第二十三 敵との対峙
第二十三 敵との対峙
アールとサーリの二人だけの会合は、実りある物となった。
最後のイベントとしての二人だけの会合の後、天神種達は帰国する事となった。
見送りの場所は、エバーハークの外れにある、エレベラ丘であった。
小高い丘から、天神種達とミネルバ以下デハリアー神聖国の一行が天上界に向かって飛び立つ。
アールも、空中の途中まで見送りのため、空中浮遊する。
サーリ皇女は、目に涙を溜めての別れとなった。彼女のその姿を見れば彼女が恋する乙女であることは明らかだ。ミイラ取りがミイラとなったとは一行が考えたかどうか。
次に会えるのはいつの事となるか。次は、天上界での再会を約した二人だった。
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さて、謎の組織の事だ。仮に彼らを『敵』と呼ぶ
面白く無いのは、『敵』の存在が良く分からない上に、アールが目の敵にしている誘拐などを平気でするなど許せない。
『敵』とアール達は面と向って争っている訳ではないが、誘拐した人間を人身売買するような奴らを放って置くわけには行かない。
『敵』とアールとは根本が相容れない以上、敵として対応して行くべきだとサーリ皇女も言い、アールも同じ意見だった。
サーリによると、『敵』は、地上界だけでなく天界や魔界にもひろく広がる組織であると思われる。
サカンサス西岸商都アルマタで起こった大量の誘拐事件。その後世界で大量に起こっている誘拐事件。こうして誘拐された人々がどこにも存在しなくなっている事。彼らは何らかの理由で誘拐されたと考える方が筋が通っている。
サーリ皇女は、これはただの人身売買ではない。奴隷の需要は、それほど多くはないと、断言していた。
経済的な意味を超えた誘拐には、恐ろしい理由があるに違いない。
サーリ皇女は、もし、経済的な誘拐なら、最悪の場合、死霊軍団を供給しているのではと恐ろしい事を言っていた。
生きた人間を死霊兵にし、その兵力を欲する者に売るという商売だ。
サーリ皇女は、『敵』の目的が経済的な理由なら、違い将来に大規模な戦乱が訪れる可能性が高いと分析していた。
しかし、『敵』の目的が他にあるなら、それは想像を絶する目的で、真に危険だと言う。
アールが悔しいのは、サーリ皇女に指摘されるまで、敵の存在すら疑っていた事だ。
アールは、伝説的な大魔神や魔大帝ですら顎でこき使う程の超絶的な存在になったため、天界・魔界・龍界などまだまだ脅威の定かでない超大国が有るのに最初から飲んでかかり過ぎだったのかも知れないと反省している。
今回のサーリ皇女一行も、アールは、一人で対応したが、サーリ皇女の『慧眼』は本当に脅威だ。
サーリ皇女が『慧眼』をフルに使ってアールを罠にかければ果たしてアールも無事に済んだか疑問だ。
上には上があるかもしれないのだ。
サーリ皇女によると、敵は非常に用心深くかつ相当に優秀だと想定されるらしい。
サーリ皇女の『慧眼』でも、その正体を知る事ができないのだから。
『敵』にもサーリ皇女の『慧眼』に匹敵する能力があると考えた方が良いとのサーリ皇女の助言だった。
『敵』は、サーリ皇女にもアールにも直接関わってきていないが、自分達の保身のためなら何でもするので、正体を掴むまで下手に『敵』を刺激するのは危険だと、サーリ皇女はアールに助言した。
今後、『敵』の正体を突き止める活動は、アールやその周辺の者にさせてはならないとサーリ皇女は助言してくれた。
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アールは、側近の剣聖ロンハード、上級騎士オリリスク、秘書官キャサリンなどを呼び集め、サーリ皇女から得た情報を彼らに説明して意見を請うた。
ロンハードは、最近誘拐事件が多発している事を知っていた。サーリ皇女の意見をじっくりと考えて、『敵』の恐ろしさを痛感した。
「アール殿下。首都エバーハークには、無数のゴロツキ共がおって、非合法の商売をしております。奴らは、金で何でもする。つまり彼らには、こちらの正体を隠して思い通り操る事ができます」
「その手は『敵』の常套手段なのでしょうね」
キャサリンがロンハードの言葉を受けて言った。
「そのゴロツキを幾ら締めても何の情報もないだろう」アールだ。
「しかも、こちらの正体も隠して『敵』の正体を探すとなるとなかなか無理があると……」
護衛士の一人が呟いた。
「殿下は、あまりにも目立ちすぎますので、隠密行動などには無理があろうかと」
護衛士長のオリリスクがダメだしをする。
「何か良い意見はないか?」珍しくアールは、焦っている。
その時、キャサリンが何やら思いついたようであった。
次章は、青春期 学生編です。




