第三十九 魔物
いつも読んで頂きありがとうございます。
少し、投稿が遅れてすみませんでした。二、三日忙しかったので。
三十九話 魔物
です。
第三十九 魔物
ドガ! ガサ! ドドドド!!!
やかましく音を立てている、魔物が餌を漁っているのだ。
見ると、魔物はオオカミの変異種のようであった。魔物と言うよりは獣の巨大版だ。
体長七メートル程。魔法特性は、電気。ビリビリ系だ。二体。
「まて!」
パーティー『鷹』のリーダー、トマス・リュシュリューが手を上げて皆を制した。
「魔法師! 炎魔法」
トマスの命令で炎魔法がかけられる。オオカミの変異種がぎゃーと断末魔の吠え声をかけて燃える。
けたたましい音。
トマスは、吐息をついた。気づかれる前に攻撃できて良かった。
『鷹』のメンバーは、八チーム総勢百二十人の大所帯だ。もともと八個のパーティーだったが、今回のクエストのため混成チームを作ったのだ。
タフなクエストだ。迷宮には魔物が多いというのは定説だ。それは魔瘴気が充満していて、変異が進むからと言われている。
魔瘴気は、どのようなメカニズムで発生するのかは不明であるが、世界中のいたるところで魔瘴気が発生している。
五大陸のうち中央大陸のエルガンデスでは、東海地方と、西部地方モンランタン、西南部サーフラカ地方、南部地方のレギャナン地方で魔瘴気の濃い所がある。
ここ水晶迷宮は、その中の一つ西部モンランタン地方の魔瘴気の多い地域にある。
魔瘴気が多いから地下迷宮があるのか、地下迷宮があるから魔瘴気が多いのか因果関係は不明だ。
『鷹』のリーダー、トマス・リュシュリューは、戦士レベル上級第一等の隊長クラスの実力派だ。
フルプレート(全身鎧)を身につけていても、軽々と動き回る運動能力がある。
少々小柄なのが彼の欠点だった。戦闘能力よりも、リーダーとしての経験判断力に定評があった。
彼のパーティーは、迷宮の第三十三層から一つ下の層に入ったと判断している。三十三層は、半分ぐらいがマッピングされている比較的安全な層と言われていたが、三十四層は未知領域だ。
『鷹』のような大所帯のパーティーでも、三十三層の魔物駆除に散々手こずって前に進むどころか、三十二層に戻ろうしていたのだ。
「ロスト?」
トマスが幹部隊員に尋ねる。小声だ。道に迷ったのロストだ。どうやら迷宮の罠にはまったようだ。
「はっ! 転送陣に引っかかったのかと」
「隊員点呼!」
すかさず、点呼がとられる。なぜか欠員なしだ。
「どういうこと? 転送陣なら、罠を踏んだ者とその周囲の者だけが転送させられるはず」
「全ての隊員が同時に転送されたもののようです」
情報師達の意見。
情報師達は、今回迷宮探索のため、わざわざ雇った迷宮探索の情報師だった。
彼らの意見を聞いて行動した事が間違いだったのは明らかだが、ここに来て、彼らの知識を無視する事も得策ではなさそうだった。
しかし、高い報酬と見合う働きをして欲しいものだ。今回は、全く役立つどころか、裏目裏目へと出ている。
そもそも、転送陣の罠は、迷宮のオーソドックスな罠だ。
もちろん、転送陣を踏み抜かないために様々の工夫をしつつ進んでいる。
先に、猟犬を先行させるだとか、錬金術師に地面の構成変化をさせながら進むとかだ。
進んで良いと言う事が分かるよう、彼らだけに見える魔法のマークを付けつつ進むなどもその工夫の一つだ。
そのマークから外れて進むような奴はいないだろう。
しかし、転送の発動条件はいろいろだから、何が起こったのかは不明だ。
「密集隊形! アーマード及び重装備戦士は、密集隊形の外壁を作れ。錬金術師。ここに大きな印をつけろ! ベースを作る。魔法師! 索敵。拙攻隊! この人数が安全に身を隠せるような洞穴を探す。索敵後、直ちに……」
「リーダー」索敵をし終わった魔法師の恐怖の声が割り込む。「物凄い数の魔物がこちらに近づいてきます。凄い速度です」殆ど叫び声だ。
