第五十八 魔法剣士
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第五十八 魔法剣士
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第五十八 魔法剣士
「メイア。白妖の位置をマーキングできるかい」
ヨッ君が訪ねた。魔法の発達したこの世界では、思念のやり取りで、意思疎通することも、離れた位置にマーキングして人に知らせる事も簡単だか、一つだけ不具合がある。
『探知』魔法を使うと、皆にその痕跡を知らしめる事だ。
特に思念による会話は余程の事がなければ使われない。大声で叫んでいるような感じだからだ。
同じようにマーキングもあまり使われない。
しかし、緊急の場合は仕方がない。
メイアが白妖にマーキングをする。ヨッ君は「転移するよ。全方位注意してね」と言うと、辺りの風景が変った。
悪魔上帝の城塞に入ったのだろう。目が慣れるまで真っ暗だ。これは誤算だった。
しかし、メイアは、予測していたようでいきなり『閃光』の魔法をかけている。
いきなり、現れて『閃光』を放つと凄いことになってしまった。その部屋にいた大勢の悪魔達が蜘蛛の子を散らすように騒ぎながら逃げ出して行く。
その部屋は、かなり広い部屋で有った。
見ると玉座のようなものがあり白妖が玉座の前で小さくなって、蹲っていた。
ヨッ君は、空間魔法『空間断絶』を発動し、白妖を縛る結界を破る。
白妖が目にも止まらない速さでメイアの足元に飛んできた。
玉座に座る人間みたいなのが、悪魔上帝だと思われた。見た目は、人間の男と変わらない。魔力量は、かなりの量だが、ツウラの聖力量と比べると小さいかも知れない。
「空間魔法で侵入し、無詠唱で魔法を使うとは、お前達は何者だ?」
玉座の男が言った。
「余は、悪魔上帝マイラーン。その精霊を放ったのはお主達だな」
「悪魔上帝様。私達は、この妖精を敵意で放ったのではありません。この妖精は、この城にいる悪魔の使い魔として、支えていたため、その悪魔に面会するために貴方の城に入ったのです」
メイアが説明した。
「なるほど。ここには、昔、悪魔ヨロンドンが住む城があったが、ヨロンドンに会いに来たというのか?」
悪魔上帝が訊いた?
「悪魔ヨロンドンがこの妖精の前の主人だと申しております」
メイアが白妖に聞いたのだろう。そう答えた。
「ヨロンドンは、未だにわしの支配を拒み幽閉されておる。
あ奴は、魔界における最古の悪魔。古の数々の大魔法を修め、多くの大妖、巨怪を配下とし、魔界の上皇と称し、八大悪魔を支配していた事もある。
今はただの老ぼれだ」
悪魔上帝マイローンが嘲けりを顔に浮かべながら言った。
「マイローン。私は、ツウラと言う天神種だ。お主らと相見れば闘うしかあるまい」
「天神種だと?
