第十 披露宴
第十 披露宴
披露宴は、三日間行われる事になった。一日目は世界各国の来賓と国内の招待客、国内の高級貴族が招待客だ。
来賓が宮殿に入る度に高らかに名前が叫ばれる。
「サンタモード国大使エルデンバル公様並びに奥様」
「レーマン王国租借カナン公マンダンバルク様並びに奥様」
「聖リカーラント教国特使カイデル公爵様並びに公爵令嬢様」
「エリミエリ諸侯連合主国特使マーデンファイト様、奥様」
「デーリンガー王国特別大使カナンデル子爵様並びに奥様」
アールは控え室でハルトとサファリと一緒に自分の順番待ちをしていた。
控え室は良く出来ていて来賓達の顔が良く見えるようにできている。
これは、知らない来賓の顔を確認するためだろう。覗き窓ってやつだ。
アールは、出来るだけ来賓の名前と顔を覚えるようにとのサファリの言葉に忠実に一生懸命顔と名前を覚えようとした。
前世ではそんな事をする気にもならなかっただろうが転生したアールならできそうな気がするのだ。
とんでもないアドバンテージが満載でオツムの出来も半端じゃないのだ。
参加する来賓は全部で八千八百人と聞いている。いくら天才でも全員覚えられるはずはないのだが。
来賓の名前が呼ばれ始めてからかれこれ一時間以上の時間が過ぎただろうか?
アールは飽きずにと言うか何だか奇跡的にと言うか全部の来賓と顔を覚えながら見ているのだ、
母さん。こんなことは本当に必要なの? って叫びたい。それに僕の脳はどうなってるの? 何で何でも覚えちゃうの?
八千八百だよ。
最後に本日の主催者と主役が登場だ。
「マキシミリアン王国皇太子皇太子妃並びに本日の主役である皇太孫アールティンカー殿下のご入場」
アールは、控え室から人々の注目する主役席へ堂々と登場した。と言ってもサファリに抱かれての登場だ。
華々しいファンファーレの中、眩しい光に照らされて登場だ。
皆が拍手してくれる。
なかなかむずい感じだ。
こうして披露宴が始まった。
アールは、文句無く可愛らしい。
女性方はアールの可愛らしさにもう虜になっている。
八千八百ってとんでもない来賓全てに挨拶とかしないよなっ! 何て思っていたらアールを抱き上げたサファリと夫のハルトは連れ立って来賓席を回り始めるではないか。
最初に立ち寄ったのはクリーム王国の大使のところだった。クリーム王国はマキシミリアン王朝の仮想敵国とされている。大国である。
珍しく人族で支配下にない国なのだ。最初にクリーム王国に挨拶をするのは同じ人族としての配慮だ。
「クリーム王国大使殿。我が息子アールティンカーをよしなに」
ハルトが言った。
サファリも続いて挨拶する。
その後がアールの番だ。
しかし、クリーム王国の大使は機転の効きすぎる程優秀な男だったから、まさか挨拶とかできるはずもない二歳の赤ん坊に恥をかけないように。
「アールティンカー殿下は何と美しいですな」
と、囃し立てた。
しかし、次の瞬間大使殿は、目を白黒させることになる。
「わたしは、アールティンカーと申す、若輩者。クリーム王国大使ミリタリ公爵様並びに奥様。今後ともよろしくお願いします」
アールがそう言いながら頭を下げる。
大使と婦人は、ギョッとしてアールに引きつった笑いを送る。直ぐに気を取り直したミリタリ公爵は、何だか年端もいかない小僧にバカにされたように感じて少し気が立ってしまった。そして止せば良いのにある思いつきをしてしまったのだ。
彼は皮肉な笑いを浮かべると。
「王太子には、ご機嫌麗しゅうございます。我が国は王太子と末長く懇意にあることを願っております」
わざと王太子などと間違った呼称を使ってみせた。
一見王太子の呼称は尊崇しているようだがマキシミリアン王朝では王の息子は王子であるが、王位継承者は皇太子と言う。ハルトは皇太子でその直系の孫で王位継承者なので正式には皇太孫が正しい。
それに王太子があまり使われないのには理由がある。マキシミリアン王朝では王太子には属国の第一王位継承者と言うニュアンスがあるのだ。
親バカのハルト皇太子は明らかに不快が顔に出た。場合によってはクリーム王国と戦争になっても良いと思ったほどだ。
