第五十五 魔界のノースメロロス
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第五十五 魔界のノースメロロス
です。
ここから、少しファンタジーっぽくなります。
第五十五 魔界のノースメロロス
アール達は、魔界に入っていた。魔界の入り口だ。
もちろんアールの『転移』魔法を用いて入った。
彼らは、魔界の入り口から、魔界の深部に続く街道を歩いていた。
魔界は、一部が魔大陸として、地上界に出ているが、この大陸は、魔瘴気に飲み込まれて魔界と繋がっている。
地表に出ているのはほんの一部でそこは竜種の治めるキンデンブルドラゴンハーツ国が魔界の入り口を管理している。
魔瘴気に沈む魔界は、意外に広いのだ。
しかし、この魔界は誰でも自由に行き来できる。魔界貴族が魔界と言っていた、魔界貴族しか出入りできない魔界は、別の魔界なのだ。
ややこしいので、アール達は、魔界帝が治めるらしい魔界を『深淵の魔界』から『淵魔界』と呼ぶ事にした。
彼らの目的は、もちろん『敵』の正体と淵魔界へ行く方法の情報収集がメインの目的で、もう一つは仲間のレベルアップが目的だった。
天神種のツウラとサーリが仲間になって彼らの戦力はだいぶ上がったが、下っ端の魔界貴族ですらあの強さだった事を思うとまだまだ不安だったのだ。
魔界の街道は、人種の坩堝だった。キンデンブルドラゴンハーツ国が最近出入りを自由化したためだ。
ラーサイオンは、目の前に漂ってきたハエを一撃で吹き飛ばした。
ラーサイオンが弾き飛ばしたハエとは、妖精族の小人の事だ。
「何かちょうだい」
と可愛らしくやってきて物をねだる妖精で一般にニンフと呼ばれている。
「トカゲ! なんて可哀想なことを!」
弾き飛ばされたニンフのあまりにも可愛らしさに、蕩けたのは、青姫だった。キャー可愛い。そんなノリだ。
ラーサイオンが邪険に弾き飛ばしたので慌てて助けている。
ラーサイオンは、青姫には頭があがらない。
青姫は、最近では、ラーサイオンの背中に乗って闘うドラゴンライダーに憧れている。
ラーサイオンは、竜種でも高貴な種族なので、ライダーを背中に乗せるなどはあり得ないのだが、青姫は、一度言い出すと聞かない娘だ。
ラーサイオンに散々、巨大龍に変身して背中に乗せろと言って聞かない。
そう言われると、ラーサイオンは、まだ巨大になれない事が恥ずかしい。
そんなやりとりが重なるうちにいつの間にか、ラーサイオンが変身できないからドラゴンライダーになれないのだと青姫は思い込むようになった。
ラーサイオンは、最近では諦めて青姫を背中に乗せて闘っても良い気になってきている。
「そんな奴がそんなに好きなのか?」
ラーサイオンが意外そうに聞いた。
「そいつは、ニンフという妖精種だ。頭が良く、初級魔法や神威を使う。どちらかと言えば神経系の魔法が得意で、旅人の心に入り込み誑かせて、貴重品など盗むと言われている」
魔界出身のラーサイオンがニンフの説明をしている。
「こんなに可愛いのに?」
青姫は、まだ食い下がる。
「魔界には妖精に誑かされて、魔物になった木こりの話などが有名だ」
青姫もさすがに分が悪いと思ったのかニンフに、懐から、銀貨を出して渡してサヨナラをしていた。しかし、目がハート型なのは本人は分かっていない。
ニンフの可愛い顔に嫌らしい笑いが一瞬だけ浮かんだのをラーサイオンは見逃さなかったが敢えて何もしなかった。
しかし、その時メイアがニンフに向かって命じた。
「待ちなさい!」
ニンフがピリッと直立不動になって宙に浮いている。
最近、メイアは、使役術に拘っている。召喚魔術師のスキルをアップするつもりなのだ。
「貴方達の王の名前はなんていうの?」
