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とある魔物討伐クランの活動記録  作者: 良田めま
第四話 古き聖者の探訪記録
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1. 裏の仕事

【あらすじ】

国の極秘依頼を受けたアイーダ、ジーン、イオリの三人は、南東の村オーサムに向かう。

その先で待っていたのは古代研究の第一人者と、とある歴史的な大発見だった。

 第四話 古き聖者の探訪記録



 勇世歴1000年 8月


 裏の仕事。

 それは何も、暗殺や盗賊まがいといった汚れ仕事ばかりを指すものではない。表には出せない危険な依頼や、やんごとなき方々からの秘密の依頼などが含まれ、内容も魔物の討伐に限らない。


 中でも特に重要なのが、国の機密に関わる極秘依頼だ。

 普通は国の機関で回されるものだが、厄介で手に負えないと判断された場合、個々の能力が高い民間クランに降りてくることもある。


 ただし、実力があればどこでもいいというわけではない。

 大事なのは信頼だ。

 何があっても契約を遵守するだろうという信頼。

 どんな強敵でも必ず滅ぼすだろうという信頼。

 その両方を兼ね備えたクランはとても少ない。更に王都に拠点を持つとなると、〈千年氷柱〉くらいしか選択肢がないのだった。


「で、あたしらは何すりゃいいの?」


 すっかり眠気の吹き飛んだアイーダが、腕を組みつつ尋ねる。

 部屋にいるのはフォルス、アイーダ、ジーン、イオリの四人。呼び出されたということは、この三人で事に当たれということだ。

 アイーダは他の二人の顔を見回し、


「いくら極秘依頼だと言ってもこの面子はやり過ぎじゃないの?」

「確かに」


 同調してイオリが頷いた。

 ジーンは敵中に飛び込んでの広範囲殲滅、イオリは一対一、特に長距離からの一方的な討滅を得意とする。この二人がいれば、質・量ともにどんな強敵が現れようと、余程のことがなければ問題にならないはずなのだ。

 二人に加えてアイーダもとなると、問題は魔物とは別のところにあるのだろうか。

 フォルスは椅子の上で胡座を掻くと、含みのある笑みを浮かべた。


「言っただろう。極秘だと」

「だからそれは何なのって聞いてるんだけど」

「せっかちなヤツだな。いいから聞け。お前たちに向かってもらうのは、ここから南東にあるオーサムという村だ」


 そう言って、大陸地図を広げて見せる。

 王都の東に伸びる街道は、南北を山脈に挟まれたイルタ砦へと通じている。その手前で南に下り、更に山に沿って進んだ先にあるのがオーサム村だ。扇状に広がった土地で、人口はあまり多くないが果樹栽培が盛んである。街道よりも山寄りなので、用がなければ立ち寄ることはない。


「そのオーサムって村がどうしたのさ? 十年級の魔物でも出た?」

「それくらいでお前たち三人を選んだりせん。村自体に異変はない。特に強力な魔物が出現したわけでもない」

「それでは?」


 地図に見入っていたイオリが顔を上げ、アイーダの疑問を引き継ぐ。


「近隣の山で、ある重要なものが見つかった。国は発見した事実そのものを隠したい。ゆえに大規模な人員は動かせない。そこで俺たちに白羽の矢が立った」

「なるほど。ちなみに私は外国人だがよいのだろうか」

「問題ない」


 今回の仕事はフォルス自身が相手側のトップと直接会ってもぎ取った、いや押し付けられたものだ。その代わりメンバーの選抜はこちらでやるから文句は言いっこなし、で決まった。ジーンとイオリに加えて有望株のアイーダという最高に近い布陣だ。これなら向こうも納得するだろう。

 だがしかし、別に相手を納得させたくてこの三人を選んだわけではない。

 ちゃんと理由があるのだ。

 ひとまずそれは置いておいて、フォルスは地図を指しながら説明を続ける。


「律儀に街道を行けばまるっと三日はかかるが、ラスール湖沿いに歩けば、お前たちなら一日もかからんだろう。水晶花を出せ」


 言われるがまま、三人は自分の水晶花を差し出す。

 これは入団する際、フォルスに肌身離さず持ち歩くよう渡されたクラン員の証だ。彼の魔力そのものと言ってよく、力任せに金槌を振り下ろそうがナイフを突き立てようが傷一つつかないという代物で、かなりぞんざいな扱いをしても平気である。フォルスはあまりいい顔をしないが。