しかし、アールが嫌味を解さず明るく返答すればなんとか許せただろう。しかしアールはその嫌味を完全に理解していたのだ。
「冊封の王子に身をやつしてまで貴国に尽くす程に大使殿はわたしに厚く教鞭を頂けるとはありがたいです。閣下」
アールがにこやかに切り返した。冊封とは属国の事だ。難しい単語をワザと使った。二歳などとは思えない。閣下は敬称だが大使には使わない。先に大使殿と言ってから、付け足したように閣下という事で、王太子が失礼だとの怒りをスマートに表した宮廷の高度な言い回しだった。閣下には侮蔑の意味はないが王太子には明らかな侮蔑の意味が含まれる。その弱点を暗に付いているのだ。嫌味を言うならもっと高度に言えって事だ。
クリーム王国大使殿は少し酔ったのだろう。
アールは鮮やかな切り返しで溜飲を下げたが怒りの収まらない親バカが二人いた。
「クリーム王国大使。国外退去を命ずる」
ハルトが冷たく言い放つ。
大使が唖然とした顔でハルトの方を向く。
本気だと知り、直ぐに震えだす。
しかしサファリはさらに峻烈だった。
「大使閣下。わたくしの近衛軍を直ちに貴国に向かわせますわ。これは宣戦布告と思って頂いても結構ですよ」
皇太子妃殿下サファリが宣言した。
これ程怒っているサファリは初めてみる。
皇太子妃になると近衛軍三軍と衛門軍八軍が指揮下にある。さらにサファリは皇太子妃となりザッバーム公領の領主となった。彼女は、それらの軍事力の長なのだ。
クリーム王国は、マキシミリアン王国の仮想敵国であるがその戦力はザッバーム公皇太子妃殿下の私兵ですら叶わない程度に弱小なのだ。
クリーム王国の大使は何を勘違いしていたのだろうか。クリーム王国は四百年の間、マキシミリアン王国と同等の王国として存在し続けたがそれはクリーム王国が強国であったからではない。マキシミリアン王国が存続を許しているからにすぎない。
クリーム王国は建国当時からマキシミリアン王朝に敵対するような行為を一切した事が無かったからだ。
それは弱小の国の知恵に過ぎない。クリーム王国は弱小の集まりの中の強国に過ぎなかった。
特別と感じていたのはクリーム王国の臣民だけだったのだ。
さらに付け加えると、穏健派、優美、深窓の令嬢などあらゆる優しさを集めて体現したようなサファリは、神祖一族の直系の由緒正しきアーデネシア大公家の当主なのである。
身分ではハルト皇太子よりも高いのだ。
彼女はお飾りなどではなく政治の枢要に君臨する最重要最強の権力者なのだ。
皇太子には大使を追放するぐらいの権力しかないがサファリには地方領主としてだが宣戦布告の権利がある。
ただ相手方としてはチッポケな地方領主の戯言では済まされない。
サファリの配下の軍事力経済力はクリーム王国などでは比較にならないほど大きいのだ。
アールはこれではいろいろ不味いと思って慌てて言った。
「クリーム王国大使殿。噂によると貴国の王子殿下は皆さん大変聡明な方と聞き及んでいます。良かったら私に貴国の王子殿下を紹介していただけませんか」
烈火となって怒っているサファリは無視だ。
アールが勝手に話を進めればサファリもハルトも落ち着くだろう。本当に困った親バカ達だ。
それにこのクリーム王国の公爵様も困った男だ。アールの両親の一番触れてはならない逆鱗に直撃発言なんかするから戦争みたいな話になるんだとため息がでる。
クリーム王国は、ハイエンドと凄く近い種族が治める国だった。その国の王子ならアールと釣り合いが取れているのでご学友になってくれるかもしれない。そんな気持ちも有るのだ。
「きっとお国に取りはかってください」
アールが念を押す。
クリーム王国の大使様は、蒼白になって口をパクパクさせている。
そこで話の流れから王子を人質に差し出せって事を言ってると勘違いしている事に気付いた。
「近々貴国からお招き頂ければ幸いです」
アールは付け足す。
「皇太孫殿下。先程の無礼はご容赦ください」
クリーム王国大使が謝る。
「無礼講の酒席。くだらない言葉の遊びに一々目くじらを立てる事もありません。戦争など最前線の者にとっては生死の重大事。酒席の戯言が戦争の原因となれば彼等も浮かばれぬでしょう。次に互いの正義で雌雄を決すべき時までその様な無骨な話は収めて楽しく飲みましょう。ぜひ貴国からのご招待をお待ちしております」