「イフトーラ妖精王です」
「ラーサイオン。それは強い王なの?」
メイアが尋ねた。
「イフトーラは、炎の妖精王だ。炎の妖精王としては、三番目ぐらいだろう。炎系は光系の次に強いとされるので、妖精王としては、六番目ぐらいか」
ラーサイオンの説明は、分かりやすい。
「召喚精霊にするつもりかい?」
アールが訪ねた。
「はい。ですがこれは私一人でやらないと意味が有りません」
アールがうなずいた。
「じゃあ。ヨッ君。エスコート役を頼む」
アールが命じた。ヨッ君は、そこは二姫でしょう。ってツッコミを入れたいところだが。
「女性二人で冒険しろと? フリンツに頼もうか?」
アールの駄目押し。
もちろん、フリンツは勇躍したが、出る幕なし。
二人は、イフトーラ妖精王を求めて別行動を取ることになり、ニンフに案内されて去って行った。
二人が見えなくなると、アールが。「ツウラ殿。彼らの面倒を見てやって貰えないだろうか? 成長も大事だが一番大切なのは命だから」とお願いしている。
「彼らに分からないように守れって事ですね?」
ツウラには大人の落ち着きがある。ツウラは、天眼を最大限にして、ヨランダードの聖力を探知すると、後を追った。
彼らが去った後。これからの事を話し合おうとした一行だったが、ラーサイオンからも提案があった。
「レイライト様。私も、自分の修業のために、龍牙穴を尋ねようと思います」
ラーサイオンが言った。
「龍牙穴ですか?」
アールが尋ねる。
「はい。龍牙穴とは、成竜になるための修業の場所です。俺は、そもそもそんな場所には用はないと思ってたんだが、やっぱり一度は行かなきゃならんようです」
ラーサイオンが答えた。
「私も行って良いか?」
よこから青姫が顔を輝かせて尋ねた。
「青姫。そう言うと思っていたぞ。しかし、そもそも龍牙穴は、龍仙郷の中にあるのだぞ。龍仙郷に龍意外の生き物が入れた試しはないぞ。
と言うか、俺もはぐれ龍なので良くは知らんのだ」
ラーサイオンは、彼らしくなく歯切れが悪い。事情があるのだろう。
「行けば分かる。ダメならそこで諦める。行く前からダメと決める理由があるか?」
青姫は、ハッキリしている。
そんな事で二人も旅立った。
四人になった時、紫姫が、フリンツの袖を掴んで引っ張る。
「私達も修業の旅に出ましょう。負けてられません」
目配せしながら言った。
「どこに行くんですか姫?」
フリンツが真面目に答える。そこで紫姫は、フリンツの耳元に口を持っていって囁いた。
「殿下とサーリ姫を二人にさせてあげましょう」
フリンツが納得して。
「では、冒険者ギルドに行ってクエストの申し込みをしましょう」
フリンツが言う。あまりにもわざとらしいが、そこはフリンツの生来の軽快さが功を奏して、うまく二人は離れて行った。
最後にアールとサーリが残された。
✳
考えてみると、目的の場所が無い彼らも、フリンツ達と同じ冒険者ギルドがあるだろう街に行くのだが。
アールは、サーリと二人でゆっくり歩き始めた。
二人きりになると、サーリがアールの横に来る。
「サーリ姫。疲れませんか?」
アールが尋ねる。
「大丈夫です」
サーリは、アールの顔を上目遣いでみている。完全に注意がアールに向かって歩いているので、思わずつまずいてしまう。
アールが、そっと支えてくれる。
サーリは、アールが手を取ってくれたのをいい事にそのまま手を取って歩き出す。
「サーリ姫。魔界もイメージとは随分ちがうものですね」
二人の道行きだったが、可愛らしい二人連れは、悪人からは、カモに見えてしまうようだった。
「お二人さん。少しお待ちなさい」
待つもなにも、往来を、無頼の者達が立ちはだかって通れない。
「ごようですか?」
