第1話:太陽のような彼女
第1話:太陽のような彼女
兵庫県神戸市。山と海に囲まれたお洒落な街の、さらにど真ん中にある「聖マリアンナ看護専門学校」。そこが、僕、タカシ(18歳)の新天地です。
正直に言いましょう。僕は超がつくほどのド田舎出身です。
そこでは毎日泥にまみれて喧嘩をし、改造バイクで夜風を切り、小遣いを握りしめてはパチンコ屋へ吸い込まれる……そんな「男くさい」生活を謳歌していました。「女と遊ぶより、野郎とつるむ方が100倍おもしろい!」本気でそう思っていたんです。
ですが、そんな僕も今日からは「将来有望で純朴な、志高い看護学生」です。
黒髪に整え、眉毛もいじらず、猫を被れるだけ被って入学式に臨みました。
「喧嘩? バイク? 何のことですか?」
そんな顔をして、僕は都会のキラキラした空気を吸い込んだのです。
式典の最中、隣に座っていたのは僕と同じく田舎の香りがする「ケンちゃん」でした。
(……こいつ、喧嘩弱そうだな。パシリにはちょうどいいか。いやダメだ! 人を戦闘力で見るのは高校で卒業したんだ!)
僕は自分を戒め、彼と「純朴キャラ」同士、仲良くすることを誓いました。
ところが、運命はそう甘くありません。入学式直後のクラス分けで、唯一の戦友・ケンちゃんとはあっさりと別のクラスになってしまったのです。
(くっ、僕のパシリ……もとい、心の支えが!!)
絶望に打ちひしがれながら教室へ入ると、そこは女子、女子、女子の嵐。男子は僕を含めて数人しかいません。
圧倒的なアウェイ感に、僕は借りてきた猫どころか、借りてきたナメクジのように小さくなって席に着きました。
名前順に配られる大量のプリント。「後ろに回してね」という先生の声に、前の席の女子が振り返りました。
「はい、これ」
その瞬間、僕の視界がホワイトアウトしました。
そこにいたのは、はにかんだ笑顔が眩しすぎる、一人の女の子でした。
都会の空気を含んださらさらの髪、少しだけ大人びたチーク、そして吸い込まれそうな瞳。彼女が笑うと、まるで教室の中に太陽が昇ったかのような錯覚に陥りました。
ドキン、と心臓が跳ねました。
(なんだこれ……。都会の女の子って、こんなに光ってるの!?)
これまで「女なんて」と強がっていた僕のプライドは、たった一秒で粉々に砕け散りました。
彼女の名前は「エミ」。名簿で確認したその三文字が、僕の脳内で黄金に輝き始めました。タカシ、18歳。人生で初めて「恋」という落とし穴に、頭から突っ込んだのです。
……しかし、幸せな時間は3秒も持ちませんでした。
エミさんが前を向いた直後、隣の席から別の美少女が「そそそっ」と忍び寄ってきたのです。彼女は僕の机に身を乗り出し、耳元で囁きました。
「ねえ、君。あの子のこと見てたでしょ?」
「え、あ、いや……」
「無駄だよ。エミ、もう彼氏いるから」
……その情報、今いりますか!?
親切心なのか、それとも新入りの僕への警告なのか。
謎の告げ口キャラの登場により、僕の初恋は、誕生したその日に「失恋」という名の墓場へ片足を突っ込むことになったのです。
純朴キャラの偽装、男子少なめの完全アウェイ状態、そして秒速で散った初恋。
僕の波瀾万丈な看護学生ライフは、こうして賑やかに幕を開けたのでした。