 アイーダは財布の根付に。ジーンはそのまま懐に。イオリは簪の飾りに。

 それぞれの掌に載った水晶花にフォルスが手を翳すと、花弁の一つがぼんやりと白く光った。


「オーサムの方角が分かるようにしてやったぞ。道が分からなくなったら、光が示す方へ進めばよい」

「へーえ。地味に便利だねぇ」

「地味って言うな」

「でも光量が脆弱すぎてランプの代わりにはならないな」

「代替品にしようとするな!」


 得意げに胸を張るフォルスだったが、ありがたみを理解しようとしないアイーダの言葉にプンスカと腹を立てる。

 そんな二人のやりとりにジーンとイオリは顔を見合わせ、どちらからともなく溜息をつく。


「それで? 俺たちは何をすればいい」

「ぐぬぅ……。……護衛だ。オーサムで向こうの者と落ち合い、指示に従え。その者たちの護衛をする」

「そいつらは何者だ?」

「知りたければ本人に直接聞け。お前たちは護衛対象が怪我をせぬよう、降りかかる火の粉を払えばよい」

「分かった」


 本当に分かっているのか分からない淡白さで、ジーンは頷く。フォルスは少し心配になりながら、イオリの方へ真顔を向けた。


「頼むぞ、イオリ。ついでにアイーダ。ジーン(こいつ)が道に迷わぬよう、しっかり見張るのだ」

「承知した、マスター殿」


 イオリは余裕のある笑みで、トンと胸を叩いた。


 ジーンの方向音痴は病的なもので、王都を出る際は必ず付き添いをつけるのが常となっている。彼単独で依頼に向かう場合は、依頼者側から道案内を出すのが決まりだ。もちろん往復で、その費用はこちら持ち。

 そこまでしても行方不明になることが二年に一度ほどあるので、ジーンの方向感覚はまったくもって信用がない。行方が分からなくなっても最終的には帰ってくるあたり、帰巣本能の方がまだマシといった具合だ。


 しかし、イオリとアイーダがフォローしてくれるなら一応安心できる。一人でも迷子になる確率はぐんと下がるが、今回は二人もいるのだ。きっと大丈夫だろう。正直なところ、今回三人を派遣する理由の三分の一くらいはそこにある。


「と、ここまでが"依頼"の話だ」


 意識を切り替え、足を組み直す。

 変化した雰囲気を敏感に感じ取った三人は、無意識に居住まいを正した。

 その様子に満足したフォルスは、自然と口の端に笑みを上らせる。


「そして、ここからが俺の"極秘命令"だ」


 本題はここから。

 いつもと違う成り行きに、フォルス以外はいよいよもって表情を引き締めた。


 +++


 ラスール湖の岸辺で一晩野宿したアイーダたちは、朝早くオーサム村に向けて出発した。

 王都周辺は頻繁に討伐隊による"魔物掃除"が行われるため、雑魚魔物すらほとんど見かけることがない。道なき道を行くため人に会うこともなく、街道と並走する「白い路」を越えてからも順調に旅は続いた。


 そして、正午を回った頃。

 彼らはオーサム村の門前に立っていた。


 丸太で組み立てられた簡素な門。柵の足元を流れるのは農耕用の水路だ。南には山から来た川が流れていて、それを挟んだ村の南側は広い果樹園となっている。

 小規模の村らしく民家と民家の間隔が広く、人もあまり見かけない。大半の大人は果樹園や畑で仕事をしているのだろう。


 入り口からは踏み固められた土の道が真っ直ぐ伸びている。村の中央に続いていることは想像に難くない。


 柵には十数頭の馬が繋がれている。それを世話する騎士が数名。魔物討伐の名目で派遣されてきた護衛隊の者たちだ。彼らも増援の話は聞いているのか、こちらに小さく会釈してきた。

 釣られて会釈し返すけれど、目的の人物は彼らではない。三人は彼らの横を通り過ぎて村の中へ入った。


 長閑すぎる景色の中を、アイーダとイオリはきょろきょろと頭を動かしながら歩いてゆく。


「へぇー。結構良さげなトコだね」

「そうだな。私の生まれ故郷に雰囲気が少し似ているかもしれない」

「ちょっとくらい暴れても文句言われなそう」

「……頼むから大人しくしていてくれよ」

「はいはーい」


 イオリはジーンの首根っこを掴んで軌道修正しながら、深く溜息をついた。


 そのまま道を進んで辿り着いたのは、井戸のある広場だ。周囲に数軒の家がある。薬やら雑貨やらを売る店のようだ。何人か村民がいて、アイーダたちは好奇の視線を受けた。


 目的の人物はすぐに見つかった。垢抜けた気配が隠しきれず、周囲に溶け込んでいない。

 亜麻色の髪を一括りにして背中に流し、眼鏡をかけた女性だった。化粧っ気のない顔は自信に溢れ、まっすぐ前を見据えている。着ているのは動きやすさを重視した木綿のサファリジャケットで、持ち物はベルトポーチ一つ。大きな荷物は、これから向かうキャンプにでも置いているのだろう。


 向こうもこちらに気付いたらしく、大きな目を好奇心に輝かせて、ぶんぶんと手を振り回した。


「やっと来たわね! 待ってたわよ。さあすぐ出発!」


 元気の良すぎる反応に、思わず苦笑がこぼれる。


「あれで魔物退治は無理があるね」


 疑う村民もいないだろうけど。


 ともあれ、彼女が護衛対象の一人で間違いなさそうだ。

 トラン王国における古代研究の第一人者。若き才媛。一年のほとんどを実地に費やし、付いたあだ名は旅するリサーチャー。

 サラ・コスナー、27歳。

 そして彼女の後方で深々とお辞儀をする異国の少年の姿に、イオリは軽く目を瞠るのだった。

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