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氷魔法の弓騎士 ~パン屋の息子は騎士になる~  作者: もっちゃれら
第一章 訓練生編
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閑話 お父さんは風魔法使い


「ライラー!そろそろ降りてきなさーい!」


「はーい!」


「今日のご飯はシチューよ」


「やった~!」


「お姉ちゃん、にんじん食べて~」


「はは、ティオはにんじんが嫌いか~」


私の家族は、みんなお母さんの手料理が大好き。

お母さんは、ご飯を食べられるのはお父さんが働いてくれるおかげだって言う。

私のお父さんは、王都の衛兵だ。

お父さん、お母さん、私、弟の四人家族で、王都の東側にある住宅が並ぶ区画に住んでいる。

私はもうすぐ十二歳で、弟は九歳。


お父さんの趣味はハイキングで、お母さんは旅行が好き。

だから、たまにトロモ村に山菜採りに行く。

距離が近くて、旅行もハイキングも兼ねられるし山菜が採れて一石三鳥だから。


そして今日はそのトロモ村へ行く日。

家族で大門の脇の停留所に来た。


「よーし、今日は沢山採るぞ~!!」


「お~!!」


久しぶりのお休みに、お父さんと弟がはしゃいでる。

昔はお父さんの元気なところが楽しくて好きだったけど、最近ちょっと子供っぽいと思うようになった。


馬車に乗り込んでしばらく待っていると出発の鐘が鳴る。

大門を抜けてガタゴト揺られながら長閑な景色をひたすら眺める。

だんだん眠くなってきて、私と弟は眠ってしまった。


目が覚めると、トロモ村に到着していた。

馬車を降りて、通い慣れている両親の後について歩く。


受付の看板が掲げられた建物に入ると、優しそうなおじさんがカウンターに立っていた。



お父さんが入山許可証と背負い籠を貰い、建物から出て少し歩いて、山菜採りコースの入り口まで来た。

向こうにはキャンプの入り口があるらしい。


「お疲れ様でーす」


「お疲れ様です」


入り口の警備をしている兵士さんとおとうさんは顔見知りみたい。


入り口をくぐると目の前から緩やかな坂道が始まっている。

道の脇にはもう自生した山菜があって、お年寄りの人たちが和気あいあいと採取している。

父曰く、低い位置の山菜は足腰の弱いお年寄りが優先的に採るものという暗黙の了解があるらしい。

なので私たち家族は、なるべく高いところに採取しに行くらしい。

お父さんが山歩きしたいっていうのが主な理由な気がするけど。



春の日差しが気持ちいい。

小鳥のさえずりを聴きながら、山道を歩く。

どこからか風に乗って花の香りが漂ってくる。

この山には何回か来たことがあるけど、私はこの香りが大好きだ。


「この辺りにはゼンマイがたくさんあるはずよ」


お母さんが先頭を歩きながら振り返る。


「お母さん、これゼンマイかな?」


掴んだのは、渦を巻いた若い芽。


「それよ。上手に見つけたわね」


お母さんがそっと覗き込んで微笑む。

私はそれを摘んでお父さんの籠に入れて、ちょっと嬉しくなった。


まるで宝探しみたい。


少し離れた場所ではお父さんが大きな声で「こっちにもあるぞ!」と呼びかけて、弟が走っていく姿があった。

それを横目に、私は次の宝探しを始める。

春の山は静けさの中に鳥のさえずりや遠くの川のせせらぎが響き渡り、まるで自然そのものが家族を歓迎しているかのようだ。


「お姉ちゃん!」


弟の声がして振り向くと、その手には大きなフキノトウが握られている。

「すごいね!」と手を叩いて褒めると、弟は得意げに笑う。


山の空気は澄んでいて美味しいな。


しばらく夢中で山菜採りをして、お父さんの籠を見ると山菜がこんもり詰まっていた。

今日はたくさん採れたし、家族で過ごす時間も楽しいし今日はいい日だ。


「お姉ちゃん、あそこにすごいのがある!」


ふと前を歩く弟の姿に目を移すと、弟は急斜面の際にある一本の木を指していた。


「えっ、どれ?」


目を凝らすと、そこにはタラの芽の大きな束が見える。確かに立派だけど、場所が悪い。

急な斜面に生えているそれを採りに行くのは危険に思えた。


「危ないからやめたほうがいいよ」


「大丈夫だって!」


弟は勢いよく斜面を降り始めてしまった。


「ちょっと、待って!」


「ティオ!待ちなさい!」


お母さんの制止も届かない。

慌てて追いかけるも、弟は足を滑らせてしまった。

バランスを崩し、斜面をずるずると滑り落ちていく。私は反射的に手を伸ばし、腕を掴んだ。


「掴まって!」


弟は必死に私の腕を掴む。

私は勢いよく引き上げようとするが、その反動で足元の土が崩れた。


「あっ」


私たちの体は重力に従って滑り出し、斜面を転がり始めた。ざらざらと土が崩れる音とともに、彼女の視界がめちゃくちゃに回る。

とっさに手を伸ばすが、つかめるものは何もない。


「お父さん!」


そう叫ぶが、声は届きそうにない。


地面に叩きつけられる、そう思った瞬間。

急に体がふわりと浮いた。

そんな優しい表現とは真逆の暴風が、私と弟の体を持ち上げ斜面に縫い付けてくれた。

私と弟が止まると、風は嘘のようにどこかへいった。


「ライラ、ティオ、大丈夫か!」


聞き慣れたお父さんの声が上から響く。

見上げると、真剣な表情で両手を翳しているのが見えた。


「そこで待ってろ!今行くからな!!」


お父さんが下りてきて、今度こそ引き上げてくれた。

少し汗ばんだ顔をしながら、すぐに私と弟に目を向けた。


「ケガはないか?」


「平気・・・お姉ちゃんが助けてくれた」


「うん、私も大丈夫」


「何もなくて良かったわ」


お母さんが少し涙を浮かべて胸を撫でおろした。


「お父さん・・・それ、風魔法?」


「ああ、お父さんの魔法は風の魔法なんだ」


私は、助けてくれたお父さんの手を握りしめた。


やっぱり、お父さんてかっこいいな。

わたしも大きくなったら、誰かを助けられるようになろう。


心の中で密かに決意して空を見上げると、まだ明るいのに周囲は少し暗くなっていた。

山の夜は早い。みんなで安全に注意して山を下りていく。

と言っても山道自体は緩やかだから、見つけた山菜は採るけどね。



ちなみに今日採った山菜は、後日てんぷらにして家族で美味しく頂きました。

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