アールはそう言うとハルトの方を見た。
「お父様。次に参りましょう」
ハルトは、バツの悪そうな顔になって頷く。
「悪かった。アール」
ハルトは素直に頭を下げている。
「お母様も行きましょう」
「ごめんなさい」
赤ん坊に謝る二人だった。
✳︎
次にアールが連れてこられたのは、キンデンブルドラゴンハイツと言う長ったらしい名前の国の代表でその国の聖竜騎士団長ベルハルトと言う男だった。普通夫人と連れ立って参列するものだが彼は武官の連れを伴っている。
他の国は、一つの国で沢山グループを作っているがキンデンブルドラゴンハイツ国は、この聖竜騎士団長と副官の二人で大きな円卓を占領している。
ベルハルト聖竜騎士団長は、竜種だった。竜種は、初めてみる。
魔力聖力はサファリの半分ぐらいか。しかし闘気を纏っているのでハイエンドとロンハードの合いの子みたいな戦闘力となっている様だ。
但しどちらも中途半端だ。
「ベルハルト聖竜騎士団長殿。アールティンカーと申します。今後ともよろしくお願いします」
ベルハルトは、爬虫類の顔をアールに向けると口を歪めた。
「ハルト殿下。ワシはこの赤ん坊と大人遊びのご挨拶ごっこをするのはごめん被りたいのだが」
ベルハルトはアールの大人びた挨拶が気に入らなかった様でそう言う。
「ベルハルト殿。このアールティンカーは正式な皇太孫で我が国の公人。そのつもりでお話し頂いてもよろしいですか?」
「ワシは母親に抱かれた公人など見た事がない」
ベルハルトはにべもなく言った。
「公人と言うなら、公人らしく賓客に正しく挨拶されてはいかがかな」
まぁ、その通りだろう。人に抱かれたまま挨拶などは失礼と言うものだ。
「お母様。おろしてください」
アールが母親にお願いした。実際のところ、抱っこされたまま回る事に抵抗があったのだ。
サファリは先程の失敗で少しばかりしょんぼりしているのでアールの願いの通り素直に我が子を降ろした。
改めて竜種のベルハルトにお辞儀をする。
「キンデンブルドラゴンハイツ聖竜騎士団長ベルハルト殿。アールティンカーと申します。本日は我が誕生パーティーにご参加頂きありがとうございます。楽しんで参られたい」
「これは丁寧な挨拶で痛み入りもうす。危うく我が国は貴国の冊封になっていると勘違いされておられるのではと憂慮しておりました」
「キングドラゴン種は大陸一隆盛と誉れ高き御一族。我が国とは友誼を持って盟されておると存じております。その様な無礼な思惑など如何なる人類も持つはずがありませぬ」
アールの受け答えは全くソツがない。完璧な受け答えだ。
「皇太孫殿下は近頃魔族の降臨に立ち会われたのだとか。我らも魔族の中の者。どの様な魔物だったか教えて頂いてもよろしいでしょうか?」
「魔神マニエル殿の事ですか? わたしは詳しくは存じませんがカニシマレン戦役にて魔神サニエル殿に屈して降魔王と号された大魔神級の魔族だと教えてくれましたが。魔族の英雄の一人なのではないですか?」
ベルハルトはギョっと驚いた。
「マニエル様と? しかしカニシマレン戦役とは? マニエル様は魔族では殿下の仰る通り人気のある偉人ですな」
「カニシマレン戦役は、エデンビラーゴ大陸の派遣を争った魔神種の太古の戦いの事だそうです」
アールが答える。
それはハルトもサファリも知らない情報だった。
「どうしてその様な事を殿下はご存知なのですかな?」ベルハルトが不思議そうに聴いた。
「あれから、召喚魔法をいろいろ試しまして、情報を得ました」
ベルハルトが憤怒の感情を露わにした。
「殿下は召喚魔法で魔族を隷属させるなどは現代の魔族と人族との友好関係の中で不当だと思いませんか?」
ベルハルトは少し語気強く詰問する感じで言った。
ハルトから魔力の発動が感じられる。
後ろを振り返るアール。手で父親を制止する。
「ベルハルト殿は人情家と見えますな。願わくばその人情を貴国の人族の奴隷に与えて欲しいものです。そうして頂ければわたしも召喚魔法で魔族を使役する事を止めましょう」
