオンはハッと我に返った。
自分らしくある事に拘ることも変わろうとすることに偏執する事も不自由で偏りではないか。
アールは、こんなところでも自分を助けてくれるらしい。
ラーサイオンは、大きな声で哄笑した。
サバサバとした気分で溶解泉に入って行った。
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フリンツは、紫姫の横顔を改めて覗き見た。美しい顔だ。横からみると体は子供のように華奢で、どこにあんな剣技を出す力が有るのか不思議だ。
紫姫が、フリンツの視線に気づいたのか、フリンツの方を見てにっこりと微笑む。
この微笑みが彼女のチャームポイントだ。優しそうで包容力を感じさせる。
「ごめんなさい。無理矢理、連れて来てしまったわ。貴方にお願いが有るのよ」
紫姫が笑いながら言った。紫姫の頼みとあればフリンツはなんでも聞く。もちろん、フリンツは仲間の誰の頼みでも聞くだろうが仲間の女性の頼みなら絶対に聞いてくれる。そんな安心感が有るのがフリンツだった。
「いいよ」
内容も聞かずに答えたフリンツ。
「何をしたらいいんだい?」
紫姫がクスリと笑う。
「旋風剣を教えて欲しいの」
一瞬の間があり、フリンツは驚いた顔をしたいたが。
「オッケー」
簡単に承諾していた。
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サーリは、一度持った手は離さないと言わんばかりに、アールの手をしっかりと握っている。
村が魔物に襲われたと言ってきた地味な女の子が怪しいことは、サーリは初めから分かっている。
サーリは、何事も見逃さない『慧眼』の持ち主だ。この娘には、おかしなところが七箇所もあるのだ。
それは、靴がおかしいとか、手袋をしていないとか、帽子のサイズが合っていないとか、どれを取っても些細な事だがサーリにはこの娘が次のように見える。
①偽物の村の娘
②服は実際に村の娘達五人程度から剥いできた。
③靴の大きさだけは合わす自分の物を履いてきた。
④足の大きなゴブリンの亜種の可能性が大
⑤ゴブリンにしては話が堪能。知能が高い。
⑥淵魔界からの使者の可能性が大
⑦アールに会いに来た確率一割。レイライトに会いに来た確率三割、唯の強い者に会いに来た確率三割、その他三割
⑧ゴブリンの強さ『きゃはきゅと』と同程度か少し強い。
⑨魔界貴族の確率三十五パーセント
⑩魔界何とかという職業者である事の可能性が大
⑪目的が強い個体の誘拐である可能性が大
以上が、サーリの『慧眼』が恥し出した回答だった。
「この辺でいいだろう。娘。お前に用はない。サッサとどこかに行け!」
突然、村娘の態度が一変した。
しかし、アールも、サーリも全く動じない。
「貴方が襲った可哀想な本当の村娘さん達はこの辺に拉致しているの?」
アールが優しく尋ねている。
その様子を見てサーリがクスッと笑う。アールにもお見通しだったのだ。
「何だ? お前ら。私を怒らせる気か? そっちのいい男といい事しようと思っただけだが、生意気な口を聞くなら潰しちゃおうか?」
「君は魔界貴族なのかい?」
「はぁ? 俺がそんな良いもんに見えるか? 俺は魔界盗賊の女お頭『らひょらん』だ」
そのゴブリンの女が名乗った。
「その『らひょらん』様が、ここで何をしてらっしゃるので?」
アールが尋ねた。
「俺ぁよ。お前らみたいな美味しそうな奴を見つけたら、一人は喰って、一人は国に連れ帰るのさ」
「お国とは?」
「アラマダンという所だ。俺達の仲間が兵隊に取っ捕まっちまって、俺だけがこんな所に送り込まれちまった。ついてねぇ」
「この国で何をしろと?」
「分からねえよ。強そうな奴を連れて来いってんでな。何人か連れて行ったらこんな奴らじゃ話にならんって。けんもホロロ。兄さんは強かったからね」
「サーリ姫。貴方の力をこの娘に見せてあげなさい」
アールが言った。
サーリが可愛く頷くと、サッと手を振った。指を指す。
次の瞬間、サーリが指差した高さ三百メートル程の山が大音響を上げてひしゃげた。中央に巨大な穴が空いている。
周囲が地震の様に鳴動している。
アールが目を見張る。彼女の真の能力の一端だ。超重力系魔法。玉皇上帝級の逸失超級魔法だ。
やはり、サーリのレベルはアールの想像を超えていた。
驚いたのは、女盗賊の『らひょらん』だ。
「何と、本当に強いのは女の方か?」
女盗賊『らひょらん』が叫ぶ。
どうしてそうなると、突っ込みを入れたくなるが、面倒なので、アールも指を鳴らして、先程大崩落した山の方を指差した。
次の瞬間。サーリの作った山の大穴が火山の様に大噴火した。
アールがもう一度指を鳴らすとその大噴火は嘘の様に鎮まった。
「娘さん。私達は、二人とも強いんだよ。その場所まで私達を連れて行ってくれるかい?」
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青姫は、闘気で肉体を強化して、恐ろしいスピードで山を駆け上がって行った。青姫の闘気は、既に闘気のレベルを遥かに超えてより強化された覇気にまでレベルアップしているとアールが言っていた。
