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良くある転生物語 聖と魔  作者: Seisei
第六章 青春期 天空編

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第五十二 太歳(たいさい)

いつも、読んで頂きありがとうございます。


第五十二 太歳たいさい


です。

第五十二 太歳たいさい


 ツウラは、蒼天宮そうてんきゅうで、首尾が整うのを待っていた。


 ツウラが冠している太歳たいさいというのは木星の神である。


 この世界では五行説が取り入れられている。すなわち原素を水・金・土・火・木の五つと考えているのだ。この五原素を天体の中で惑星などの意味のある星に配している。


 ちなみにツウラを太歳たいさいと呼ぶのは、ツウラのいみなが太歳というからだ。


 天界では潜在的な神格を測る儀式を誕生前に行なう。その結果として、神の名前が授けられる。これがいみなだ。


 姓は普通父親から取られる。ツウラの父はトウサという。だから、ツウラは、姓はトウサ、いみな太歳たいさいあざなはツウラとなる。


 サーリの場合、姓はスバイト、いみな天照てんしょうあざなはサーリである。


 太歳たいさい・ツウラ・トウサは、蒼天宮の天帝の間、玉座に座っていた。


 既に彼が天帝であるかのようだ。


 彼が明らさまに、天帝の座を欲しいままにしたのはこれが初めてだった。


 玉座に座るなどは、謀叛むほんの意思を自ら示すのと同義だ。このため、蒼天宮では、何かが進行している事は侍女にでも分かる。


 それからしばらくして、鎮圧軍の将軍が参上し、サーリ、メーサへ派遣した部隊からの報告を行った。


「何? 二人とも行方不明だと?」


 ここで烈火のように怒るのが、本来の彼の役回りだが、ツウラは屈折した男だった。


「成る程。そうか」


 と、独り言のように言った口元には笑いが浮かんでいる。


「一旦、部隊を引き上げろ。それと上玉宮からの使者はまだか?」


「まだです。様子を見に行かせますか?」


「良い。待つ。上玉宮からの報告があり次第、報告せよ」


「はっ!」


 煌びやかな武具に身を包んだ将軍が足早に去っていった。


 ツウラは瞠目どうもくしつつ、サーリとメーサの事を考えていた。サーリが何やら画策している事は分かっていた。うまく逃げ延びられるならそれでも良いとツウラは考えていた。


 しかし、天帝の方は、四天聖神の四神を大将として派遣した。彼等なら間違いはないだろう。


 四天聖神の雷帝神は、彼も一目を置く古参の雷神の王だ、そう簡単にやられはすまい。


 しばらく、ツウラは彫像のように両目をつむって、微動だにしなかった。さすがに高い神格を持つツウラだった。威厳がオーラのように全身から噴き出している。


 侍女や秘書官達は、玉座に座るツウラの美しい軍服姿を遠目に見ながら歴史が動くこの一瞬を目に焼き付けようとしていた。


 八百年振りに新しい天帝が誕生しようとしているのだ。新しい時代が始まる。どんな時代になるのか。眼前の新しい帝王となる神は、いつも誰にでも優しい素晴らしい主人だった。新しい時代もそうあって欲しいものだと彼等は願っていた。


 しかしながら、クーデターが今まさに行われているが、それは雲の上の出来事で、我々には関係のない事だと無責任に目の前の仕事をこなす彼等は、もしこのクーデターが成功すればいかなる悲劇が身を襲うか知らない。


 クーデターの現場を見た人をそのまま放って置くようなツウラではない。


 パチリと目を開く。


 次の瞬間、ツウラの目の前の空間が揺らぎ、突如、複数の人が目の前に現れた。


「空間魔法か?」


 ツウラが不敵な笑みを浮かべた。





 アールは、ツウラを一目みて凄い威圧感に目を見張った。


 聖力しか使えないために闘気を扱えないはずのツウラがこれ程の威圧感を放っていることに、アールはやはりそうかとばかりうなずいて一人で納得している。


 魔力に魔瘴気魔法があるように、聖力にも、聖力が昇華しょうかしたような力があるという事だ。


 実は、アールも、これと同じものを既に扱える。水晶迷宮から帰還して、彼の妹のアリスが緊急事態を知らせに来てくれるまでの間にアールは、『敵』の用いた魔瘴気魔法の実験をするだけでなく、聖力でも同じ事ができないか実験を繰り返していたからだ。


 このため、ツウラがただの聖力ではなく、更に次元の高い聖力を使うことは予測していた。しかし予定内であるからと言って、彼が厄介な相手である事に変わりない。想像もできないスーパー奇跡を見せてくるに違いない。


 アールは近頃この世界において、アールと同じような転生者がたくさんいる事が、分かってきた。


 それら転生者が前世でどれほど良い行ないをやり遂げ、ここに転生してきたかわからないが、もしかしたらアールと同じ世界から転生してきている者もいるかもしれない。


 さらに理屈からすると、転生には、アールのように良い行ないの結果としての転生と悪い行ないの結果としての転生の二種類があるのだろうと思われた。


 アールをはじめ、サーリ、ヨランダード、フリンツ、二姫、そしてたぶんメイアも。彼等は全て良い前世の行ないにより、転生してきたもの達なのだろう。


 目の前のツウラも同じだろうか。彼の顔の苦悩を見ると、単純にそうとも言えない。前世はもっと良い境遇に生まれていたが、素行が悪く今の転生になった。だから常に顔が晴れない。