なんと、情報量の少ない報告を長々と。トマスは、呆れ返る。敵の数も距離もどっちから来るのかさえ分からない。
「魔法師! 敵と反対方向にファイアーボールを打て!」
魔法師の迂闊な報告で数秒が無駄にされた。その無駄を取り戻しつつ次の行動がとれるようにする。
魔法師は「ファイアーボール」の魔法を展開。
「皆、ファイアーボールの方に全速力で走れ! 重装備隊はしんがりを」
トマスは、そう命じつつ一目散に走り出した。
「錬金術師、敵の足止めの鋲を広範囲に撒け!」
トマスは、大声で命ずる。
背後に微かだが地響きが聞こえる。
「魔法師! 索敵し魔物との距離を知らせろ!」
魔法師は、走りながら索敵魔法を唱えた。
「距離五百、さらに縮まっています。この感じでは三分後に遭遇」
「魔法師! 前方にファイアーボール。打て!」
ファイアーボールが洞窟を照らした。
しかし、なんという洞窟だ。身を隠せるところなんてないじゃないか。
幅広ののっぺりとした、岩肌が続いているだけの洞窟だ。
背後からは、魔物の大群。
「魔法師! 前方も索敵しろ!」
トマスは、嫌な予感がしたので命じた。
その命に応じた魔法師が索敵魔法をかける。直ぐに魔法師の悲鳴が響く。
「どうした! しっかり報告しろ!」
トマスが鋭く叱責する。
「前方に魔物多数。こちらに向かっています」
トマスは、歴戦の冒険者だ。常に腹はくくっている。
「「「総員! 止まれ!」」」
ジタバタしてもはじまらない。しかし、迅速に行動しなければ全滅だ。
「「「「全錬金術師! 全魔法師! 洞窟が崩壊しても構わん! 横穴をつくれ! 皆。崩壊注意!!!」」」」
命令が実行された。
トマスの機転で、百二十人のパーティーは、密集隊形で横穴に入り込むのに間に合った。
入り口はまだ大きいが重装備戦士で壁を作る事ができた。
その時、魔物の大群が襲ってきた。重装備戦士の作る盾の壁に巨大な力がかかる。
「「「ドカーン!!!」」」
凄い衝撃だ。
恐ろしい数の魔物の大群だった。
「全魔法師! 救援の念波! 最大級だ!」
トマスは、魔力の消費よりも、自分達の状況を知らせる事を優先させたのだ。
トマスの経験では、死は、助かる手立てを講じない者に訪れる。
こんな状況では、救援を呼ぶしか方法はない。錬金術師のおかげで横穴の入り口も守り易い大きさに次第に形成されて行くがそれでも、魔物の数があまりにも多い。
ドカーン! ドカーン!と重装備戦士達の作る盾の壁に魔物達が体当たりしてくる。
「何が起こってるんだ? この数は異常だ!」
洞窟は、無数の魔物で溢れかえっていた。
「なんだ、こいつら共闘する気か?」
トマスの横の幹部が呟くのが聞こえた。その声でトマスは、自分の迂闊さに気づいた。
この魔物の大群は、様々の魔物が一緒になって襲ってきているためだった。あたかも人間が魔物の共通の敵であるかのようにだ。
✳
アール達は、転移魔法でショートカットをして、水晶迷宮にまでやってきた。普通なら魔物が多く住む樹海を進んでくる必要がある。
彼らは、美しいプレートに身を包み、神話の主人公みたいだった。
魔法の防具特有の淡い輝きが防具をより神秘的に見せていた。
装備は、高価なものほど美しいものだ。それからすると、彼らの装備はまさに価格が付けられないほどの美しさだった。
マリアージュとアルテミシアは、それぞれ青と紫の色を基調とした。美しい胸プレートとタガー(腰当て)ガントレット(籠手)、髪を豪華に飾る髪飾りも美しくかつ防御を考えられた女性用のティアラのような兜だ。マントも彼女達が好きな青と紫を基調とした美しい下地に金糸銀糸をふんだんに使った豪華そうな物だった。
また、マリアージュとアルテミシアが選んだ剣は、双子の聖剣『破魔』の『青』と『紫』。『破魔 青』は、刀身が青く輝き、火炎を吸収し体力に変換する。『破魔 紫』は、炎と電気の属性を持ち、魔法をリジェクトする。