しかし、それでも空を飛んだり物を造ったりという魔法技は使えない。
いくら、覇気が凄くても、空を飛びたい。ヒョッ子のラーサイオンでも飛べる。フリンツですら飛べるのだ。魔法系に強い仲間とは、どうしても一線がある。
飛べない事の不便さは、どうしようもない。青姫の強さはアールのお墨付きだが、これで機動力を手に入れられれば鬼に金棒だ。
ドラゴンライダーは、長い長いランスを構えて恐ろしい速度で突撃を行う。その破壊力は山をも突き崩すと言われている。
青姫の斬撃は、小さな山程度なら突き崩すだろうが、それは相手が動かない山だからだ。
もし、青姫と同じぐらい動きの早い強い奴が出てきたら彼女の剣技だけでは如何ともし難いのだ。早い話が飛んで逃げられたらどうしようもない。
それで、ドラゴンライダーになりたいとなった。彼女は機動力のある馬が前から欲しかったのだ。
火口まで、瞬く間に走り登ると、何の躊躇もなく火口に飛び込んだ。
凄い速度で落下する。見ると、足元の遥か彼方に溶岩流が見える。
このまま落ちたら、溶岩流に真っ逆さまだが、青姫は特に慌てた風ではない。
彼女の神技では、空を飛べなくとも、空中の空気を蹴って移動する事ができる。
闘気をレベルアップして覇気にまで高める。最大に肉体を強化。そしたら思いっきり空を蹴る。
意外なほどの推進力が出る。
二、三度、空を蹴って思いどおりの場所まで行く。
誰が見ても空を飛んでいる様にしか見えないが、青姫は、空を駆け上がっているだけで、格好が悪いとの事だ。
見ると遥か下の方で、光る個体が群れている所を発見。そちらに向って空を蹴って滑る様に進む。
飛んでんじゃねぇ。とはもう言わないで欲しい。
ストンと、光竜種の群がる地面に降り立った。
青姫がどの竜にしようかと、物色し始めたところ、横から竜の尻尾攻撃が飛んできた。
青姫は、片手でそれをひょいと掴むと投げ捨てた。
ドドーン! と光竜種が地面に投げつけられる。光竜種は、体長十メートル十トンの巨体が風船の様に軽々と投げつけられる。
トン! と、青姫が地を蹴ると数十メートルほども宙に舞い上がる。上から物色する。
どいつもこいつも一つ角ばかりだし、体長も小さい。
青姫のイメージでは、体長四十メートルぐらいの奴をイメージしている。
見ると、いるじゃないか。一際大きいのが一匹ドスンって感じで、寝ている。
見ると角が三つもある。普通それ程、特徴が違うと光竜種とは別種だと気付きそうだが青姫はその様な細かい事には気を掛けないサバサバした性格だ。
彼奴にしようと宙を蹴って行く。
実は、この体長四十メートル、体重六十トンの竜種は、黒曜竜と言う。性格が凶暴で体が黒曜石のように黒光りしていることと、頭の三本の角が鋭くカミソリのように敵を切り裂くのが、黒曜石の破片の様だから、黒曜竜種と呼ばれるようになった。
巨大な体に似合わず、動きが早く、飛ぶ速度は、竜種の中でも最速級だった。
もちろん、騎乗竜種ではない。こんな大物を乗りこなした例がない。
トン! 黒曜竜の前の地面に降り立つ。
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ラーサイオンは、溶解泉で、いい湯を満喫していた。溶解泉の成分が何か分からないが、全身にエネルギーが蔓延する。
幼皮が溶けて行っているのかどうか分からない。
「どうじゃ。良い湯加減か?」
仙竜が横に入ってきた。
「仙竜様。いろいろ忠告してくれたが、俺はどうなるかなんて考えちゃいない。この儀式は、単なる一過程だからな。俺はもっと強くなる」
ラーサイオンはそう宣言するように仙竜カリキに言っていた。
仙竜は、声を上げて笑った。
「さすがに炎龍王と、白帝竜種の子だな」
「白帝竜種とは?」
「お主は、知らぬだろうが、お主の母の家系に白帝伝説があった。白帝となる竜が生まれるという伝説じゃ。
それゆえ、代々の選帝は、彼女の家系の娘を嫁にと強硬な手段に出たのだ。
単なる伝説だがの。先程のお主の発言を聞いておると、お主が白帝と呼ばれるようになるような気がしたのだ」
ラーサイオンは、何を言っていると、返事もしなかった。彼が誰かからどう呼ばれようと、自分が何者であるかに違いがあるか? そう思うのだった。
ラーサイオンが鼻で笑う。
「お主は、気づかずにそのまま成竜になったようじゃ」
ラーサイオンは、澄んだ眼差しで、仙竜を見て頷いた。
「そのようだ。心構えが変わったようだ。ここのエネルギーを充填せよって事なんだな?」
ラーサイオンが聴いた。
「そうじゃ。溶解泉は竜種のエネルギーの泉じゃ。竜種が生まれる時に、幼皮に流し込む。それが竜種の誕生だ。
お主の両親は、溶解泉が無かったから、己のエネルギーを幼皮に詰めたのだろうな。
ワシは、ここを出る。ワシのなけなしのエネルギーまで奪われてしまいそうじゃ」
「早く出ろ」
ラーサイオンの声は重々しく力強かった。仙竜は、伝説が成就する瞬間を目の当たりにできるようだった。
「なるほど、白帝か」
仙竜は呟いた。
ありがとうございました。
次回は、成長した皆が参集して、いざ淵魔界に入り込みます。
楽しんで頂けると嬉しいです。




