第二十九 エイオンの征服王
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第二十九 エイオンの征服王
ラーサイオン・フュラスは、極めて不機嫌であった。
眼前の巨城は、エイオンのシンボルだった。難攻不落と言われて何百年もの間、たった一人の征服王により統治されてきた城だった。
この城の主は、エイオンの征服王と呼ばれている。神龍王ディサイファ王だ。
ラーサイオン・フェラスは、その伝説の王を攻め滅ぼそうとしているのだ。
「なぜ、さっさと出てきて勝負しない!」
ラーサイオン・フェラスは、イライラとしながら吠えるように言った。
臣下のジェール将軍がビクッと首をすくめる。
「気を静められよ」
ジェール将軍がなだめるように言う。
ラーサイオン・フェラスが苛立っているのは、ディサイファ神龍王がラーサイオンの挑発に応じずに籠城しているからだ。
「征服王ともあろう英雄が籠城とは、恥を知れ!」
ラーサイオンは、エイオンの辺境に彗星のように現れた自称救世主だ。まだ、名声もあまりなく、高名なディサイファをサッサと破り、名声を得ようと目論む新参者だった。
しかし、唯の新参者と侮ってはならない。彼は、確かに圧倒的な強さを示して、そのカリスマで多くの配下を支配して、ここエイオンの都まで攻めてきた百戦錬磨の大将軍だった。
今回、ラーサイオンは、ディサイファ神龍王が戦いに全く出てこない事に、密かな疑問を抱いていた。
もしかすると、ディサイファ神龍王は、もはや亡くなっていて、出てこれないのではないかと。
もし、ディサイファ神龍王が亡くなっていたら、エイオンの征服王を倒したと言う名声が掌からこぼれ落ちてゆく。
何だか、ただ働きになってしまう。攻める方向が間違っていた。
今から、西方のトカンデァル龍魔王をやるか? などと考えている。彼の目標は、トカンデァル龍魔王ごときでは物足りない大きな目標があるのだ。
彼は、自分が特別である事を子供の時から知っていて、着々と準備を整え、今日に至る覇道の途について、第一歩なのだ。
「ディサイファ神龍王がすでにおっ死んでるとくりゃ、計画が台無しだぁ!
クソが! 少しは世間様に貢献して死んでいきやがれ! クソジジイ!」
ラーサイオンは、汚い罵声を上げながら、椅子を思っ切り蹴った。
ラーサイオンの闘気に触れた椅子が微塵となって消し飛ぶ。
その時、ドドドドドドドド!!! と恐ろしい地鳴りが響いた。
「来やがった! 来やがった!」
ラーサイオンが喜色満面になって、佩刀魔剣サスナーを引っ掴むとテントを出て行った。
その後を大勢の将軍達が追いかけた。
✳
ラーサイオンが地鳴りの方に走り出て行くと、そこには龍神種の巨大な姿が見えた。
「おお! さすがにすっごいね」
ラーサイオンは、嬌声を発しながら龍神種ディサイファ神龍王の方に走り寄ってゆく。
巨大な龍神種に比して、ラーサイオンは、三メートルを少し越す程度の体型であり、姿の恐ろしげなところは似たようなものだか、至って心許ない。
臣下達も不安になる。威勢の良いのはラーサイオン一人だ。
「おお! 征服王さんよ。良く出張ってくれたな! 俺がラーサイオンってぇケチな野郎だ。
どっちが勝つか知らねぇが、無駄死にのない大将戦に応じてくれて感謝するぜ」
「面白い奴だ。余の前に堂々とした態度。褒めてつかわす。
見るところ、闘気を纏っておるな。唯の酔狂者ではないというところか?」
「おしゃべりな王さんだな。行くぜ」
ラーサイオンは、そう言うと、魔剣サスナーを振りかぶる。一瞬後、ラーサイオンは、ディサイファ神龍王の顔面の前まで飛び上がっている。
闘気を帯びた魔剣が神龍王の顔面に振り下ろされる。
ドドーンと轟音がして、神龍王が吹き飛ばされた。
ほとんど一種の出来事だった。
「これじゃダメか?」
しかし、ラーサイオンは、そう呟いた。
神龍王が砂煙の中から姿を現す。ゆっくりとした動作だった。
頭を振っているところを見ると全く効いていないわけではないようだ。
「じゃ、こいつでどうだ?」
ラーサイオンは、闘気を検先に集めると恐ろしい勢いで飛び出し、ディサイファ神龍王の首に闘気をぶつけた。
