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とある魔物討伐クランの活動記録  作者: 良田めま
第三話 金の卵の捕物記録!
22/69

1. とある一日のはじまり

【あらすじ】

二週間の特訓を終え、王都に帰ってきたディーノ。そこで彼は同じクランの仲間となる人々に出会う。

平穏なひとときが訪れるかと思いきや、専属コック・マカロフの飼っている鳥が逃げ出すという珍事が発生。

クランマスター・フォルスは賞品を餌に、団員に逃げた鳥の捕獲を命じるのだった。

 第三話 金の卵の捕物記録!



 勇世歴1000年7月


 王都グラムウェルは、フリギア大陸のおおよそ中央に位置している。

 断崖絶壁の上にあり、南の崖下には海と見紛うばかりに広大なラスール湖、北には北東国境まで伸びるホフラ山脈、西には大蛇の道との異名をもつ深い峡谷と、自然の守りに囲まれた鉄壁の都だ。

 しかし最大の特徴は、東城壁の真下――絶壁に穿たれた大穴と、そこへ吸い込まれるように伸びる「白い路」だろう。

 道幅はかなり広い。大きめの家三軒が余裕で並ぶ太さだ。

 都市間魔導列車、通称『セントーア』が走るみちである。

 白い路の両側には結界網が張られ、セントーアが接近した際には生き物が入って来にくいようにできている。たまに網目をすり抜けてセントーアの前に立ってしまった日には、ご愁傷さまと言う他ない。万が一助かったとしても、二度と近付こうとは思わないだろう。


 突然のことだった。

 白みはじめたばかりの空に、枝で羽を休ませていた鳥たちが一斉に飛び立った。

 大地が鳴動し、ドドッドドッとみぞおちを殴られるような鈍い衝撃が連続する。それは次第に街へと近づいてくるのだった。

 小高い丘の合間から、二体の巨大な人影が並んで姿を現した。

 いや、人ではない。

 人馬だ。

 人馬を模した金属の塊が、棺桶のような黒い箱をいくつも連ねたものを牽引して走ってくる。

 セントーアである。

 その勢いは見た目の無骨さと相まって凄まじく、通り過ぎる際にはまるで嵐のような突風が木々を薙ぎ倒さんばかりに吹き抜ける。中の人は大丈夫だろうかと心配になるが、侵入を阻む結界がそのまま乗車中の人間を守る術にもなっているので問題ないのだ。

 やがてセントーアは徐々にスピードを落としてカーブを曲がると、街へ繋がるトンネルの中へ消えていった。


 +++


 早朝と言うには遅く、昼と言うには早すぎる時間。朝が苦手な人でも、そろそろ動こうかといった頃合い。

 空は青く澄み渡り、燦々と輝く太陽が大地に恵みの光を注ぐ。そこには一点の曇りもない。

 穏やかな一日を予感させる、そんな朝。

 だが。


「ぬおおおおおお!!」


 そんな心地よさを塗りつぶすような大音声が、〈千年氷柱〉の拠点上空を突き破った。


「いいい朝だあああ!! 静かなあある朝だあああッ!!」

「うるさいっ!」


 続いてベキッという何かが折れるような音がした後、屋敷は唐突に静けさを取り戻した。

 テラスのあるダイニングで一緒に本を広げていたノアとフェリスは、びっくりして顔を上げたまま硬直する。お互いの顔を見ると、どちらからともなく首を傾げた。


「びっくりした……。今の、マカ爺とアイーダよね?」

「うん、そうだったと思う。何かあったのかな?」

「何かあったかと言ったら、大抵いつも何かしら起きてるわよ、ここは」

「ふふっ。賑やかだよね」

「うーん。賑やかって言うかウルサイって言うか」


 控えめな仕草で穏やかに微笑むのはノア。ノア・ウィングラム。長いブラウンの髪に緑の瞳。大きな眼鏡が特徴の優しそうな女の子だ。

 対照的に、呆れ顔で溜息をついているのがフェリス・アドセイユ。くすみのない金髪を編み上げてシニヨンにしている。少し釣り上がり気味の青い瞳が印象的である。

 二人とも16歳と若いが、歴とした〈千年氷柱〉のメンバーだ。

 そして、珍しいことに貴族のご令嬢でもある。今は普通の戦士が平時に着るような簡素な服装だが、肌や髪の手入れ具合を見れば良家の子女であることが一目瞭然だった。おまけに二人とも、系統は違うがなかなかの美少女だ。


