↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの後衛職だと見捨てられた俺、『ステータス改竄』で覚醒する〜俺を溺愛する最強の氷の魔女と、辺境で温泉スローライフを始めます〜  作者: KIZUNA


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/41

無能な書記官の解雇と、解除される恩恵



「アイン。お前は今日をもって、勇者パーティー『暁の剣』から抜けてもらう」


王都でも最高級の宿屋、そのスイートルーム。

豪勢な食事が並ぶ円卓の空気は、勇者ガイルのその一言で完全に凍りついた。


「……理由を、聞かせてもらっても?」


俺、アイン・レングラーは、手元の羽ペンを置いて静かに問い返した。


怒りはない。ただ、このタイミングでの宣告が少しだけ意外だっただけだ。


「分からないなら教えてやる。お前が『無能』だからだ」


ガイルが嘲笑うように鼻を鳴らした。


「お前の職業(クラス)は【書記官】。戦闘中は後ろで魔物の数を数え、ドロップ品を記録し、野営の帳簿をつけるだけ。前衛で命を懸けている俺たちからすれば、お前はただの荷物持ち以下の寄生虫なんだよ」


「そうね。アインがいるだけで報酬が等分されるのは、正直ずっと不満だったわ」


聖女マリアが冷ややかな視線を向けてくる。


「それに、アインの書記魔法? あれも地味すぎるッスよ。次に加入する予定の賢者様は、広範囲の超火力が撃てるんスから」


武闘家のバウクもヘラヘラと笑いながら同意した。


彼らの言い分は、世間一般の常識からすれば正しい。


剣と魔法が支配するこの世界で、【書記官】などという非戦闘職が勇者パーティーにいること自体が異端なのだから。


だが、彼らは一つだけ、決定的な勘違いをしている。


「……そうか。分かった。これまで世話になったな」


俺は反論することなく、静かに立ち上がった。


これ以上、彼らに付き合う義理もないし、何より俺自身、そろそろこの「お守り」に限界を感じていたのだ。


「物分かりが良くて助かるぜ。これは退職金だ。せいぜい田舎にでも帰って、ちまちま帳簿でもつけて生きるんだな」


投げ渡された銀貨数枚の入った革袋を受け取り、俺は部屋を後にした。


背後から、「これでようやく俺たちの真の力が発揮できるぜ!」「ええ、魔王討伐なんてあっという間ね!」という歓声が聞こえてくる。


俺は宿屋の廊下を歩きながら、ふぅと小さくため息をついた。


「真の力、か……」

懐から、一冊の分厚い本を取り出す。


表紙には何の文字もない。だが、俺が魔力を通すと、ページが自動でパラパラと捲られ、あるページでピタリと止まった。


そこには、ガイル、マリア、バウクの三人の名前と、詳細なステータスが記述されている。


彼らは知らない。俺の【書記官】という職業が、ただの記録係などではないということを。


俺の固有スキル【世界編纂(ワールド・エディット)】。


それは、この本に名前を記録した対象のステータス、スキルの威力、果ては運の数値すらも自由に「書き換える」ことができる、神の如き権能だ。


ガイルの剣が常に敵の急所を捉えていたのは、俺が彼の『命中率』を常に100%に書き換えていたから。


マリアの回復魔法が底なしだったのは、俺が彼女の『魔力消費量』をゼロに設定していたから。


バウクがどんな攻撃を受けても倒れなかったのは、俺が『致命傷無効』の概念を付与していたからだ。


「パーティーを抜ける以上、この設定はもう必要ないな」


俺は羽ペンを取り出し、三人の名前に横線を引いて「削除」した。


その瞬間。


彼らに付与されていた数々の異常なバフ――『獲得経験値10倍』『全ステータス補正+500%』


『絶対幸運』などが、すべて白紙に戻った。


本来の彼らは、同年代の冒険者より少し毛が生えた程度の、ただの凡人に過ぎない。


これから彼らがどうなるか、想像に難くないが……俺にはもう関係のないことだ。


宿屋を出ると、外は静かな夜だった。

肌寒い夜風が頬を撫でる。


数年ぶりの自由。これから何をしようか。まずは静かな街で、のんびりと本でも読みながら暮らすのも悪くない。


そう考えながら大通りを歩いていると、不意に、目の前に一台の豪奢な馬車が停まった。


黒漆塗りの車体に、金糸で刺繍された皇室の紋章。


馬車の扉が開き、一人の少女が降りてくる。


月明かりを反射して輝く、透き通るような銀糸の髪。


吸い込まれそうなほど深い真紅の瞳と、誰もが息を呑むような圧倒的な美貌。


「――待ちくたびれましたわ、アイン」


帝国が誇る最強の竜騎士にして、次期皇位継承者。


『氷の戦乙女』の異名を持つ皇女、リリア・フォン・クロスロード。


幼き頃、俺がこの力で命を救った幼馴染であり……なぜか俺に異常なほど執着している少女だった。


「リリア? どうしてこんなところに……帝国にいるはずじゃ」


「あなたが無能な勇者どもに捨てられるのを、ずっと待っていたのです」


リリアはツカツカと歩み寄ってくると、俺の腕にギュッと抱き着いた。


周囲の護衛騎士たちが、見ちゃいけないものを見たような顔で一斉に顔を背ける。


「ちょっ、リリア、苦しい」


「いいえ、離しません。あんな見る目もない愚か者たちのことは忘れて、私のところに来なさい。辺境に新しい領地を用意しました。そこで、私と一緒に暮らすのです」


氷の戦乙女と呼ばれる彼女だが、俺の前では昔からこうだ。


上目遣いで見つめてくる真紅の瞳は、まるで主人の帰りを待っていた子犬のように潤んでいる。


「……領地って、お前、皇位継承はどうしたんだよ」


「あなたと一緒にいられない皇位など、何の価値もありませんわ。さあ、私にあなたの『魔法』をかけてください。二人で、世界一幸せな国を作りましょう?」


彼女は知っている。


俺の【世界編纂】が、ただの支援魔法ではなく、世界そのもののルールを書き換える規格外の力であることを。


「……仕方ないな。少しだけ休ませてくれよ?」


「ふふっ、もちろんですわ! ベッドの準備も万端です!」


「いや、そういう意味の休みじゃなくてな……?」

こうして、俺の勇者パーティーとしての退屈な日々は終わりを告げた。


最強の力を持つ書記官と、彼を溺愛する銀髪の皇女。


のちに世界中を巻き込み、新たな神話として『記録』されることになる二人の物語は、この夜から始まったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。