ディサイファ神龍王は、ほとんど何もできず、まともに喉元にラーサイオンの攻撃を受ける。
また、ディサイファ神龍王が吹き飛ぶ。恐ろしい攻撃力だ。
直後に、ラーサイオンは、魔王級二百十五レベル、ダイヤ級魔法の『極炎』を詠唱速度八倍速で投げつけると、すぐさま、同じ魔王級二百十八レベル『極寒』を詠唱速度八倍で発動した。
ディサイファ神龍王が吹き飛ばされて、地面に激突した後に超上級の魔法が二つもほとんど同時に叩き込まれた。
究極の爆炎と究極の極寒が同時に発動され、妙な軋んだような音がした。
その直後恐ろしい爆音が空気を震わせた。
「そらよ!」
ラーサイオンは、そう掛け声をかけると、もう一つとっておきの攻撃魔法をかける。
「抗うことも叶わぬ地獄の煉獄よ、我の命によりて、湧出し、全てを滅ぼし、冥界の死の神よ、あらゆる生命の灯火を掻き消さん。『パガドリー』」
魔帝級魔法二百二十二『煉獄』の魔法だった。さすがに詠唱速度の調整は出来ない。ラーサイオンの可能な最高の攻撃魔法だ。
空中から、煉獄の消せない溶岩が湧き出てくる。みるみる巨大な山盛りになる。こんな魔法を使えば辺りの地形が変わりかねない。ラーサイオンが微妙に制御しているから被害が広がらないが、恐ろしい魔法なのだ。
「これでもダメか。こいつぁ、想定外の強さだね」
ラーサイオンは、そう呟くと、両手を広げて天を仰いだ。
消せない溶岩の中からディサイファ神龍王がゆっくりと立ち上がる。
「なかなかの攻撃だが、物理・魔法攻撃無効が余の特技だ。
知らぬのか?」
「知るかよ。看板にでも出しておけよ。反則じゃんか」
ラーサイオンがため息を吐いて魔剣サスナーを地面に投げ捨てた。
煉獄の溶岩から出てきたディサイファ神龍王は、全く無傷のようだ。ディサイファ神龍王は、戦意を無くしたラーサイオンを見ると、変身の魔法を詠唱し、人型に変身した。
ゆっくり、ラーサイオンに近づいてくる。
「お主は、恩恵の子のようだな」
ラーサイオンが怪訝な顔で、ディサイファ神龍王を見上げる。
「どう言うつもりだ? 殺らないつもりか?」
ディサイファ神龍王は、明らかに顔に嘲笑を浮かべている。
「お主は、何も知らぬようだから教えてやろう。天はバランスを考えてお主達の様な者を送り出す。
お主のように拙速で努力のカケラも感じさせぬバカは、いつの時代にも存在した。そう言う存在は、ことごとく今のお主のように敗北した。
余の時代は、魔神種が勝利したが、果たして今度はどうなるのか。竜種で選ばれた者がお主だけなのなら、今度も竜種には勝ち目は無かろう。
お主は、幸いにも余に挑んできた。同じ種である余に挑戦したのは幸運であったものよ。強運はお主達の特権だからな。
お主に最後の助言だ。よく考えてみよ。そうすればお主の進むべき道が明らかとなろう」
そう、言うが早いかディサイファ神龍王の姿は消えた。転移の魔法だった。
ラーサイオンは、ため息を吐いてその場に座り込んだ。
調子に乗って、覇道を突っ走る予定だったが、ディサイファ神龍王の言葉が胸に突き刺さっていた。
✳︎
レイラント、メイア、ヨランダードの三人は、魔法学校の最高峰、魔法学院に揃って入学していた。
レイラントは、メイアとヨランダードを伴って、ある教授の部屋に挨拶に行くと言う。
彼らを、紹介したいのだと言う。
ドアをノックして、その教授の部屋に入った。
部屋には、若い女性がいた。彼女には、事前にアポが取られていたようでレイラントが部屋に入るなり、ドアのところまで迎えにきた。
「一瞥以来ですね」
彼女は、眩しそうにレイラントを見ながら挨拶した。
「見違えましたね」
彼女は、ため息をつきながら言った。
レイラントは、彼女に抱きついて挨拶した。
「シーナ先生。お久しぶりです」
その時だった、ドアの外から不思議な響きの声がした。
「ここは、賢者サロンの弟子、天才魔法師のシーナ・ジュライの部屋か?
わたしは、ラーサイオン・フュラスという、竜種の大将軍である。
問いたい事が有って参った」
皆、怪訝な表情で無断で開けられたドアから入ってきた巨大な竜種に視線を向けた。
次回から、魔法学院での話ですが、ラーサイオン君との絡みも楽しみにしてください。