メイアは、長身でグラマラスな彼女によく似合う、黄金の胸当てと、防御性よりも装飾性を重視した肩当て、腰当てなど主要な部分を防御しつつ彼女の美しいスタイルを上品にコーディネイトした装備を選んでいた。マントは、白が基調の清楚な感じで、額に美しい装飾が施された装飾系の額当て、後頭部も装飾性重視で彼女の美しい髪を隠さずその魅力を高める髪飾りを付けている。
この髪飾りは、美しいだけではない。装飾性と同時に防御まで考えられた構造を持っている。これらを選んだのは、ヨランダードだが彼のセンスの良さが良く発揮されて、メイアの上品な美しさが良く引き立って見えるコーディネートをしていた。
メイアは、魔法師が良く使う、魔法の制御を助ける魔法の杖を持っていた。もちろん、その杖も美しく豪華な物だった。
男達は、フリンツが軽装のアーマード。ラーサイオンが真っ赤なフルプレートと頭を覆うヘルメット。ヨランダードが胸プレートに魔法師のローブと言ういでたちだ。アールは、黒を基調とした装備だ。
男達の武器は、フリンツとラーサイオンがグレイモア(大剣)。ヨランダードが杖、アールは自生の日本刀をもっていた。
さらに説明を加えると、アールの日本刀は科学魔法でケイ素を無理やり分子結合させた超合金性だ。しかも可能な限り圧縮したため重さが七百キロもある。普通なら持ち上げる事もかなわないような物だが、アールは闘気で軽々と振り回す事ができるのだ。
彼の刀の形状を、皆不思議がって見ていたが、彼の剣舞を見てからは、その剣の形の意味を理解した。まさか前世の世界の剣とは皆も分からなかっただろう。
✳
迷宮の入り口は、まだ真新しい巨大な鋼鉄性の扉で覆われていた。魔物が大量発生してから、作られた物だろう。
さらに、巨大な鋼鉄性の扉の前には、かなりの数の軍隊が駐留していた。
彼らは、魔物を迷宮から出さないようにしているようだった。
アール達が近づくと警備軍の指揮官らしき人がやってきた。
警備軍の隊長は、妙に豪華な冒険者がやって来たと報告を受け自ら対応することとしたのだ。
しかも、このメンバーは美男美女ばかりだ。身分の高いハイエンド達のパーティーなんだろうなぁと警備軍の隊長は考えていた。
形式的な検問の末、アール達を迷宮に通す。
「御武運を!」
隊長が言った。
隊長は、先頭のリーダーらしい、まだ少年の面影が残る男が振り返り、キラリと白い歯をきらめかせて笑うのを見た。吸い込まれるような美男子だと思った。
美しい男女と、やはり別の美しさをもつ竜種を見送る。洞窟の中の暗がりに入ると彼らは、薄っすらと光って見えた。魔法の輝きだと思ったが、次の瞬間目が痛いくらいの光に洞窟が照らされた。
この一行の誰かがかけた『ライト』の魔法だと思われたが、その明るさに驚いた。
「何から何まで、規格外ですな」
副官がしきりにうなずきながらいった。
「彼らなら何かをやってくれそうですな」
隊長は、無言でうなずいていた。
✳
アールは、洞窟に入ると、全方位索敵の魔法をかけた。もちろん、上下もだ。
闘気において、岩石ごときはなんの阻害でもない。
索敵は、アールの場合、八キロ四方が見渡せる。それ以上になると、さすがの彼でも完全に掌握するのは困難になる。
わずかな間に、アールは、水晶迷宮の八割の構造を理解した。索敵範囲を広げて迷宮の中心に闘気『触手』を伸ばしてみる。サーリ皇女が使った魔法だ。
なるほど、さすがに『触手』を跳ね除ける程度の魔物がいるようだ。
多分、そこが迷宮の中心だろう。『透視』魔法も使ってみたがよく見えない。確かにここは魔法の阻害要素が多いようだ。
アールは、三歩あるく程度の時間でそこまで確認している。
フリンツが先頭になって、アーマードを滑るように走らせ、皆がフリンツについて行く。
アーマードは、全速力で走らないとついて行けない速度だったが、誰も文句も言わずに軽々とついてくる。
運動神経ゼロのヨランダードも、闘気魔法のお陰で軽々と走っている。
