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とある魔物討伐クランの活動記録  作者: 良田めま
第三話 金の卵の捕物記録!
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8. 小人さんの言うことにゃ

 悲鳴が聞こえてすぐに、ディーノたちは振り返った。声が聞こえたのは、彼らのすぐ近くからだった。

 家と家の隙間の細道に、男性がうつ伏せになって倒れている。裏道から表通りに逃げようとして、できなかったのか。救いを求めるように伸ばされた手が、ピクピクと痙攣していた。


「なっ、なに!?」

「分かりませんけど……大変だ、助けないと!」


 いの一番に駆け寄ったディーノは、男性を揺り起こそうとしゃがみこんだ。

 その瞬間。


「うっ!?」


 咄嗟に鼻と口を手で覆い、男性から飛び退く。


「何やってるの!? 早くその人を……うえっ」


 入れ替わりに救助に向かったフェリスもまた、両手で口鼻を押さえる。しかし間に合わなかったらしく、目に大きな涙を溜めた。


「く、くさひ……」


 そう。男性は臭かった。とてつもなく臭かった。

 腐敗した卵と魚を牛の群れに放り込んだような臭いだとディーノは思ったが、口にしたらもっと鼻がおかしくなりそうなので言わなかった。


「うう、臭いが直接脳内に入ってきそう……」

「フェリスさん、その表現はちょっとグロいです」

「うわー! 自分で言って想像しちゃった!」


 騒ぐ彼らを、ノアは「何やってるんだか」と呆れた眼差しで見ている。そういう彼女は、ちゃっかり倒れた人から距離を取っていた。だがもちろん、そのままというわけには行かない。


「フェリス、魔法。風で臭いを吹き飛ばして。なるべく上の方にね。纏めて空へ持っていくイメージだよ」

「わ、わかった」


 フェリスは目を瞑り、口の中で何やらごにょごにょ呟いた後、えいっと両手を上に掲げた。

 男性を中心に淡い緑の光を孕んだ風が生まれ、しばらくグルグルと渦を巻いた後、シェードや洗濯物をはためかせつつ空へと駆け昇った。風で窓がガタガタと音を立ててしまったが、これくらいなら問題ないだろう。たぶん。


 ディーノたちは恐る恐る倒れた男性へと近づいていく。まだ臭気が残っているのではないかとビクビクしたが、大丈夫そうだ。むしろ爽やかで、花の咲く野にでもいるかのようだ。これも風の魔法の効果なのだろうか。


「この人、手に何か持ってるわよ」


 フェリスが男性の右手を指差した。見れば、確かに男性は光を反射するものをギュッと握りしめている。


「本当だ。ピカピカしてる。……お金?」

「金色だけど、違うわね。何かしら」


 言いながら、フェリスは男性の指を開いて握っていたものを取り上げる。

 それは何かの破片だった。結構大きく、男の手のひらに収まる程度。角が割れたガラスのように尖っていて、狙い所によっては人も刺せそうだ。しかし武器にしては形が歪すぎるし、第一持ちにくい。用途がまったくもって不明だ。

 なぜ、こんなものを後生大事に握りしめていたのか?

 首を傾げていると、男性の脈を測ったりなどしていたノアが、破片に目もくれずに言った。


「それがボムエッグだよ。一足遅かったみたいだね」

「え!? これが……?」

「じゃあ、さっきのクサイの……」

「――ボムエッグの臭気は、まともに喰らえば象をも倒すと言われてる」


 ノアの眼鏡がきらりと光ると、ディーノとフェリスは瞬時にぶるっと慄いた。

 そんな二人を尻目に、路地裏をざっと見回すノア。

 薄暗い路には、使い古した荷車や木箱が置かれているだけで、他には誰も倒れたりしていない。

 幸いなことに、被害者は一人で済んだようだ。臭気が建物の中にまで入り込んでいたら知る由もないが。比較的近くにいたディーノたちが無事だったことを考えると、被害の及んだ範囲はそれほど広くない。


「たぶん大丈夫でしょう。大丈夫であってほしい。大丈夫ということにしよう」


 楽観的というか神経が図太いというか、ノアはそう自分に暗示をかけると、それ以上は綺麗サッパリ忘れ去った。


「デアレッドがこの付近で卵を産んだのは間違いなさそうだね。下手に動かすと破裂しちゃうんだ。特に上下に激しく揺らすのはダメ。割る時は一気にやらないと。持ち上げてから机に叩きつけるんじゃなくて、平たいところに押し付け」