 まぁ、仮説だ。


 そんな事はともかく、目の前の問題を解決しなければならない。


「私は、レイライトと申します。ゆえあって、妹君とお母上とに加担させて頂きます」


 先に話しかけたのはアールだ。こんな場でも偽名を言わねばならないのが辛い。しかし、どこに人目があるかわからないから仕方ない。


「君が皆を救ってくれたのか? 礼を言おう」


 ツウラがおかしな事を言い出す。


「これ程やすやすと、こんなくだらない計画が成就してしまったら、ますますこの世界を軽蔑していたことだろうからね」


 ツウラは、そう言うと自嘲するかのように笑った。


「君は、この私のつまらない人生に終止符を打ちに来てくれたのかい。レイライト君」


「そうはならない様に、努力してみます」


「私を生け捕りに? 何を甘っちょろいことを。見た感じはなかなか良さそうなおつむなのに、中身は空っぽなのか? 私をそんなに簡単に生け捕りにできると思っているのか?」


「すみません。たぶんそうかと」


「まぁ良い。やればわかることだ」


 ツウラは、そう言うと佩刀はいとうの『砕破』をスラリと抜いた。


 アールも、刀を抜く。


「変わった形の剣だね」


 ツウラがアールの刀を興味深く見た。


「刀身が黒い刀など初めてだ。それは金属ではないのかね?」


「これは、私が作りました。少々錬金術の様な知識がありましてね。この世にない金属です」


 アールが答える。


「この世にないかね。魔法の金属にはミスリルというのがあるが、それとは違うのか?」


「ミスリルは、鉄とタングステンを熱合成させた金属です。硬いがそれは魔力で結合力を高めたからです。私の刀の金属は、本来なら結合しない原子を無理やり結合したので、硬さが普通の物とは比較にならない硬さになります。それをミスリルと似た様な結合魔法と圧縮により極限まで硬く重くしました」


「君の言っていることはちんぷんかんぷんだね。しかし、本当に君は面白い男だね」


 ツウラは本当に興味深そうにアールの顔を覗き込んだ。


「では、そろそろお手合わせ願おうか」


 ツウラは、そう言うと楽しそうに、玉座から立ち上がった。


 本当に楽しそうだ。


「私からもお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 アールがいた。


「何でも聞きたまえ」


太歳たいさい様。私は、ある戦いで、魔力を錬成させることで魔瘴気となり、この錬成方法次第では、魔力よりも効率が良いエネルギーとなる事を知りました。


 今、太歳たいさい様は、聖力をそれと同じ様に扱われておられように感じます。


 私は、聖霊魔法でカサノバ女神女帝を召喚できるのですが、女神女帝によると、元始天尊様以来その様な技は無かったと聞いております。


 その技は、何と呼び誰に習われましたか?」


「レイライト君。益々驚きだね。女神女帝を聖霊召喚するとはね。確かに女神女帝の時代には、神技じんぎはなかったろうね。


 神技じんぎはたぶん君が見た、魔技まぎに対応するものさ。


 魔技まぎは間抜けな奴が使っているのをたびたび目撃されている。


 レイライト君は、奴らの事を探っているんだね。サーリも似た様な事を言っていたね。


 しかし、奴らは相当昔から、活動しているんだよ。


 私が魔技まぎの事を知ったのは相当古い事だが、魔技まぎの研究の中で神技じんぎの理論はその時には確立していた。私はそれを実践しているだけさ。


 もしかしたら、私が彼等に操られているとでも思ったかね。確かに奴らは、私と接触を試みてきたがね。


 奴らに組した振りをして逆に情報を取るつもりで精神支配したら、パーンって破裂してね。障壁を張っていてよかったよ」


 ツウラは、パーンと言うところで大袈裟に手を広げて見せた。


「彼等がそんなに古くからいたのは初めて知りました。彼等は脅威ではないのでしょうか?」


 ツウラは肩をすくめてみせた。


「レイライト君。君もサーリと同じで、楽しみの無い子だね。あんな奴らは脅威に決まっているさ。しかし、奴らは明日、明後日に大攻勢して来るとは思えないね。


 君は、彼等の人攫ひとさらいの邪魔はしてないだろうね。もし、そんな事をすると、彼等も背に腹は代えられないので、大攻勢に出てくるかもしれないぞ。」


「私は、彼等を根絶やしにしたいのです」


 アールが言った。


「君は、殺す事が悪だからと言って、捕食者を殺すと言う矛盾に陥っているのじゃあるまいな。


 そんな奴は唯のバカだぞ。まぁ、こんなくだらない話も奴らの目的が捕食をしているとしての架空の話だから、答える必要はない。


 奴らも絶対的に優位なら、こそこそせずに攻勢に出始めるだろう。待てば良いのじゃないか。


 まぁ。君は真面目そうだから、奴らの準備が整うまでに、こちらから攻勢に出たいなんて勇ましい事を考えているのかね」


 ツウラは、そう言うと、楽しそうに首を振った。


太歳たいさい様の仰る通りです」


 アールは正直だ。


「君は、それ程の才能に恵まれながら私のように屈折もせず真っ直ぐで楽しそうだね。


 私の一番の誤りが何か君を見ていたら分かる気がするよ。目的を持って真っ直ぐになんだね」


 ツウラは、それだけ言うと少し寂しそうな顔をして目を閉じた。過去を振り返っているのか。


「さて、随分と楽しいおしゃべりができた。おしゃべりの時間は終わりだ。実技の時間といこうじゃないか。がっかりさせるなよ」

すみません。


ツウラとアールの戦いは、次回に書かせて頂きます。

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