アールは闘気魔法『飛翔』で滑るように移動している。そんな魔法を見せると飛び上がって驚く者もいるはずだ。
魔法で空は飛べないと言うのが定説だからだ。
しかし、天空種や天神種は、魔法で飛んでいるのだからアールだけの専売特許じゃない。
その彼らを魔物の群れが遮った。
「うおー!」
フリンツが叫ぶのが聞こえた。
「こいつは、魔物レベル八のパイパーという奴だ。火属性で厄介な奴ら」
フリンツは、冒険者だった頃に、このパイパーに散々な目に合い、ベテランの仲間に助けられたことがあった。
第一層の入り口付近で遭遇するような魔物では無いはずだ。
しかも、ウヨウヨしている。
「こんな雑魚は、さっさと片付けろ」
マリアージュが冷たくフリンツにいった。
フリンツは、アルフレッドの大宝物庫の装備を付けたマリアージュを青姫、アルテミシアを紫姫と呼んでいる。
マリアージュもアルテミシアもその呼び方が気に入っているようなので、皆が真似て呼ぶ様になっている。
「青姫は、母国で魔物を嫌という程、見てらっしゃるから、軽く仰るのです。
このパイパーは、見た目と比較して、魔物レベルが高い。下手に手を出そうものなら、熱湯を吐き出し大火傷を負います。
しかも、あんなにたくさんですし。あのビヨビヨ、ドロドロの気持ちわり〜のが、飛んできますよ」
ようするに、フリンツは、完全に腰が引けているのだ。
が、誰も援護しようとはしない。フリンツの突然の臆病風に呆れているのだ。
フリンツは、アーマード用に作られた、魔法の剣、グレイモア(大剣)『アキヅキ』を抜き放つ。
パイパー共は、およそ三百ほどか。ところ構わず張り付いている。
洞窟は、半径八十メートル程の空洞が奥に続いている。鐘乳石のようなものが至る所に垂れている。
『アキヅキ』は、その名の通り、透明な反射光を放っていた。『アキヅキ』は両刃の曲線が艶やかに美しい剣であった。
フリンツは、最大級の闘気を練り上げ刀身に流し込む。
「ムラサキ流『旋風殲』(せんぷうせん)」
気合いを込めて、魔物の群れに叩き込んだ。
グレイモア『アキヅキ』から放たれた、剣技『旋風殲』が
「「「「「「「「「キーーーーン」」」」」」」」
と、金属音を響かせて、洞窟の奥へと消えて行った。
その音と共にパイパーは、呆気なく消え去っていた。パイパーと同時に無数の鐘乳石の柱も綺麗に剥ぎ取られて大理石のような光沢を放っている。
「あれ? なにこれ?」
パイパーは、魔物レベル八の強敵だ。しかも普通数匹で生息する魔物が無数に群れていたら、大抵の冒険者なら腰が引けて当然だ。
フリンツが強くなりすぎたのだ。数体程度を一斉攻撃できる真空の刃を放つのが普通の剣技『旋風殲』(せんぷうせん)だ。その剣技を応用してフリンツが闘気を使ったのだ。
フリンツの応用技なのだ。威力は、見ての通りだ。魔法レベル二百二十のダイヤ級の風魔法に匹敵する威力を持っていた。
剣技は、使い手の力量で威力が変わるので、下手をするとフリンツの剣技で洞窟が崩壊しかねない。肝に銘じよう。
自分がそんな事に気を使わなくてはならない程に強くなった事にフリンツは、改めてアールに訓練してもらっている闘気剣技の恐ろしさを感じた。
誰もフリンツの剣技を褒めはしないが、興味を持って見ている。そんな感じだ。細かい闘気の刃を無数に吐き出し広範囲に斬撃を浴びたのである。
一見、旋風に見えるが、見えない闘気のミキサーのような刃が無数に飛んで行く感じだ。
「フリンツ。さっきのだが、闘気の刃は、もっとずっと小さくして、その数をもっと増やし、刃をできるだけ密集して、もっと制御して、グレイモアの周囲に展開させるように使えば、良い剣技になる」
アールがアドバイスする。アールにも究極のプラズマ剣と言う科学魔法があるが、それに近い使い勝手を実現できるだろう。
大きさと形状を自由自在にコントロールできる究極の剣は、剣士には、夢の剣だ。しかもその剣は触れるもの全てを微塵にするのだ。
