月夜の考え事 『体質』のルールとシミュレーション仮説
月夜の考え事はさらなる深みに落ちていく。
現状分かっているのは俺の出生体重から増えた分だけ経済指標が連動して良くなっていったということだ。約3.2 kg で生まれた俺が、その2倍の6.4 kg になったとき、我が国の経済指標は俺が生まれた日からだいたい2倍の数値になっていた。
出生体重を基準にして、そこから単純に1:1の関係で連動しているのだと考えていたし、事実、そうだったのだろう。12歳で15倍というのはこの基準で成し遂げられるはずだ。
だが、先週の様子はこれと逸脱していた。先週の増加体重は5.3 kg であり、先の条件に当てはめるならば10%前後の変動をしていなければおかしいことになる。実際には3%前後の上昇にとどまった。
葵もこの違和感に気づいていたのだろう。先ほど見せた物憂げな表情は『体質』の法則性について考えていたに違いない。
体重の減少についても検証しなくてはならない。俺が死んだ場合の検証はしていないといったが、これは基準次第では俺の死が国の終わりを意味する。パターンはいくつか考えられる。
一番都合のいいシナリオは死んだ時点で連動が切れるパターンだ。何の悔いもなく死ねる。
次に、生死に関係なく体重依存だった場合。これは死んだあと肉体が徐々に朽ちるように国が衰退していくのだろう。火葬か土葬かでも違いが出そうだ。
最後に、死んだと同時に体重が0と判定されるパターンだ。このパターンでも経済が16年前の水準に戻るか、文字通り0になるかでさらに細分化される。
いずれにせよ、『体質』のルールがわからない以上、安心して死ぬことすらできない。俺たちはもっと深くルールについて知る必要がある。
ルールの中で最も不可解なのは『体質』によってもたらされるのが、資源であったり技術であったりすることだ。神のような存在が惑星全体に影響を及ぼしていない限り、体重のリアルタイム反映なんてマネはできないはずだ。
「シミュレーション仮説」というものがある。我々が住んでいる世界はすべてシミュレーターの中の出来事であり、バーチャルの中を生きているのだとする仮説だ。
自らの存在は、より上位の存在が作ったゲームの中のキャラクターなのかもしれないという突飛な案は、面白いネタとして消化されるにとどまっている。
しかし、自分が持っている『体質』は一つの特異点として世界に与えられたものであると考えると、こうした論でも再検証してみたくなる。
世界の謎はともかくとして、まずは法則について正確に知らねばならない。そのためにも葵の検証には乗る必要があるのだと暴飲暴食に理由を付け、眠りに落ちた。
6/9 先の条件に当てはめるならば"2.5倍以上"の変動をしていなければおかしいことになる。 → 先の条件に当てはめるならば"10%前後"の変動をしていなければおかしいことになる。に変更
6/9 実際には"10"%前後の上昇にとどまった。 → 実際には"3"%前後の上昇にとどまった。に調整
6/9 これはベースを1週間前の62 kg で置いたときに成り立つ値だ。 → 削除
当初設定では明らかに計算間違っていました。また、展開のため数値を調整しました。よろしくお願いします。