第五十七 魔界の悪魔上帝
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第五十七 魔界の悪魔上帝
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第五十七 魔界の悪魔上帝
ノースメロロスは、年齢二百七十歳の、大変古い妖精で、もともとニンフだったが、ある事をきっかけにして、次第に強く大きくなったのだと言う。
「貴方は、これから白妖と呼びます。何ができるか見せて頂戴」
メイアが白妖との契約を終えた後、まず命じたのは、その能力を示す事だった。もし、能力が低ければ、契約を解除し解放するつもりだった。
白妖は、自分の攻撃技、防御技、特殊技などを披露した。白妖の実力は驚くべきものだった。あるいはメイアやヨランダードをも超えているのではと思うほどだ。
メイアの精神支配攻撃が白妖の能力をかなり阻害していたらしい。これは嬉しい誤算だったし、良く捕らえられたと不思議だった。
白妖によると、メイアとヨランダードには守護神がいたので、身が竦んで戦え無かったとも言っていた。守護神とは何の事か尋ねたが白妖は、恐ろしそうに身を震わて分からないとしか答え無かった。
ヨランダードによると、白妖は、どちらかと言うと、聖力が強めの妖精で、魔力・聖力の総量が半端ではない。何しろ魔力・聖力でできた生き物だからだ。
白妖は、古参の精霊なだけに、なかなか物知りだった。
白妖がこれほど強くなった、きっかけをよく聞くと白妖は生まれて直ぐに、悪魔に囚われて彼の使い魔となったからだと言う。
どのような悪魔に囚われていたのか尋ねると白妖には、可哀想な過去があった。
白妖を捕らえて使い魔としていた悪魔は、小悪魔か大悪魔のどちらとも言えない中途半端な悪魔だった。
知恵は高いが、やる事に覇気がなく、面倒くさがり屋さんで怠け者だった。
その悪魔は、白妖に魔法をいろいろを教え、育てた。ペットを可愛がったと言う感じだ。この悪魔は、とても博識で使い魔を育てるのがうまかった。
しかし、ある時、白妖を欲しがる大悪魔が現れた。白妖の主人は、白妖を守るために、白妖に『近くに来るな』と命令して放逐したと言う。
白妖は、その後の様子は知りたいが最後の命令の効力があるから近づけない。
そこで、その悪魔の居城付近でずっと生きてきたのだという。
白妖は、メイアに使役される身となった事で命令の上書きがされ前の主人の『近くな』の命令がキャンセルされた。
ようやく近づく事が出来るようになったが今度はメイアに支配されてしまった。
前の主人の所に行かせて欲しそうにしている白妖の目がメイアを捕らえていた。
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「でも、大悪魔なんて、どれほど強いか分かんないんだよ。なんでこの妖精君の言うことを真面目に聞いて、ノコノコ付いて行くんだよ」
ヨランダードがプンプン怒って言ってる。明らかに危険だ。
「さっきのちっぽけなニンフだってそうでしょ。ちゃんと命令しないから、白妖なんて大精霊に道案内されちゃうんじゃないか。
なんだか、思慮深いメイアらしくないよ」
ヨランダードは、珍しく強く言った。何百年も前にそこそこの悪魔だった奴だ。どれほど成長しているか分からない。
メイアは、キッとヨランダードを睨みつけた。“そんなことはわかっているわよ”って叫びたい。しかし、負け惜しみのようで言えない。
召喚の儀式をして分かったのは、召喚精霊との繋がりができると、相手の気持ちが分かるという事だ。
白妖の気持ちが痛いほど分かるのだ。ヨランダードにはそこが分からないから、危険な場所に近づけないのだ。
ヨッ君は、メイアの悲しそうな顔を見ると、大きくため息をついた。
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ヨッ君は、内心プンプンだ。メイアがこんなに利かん坊だと初めて知った。
メイアは、長身でグラマラスで金髪。ハイエンドの典型のような美貌の持ち主だ。ヨッ君とは違い、四分の三がハイエンドと言う羨ましい血筋を持つ本物の貴族だ。
しかも、お母さんのキャサリンも飛び切りの美人で、そのお母さんと瓜二つの美人姉妹みたいな感じなのもハイエンドらしい。多分、彼女はずっと美人なんだろうと思う。
お母さんのキャサリンの魔法の素質を受け継いで、恐ろしくキッチリした魔法を使う。アールに言わせるとアールの魔法の基礎を作ったキャサリンの魔法とよく似ていて親子の不思議さを感じさせるのだそうだ。
キャサリンは、ハーフなのにアールの秘書官にまで上り詰めた偉人だ。メイアもキャサリンを若くしたような感じでアールの秘書官として無くてはならない人だとアールが感慨深く言っていたのを思い出す。
アールにとっては兄妹のような感じなのかもしれない。他の仲間にない気遣いが感じられる。
メイアが何を悩んでいるのか不明だが、慌てなくても着実に成長している。
ヨッ君とは違ってマスターした魔法は、全て完璧だ。ヨッ君のように感覚で魔法を発動していないから、正確で間違いのない魔法を速射砲のように連発する能力は感心の一言だ。
多分、無詠唱での速射の速さ正確さでは、メイアに叶う者はいないだろう。
しかも、最近召喚師の才能がある事が分かった。最初は“へー”程度の感想だったが、最近ではヨッ君は、完全な練習台にされている。
