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神は斬れるのかを確かめたいだけの第一王女、気づいたら世界を壊していた  作者: 玉響すばる


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第9話 神の座標

 道は、静かに続いていた。


 先ほどまでの歪みも、圧力もない。


 ただ、まっすぐに。


 迷いようのない一本の道が、三人の前に伸びている。


「……露骨ですね」


 エルドが低く呟いた。


「はい」


 リゼットも短く応じる。


「誘導されています」


「ええ」


 セレスティアは素直に頷いた。


「分かりやすくて助かりますね」


「普通は警戒する場面ですが」


「そうでしょうか?」


 セレスティアは首をかしげる。


「目的地が明確なのは良いことですよ」


「……そういう問題では」


 エルドは言いかけて、やめた。


 もはや、このやり取りに意味はない。


 理解している。


 この方は、どこまでも“正しい”のだと。


 ただし、その正しさは――世界の基準ではない。


 やがて。


 道は、終わった。


 いや、“到達”した。


 そこにあったのは、空間ではない。


 概念。


 “場所”という定義すら曖昧な、何か。


「……ここが」


 エルドが息を呑む。


「中枢……」


 視界に映るものは、何もない。


 だが、確かに“ある”。


 すべての中心。


 すべての起点。


 すべての終点。


「ようこそ」


 声が、響いた。


 これまでとは、決定的に違う。


 明確な意思。


 明確な知性。


 そして――


 明確な“存在”。


「到達を、確認しました」


 セレスティアは、静かに一礼した。


「お招き、ありがとうございます」


 その所作は、ここでも変わらない。


 完璧な淑女のそれ。


「……興味深い」


 声が、わずかに揺らぐ。


「この状況で、その振る舞いを維持するとは」


「礼儀は大切ですから」


 セレスティアは微笑む。


「相手がどなたであっても」


「……なるほど」


 一拍。


「理解しました」


 空間が、わずかに“形”を持つ。


 輪郭が生まれる。


 だが、それは完全ではない。


 人の形に近いが、人ではない。


 光と概念で構成された存在。


「私は、この世界の中枢」


 声が、明確になる。


「いわゆる“神”と呼ばれる存在です」


 エルドが、完全に沈黙した。


 リゼットはわずかに姿勢を低くする。


 そして。


 セレスティアは。


「そうですか」


 ただ、頷いた。


 驚きも、畏怖もない。


 ただの確認。


「では」


 剣に手をかける。


「ひとつ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」


 “神”は、わずかに間を置いた。


「……許可します」


「ありがとうございます」


 セレスティアは、やはり丁寧に礼をする。


 その一連の動作が、あまりにも自然すぎて。


 この場の異常性を、逆に際立たせる。


「神様は」


 一拍。


「斬れるのでしょうか?」


 沈黙。


 だが、今回は違う。


 すぐに答えが返る。


「……結論から言えば」


 わずかな間。


「不可能です」


 エルドの心臓が、強く跳ねた。


(断言した……!)


「私は概念であり、世界そのものと同一です」


 “神”は続ける。


「物理的干渉は成立しません」


「なるほど」


 セレスティアは頷く。


「では」


 ゆっくりと、剣を抜く。


「試してもよろしいでしょうか?」


 エルドは、目を閉じた。


(やはり、そうなる)


 分かっていた。


 分かっていたが。


 止めることはできない。


「……許可しません」


 “神”の声が、わずかに強くなる。


「その行為は、この世界の維持に重大な影響を与えます」


「そうなのですか?」


 セレスティアは少しだけ考える。


「では、影響の少ない範囲で」


「範囲の問題ではありません」


「なるほど」


 一瞬の沈黙。


 そして。


「では、少しだけ」


 セレスティアは微笑んだ。


 その微笑みは、やはり穏やかで。


 やはり美しく。


 そして――


 やはり、危険だった。


「失礼します」


 剣が、振られる。


 それは、これまでと何一つ変わらない動作。


 ただ。


 対象が違う。


 次の瞬間。


 “何か”が、切れた。


 音はない。


 光もない。


 だが、確かに。


 世界の“どこか”が、ずれた。


「……」


 “神”が、沈黙する。


 それは、初めての反応だった。


「今のは」


 セレスティアが、小さく呟く。


「少しだけ、手応えがありましたね」


 その言葉に。


 “神”は、ゆっくりと応じた。


「……干渉、確認」


 声に、明確な揺らぎがある。


「概念層への影響……微小」


 だが。


「……しかし」


 一拍。


「成立している」


 エルドの思考が、停止した。


(成立……?)


 それは。


 つまり。


「やはり」


 セレスティアの瞳が、わずかに輝く。


「斬れるのですね」


 その結論は。


 あまりにも軽く。


 あまりにも――決定的だった。


 “神”は、沈黙した。


 否定できない。


 否定すれば、事実と矛盾する。


 だが、肯定すれば――


 世界の前提が崩れる。


「……再定義が必要です」


 “神”は、静かに告げた。


「あなたという存在を」


 その声には、これまでになかったものが混じっていた。


 恐怖でも、敵意でもない。


 ただ――


 “未知”への警戒。


「そうですか」


 セレスティアは、嬉しそうに微笑む。


「では」


 もう一度、剣を構える。


「もう少しだけ、確認してもよろしいでしょうか?」


 エルドは、完全に思考を放棄した。


 リゼットは、ただ静かに頷く。


 そして。


 “神”は。


 初めて、“選択”を迫られていた。


 ――この存在を、どう扱うか。

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