16
夏が去って、雲は千切れ千切れに。土手沿いには、セイタカアワダチソウが広がりを見せはじめ、秋の気配が日を追うごとに濃くなってゆく。
自然とは不思議なもので、錦秋に染まり始めた色合いは雑多ながらも美しく、見事に調和がとれていた。
されど、人の心模様は上手くはいかず。
その一言、仕草のひとつひとつに困惑するばかりで。迷い子のように心細く、おぼつかないままに。
橋の上での一件は、彼に相談出来ないでいた。直接被害を受けたわけではない。彼を巻き込みたくもない。何よりも昼休みのわずかなひと時。素顔で笑える時間に暗い影など落としたくなかった。
作った笑顔はそのまま自分自身にも向けられ。笑顔と泣き顔の狭間でどちらにも転びそうになりながら、辿々しく危うい均衡を保っている。
「明日、放課後時間とれる? ちょっと、遅い時間になるかも知れないけど」
白い御飯の上に、ごま塩を振っただけのお弁当を食べながら彼はそう尋ねてきた。
「遅くって?」
「八時くらいかな。どう?」
門限は八時。少々厳しい。施設の方に相談してみないと、分からない。
「返事は明日でいい?」
ごま塩御飯を頬張って、もごもごさせながら彼は首を何度も縦に振る。
「なにをするの?」
「……秘密」
彼はいたずら小僧のように笑う。あの時と同じような悪い顔で。
翌日、施設の方に相談してみると思いの外あっさりと許可は降りた。ただし、一時間だけの延長。何度も「九時まで」と、念をおされる。
勉強会だと嘘を吐いたことに、後ろめたさを感じるが、私にとってむしろ勉強などよりも余程、大事なことだった。
隠せやしないのに。
……分かっている。マスクひとつで隠し通すことなんて出来やしないことなんて。
きっといつか。その代償を払うときが来る。けれどそれは今じゃなく、もう少しだけ先のことであってほしい。
願うようにポケット中のおまもりを、強く握りしめた。
彼に施設の許可が降りたことを伝えると、午後七時に高校の正門で落ち合うことになった。
授業を終えて、その日の夕方。
自室で眺めるのはこの夏、一度も袖を通すことのなかったプレゼントのワンピース。
今日、着ていこうか――?
まだ秋口とはいえ、日が沈んだ晩は涼しくなった。半袖の夏物ワンピースでは肌寒いかも知れない。悩み抜いた挙げ句、約束の時間よりもうんと早くに。
まっさらなワンピースを身につけて、薄手の上着を片手に施設を後にした。