アールから、練習台になるよう言われ、嫌々やってるヨッ君だ。練習台だから手を抜いて精神支配させてやってる風を装っているが、正直言うと、絶対に精神支配を受けないようにと頑張っても、気づいたら支配されているのだ。もう、メイアには勝てる気がしない。
さらに、ヨッ君は、大金持ちの子息で貴族の端くれだか、自分に教養があるなんて、全く思っていない。教養は、メイアとアールの受け持ちだ。
メイアは、何でも良く記憶し、知らない事がない。
そんなすごい娘が血眼になって召喚精霊を捕獲すると言うから向上心の強いメイアを凄いと思うとともに少し面倒にも思っていたのだ。
ヨッ君は、やっぱりお坊っちゃん育ちなので、自分の才能に負けているところがあるのだが、本人が相当ずれている事は気付いていないのだ。
二人の能力については、メイアの分析の方が正しく、ヨランダードは、自分を過少に評価する癖があるのだ。
二人のこのようなお互いの評価の食い違いのために、ギクシャクした二人は、白妖の案内で、悪魔の根城に向かった。
空を飛ぶ彼らならではの速さだ。帰りは、ヨランダードの『転移』魔法で一瞬で帰れるが、行きは、どうしても実際に行くしかない。『ビジョン』魔法もあるが、飛んで行く方が簡単だ。
飛ぶ事約一時間ぐらいか、相当な距離だ。
前方に何やら大きな構造物が見えてきた。
白妖によると、あのような構造物は、昔は無かったが、確かにあの構造物の中に昔の主人の波動があると言う。
未だに、ヨッ君はその昔のご主人様のところに行かねばならない事に納得が行ってない。
「メイア。あんな建物のご主人様にどんな風に会う気だい? まさか、あなたの使い魔を使役する事になりました。よろしくなんて言うつもり?」
ヨッ君の言う事の方が当然なのだ。
ついには、メイアも折れた。
「分かったわ。白妖。昔のご主人様に会ってらっしゃい。会って挨拶し、一時間後には、お別れして、さっきの沼まで戻ってらっしゃい」
メイアが命じた。白妖は勇躍して、お城に飛んで行った。
ヨランダードと、メイアは、白妖と出会った沼まで戻った。
二人は、そこで待つ事にした。
「二時間半たって帰ってこなかったら行くよ」
ヨッ君が冷たく言った。
メイアが黙って頷いた。
しかし、白妖は、帰ってこなかった。
時間が過ぎているのは分かったが、ヨッ君は分かっていないふりをしていた。
目の端からメイアの様子を覗いていると、綺麗な顔がこれ程悲しそうに見えたのは初めてだった。
いつも気丈で、クールなメイア。でも、寂しがりやで愛情深い。さっき配下とした、召喚精霊をそこまで心配するんだ。
ヨッ君は、メイアの別な一面を見た気がした。不思議な事に悪い気がしない。
「ヨッ君。ごめんなさい。白妖が支配されそうになっているわ。
相手は、悪魔上帝だって言ってる。支配力は私よりも弱いのだけど結界を張ろうとしているの。助けに行くわ」
「白妖は、昔の主人の所に戻ったんじゃないの?」
ヨッ君が尋ねた。
「悪魔上帝は、昔の主人を幽閉しているようだと言っているわ。
ヨッ君。飛ぶわよ」
ヨッ君が制止する。
「メイア。二つ提案がある。落ち着いて聞いてくれるかい?」
メイアが頷いた。
「一つは、レイライト様に助けを求める」と、ヨッ君。しかしメイアは、首を横に振っている。「分かった。もう一つは、『転移』魔法で転移して助けに行こう。それの方が効率的だよ」
反対すると思っていたヨッ君の逆の発言に、メイアの顔色が急に明るくなる。
「ありがとう。ヨッ君」
メイアの目に薄っすらと光るものが有ったがヨッ君は知らぬふりをする。その涙の効果は、男、ヨッ君の勇気を百万倍にした事は言うまでもない。
『転移』発動。目の前に巨大な構築物だ。
多分、悪魔上帝のお城なんだろう。
あそこは、悪魔の巣窟になっているのだろう。身震いが出そうだ。
悪魔は、外見が人と似ている。魔眼を持ち魔法が得意だ。
小悪魔は知能が低い。身体も小さく主に魔界の洞窟などに住み着いていると言われる。しかし長年生きて知能が高かくなった大悪魔ともなると、城を築き、多くの小悪魔を使役し、自分の眷属にして、操っている。
これらの大悪魔の中でも特に強い勢力を誇るのが三人の悪魔玉皇と五人の悪魔上帝の八大悪魔だ。かれらは眷属だけからなる強固な国のようなものを形成して魔界の竜種などの別の勢力と覇権を争っている。
彼らが相手をしようと言うのはその八大悪魔の一人だ。
足が竦みそうになる。
その時、背後から気配がしたので振り返った。
元、正一位太歳神(たいさい神)のツウラ・トウサが眩い聖力の羽を広げでそこにいた。
「悪魔上帝がどれ程の者が、興味があるので同道してもいいか?」
ツウラが尋ねた。
メイアが振り返ってツウラを見た。
ヨッ君は、一瞬でアールの配慮だろうと察した。メイアも同じだろう。白妖が言っていた守護神とは、ツウラだったのだ。
メイアがまた、意固地にならないかヨッ君は心配になってメイアを覗き見た。
「お願いします」
しかし、緊急時なのだ。メイアはそう言った。気丈にしていたがメイアの顔色は緊張で青白くなっていたが、ツウラの顔を見た途端、血の気が差してきたのがわかる。
メイアは、その美しい顔が一番だ。そう、ヨッ君は思った。
ツウラ神の頼もしい事といったらない。
ヨッ君は、本当にホッと胸を撫で下ろしていた。しかし、これから強大な敵陣に乗り込むのだ。
次回は、悪魔上帝との戦いです。
楽しんで頂けると嬉しいです。