フリンツは、アールのアイデアに啓示をうけて、考え込んだ。アールは常に上昇志向だ。
その剣技を修得すれば、彼も美二姫と肩を並べる剣士になれだろう。アーマードとも相性が合いそうだ。
フリンツが無言で、『旋風殲』の小型版を出そうとするがうまくいかない。
「こんな感じかな?」
アールが愛剣をサラリと鞘から抜き放つと前方にある巨大鐘乳石の柱を切り取り始めた。アールからは鐘乳石の柱は、何十メートルも離れているがそれぐらいの距離はどうという事も無いらしい。
切り取る角度、大きさが自由自在だ。その見えない剣の威力に一同は、言葉を失った。
アールは、軽々と桁外れの剣技をやってしまう。頑丈な巨大鐘乳石の柱が、豆腐の様に簡単に大きく削り取られて行く様は、現実の物とは思えなかった。
アールという天才は、人の奥義を一目見るとそれを修得する以上に、ずっと高度な技にして身につけてしまう。
「フリンツ流剣技『旋風剣』とでも名付けてはどうか?」
アールがフリンツにこの技を修得したら一流を開いても良いとまで言っているのである。
一流。ロンハードが闘気剣技を修得し、真明流を作ったのと同じ様に、自分の流派を名乗る事は剣士の誉れだ。
アールが、フリンツに示したのはそう言うアドバイスだったのだ。
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アール達が、最初のキャンプに辿り付いたのは、それから二時間ほどしてからだった。
魔物は、その後何度かエンカウント(遭遇する)したが。フリンツ一人で瞬殺していた。
魔物レベルも高くなく、群れてもいない魔物など彼らには物の数にも入らない。
普通の冒険者が何日もかかったであろう道程がほとんどあっと言う間にたどり着くことができた。
キャンプは、薄暗くたくさんのテントが張られていた。人は、数百はいるだろう。
見張りの男が彼らに手を振って挨拶してきた。
先頭のフリンツが挨拶を返す。
彼らが近づくと、見張りの男は、少し驚いた様だ。
「嫌に豪勢な旦那方だね。第一キャンプにようこそ。おや? 綺麗なお嬢さん方もおられる。こんなむさいところにようこそ。
ちなみに、皆さんは、新鮮な食べ物は持ってないかね? ここでは生物が無くてね」
アールが結界空間に手を入れて、食べ物の入った袋を取り出した。
「おっ‼ 兄さん。魔法の袋を持ってるのかい? そいつは便利もんを持ってるんだね」
魔法の袋は、原理は一緒だがずっと規模が小さい。アールは、結界空間をいくらでもどれほどの規模でも思うがままだ。
見張りの男の驚きを無視してアールは、食べ物の入った袋を見張りに渡してやる。
見張りの男は、袋を受け取って中身を見てまた驚いている。
「おお‼ これは、豪勢だね。生ハムに、パンに野菜。何年ぶりか」
「貴方は、ここに何年もいるんですか?」
アールが訪ねた。
「あ? いやいや。それは言葉の綾だよ。でも、迷宮の入り口にパイパーが群れ出して、最近は、出入りがきつくてね」
「パイパーなら退治したよ」
フリンツが自慢そうに言った。
「おお。それはありがたい。兄さん達は、強いんだね」
まさか、フリンツ一人の一撃で退治したとは思っていないだろう。
「この食べ物は、ここでは高価に売れる。俺はこんなにたくさんは、買えないよ。生ハムだけでも、少し安く譲ってくれないかね?」
見張りの男は、正直者だった。黙って安く買い取ればいいのだ。冒険者の中でも、迷宮に入る様な者は普通の冒険者よりもずっと肝の座ったベテランに違いないはず。
好感がもてた。
「それは、進呈します」とアール。「迷宮探索は、どんな具合ですか?」
情報料だ。
「そうだね。迷宮は今、三十三層で一進一退らしい。
どういう仕掛けか、魔物は、大群でいろんなところに湧いてきやがるんで、兄さん達みたいな小さいパーティーは、大きなパーティーに参加させてもらった方が良いよ。