しかし、このアールの申し出は全く釣り合いが取れない。キンデンブルドラゴンハイツの何千万人もの奴隷とアール一人の召喚魔法の封印とでは。そうベルハルトは思った。
「左様ですな。ルールは時と場所によるとの事ですからな。わたし個人とすれば隷属する者へは情を持って接する事としております。殿下にも召喚した魔物へ情を持って接して頂ければ嬉しくぞんじます」
「ベルハルト殿の戒めは必ず守らせて頂きます」
アールはそう言うとハルトに連れられて隣の席に行った。
✳︎
「閣下。あの小僧は、噂以上の召喚魔法遣いの様です。召喚により我らの知らない情報をも得ている様です」
ベルハルトの副官が耳元で呟いた。
しかし、恫喝も威嚇もこれほど通じない子供は始めてだった。
ベルハルトは、特別な技能である威嚇と、そしてさらにその上位技能の恫喝の技能を持っていたのだ。
先程の話の最中に威嚇の技能を途中から恫喝の技能をつかっておチビを撹乱しようと試みていたのだ。
これは、ハイエンドの皇太孫が噂の通りの天才であるとしてどれ程の者か探る試みだった。
特技は人族には良く効くという事だが普通なら震えて立っていられなくなる威嚇も気絶する程の威力がある恫喝の特技も全く効果なかった。
どう言う事だ?
✳︎
あの竜種は、へんな魔法を使っていた。
アールは竜種から紫色の闘気みたいなのが滲みでてきてアールの方に漂ってきたのでおやっ? て思う。アールは闘気を出してその紫色を包み込んで竜種から寄ってこない様にした。
平然と話していると竜種は少し驚いてギョっとした。しばらくしてサファリから降ろしてもらい改めて挨拶する。
見ると今度は黒色の闘気みたいなのが出てくる。難なく押さえ込む。
今度は少し怒り出した。面倒臭い奴。最後には説教たれだした。
アールはこの竜種の将軍の顔を忘れないように覚えておこう思った。絶対召喚してこき使ってやる。
✳︎
次にアールがハルトに連れてこられたのは確かデハリアー王国の王子の席だ。この王子は人族みたいに見えるが天空種と呼ばれる神様系の要人だ。
見ると天空種の王子は、白い聖力で光り輝いている。確かに神族というだけあって魔力はないようだ。
聖力だけなら闘気は練れないだろうなぁと気の毒になる。
この王子は、細っこいし中性的だ。
「天空種デハリアー神聖国マシアリーア皇子殿。わたしはマキシミリアン王国のアールティンカーと申します。今後ともよろしくお願いします。本日は些細な宴ですがお楽しみください」
見ると聖力が慌ただしく動き始めた。アールティンカーの体をグルグルに取り込みにくる。こいつも無詠唱で神威を使う事ができるようだった。
アールは鬱陶しい聖力を闘気で弾き飛ばす。
天空種のマシアリーア皇子は驚愕してアールを見ている。
「殿下は聞きしに勝る大いなる力をお持ちのようですな」
目を細めて見ている。美しい顔で上目線なのがムカつく。偉そうな奴。
まだまだ隠した力が有るんだと言わんばかりだ。
アールは少しイラっとして、マシアリーア皇子の聖力をごっそりと奪ってやる。先に手を出した奴が悪い。
マシアリーア皇子は狼狽して片手をテーブルに付いて顔を伏せた。相当苦しそうだ。
少し可哀想になったので聖力を返してやる。
マシアリーア皇子はさっと顔を上げてアールを睨んでくる。本当に生意気な奴だ。
アールはこいつも好きになれなかった。
一部始終を見ていたマシアリーア皇子とアールの間に優雅な身のこなしの女性が割って入ってきた。
「アールティンカー殿下。本日は二歳の誕生日おめでとうございます」
美しい線の細い女性が優雅に礼をした。
神々しい。
「ミネルバ皇女殿下。本日はご子息殿下共々ご出席頂きありがとうごさいます」
アールは全ての出席者の顔と名前が記憶されているのだ。
ミネルバ皇女は、名前を呼ばれて少し意外そうにした。なぜなら彼女は息子に目立ってもらいたかったのであまり前に出ない様にしていたからだ。
出席している他の者からは彼女は皇女とは思われなかった違いない。
彼女の名前は入場時にしか呼ばれなかった。それ以外では名乗っていない。
