第二十 世界一小さな大陸消滅級戦争
第二十 世界一小さな大陸消滅級戦争
天神種というものは、外見は人間とそれほど大差ない。聖力の大きな羽を生やしているのが特徴だった。
しかし、聖力の羽など普通の者には見えないから普通に見える。
天神種は、天眼通と言う特殊能力を持っていて、聖力の感知能力がとても高い。
しかし、魔力と聖力の比率が聖力に偏重しすぎているため、本来の魔法・奇跡の性能が出せないため、アールの十二使徒に於いても魔法・奇跡をバランス良く使える魔神種が第一使徒となっている。魔法オンリーの悪魔種族が第二使徒で天神種カサノバは、第三使徒と言う序列になっている。
天神種は、地上界の者には謎だらけの存在だが、アールはカサノバから天神種の事もよく聞き知っているのだ。
天神種の歴史の中で大帝級のレベルになれたのは現天帝サーラ女帝と第三使徒カサノバの二人だけだ。
二人とも女帝だがカサノバは、天帝サーラ女帝よりもずっと古い時代の女帝でその頃は天帝とは言わず女神女帝と言っていた。
第三神祖アルフレッドが天界で彼女とどのような事があり第三使徒としたのかはカサノバは語らなかったし、アールも無理強いしてまで聞かなかった。
第三使徒女神女帝カサノバは、実物の本人というわけではない。彼女は、寸分違わない外見と力と知識を有するが、全ては魔法・奇跡で創造された聖霊なのだ。彼女は、自分のプライバシーを本人ではないので語る資格がないと子供アールに語った事がある。
改めてアールは、天神種達を一回り見て各自の聖力の強さを見比べてみた。三位参議スハークくんは、女神女帝の十分の一ぐらい。その他はまぁ比較外だ。
しかし、サーリ皇女様は、なかなかだ。ただ、彼女は、明らかに自分の聖力の羽を意図的に小さく可愛らしく見せようとしている事が分かる。
それだけ、聖力の総量も余裕がありかつ聖力の扱いが上手なのだろう。
ミネルバ帝が言っていたようにこの聖女様は、アールと同じアドバンテージ持ちなのかもしれない。アルフレッド風に言うとハイスペック。
アールは皆に意識を戻す。
「皆様は、地上界の観光をなさりたいのですね。ご希望などありますか?」
アールはにこやかに聞いた。
「無位アールティンカー殿。我々は、マキシミリアン王国の重要な機関を視察したい」
マナミと言う女官が言った。想像していた以上に随分上目線だ。
ミネルバが完全に無表情になっている。取りなすつもりは無いのだ。
「どこにでもご案内します。仰ってください」
自分への少々の無礼なら許せると思う。
しかし、マキシミリアン王国や、彼の両親、尊敬するもの、大切な国民への侮辱は耐えられ無いだろうとの予感がある。
「皇太子殿。我々がマキシミリアン王国で何が重要なのかなど分かりようがありますか?」
確かにそうだ。
「我々は、逆に重要と考えるものが多すぎて何を見ていただくと良いかが選びきれません。
ですが、提案はできますので、そこで良いかご判断頂けますか?」
「よろしいでしょう。提案してみなさい」
本当に上目線だね。
そこで、上目線がどれ位酷いのかを知らせる手段として、本当なら絶対にしないだろうが出血大サービスでいい提案をする事を思いついた。
「天界を仮想敵国とした軍事施設があったと思います。
そこを視察されてはいかがですか?」
アールの提案にミネルバは冗談を言っているのかと思ったがアールの顔がいたって真面目なので黙って様子を見ている。
果たして。
「何を言っている?」
女官のマナミは、怒りで顔が赤くなっている。
「我が国は、あらゆる危機に対して対応できる様にしています。視察と仰られるのでしたら、我が国の戦力を視察されるのもよろしいのでは?」
一瞬、天神種の一行は、固まった。アールが何を考えているのかと思っているのだ。
アールは皆の様子を見るために見回した。
今まで気づかなかったが、聖女サーリ皇女が何やら薄っすらとした分かりにくい白蛇みたいな触手をアールに伸ばそうとしているのが見えた。相当薄いので分かりにくい。
何だろうとアールは見ていた。
この聖女さん。そんな顔でこっちを見ててバレてないとでも思っているのだろうか。
面白いのは、アールの闘気が見えているのか、闘気のそばまで触手を伸ばすと恐る恐る闘気に触れてコソコソと触手を元に収めた。
その触手の仕草が可愛かったので思わず微笑んでしまう。
アールの笑いを見たサーリ皇女は、何故かうつむいてしまった。
視線を女官にむける。
女官は、アールの笑いを勘違いしたようだった。
目を怒らせている。
「皇太子殿。マキシミリアン王国の武力などに興味はありません。もう少しましなものはありませんか?」
顔に明らかな嘲りがある。