「あ! ということは、アイーダ帰ってきてるんだ!」


 ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がるフェリス。

 実家だとマナーだなんだと煩くてできないことも、ここでは関係ない。親はもちろん、メイドも執事もいないのだ。

 自由である。

 自由なら何をしても許されるわけではないが、少しくらいの行儀の悪さは許容範囲内だ。ましてやそれが尊敬する先輩の帰還に起因していれば、微笑ましいというものである。


 戦士は戦士でも彼女たちはまだ「見習い」の域を出ないため、本格的な仕事《狩り》に取り掛かったことはない。

 それなのにこうして家から拠点へ通っているのは、アイーダたち先輩戦士に会うために他ならない。理由はそれだけではないが……。


 分かりやすく元気になった親友を見て、ノアはこっそり苦笑した。


「みたいだね。新人の子の教育のために一週間くらい出掛けるって言ってたけど、結局二週間かかったね。熱入っちゃったのかな。大丈夫かなぁ」

「し、しんじん……」


 フェリスの元気が急に萎んでしまった。顔いっぱいに「不安」と書いている。違う意味で心配していたノアも、今度は苦笑を隠せない。


「怖がらなくても大丈夫だよ。素直で大人しい男の子だって聞いてるよ。しかも年下。仲良くなれると思うよ」

「べ、別に怖がってなんかないし! 警戒してるだけよ! そう、戦士たるもの、周囲の変化には敏感に――」

「ノアー! フェリスー! たっだいまー! あたしがいない間、ちゃんといい子にしてたかなーっ?」

「ひゃう!?」

「あ……れ?」


 飛び上がったフェリスは、勢いでノアの背中に隠れてしまった。

 てっきり歓迎されると思っていたアイーダは、予想外の反応に言葉をなくす。気まずい沈黙が降りかけた中、ノアがすかさず間に入った。


「おはようございます、アイーダさん。訓練はどうでしたか?」


 その言葉でアイーダははっと我に返り、満面の笑みをノアに向ける。


「おー! そりゃあもう盛り上がっちゃって! いやあ、あんなに白熱したのは久しぶりだね。ジーンと本気のバトルをした時以来かな」

「それ、無事なんですか……?」

「あはは! まあ向こうは本気じゃなかったからね。くっそー、いつか絶対泡吹かせてやるんだから!」

「いえ、そっちじゃなくて……」


 ノアは何か言いたいようだが、うまくアイーダに伝わらないようだ。そうこうしている内に、アイーダはフェリスの背後に回り込んで、ぐにぐにと少女の頬を捏ねはじめた。別のものに気を取られていたフェリスは、あっさり後ろを取られてしまう。


「恥ずかしがり屋さんはどの子だー? この子かー!」

「むああっ! こっ、子供じゃないんだからあっ!」

「わははは、もち肌ー。気持ちいいー。若いっていいなぁ」


 ひとしきり捏ね繰り回すると満足したか、アイーダは大きく息を吐いた。


「ふーっ。堪能した。……で、何をそんなに警戒してたのかな? フェリスちゃんは」

「この子、絶賛人見知り発動中でして」

「人見知り? ああ、そういやフェリスは初対面の人が苦手だったっけね」


 轟沈したフェリスに代わって答えるノアに、アイーダは合点のいった顔をする。それから、及び腰で部屋を覗き込んでいる少年をチョイチョイと手招きするのだった。


「ふふふ。人見知りがもう一人。おいで、ディーノ。この子らが前に話した、キミと年の近い団員だよ」

「は、はじめまして。ディーノと言います」


 おどおどと部屋に入ってきた少年は、キャメル色の髪にブルーの瞳をした、優しいというより気弱そうな子だった。

 明らかに気後れしている様子。慣れない場所、慣れない人の前とくれば仕方がないかもしれない。

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