第十九 出会い
第十九 出会い
天神種の聖女サーリ皇女は、豪華な宮殿のこしらえに興味深々で、キョロキョロと見ていた。
一目、マキシミリアン王国の首都エバーハークやヘカテニーナ宮殿を見た時、自分達が何か恐ろしい勘違いをしている事に気付いた。
その宮殿の大きさは彼女が知る限りあらゆる建物の何百倍もの規模に見えた。
ミネルバ帝は、何事も無いと言うように澄まして案内してきたが、サーリ皇女の連れてきた女官にしろ、大臣の三位参議にしろその荘厳さに驚いている。
しかし、上目線の者が、蔑んでいる相手の事をなかなか自分達よりも上だとは認められるものではない。
そして、このような豪華な全てを悪と決めつけないと己の価値観を保持しきれない。その結果、彼らの意見はおしなべると『下賤な輩が天帝の許しもなく品無く華美に過ぎている』というものになってしまった。
どうも、その意見は、偏っているように思う。
サーリ皇女は、特別な才能でもって、この豪華さの原因がどこにあるのか? 自分達の絶対的優位が果たして幻想に過ぎないのではないかとの危惧を持たざるを得たなかった。
しかし今日は、彼女の尊敬する兄の計らいで天界随一の新進気鋭であると言う三位参議スハークがお供に付けられているので何も言わずに任せる事にしている。彼女の興味は、相手方の対応能力だけだ。
どうも、兄に言わせれば彼女の発想はピントがずれているらしい。
小さな子供の時から、彼女は兄の後ばかりついて兄の真似ばかりしてきた。
兄は頭が良く、何でも理解し良き話相手だった。
兄以外には、彼女の想いも考えている事もよく分からないらしい事が分かったのは最近になってからだ。
小さな頃は兄のお嫁さんになると言っていたが、今でも兄以外の人と結婚など考えられない。
大臣の三位参議は、兄の一押しだが、どうしても好きになれない。
物覚えも悪いし、発想も鈍いように思う。
サーリ皇女がそんな事を考えていると、ミネルバ帝が入ってきた。
サーリ皇女は、このミネルバ帝の方がよっぽど三位参議スハーク殿よりも発想が豊かだと思う。
国の事や息子のマシアリーア皇子の事などに気を配り彼女達にもいろいろ配慮していて大変そうだ。
彼女の女官のマナミが自分を大きく見せようとしてなのか、ツンケンうるさく言って耳に付いて仕方がなかった。ミネルバ帝は、全然意にも介さずにうまく対応している。マナミは、どうしてこんなに馬鹿なの? て、思ってしまう。
そのミネルバ帝が目を輝かせて少年を案内役に推挙してきて驚いた。
この女性は、少年趣味みたいなものがあるのだろうか? と思った。
しかし、彼女が連れてきた少年を見てサーリ皇女は、想像を百八十度変更しなければならなくなった。
その少年は、どこか変だった。何だかどこまでも透明なガラスを薄く薄くして初めて出来上がるほどに清らかな透明さを持ち、かつ美しく磨きあげられた漆黒の刀剣の刃先のように容赦のない純粋さを感じさせた。同時に目に見えないほど柔らかく繊細な羽毛のような優しさ。さらにキラキラと輝く太陽のような陽気さ。
奥の見えないほどに複雑でそして一目で分かる単純さを同時にもっている。
そんな少年だと彼女は確信した。
要するに一目惚れだった。一目見た瞬間から目を離す事ができない。どんなに見ていても飽きがこない。部屋に入ってきた瞬間から瞬きする間ですら目を離すことが許されない。そんな状態だった。
「初めまして、アールティンカーと申します。皆様は、遠路マキシミリアン王宮までおいでくださいましてありがとうございます」
その少年は、よく通る綺麗な細い声で言った。
サーリ皇女は、全身に電気が走ったような気分になった。
この少年は、でも。と、サーリ皇女は、首をひねった。羽が生えていないのだ。
どんな種族であっても羽が生えているはずなのに。しかし、どうしてなのだろうか。体から滲みでているかのような、真の意味での神々しさと言うのだろうか、後光と言えばいいだろうか、サーリ皇女には何だかそれがこの少年から怒涛のように溢れているように感じる。
何だろうとサーリ皇女は、不思議な気分がして、誰にも見えない程、細く薄い触手のような聖力を伸ばしてみた。
しかし、あろうはずが無い。少年は、彼女の伸ばした触手に視線を当てている。
天界の誰も気付かなかった弱い細い彼女だけが扱える触手だった。
兄ですら気付かないのだ。
見えているはず無い。とそろそろと触手を伸ばして少年の体の周りにある神々しい光に優しく触れてみる。
触った感じは氷の壁のように滑らかでそれ以上の侵入を許さない壁のような感じだ。
彼女は、そっと触れるのを止めると触手をしまった。
少年の視線は明らかに触手が見えているように感じる。
サーリ皇女は、もしや見えていたらと思い、直ぐに触手を納めた。触手を収めた瞬間、少年が僅かに微笑みながら小さな礼をした。
その時、やはり見えていたのだと彼女は、思わず目を伏せてしまった。たぶん顔が真っ赤になっているだろう。
彼女は、それだけでテンパってしまい、この場で何が話されているのか分からなくなっていた。
その時だった。
「下郎。その言動は無礼であろう!」
三位参議スハークの怒声が聞こえた。
彼女は何事かとスハークの方を見た。