地上を捨てて逃げたお前達が何故、魔界まで来て世迷言を言っている」
ツウラの顔に冷笑が浮かぶ。
その時、悪魔上帝が思念で叫んだ。
「「「「侵入者だ!!!」」」」
大広間に武装した悪魔がなだれ込んでくる。
ヨッ君が、闘気魔法を発動し、周囲に結界を張った。結界は、異空間を作り、外部を排除した。
悪魔上帝は、不思議そうに周りを見回す。
「これは、余も知らぬ魔術だな。お主達は、かなり特殊だと言うことか。
とは言え、戦わず敗北を認めては、悪魔上帝の名が廃る」
悪魔上帝は、『アムェニッマシー』(慈悲を知れ!)を発動した。聞いたこともない魔法だったし、魔法の術名短縮詠唱術を会得しているようだ。
あらゆる方向から破壊の振動が顕現し、破壊の限りをつくす恐ろしい魔法だ。
悪魔上帝の魔法は、魔力の重ね合わせにより魔力の純度を上げる魔技とよく似た効果を上げる魔法形態のようだ。
ヨッ君は、『魔法障壁』で悪魔上帝の攻撃を防御する。
ヨッ君の『魔法障壁』には、闘気が練りこまれているから、普通の『魔法障壁』とは違い、魔法攻撃を完全に防御した。
見ると、メイアは、白妖を抱きしめている。悪魔上帝との闘いで白妖は、かなりの魔力を消耗してしまったのだろう。辛そうだ。
メイアが白妖に魔力・聖力を与えている。これが、召喚師と召喚精霊との契約の義務と言う奴だ。
召喚精霊を使役する見返りとして魔力を供給する。
しかし、闘いの最中にそんな事をしなくってもいいんじゃね? と、ヨッ君は思う。
「後見をしてやるから、思う存分闘うがよい」
と、ツウラの一言だ。強大な大精霊である白妖を絡め取るような、想像を絶する魔界上帝などと互角に渡り合える気がしない。
しかし、ヨッ君は、意を決してツウラに頷いた。元々、二人でやり切るつもりで精霊狩りに来たのだ。最後までやり切る。
ヨッ君の『魔法障壁』の強固さに、悪魔上帝は、信じられないと言う顔をしていたが、グズグズはしていなかった。新たな魔法『ヨワールドペリッシュ』(この世なんか滅びちゃえ)を発動した。
ヨッ君の結界は、もし闘気を混ぜ込んで作っていなければ、 悪魔上帝の発動した魔法にバラバラにされて、焼き尽くされていただろう、闘気魔法は防御と攻撃の効果を何段階にも上げていてくれる。
闘気を主軸にして、魔法を発動する。天帝級になったところでアールから闘気魔法の訓練を受け始めたヨッ君の最近の成長だ。
ヨッ君の『魔法障壁』は、完全に悪魔上帝の二つ目の攻撃をも防御した。
悪魔上帝は、この時になって初めて狼狽した。
「お前達の魔法は、どうなっている。余にはお前達の魔法が霞んで見えるぞ。それは、神威か奇跡の一種なのか?」
ヨッ君は、無詠唱で『光の剣』を発動。
悪魔上帝も「『光の剣』」と術名詠唱で魔法を発動し剣を構えた。
普通なら、悪魔と一騎打ちなんてできない。悪魔は、ノーマルの何倍ものパワーを持っているからだ。生まれながらに肉体強化魔法が効いているハイエンドなら互角だが。
しかし、ヨッ君はハイエンドとは違う。魔力・聖力を練りこんで、闘気を精製。肉体を限界まで強化する。天界での闘い以来、ヨッ君の闘いっぷりも様になって来た。
見ると、ツウラはヨッ君に任せていると言わんばかりに、腕組みをしながら剣すら抜いていない。
ツウラは、ヨッ君の闘いっぷりに目を見張っているのだがヨッ君は気づいていない。
ヨッ君が肉体強化プラス闘気による物理効果で体を前方に射出した。自分の体を鉄砲弾のように打ち出すのだ。
アールが良くやっているので原理や技の方法は分かっていたが必要性を感じずに使う練習すらして来なかったが、天界の神々との闘いで、魔法に偏重した闘い方では一流にはなれない事を知ったのだ。
光の剣を闘気で覆い強化。触れると爆発する『破砕』の魔法を発動。その魔法を先に悪魔上帝にぶつけておいて、直後に『光の剣』を叩き込んだ。
そもそも、ヨッ君ができるのは、肉体強化と反射神経の強化ぐらいのもんだ。
剣の達人達が放つ、闘気剣技のような威力があるわけではない。そのぶん、ヨッ君には魔法があるので魔法と肉体攻撃を混ぜこぜにして闘っているだけだ。
これは、天界の神々の闘いで身につけた、ヨッ君流魔法戦闘術と言っても良いだろう。
もちろん、万能選手のアールの闘いっぷりをヨッ君なりにアレンジしたものだ。
これも、闘気錬成の訓練をアールに言われて、魔法の修業のつもりで練習し続けた効果とも言える。
魔界上帝は、ヨッ君の攻撃をまともに受けて、かなりのダメージを受けた様子だった。
「魔界上帝! 我々は、貴方を滅ぼすのが目的ではない。まだ無益な戦いを続けるか?」
ヨッ君が訪ねた。
魔界上帝は、『光の剣』を消し、力尽きたように玉座に座り込んだ。
「なんと言う強さだ。お前は、何者だ?」
「私は、ヨランダード・ドートマルキ。唯の人間だ」
魔界上帝は、両手を広げてヒラヒラさせた。降参の事か?