俺らみたいに、こんな入り口から離れられない根性無しが偉そうな事は言えないがね。
それに兄さん達は、強そうだしね。チョット今までに見てきたパーティーさん達とは違うね」
この見張りは、お喋り好きみたいだ。
「最新のマップは手に入るかい?」
フリンツが訪ねた。
「ああ。この食料の代わりに俺のを譲るよ。少し古いがそれ程変わっちゃいないし、新しい情報やら、聞いたことなんかは書き込んであるから、新しいやつより便利だろ」
『アール達は、見張りの男のマップを手に入れた』
✳
キャンプでは、様々な冒険者達がたむろしていた。
パーティーは、だいたいが数十人規模が多い様だ。男女比は、五対一ぐらいの比率で男が多いがそれなりに女の冒険者がいる様だ。
ラーサイオンのような非人種はともかく亜人種の比率も多い。アールの好きだったロボさん種もいる。
中には、アールが見るに、相当な実力派の冒険者も混じっている。
パーティー『ダグサナ』のリーダーは、アールが見るに王級戦士の実力がある。闘気が充実し、安定感がある。その他の幹部達も相当な強者揃いだ。
もちろん、アールの仲間達と比べたら大したことはない。
アールの仲間達は、ヨランダード、美二姫が人レベル大帝級をそろそろ卒業しそうな勢いだし、メイア、ラーサイオンも大帝級、フリンツもそろそろ帝王級を卒業しそうなレベルだ。
人レベルは、職業レベルとも言い、様々な職業でレベルがあるものだが、究極になると、王級、帝級、大帝級、皇帝級、天帝級と位が上がる。もちろんその様な究極の位が無い職業がほとんどだが。
冒険者で、王級や帝級などは、普通では、考えられない。それ程の人レベルがあれば、王国に仕官ができ、叙勲爵位が授けられるからだ。
どんな職業でも、それなりの位になれば、それなりの地位が授けられる、それがこの世界の分かりやすい不文律だった。
しかし、アールのように、一目でその人物の人レベルを見極められるわけではない。
この時、アール達は、その豪華ないでたちだけで悪目立ちしていた。
しかも、彼らの年齢にも問題がある。ベテランの冒険者から見れば彼らは青二才に見える。
もちろん『ダグサナ』のリーダーなどは、彼らを見るなり、飛んできて、自分のパーティーに引き込もうしたし、それなりの礼儀も尽くして見せた。見る者が見れば人の価値はそれなりに分かるもんだと、『ダグサナ』のリーダーなら言いそうだ。
ところが、どこにでも勘違い野郎と言うのはいるもんだ。アール達が、キャンプを通り抜けて、次のキャンプに向かおうと迷宮の奥に進み始めて暫く進んだところ。
「おいおい」と、いきなり無礼な態度でアール達に難癖を付けてきた男がいたのだ。「僕ちゃん達。ここを通るにはお金がいるんだぞ」
先頭のアールの胸プレートをいきなり殴りつけた。
アールは、こんな男の軽いパンチなど軽く避けられるはずだが、避けるのも面倒だったのか、黙って受けている。
フリンツは、一瞬ひやりとした。アールがいきなりその男を切り捨てたり、消しとばしたりしないかと不安になったのだ。
ラーサイオンと女性陣がゆらりと動いたのをみて、フリンツが慌てて男とアールの間に割って入る。殿下に無礼は許しませんって、今にも叫びそうだ。
「こんちは、いきなり何の用です?」
フリンツが、少し猫なで声で聞いた。顔には愛想笑いを浮かべる。
「ここは、所有者の無い、迷宮なのでは?」
「ああん?」と、その男は、フリンツを睨みつけた。「この世に誰の物でも無いもんがあるかよ。そんなもんがあったら誰かが拾えばそいつのもんじゃ無いか」
確かに、泥棒も一理だ。
「お前らにゃ、世界の道理もわからんのか? ここは、俺らが先に縄張りを取ったから俺らのもんだ。
だから、俺らに通行料を払えってんだよ。」
そう言うと、その男は、今度は、フリンツのアーマードの胸の辺りにパンチを入れた。
「「「バシッ!」」」
