第十七 神々
第十七 神々
一行が入ってきた。
先頭が聖女サーリ皇女だろう。なんとも可愛らしい。まさに、こうごうしさとはこの事だろうか。光り輝くって形容がピッタリだ。
目が離せなくなる。
一行を誘って玉座の間に入り、聖女を玉座に案内する。玉座の両脇に少し小さな椅子を用意させ、一行に椅子を進めた。
一行は、聖女に了解を取ると椅子に座った。
彼女とマシアリーア皇子は、玉座の前に設置された少し小さ目の椅子を用意させ着席の許可を取ってから座った。
本来なら神々ならどの人でも玉座を明け渡してもてなす事になっている。
天界の尊き方々なのだ。
ミネルバが自己紹介しマシアリーア皇子を紹介した。二人は一行に最敬礼した。
一行の中で聖女の側に座った美しい女性が、一行の紹介をしてくれた。
玉座に座る聖女サーリ皇女殿下。自分は皇女付の第四位第一女官。あとの一行の名前と位階や役職を説明した。
ミネルバはやはりと思ったのは一行の位が大変高い事だ。第三位参議だとか上級第四位大得佐、中級第四位大納吏など、天帝のご側近の方々を始め最低の者でも上級第六位租都尉と紹介されていた。
彼女も天帝から位を授けられているが第七位の無職だ。
第六位と第七位の違いだなどと思わないで欲しい。各位階には上級・中級・何もつかないの三種類の位がある。上級第六位とただの第七位では五階級も位に差がある。
この位階は、天上界における絶対規範みたいなものだ。
位階は位の高さだけでなくその人の能力まで正しく表しているのだ。
様々な能力のテストを受けて位が決められるのた。
もちろんミネルバは名誉位みたいなものだから実際に測ったらもっと恥ずかしい思いをするのだろうと思われた。
天界は、あくまでも実力主義なのだ。
皇女は階位外の人だが中級二位と言う扱いらしい。
どちらにしても神々の実力など下々の者には計り知れない。
ミネルバは、緊張で身体が萎縮するのを覚えた。
この感覚は、絶対的強者を前にした時の恐怖だ。ミネルバ帝には、天神種が持っていると言う天眼通と言う能力は無いが、強い力を持っている者は、直感でわかる。
あのハイエンドの赤ん坊や王族も同じ様な気配を持っていたとミネルバは思いだしていた。
「七位ミネルバ殿。本日きたのは、姫様が下界を散歩したいとの仰せなのだ。誰か下界を案内してくれるものはいないか?」
マナミ女官長が言った。
「もちろん。下賤の者では務まらんし、下界の事は下界の者が一番知っておるのだろう。下界の一番上種の王は誰か?」
ミネルバは嫌な予感がして女官長の方を見る。
「マキシミリアン王朝のハルト王かと」
「では、その者に案内させなさい」
女官長は言い切った。
ミネルバは、ハッキリと将来に起こるだろうビジョンが見えたような気がした。
この神々が下界の誇り高いハイエンドの王族に無礼極まりなく振る舞い彼らを激怒させ、天界と地上界が戦争になる。
どちらが勝つかは分からないが真っ先に滅ぶのはデハリアー神聖国であるのは間違いなかった。
ここは、下界などに行かない様に進言するべきた。
「恐れながら、女官長様に申し上げます。下界は未だ紛争の絶えない野蛮な地域です。しかもマキシミリアン王国は、尊き天帝様のご慈悲を全く理解しておらぬ未開人でございます。
尊き天帝様のご一族に間違いなく無礼を働く事は間違いありません」
「未開人である事も、礼儀知らずである事も承知しています。この度は三位スハーク卿に来ていただいたのは護衛と示威のため。
いかなる無礼者でもひれ伏して慈悲を請うよう、調教して頂けるでしょう。
今回の散歩にはその意味も含まれています。だから下界の一番上種の王でないと意味がありません」
ミネルバは頭を激しく働かせた。
「もし、彼の国と戦争になっても、彼の国とは不可侵条約を結んでおりますので何のお力にもなりませんが」
ミネルバは、思索の結果、墓穴を掘ることになるかも知れなかったが、意を決して爆弾発言をする。
女官長が恐ろしく冷たい視線をミネルバに投げかけてくる。
その気になれば、ここにいる天神種だけでもデハリアー神聖国を天上界から消しさる力があるのだ。いやたぶん、この女官長一人でもそのような恐ろしい力を持っているに違いない。
そうでなければ、天神種の誰であろうが、やって来た時は、玉座を譲るなどの対応は必要なかったはずだ。ミネルバは、彼女のご先祖様が、戯言を遺すはずがないと分かっていた。
しかし、このメンバーで下界を潰すというのなら勝手にやって欲しい。そうミネルバは言い切ったのだ。
「分かりました。仲介の労はとってもらえるのでしょう」
その女官長の言葉に安堵の溜息が出そうになるのをこらえて。
「もちろんです。我らデハリアー神聖国は正義と法の秩序を守るため。いかなる労も厭いません」
なんかあの日のアールの受け売りみたいな回答の仕方だ。
しかし、条約違反になるから戦争に加担できないのと、正義と法の秩序を守るためとは矛盾しないし、自国さえ戦争に巻き込まれないなら天界の神々が下界にどの様な働きかけをするかでミネルバが悩む必要はないのだ。
「下界のマキシミリアン王国には姫様とちょうど同年輩の皇太子がおります。彼の国では、この皇太子が最も強く野蛮な輩であると言われておりますゆえ、神々におかれましては、この者を懲らしめればかれらも重々肝に銘じるかと思われます。
しかし、この者は、わたくし如き者では到底かなわぬ程の蛮力を持っておりますので十分に気をつけてくださいませ」
どうせ聞かないし気をつけもしないだろうが、一応言っておく。
「何しろ、幼少から無詠唱で魔法を操る天才との誉れが高く、彼の王朝の開祖から伝説の力を授かったなどと吹聴いたしております。
十分に気をつけてくださいませ」
言うべき事は言った。ようやくミネルバは、密かにため息をついた。
「下界の未開のサル共など気にかかる必要はありません」
語気強く女官長は宣言した。
「第七位ミネルバ殿。聖女サーリ皇女は、とてもたおやかに見えますでしょうが、上古神のご加護を得た上古神帰りの特別なお方なのです。もし、彼の国の皇子が同じく神の加護を授かった者であるとしても天神種たるお姫様が叶わないなどということがありましょうか」
彼らは時にハイスペックな子供が生まれてくることを知っているのだ。
その辺の微妙な言い回しについてミネルバは、理解できなかったが、聖女サーリ皇女がアールの様な天才少女だったのだろうと判断し、その話が本当なら上には上がいるのだろうと。それぐらいにしか思えない。彼女には、ここにいる天神種もハイエンドの王族達も彼女よりもずっと強者だと言うとこでは同じなのだ、どちらが強者なのかは不明だが、絶対に天神種の方が強者だなどと安易には思えなかった。