「おれ、他に産んでないか探してきます」

「わ、わたしも!」


 講釈を垂れ流しはじめたノアを遮り、ディーノとフェリスは声を上げた。

 ボムエッグは金ピカに光る。よほど変なところに産んでいなければ、見落とすことはないだろう。

 が、二人が動こうとした直後、耳に残る不思議な声が背後から聞こえてきた。


「ノアさんー!」

「ディーノくーん!」

「フエリーちゃーん!」


 子供っぽい、甲高い声。それがキャイキャイと騒ぎながら、彼らの名を呼んでいる。いや、約一名、聞いたことのない名があったが、確実に彼女を指したものだろう。

 本人はくわっと八重歯を剥いて、


「誰がフエリーよ! わたしの名前はフェリスよ! フェ、リ、ス!」

「フエリーちゃん!」

「だーかーらぁ!」


 振り返った先にいたのは――小人だった。


 小人は三人いた。

 背丈は人間の膝くらい。性別は分からない。男の子のようにも見えるし、髪の短い女の子のようでもある。三つ子かと思うくらい皆、可愛らしい顔立ちだ。色違いになったぶかぶかのローブを着ていて、それぞれ青、黄、ピンク色だった。

 小人たちは紅葉のようなちっちゃな手を振り回し、キャイキャイと声を上げる。


「ボクたち、ロジェさまのお使いなのー!」

「めいれいだから、仕方なくでんごんゲームしにきたんだぜっ。仕方なくなっ」

「わーい! おでかけ楽しいのー!」


 ピンクがぴょんぴょん飛び跳ねる。

 一方、ディーノたちは彼らの言葉で合点がいった。


「ロジェさん、手伝ってくれるって言ってましたね。こういうことだったんだ」

「ということは、デアレッドの居場所が分かったの?」


 ノアがちょこんとしゃがみこんで尋ねた。その後ろでは、早速なぜかフェリスが青と黄色にたかられている。髪型が面白いようだ。

 そんな中、ピンクが元気に手を挙げて、


「はいっ。デアちゃんは今、この道をまーっすぐ行った先を歩いてますよ。走れば追いつけますよー」


 ということは、ボムエッグが爆発しなければ今頃デアレッドを捕まえていたかもしれない。とは言え、小人たちのおかげで確信が持てたのは助かる。あとは倒れた人をどうするかだが……。


「ご心配なく! そっちのにんげんは、あたちたちにおまかせください。ちゃーんと介抱してさしあげますよー」

「助かるよ。じゃあお願いするね」

「はいっ」


 びしっと小さな手で敬礼をする。しかし表情はとても締りがなかった。


「あっ、それから」

「なに?」

「ちょっとだけど、お話もしてきました!」

「お話? デアレッドと?」

「はい! あたちたちは木の精なので、にんげん以外ともお話できるのです。えっへん」


 よく分からないが。

 その辺の理屈はまあいい。

 ディーノは走り出したいのを我慢して、二人の会話に耳を傾けた。


「それで、彼女はなんて言っていたの?」

「それが、『あいつがどこかに去るまで帰りたくない』って」

「あいつ? 誰のことだろう」

「わかりません。デアちゃん、おしえてくれませんでした」


 ピンクはにこにこと答える。木の精にとっては、あまり気になることでもないのかもしれない。

 ノアはふうむと顎に手を当てて考えた。


「なぜ脱走したか、か……。全然考えてなかったけど、言われてみればちょっと妙かも」

「どうしてです?」


 するとノアは顎から手を離してディーノの目を見る。


「デアレッドはとても勇敢で剛胆な鳥なの。気に入らない人に対しては容赦なく攻撃するし、縄張り意識が強くて、自分が認めた相手以外は絶対に近寄らせない。ジラルトさんなんか、ホームにいる間は毎日のようにデアレッドと戦ってるんだよ」

「鳥とですか」

「結構強いんだよ、デアレッド(あのこ)。ジラルトさん、本気が出せないっていうのもあるけど、なかなか勝てなくて躍起になってるみたい。かれこれ五、六年続いてる」

「長いですね」


 思ったよりも因縁の相手だった。五年も鳥との決着がつかない戦士とは一体……。

 それはともかくとして、デアレッドの話だ。


「とにかく敵に背を見せない鳥だから、脱走したっていうのがちょっと引っかかる。何か理由があって縄張りを離れたのか。だとしたら、その理由とは何か」

「なんなんですか?」

「分からない」


 ですよね、とディーノは肩の力を抜いた。それを見たノアがくすりと笑う。


「まあ、何にしても、私たちがやることは一つだけだよ」

「デアレッドを捕まえる、ですね」

「その通り」


 結局はそれしかないのだ。分からないことは後で考えればいい。

 ボムエッグ被害者の介抱を小人たちに任せ、さあ追跡再開だと意気込んだ矢先、半泣きの悲鳴が聞こえてきた。


「いたたたっ。もう! 髪引っ張らないでったらー!」


 前髪を掴んで離さない青と黄の小人と、引き離したいフェリスが格闘していた。

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