「人間には、ハイエンドと言う魔神種にも匹敵する魔法達者な種族がいると聞くが? お前がハイエンドか?」
「いいや。僕は、本当にノーマル種の唯の人間さ」
ヨッ君がそう言った。心ではハイエンドが少しは混じってるぞって言いたい。でもほとんどゼロなんだもん。
「人間には『剣士』という職業があり、その者達は、悪魔種の上帝や玉皇をも凌ぐ力を持つと言う。
お前は、その『剣士』なのか?」
「剣士でもない。唯の魔法師さ。でも、僕の戦い方は、剣士の戦い方を取り入れている」
魔界上帝はその説明で納得したようだった。
「お主の強さは異常だ。余はこれでも古の魔法を修め、強力な魔法攻撃の威力をお前達に叩きつけたのだ。
無傷などとあり得んのだ」
アールの考案した闘気魔法がそれほど強力である事の証だ。
「魔界上帝。抵抗はやめろ。これ以上戦っても無益だ。停戦に応じよ」
ヨッ君がもう一度言う。
「よく分かった。お主達が余を滅ぼしに来た『討伐者』でないと言うなら、余はお主達の停戦条件を受け入れよう」
こうして、ヨッ君は魔界上帝を降伏させる事が出来た。
ヨッ君は、戦いの緊張で、冷や汗をかいていた。よく切り抜けたもんだ。ヨッ君は、その場に崩れ落ちるのを必死で耐えていた。
しかし、確実に成長している事を実感していた。
「ヨランダード君。お見事だ。魔法を剣士風に振るうと言う発想がユニークだ。打撃技に多彩さが出ればさらに脅威になるだろうね。魔法剣士と言うネーミングはどうだい? 君のオリジナルだが将来は人気の職業になるだろうね」
ツウラが言った。
「魔法剣士」
ヨランダードが呟いていた。
✳
魔界上帝には、停戦の条件として、自身が抱えている古の魔法について情報開示をする事、捕らえていた白妖の昔の主人ヨロンドンを解放する事、来る魔界帝との戦いの際には軍を派遣する事を約させた。殺される事に比べると大した事ではない。
✳
悪魔ヨロンドンは、地下ダンジョンに幽閉されていた。
ヨロンドンと白妖は再会。その様子から、白妖がとても可愛がられていた事が分かった。
ヨロンドンは、古魔法に堪能で、悪魔上帝もヨロンドンから情報を引き出していたみたいだった。ヨロンドンの知識は、アールが喜びそうなので、同道をお願いしたところ、面倒だが少しなら行っても良いとの事なので一緒に『転移』でアール達と会いに行く事を承諾してくれた。
ヨロンドンからメイアにお礼としてヨロンドンが隠し持っていた大妖『破砕尾』と巨怪『ギガンドス』をもらい受けることが出来た。さらにはヨロンドンはメイアに召喚魔法について様々な知識をも授けてくれた。
こうして、メイアは本格的に召喚師としての才能を開花させる事が出来そうであった。
次回、ラーサイオンと青姫の話になります。
楽しんで頂けると嬉しいです。