「それでは、古代の遺跡などはいかがですか?」
「現代のものに重要なものが無いのにどうして古代の遺跡などが重要なのです?」
「古代の遺跡は、昔、天空の神々が地上界に住まわれていた時の居城だったと言う言い伝えがありますので興味がお有りかと」
女官は鼻で笑う。
「我々神々が地上になど住んでいた事が有るわけがありません。そのようなデマカセな遺跡などに興味はありません」
女官はいかにも嫌そうに言った。
アールはそろそろ面倒になってきた。
「古代の遺跡は、アサイナムと言う居城です。昔は、聖都カサンドラって呼ばれていました。
今から二千七百年前、神王アダレヌは、魔神連合軍との戦いに敗れ、カサンドラ城に籠城するつもでした。しかし、家臣のマリカンは、魔神と通じ軍を城に入れなかった。窮した神王アダレヌは、手勢と共に天界に逃げ去った。と言う神話があります。
アサイナム遺跡は、カサンドラ城の遺跡だと考えると古い昔に空想が広がりませんか?」
「皇太子。我々、神々を愚弄するつもりか? そのようなデタラメな神話をどこで聞いた?」
三位参議スハークが鋭く聞く。
「私には使役できる聖霊があります。その中に女神女帝カサノバの聖霊があるのです」
アールは軽く説明した。
しかし反応は、激しかった。三位参議スハークが大きな音を立てて立ち上がる。
「女神女帝カサノバ様があろう事かお前のような年端もいかぬ子供の召喚聖霊などになるはずがない」
アールは、三位参議に一睨みを入れる。
「確かに、その聖霊は、カサノバと名乗りましたが、本物とは限りません。どちらにしても聖霊にすぎませんが」
三位参議スハークは、どちらにしてもただの聖霊だとの言いように怒りが増したようであった。
「カサノバ様を何度も呼び捨てにするとは、お前は何様だと思っている。
たかが下界の乞食王子のくせに」
さすがにこの発言にミネルバ帝も眉をひそめている。
そろそろアールもこの猿芝居に付き合っているのがバカバカしくなってきた。
「スハーク殿も唯の一番下の大臣に過ぎないでしょう」
ついに、スハークが爆発した。
「下郎。その言動は無礼であろう! 全ての痴れ者は、我の威厳の前にひれ伏せ」
スハークは、怒鳴り声に『威厳』奇跡を付与した。
『威厳』は、レベル百超え白銀級の奇跡だ。この奇跡の付与された声を聞くと恐ろしくなって誰でも跪いてしまう。
しかしアールはスハークの『威厳』の奇跡などどこ吹く風? みたいに悠々としている。
「スハーク殿の方が乞食だとか下郎だとか無礼ではありませんか?
私は、事実をありのままお伝えしただけ。無礼と言われる筋合いはありません」
アールはそっぽを向いてしまう。
三位参議スハークは、怒髪が天に届きそうになる程に怒っている。
「小僧。その減らず口を叩けなくしてやろう」
三位参議スハークの顔が恐ろしく残虐な表情に変わる。
三位参議スハークは、奇跡の詠唱をする。奇跡『重荷』のようだ。
この奇跡は、重力をかける恐ろしい奇跡だ。この奇跡をかけられると重さで跪くよりもひしゃげて死んでしまうだろう。
アールは、被害が他に及ばないように部屋全体を結界で包んだ。
スハークの聖力が凝縮し、アールの両肩に重圧とな襲う。
アールは、スハークの奇跡ぐらいは、いくらでも対処の仕方があったと思うがアールは何もしなかった。
そもそも、三位参議スハークが発動した奇跡は、アールにとってはあまりにもレベルが低かったのだ。
もちろん、アールにとってと言うことであって、一般的に言うと低いレベルの魔法ではない。
全部で八十レベルあるとされる奇跡の中で真中ぐらいの百二十二レベルで超上級・黄金級の奇跡だ。
それに三位参議スハークも少しは手加減ぐらいしているだろうと思われた。
アールは涼しい顔で皆を見回す。
このアールの態度に室内の全ての者は驚愕したのは言うまでもない。
あらゆる奇跡・魔法は何らかの対応をしなければ何らかの結果が生じなければならないのだ。
まさか、黄金級の奇跡をまともに受けて平然としている者など存在するわけがない。
事実、奇跡の発動された事はアールの周辺の机が大きな音を立ててひしゃげた事で明らかだ。
アールは心底、キャサリン以下護衛士を引き連れずに会見場に入って良かったと思っていた。
三位参議スハークくんは、それなりの奇跡を扱えるようだが、この状況で第二第三の攻撃を仕掛けて来ないし、主人のサーリ皇女の守りなどにも意識が向いていない。
こんな、お粗末な攻撃しか仕掛ける事のできないやつは、キャサリンに掛かったら即死は、免れなかったろうと思われた。
自分から攻撃しておいて、あまりにも拙速であり、あまりにも考えがなさすぎる。バカにしか見えない。
