ボクと魔王軍
「ああ我が王よ。王に非は無い。
―――あってはならない。
されど、天の意は王の愚妹に味方した。
忠臣は王を選んだが……愚民は愚妹を選んだ。
愚民どもよ見るが良い! 巨神は愚妹を選んだではないか! やはり人は平等ではないのだ!!
我は王の臣成り。
例え民が一人残らずいなくなろうと、王は王である。
奸臣に図られ、弑されようと王であること。我れらが忠を捧げる王であったことは変わらない。
そう、我が王は。国を潰された無能な王。
そして我は、王を守れなかった無能な臣。
―――ただ、それだけだ」
-祭祀卿“ガルバニア・フォン・エスクス”-
その後結局、姫様に押し切られたボクは今……魔王城(仮)の前にいる。
ボクの胸くらいまである大きな大きなお城は、あからさまに禍々しい雰囲気を出している。
特に城の上空を中心に暗雲が渦巻くように広まってるのが不気味で不思議だった。
最初は魔王退治なら遠慮はいらないかな? ……っと、城ごとぶち壊つもりだたけど、今はその気になれない。
足元に視線を移せば、城から出てきたおもちゃっぽい兵士は、どうみても“人”だった。
ただ、肌が緑とか青とか有り得ない色で、翼や角とかが生えてるけど……それでもやっぱり、ボクには人だとしか思えなかった。
動物園で見た猿なんかと違って、明らかに知性が見える。
なぜならボクはまだ、何もされてない。
出てきた魔物っぽい兵士も遠巻きに見てるだけで何もしてこないからだ……いきなり花火をぶつけてきたアッチの方が野蛮に思えるくらいだ。
そんな理由でボクは、お城の前で俯いたまま……何も出来ずに戸惑っていた。
ふと視線を感じで顔をあげると、なんか人が浮いてた。
ボクの手の平と同じくらいの大きな……姫さまたちに比べたら大きな人が、ボクに話しかけてきた。
話しかけてきたと思うんだけど、やっぱり何を言ってるのか分からない。
目の前にいるのは魔王だ。
山羊のような角。裂けるように歪んだ口。充血してると言うか、赤く光る鋭い目。黒字に金で装飾されたゆったりとした服。
一目見た瞬間に奇妙な確信を持って……「あ、これ魔王だ!」 ……と、根拠なく思った。
魔王って城の奥の、さらに奥の隠し部屋に引き篭もってるようなイメージが有ったんだけど、飛べるんだ……。
あれ? でも魔王がこんなホイホイ出てこれるんなら、LV1勇者って積むんじゃないの?
最初のエンカウントが魔王って無理ゲー過ぎない? ……あ、でもこれ現実だよね? だったら理不尽で当たり前かぁ……。
なんて風に、のんきに考えてたら……いきなり目の前で何かが弾けた。
アイタッ!?
鋭い痛みが走り、視界が白に染まる。
足元からワーワーと歓声が上がり、バチンパチンと花火が弾ける。
どうやら呼びかけを無視したことで怒らせたみたいだ……。
いやいや無視してたわけじゃないよ?! 言ってる意味が分からないからしょうがないよ!!
言い訳しようにも、それも伝わらないからどうしょうもない。
攻撃はかなり激しく。慌てて逃げ出そうと振り向いた時、遠くに城が見えた。
それはボクが作った城。
姫様が、ボクの帰りを待っているお城……。
ダメだ!? このまま逃げ帰ったら姫様が危ない!!
なんとか目を凝らして見ると、魔王だけでなく兵士っぽい魔物も空を飛んでる。
このまま逃げても蜂のように、どこまでも追いかけてくるのは確実……だから、逃げちゃダメだ!!
どうする? どうすれば良い?!
海に飛び込むか? ……いや虫じゃないんだからバカじゃない。息継ぎに顔を出したところを狙い撃ちされる……。
いっそ叩き潰そうか? いやダメだ……やっぱり人は殺したくない。
パニックになったボクは、とにかくこいつらを、姫様たちから遠ざけないといけない! ……と、それだけを考えて行動を起こした。
具体的に言うと……押した!
力任せに押して押して……押しきった!!
冷静に考えたらありえない選択だったけど。この時のボクにそんな余裕はなかった……結果的に、それで正解だったと思う。
ボクは……魔王城を押した。
がむしゃらに前に進んで魔王城を掴むと……ボクは、力任せに押し動かした。
無謀な行いだったはずなのに……おかしな事に、魔王城は押した分だけ、ズリッっと動いた。
地盤が弱かったのか? そもそも固定されてなかったのか? ソレはわからない。未だにわからない。
でも、その時のボクは、ただひたすらに城を押し続け。ヤバイものを遠くに持っていく事しか考えてなかった。
どれくらいの時間がたったのか分からないけど、ボクが気がついた時にはかなりの距離を移動していた。
こうして、自分の城を大陸の端に追いやられた魔王と魔王軍は……遠い遠い辺境に、放逐されたのだった……。
魔王様「どうしてこうなった……orz」
この世界において、魔族は絶対悪ではありません。
人類と敵対関係にありますが……それは政治的、宗教的意味合いが主です。