アールは、穏やかに尋ねている。青姫や、ツウラのような穏やかならざる雰囲気の連れがいなくなるとこうなるのだ。
「金とその女の子を置いて行け」
いわゆる追剝ぎだ。
「すぐ前を可愛い女の子と連れが行きましたよね、どうして彼らを通して、私達を通さないのです?」
アールがおかしな事を聞いている。
「お前達が金を持っているからだろ」
確かにそうだが、なぜそう思うのか。不思議だ。
アールは、理由の分からない事は追及したいタイプだ。しかし、時間がなかった。
「皆、かかれ!」
と、追剝ぎ共は、得物を手に出して身構える。
彼らがやられるところは省略するが、呆気なくコテンパンにされて追剝ぎどもは逃げて行く。
また、歩き出そうしたアールに話しかけてきた者がいる。
「すみません。失礼ですが」
遠慮がちに話しかけてきたのは、地味な女の子だった。
「なんでしょうか?」
アールは、なかなか前に進めないとか思いながら答えている。顔は、穏やかなままだ。
「お兄さんは、スッゴイ手練れと見ました。オラの村には、恐ろしい魔物が現れて、村人がたくさん殺られました。
私は強そうな人を探して村に連れて来るように言われております。
どうか助けてください」
アールは少し困ってサーリの顔を見た。
「レイライト様。受けましょう」
サーリは、アールに目配せして言った。サーリには、『慧眼』があるので、受ける事に何か意味があるのだろう。
アールは、もともと仲間達の寄り道を待つための時間が必要になったので受けても良いと考えていたので問題ない。
「では、一緒に行きましょう」
アールが答えた。
どのように再会するかも約さず、バラバラになった仲間達だが、彼らはその気になれば出会う事は可能だと思っているのだ。
それぞれの目的がいつ頃終わるかは分からない。
✳
「メイア。こんなとこ歩けないよ」
ヨッ君が文句を言っている。
「歩けないなら、飛べば良いじゃない」
メイアは、そう言いながら自分は、空中に浮いている。
ヨッ君は、肩をすくめて、飛び上がった。
ニンフは、一瞬ギョッとして、二人が飛んだのを見ている。
この二人が異常だと思ったのはこの連中に会った瞬間からだ。
ニンフは、実体のない精霊だから、さっきの竜種の一撃も不自然だし、このメイアとか言う女の拘束も何もかも変だ。
彼女は、精霊王からすでに束縛の魔術をかけられているからさらに束縛できないはずなのだ。
結局、束縛の力が強い方が勝つだけだが、この女の束縛は、想像を絶するほど強い。
しかし、このメイアと言う女は、重大な間違いを犯している。たぶん、召喚師の見習いかなにかだろう。
召喚には、支配し、契約し、相手を従わせる事が必要だ。契約というのは曖昧さの排除だ。お互いの常識的な了解事項や特記事項を明らかにして効率的に支配する。
この女は、彼女を拘束したが、まだ契約していない。彼女は、まだ自由に考えて行動する事ができる。
メイアは、今「妖精王の所に連れて行って」としか、言ってない。つまり妖精王なら誰でも良いのだろう。
彼女の尊敬する妖精王は、イフトーラと言う。美しい炎の女神だ。強く気高い。しかし、このメイアは、イフトーラ精霊王を召喚精霊にしてしまうかもしれない。
そこで、このニンフは、メイア達を別の精霊王の所に連れて行く事にした。
精霊王の序列など、人はあまり知らないのだ。あの竜種も、イフトーラ精霊王が六番目などと言っていたが、イフトーラ精霊王は単に有名なだけで実力は、大した事はないのだ。
このメイアと言う女は、強い精霊王が必要だと言ってきたから、彼女は、彼女の知っている中で一番強い精霊王の場所に案内する事にしたのだ。
その妖精王の名はノースメロロス。妖精王の中でも最強最大の大妖精帝王だった。
大妖精帝王って?
次回も読んで頂けるの嬉しいです。