と、大きな音がした。フリンツは、アーマード乗りとしては普通の性向持っていた。
それは、アーマード狂だって事だ。彼もアーマードに関しては、普通にはしていられない。その大切なアーマードを邪険に扱われては黙っていられない。
「おい。何してくれる?」
凄む立場が逆転している。
その時、黙って事の成り行きを見ていたアールがゆっくりと周りを見渡す。
どこから現れたのか、一目でならず者の一団だとはっきり分かる集団が彼らを遠巻きしている。
見るからに、悪人顔だ。それぞれ、武器を持ってヘラヘラ笑ったり、唾をはいたりと下品なことこの上もない。人数にすると五、六十はいるだろうか。
彼らの魂胆は、分かりきっている。難癖を付けて金を巻き上げようとしているのだ。
アール達の見るも豪華な装備は、彼らのようなハイエナを呼びこんでしまうのだ。
彼らは、迷宮の探索など、本気でやる気はない。時に野党、時に盗賊、時に傭兵などで荒稼ぎをする命知らずのならず者なのだ。彼らからすれば、アールはいいカモだったのだ。
次の瞬間だった。
ならず者達は、電池の切れたオモチャの様に、全員が同時にその場に崩れ折れた。
七十人を超える人間が一度に倒れると、想像以上に大きな音がする。ましてや、ここは洞窟の中だ。
ガシャ! ドカ! ドシャ! と、ありとあらゆる音が一度に鳴り響く。
魔法の詠唱も無く、そんな事ができるのは、アールしかいない。
「レイライト様。彼らは?」
フリンツが恐る恐る尋ねた。まさか殺したのでは? と心配になったのだ。
「暫く起きられまい」
アールの答えらしい。
「寝ている間に魔物に殺られませんかね?」
少し心配になってフリンツが訪ねた。
「思念で、さっきの見張りの男に事情は伝えておいた。召し取りに来るそうだ」
アールは、そう答えた。
フリンツは納得してうなずいた。
「とんだ魔物だった。殺す訳にも行かぬから返って面倒だ。こいつらは、追剝ぎを働いた後、犠牲者は殺すのだろうが」
と、アールは冷たく言った。目が怖い。もし、犠牲者を活かして返したらこいつらの事を放ってはおかない。ギルドなりに、訴え出るだろう。こうして悪事を働いている事が彼らの悪事の根の深さを表している。
アールが一人の盗賊の胸倉を掴んで引き起こす。全く愛情を感じさせない荒い扱いだ。
ガタガタっと揺すり起こす。
「むっ?」と、そいつは呻いて起きた。そいつは、比較的若いが、悪人特有の浅黒い顔色の下品な空気を漂わせている。
「おい」アールが気迫を込めた声で訪ねた。「リーダーは誰だ?」
追剝ぎの男は、アールの気迫に震え上がった。
「リーダーは、あそこに伸びているフルアーマの大男だ。何でも言うことを聞くから助けてくれ」
男は、仲間が皆、倒れているのを目の当たりして、震え上がっている。それよりもアールの闘気魔法『気迫』に恐怖を感じているのだ。
アールは、それだけ聞くと用は終わったとばかりに、男を邪険に地面に投げ捨てた。男は「ぎゃっ!」っと、呻いて伸びてしまった。
スタスタとリーダーのところまで来る、闘気魔法『触手』で男を宙に持ち上げる。
男の顔に容赦の無いパンチを入れる。
「起きろ!」
盗賊のリーダーが、目を覚ました。
「何だオメェらは? どういうこった? おーい!」
リーダーが騒ぎ出した。
アールの容赦の無いパンチがもう一度炸裂する。
「黙れ! 私の目を見ろ」
アールは、『気迫』を込めて冷たく言った。リーダーが震え上がってアールの指示に従った。
「お前達は、唯の追剝ぎでは無いな?」
「へい。俺らは追剝ぎもしますが、目的は人攫いです」
やはり。とアールはうなずいた。
「お前達に、人攫いを命じたのはどんな奴だ?」
「そんな奴はいねぇです。追剝ぎだけじゃ大した稼ぎにはなりやせんや。金になりそうなカモが来たら身ぐるみ剥いで、中身も売っちまうんだけ」
リーダーが胸糞の悪い事を平気で話す。
「黙れ! 本当は、お前は操られている。 思い出せ。これは命令だ。お前は絶対に逆らえない。私の命令は、お前に命令する別の奴らよりも強力だ」