「アールティンカー殿下は、わたくしが入場されたのを見ておられましたか?」
彼女は聞いてみた。
「はい。母様の言いつけで皆様のお名前を覚えるようにいわれたのです」
なんでもないようにアールは言った。
ミネルバ皇女はギョっとして眼前の幼児をみた。
そういえば、マシアリーアの名前も直ぐに言っていた。
「殿下。それでしたら、あのお方のお名前をご存知でしたら教えて頂けませんか?」
彼女は試しに適当にあまり目立たない者を指差した。
「あの方は、カサンオルテンタック伯と仰います」
アールが即答する。やはりって言う思いと背中に冷たい戦慄が走る。
彼女はその横の明らかに副官を指差す。副官の名前は入場時には呼び上げられない。
アールは知らないと言う。
少し遠いところを指差す。
「あの緑の服を着てらっしゃる方のお名前は?」
「サスペラストー公国の公使ファファンサン公です」
サスペラストー公国はデハリアー神聖国の属邦でファファンサン公とは知己だった。
彼女は身体中から力が抜けるような気分を味わった。
「そういえばデハリアー神聖国とサスペラストー公国は同盟国でしたね。ファファンサン公の公使と言う触れ込みでの入場はミネルバ皇女殿下へのご配慮ですか?」
アールが尋ねた。
ミネルバ皇女は眼前の幼児を恐ろしいと感じた。
本当に天才だと思った。この幼児の頭にはどれ程の知識が詰まっているのだろうか?
「アールティンカー殿下。デハリアー神聖国とマキシミリアン王国とは今後どの様なお付き合いをすればよろしでしょうか?」
ハルトがアールの肩を掴んだ。余計な事は言うなと言う事だ。
「わたしはいかなる国もその存続が脅かされる事がなく主権が尊重される事を望んでいます。ご子息殿下とも仲良くして頂けたら幸いです」
アールはそう言うとニッコリと笑った。
その顔を見たときミネルバ皇女は完全に負けた事を悟った。
「ハルト皇太子殿下。素晴らしい御誕生のお祝いですね。デハリアーは今後は貴国との友好を最重要課題として国是とさせていただきます」
優雅に頭を下げる。
「マシアリーア殿。両殿下とサファリ皇太子妃に再度真摯なご挨拶をしなさい」
彼女は、自分の息子に鋭く言った。叱責している様だった。
「サファリ皇太子妃殿下。ご立派なご子息がおられて大変羨ましい事です。我が息子マシアリーアはご子息殿下とは比ぶべくもありませんが今後ともご子息殿下の好意が頂けますように、そして本日、もしマシアリーアが何か無礼を働いていたとしてもどうかご立腹なさらないでください」
ミネルバ皇女と息子のマシアリーア皇子は丁寧に揃って挨拶していた。
✳︎
「アール。マシアリーア皇子は何かしたのか?」
ハルトが尋ねた。
「それよりもお父様。誰も彼もどうしてこう一筋縄でいかぬのでしょうか? わたしの対応が悪いですか?」
アールは尋ねてみた。
ハルトはそこで珍しく大笑いしていた。サファリも一緒になって笑っている。
「アール。クリーム王国の大使は、赤き疾風と異名を持つ将軍。彼らはハイエンドとよく似た人間族の王国でまぁよく頑張ってる。奴は鼻持ちならん奴だったが今日はサファリが切れてしまった。ハイエンドへの亜人種達の反乱心は彼らの存在で相当抑えられている。彼らはハイエンド以上に純血主義。まぁ優秀過ぎるのだ。次のキンデンブルドラゴンハイツのベルハルトは絶断将軍と異名のある有名な英雄だ。先程のミネルバ皇女は雪の女帝と恐れられている天空種の女帝だからね。そう簡単に行かないさ。今日、こらから挨拶して回るのは世界の偉人英雄天才達だ」
ハルトはカラカラと笑った。
「そんな人ばかりを招待したんですか。お父様?」
「アールのお披露目だから普通の人では釣り合いがつかないよ」
ハルトの説明はアールを納得させなかった。
「彼らは何だかとても攻撃的ですが、攻撃してきたものは思い知らせてもよろしいですか?」
「彼らは束になって掛かってきたら面倒臭い奴らだが、一つ一つは大した事はない。逆に思い知らせてやったらいい」
こうしてアールは、ハルトとサファリの見世物となって連れまわされた。
そして世界中のVIPは支配種族に新しい神祖が誕生した事を知った。