しばらく、スハークの奇跡は、何でもない事を皆に十分に見せたところで、アールはまずスハークの奇跡をリジェクト(無効化)した。
次にアールは、彼が独自に開発した『絶対拘束』の闘気魔法を発動。
『絶対拘束』は、闘気により動けなくさせる魔法で、アールが想像するに、あらゆる魔法よりも強力だろうと考えて『絶対拘束』と名付けた。
闘気は、魔法と奇跡の混合魔法なので魔法と呼ぶのは少し変だがアールは闘気魔法と呼ぶ事にしている。多分世界でアール以外は使え無いだろう。
最後にこのお公家みたいな男は、とてもうるさいので『サイレント』と『上級転移』の魔法をかける。
サイレントは、初級の第十六レベルの魔法であまりにもレベルが低すぎて三位参議スハークのような高位の天神種には『リジェクト』(無効化)されてしまうのだが、『上級転移』魔法でレベルを上げると効果がでる。
どれ程レベルを上げれば良いかわからないのでレベル二百三十位に設定しておく。
レベル二百三十と言えば級別での最上級ダイヤ級だ。
見ると三位参議は、口をパクパクさせている。効果がでたのだ。
「三位参議スハーク。貴殿は、宮殿内で無礼を働いた上、禁止事項を破ったため、拘束する。以後許可無き場合に発言を禁じる」
一同の驚きが驚愕に変わる。
「一同、これ以上の狼藉を働けば敵対行為とみなし、我が国は即刻天上界の全ての同盟国に戦線を布告し、敵対行為に対する報復処置をとるがいかがか?」
今、まさに天神種の切り札たる三位参議というスーパーマンが赤子をひねるように拘束されているのを目の前にして、誰も何も言わない。
「我が国はマキシミリアン王国に恭順の意を表します。我が国は、貴国との不可侵条約を遵守します。貴国に対して敵対の意思はありません」
すぐにミネルバ帝は頭を下げながら言った。
その様子を見ていた女官長は、鋭い視線をアールに投げかけた。
奇跡『断罪』を発言するための詠唱が長々と続く。
これは、白金級の奇跡で百六十五レベルの超上級奇跡だ。
女官の聖力が凝縮しアールに襲いかかる。アールはその奇跡にも全く何の対抗措置を取らず全身で受けとめる。
ただし、この様な超上級魔法でも究極級の魔法は、本来なら山を崩し海を二つに裂くような奇跡で、このような小さな部屋で発動するような奇跡ではない。
ハッキリ言うと、この女官長は完全に狼狽しているのだ。アールは、奇跡の発動する一瞬前に闘気魔法をかけて、部屋にいる者全てに覆い被せてやる。
奇跡が発動すると控室に置かれていた調度品が一瞬で砕け散って霧となり消滅した。
奇跡『断罪』の恐ろしい効果の表れだ。
室内には、彼らが座っているだけとなった。
一部始終をただイタズラっぽい目指しで見ていた、サーリも自分の直属の部下の女官長にアールの攻撃魔法がかけられるこの瞬間に黙っていられなくなったようだ。
「アールティンカー様。部下の無礼はご容赦ください。
どうか、マナミに酷い事はしないでください」
サーリが懇願するように言った。
アールは、先に手を出したのはそちらだろうと言いたいが、この皇女の可愛らしさに思わずウンウンする。
しかし、狼狽えた女官長は、更に『審判』の奇跡を詠唱し始めたとき。
「マナミ。いい加減になさい」
想像していなかった威圧感のある声でサーリ皇女が女官長を叱責した。
一同が別の意味で驚き、その場が凍りついた。
「アールティンカー皇太子殿下。数々の無礼については本当にごめんなさい。
世間知らずの田舎者の狂言とでも思って頂いてお許しください。
この者達は、古の風習に凝り固まっているです。
どうかスハーク、マナミの無礼をお許しください」
聖女サーリ皇女は、丁寧に頭を下げた。
会見中、子供のようなイタズラをしていた少女とは思えない。
アールは、スハークの拘束とサイレントの魔法を解除してやる。
スハークが崩れ折れて床にうずくまる。よほど拘束を逃れようとして暴れていたのだろう。
息が上がっている。
アールは、わざと声を出して詠唱して治癒系超級奇跡二百二十六レベルの『復活』の奇跡をかけてやる。
この奇跡は、死んですぐなら復活させるられるという奇跡中の奇跡だ。生き返らせ、かつ全回復するという最高の治癒系奇跡だ。
しかもアールが行うとどういうわけか前よりレベルが上がったりする。
事故で死んだハイエンドを復活させたところレベルが三十も上がったりして周りを驚かせた。
その驚異の効果は明らかに三位参議も感じたのだろう驚愕の視線をアールに投げかけて来る。
これぐらいのデモンストレーションをしてやらないとこの頑固な一行は言うことを聞かないだろうと思ったのだ。
最後にアールは、決め手を出す。
「出でよ。第三使徒カサノバ女神女帝」