強制暗示の上書きだった。目を見ろといったのは、リーダーの表層思考を読み取るためだ。こんな男の深層心理を読み取るなどはごめんだ。汚いドブに素足で入る様な物だろう。質問で浮かび上がる表層の記憶を読み取るのが表層意識の読み取りである。
アールの予測通り、リーダーは、誰かに強い暗示をかけられている。その暗示は、相当に強いようだ。
彼の思考の中に、黒い大きな人影のようなイメージが何ども出ては消えた。多分、このリーダーは、その人影に、何度も会っているようだ。そいつがこの男にどんな理由で何度も会っていたのかは不明だ。
多分、そいつがこのリーダーに暗示を与えた奴だろう。
これ以上の脳への刺激は、このリーダーを殺しかねない。『気迫』を緩めて、質問の方向を変える。
「攫った人はどうする?」
「男はそのままひん剥いて、洞窟の奥に捨てて置く。代わりに金の粒がばら撒かれている。いい儲けだ。
小マシな女どもは、先に俺らが飽きるまで慰みモンに…」
その時、リーダーの首だけが宙を飛んで行った。リーダーは何が起こったのか理解できなかっただろう。悪人には、あるいは幸せな最期だったかもしれない。
紫姫アルテミシアが聖剣『破魔 紫』を片手に、冷たく宙にを飛んで行くリーダーの首を見送っていた。
アールは、硬い紫姫の表情を見ながらどうすべきだったかしばし考えた。
アールは、紫姫の行動をいくらでも止める事は出来たが。犠牲者達の尊厳を汚すリーダーの発言を止めようとする、紫姫の強い意思を感じたのだ。
あの瞬間に、下衆の口を永遠に閉ざす必要が紫姫には有った。アールには、下衆の発言を聞く必要があった。必要性の軽重ではアールの方がはるかに重いのだが、それを紫姫に責める者は無いだろう。
そんな事よりも、皆を癒してくれる紫姫の優しい笑みがしばらく見れないだろう事が気がかりなアールだった。
本当に怖い魔物は、人間という魔物だとつくづく思った。魔物は、恐ろしいが、犠牲者に対し、この盗賊たちのようなむごたらしい扱いはしない。ただ捕食するだけだ。
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マップには、地下に降りるのに最も効率のいい方法が書かれていた。
五層までは、一挙に降りる階段が作らているらしい。肩慣らしのために、五層までの各キャンプに行く方法もあるがアールは、階段を選んだ。
第五キャンプは、直ぐに分かった。
しかし、アールは、マップを見ながら第五キャンプも素通りする事にした。
「ここは、素通りしよう」
「それがいいです。レイライト様。魔物より、人間の方が面倒ですからね」
そう、答えたのは青姫マリアージュだ。
しかし、さっきは殺す気満々だった癖にと、アールは可笑しくなる。紫姫よりも終始殺気立っていたのは青姫だった。
双子なのに、二人の性格はまるで逆だ。青姫は、激しく熱い情熱タイプ。紫姫は、優しいお淑やかタイプ。剣の腕も、少しだけ青姫が上だ。
盗賊のリーダーの首を刎ねて、少し落ち込んでいる妹には、全く関わらず、青姫は、アールに明るく話しかけている。
多分、妹のしでかしたことの青姫なりのお詫びだ。
アールはいつもの通り明るく笑うだけだ。
「マリアージュ。アルテミシアは大丈夫かい?」
「あの子は、優しいだけ。芯はとても強いから大丈夫」
「アルテミシアには、あんなところがあるのかい?」
「ええ。昔からあの子は、想像のできない強い面があったわ」
確かに、虫も殺せない様な、彼女が剣の達人になる程の修行に耐えられたのは、心の底に峻烈過ぎる意思があったからだろう。
その時だった。アールは、地の底から弱い念思の救援信号が発せられている事に気付いたのだ。
いかがでしたでしょうか。
意外な魔物で驚かれましたでしょうか。
次回更新は、明日、その次は明後日にできるように頑張ります。




