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第一章 海賊船と軍艦.06

炎柱槍は旧式ではあるが、

オーシャにとっては鉄弾砲よりも

馴染みのある砲台なので逆に助かった。

最近は比較的小さな砲弾でも威力が出る鉄弾砲が主力だが、

炎柱槍の方が優れている利点もある。


第一に射程。

砲身が長いだけあって、

後のことさえ考えずに高い出力を回せば、

鉄弾砲よりも遥に長い距離から撃つことができる。

元々、大きな砲弾を発射する砲台だ。

威力は折り紙つきである。


そして何よりの長所は命中精度の高さである。

砲身が短く、連射で焼けたり変形したら

すぐに砲頭を変えられる鉄弾砲に対して、

その長い砲身は替えが効かないという致命的な欠点は勿論ある。

しかし代わりにその長砲は狙った通りの場所を

打ち抜くことも可能にするスペックを持つ。

要塞などでは未だに

炎柱槍が一部で使われているのはそれが理由だった。


「さて……いいところ見せないとね」


相手から炎柱槍を準備しているのを悟られてはいけない。

回避行動を取られたら、砲門の向きをほとんど変えられない

炎柱槍ではお手上げだ。

炎光炉の全ての主力をこの砲撃に回すために、

外せばもう完全に詰んでしまう。

風任せに逃げるには相手が悪い。

射程ギリギリ……300バートに入った瞬間に発射するしかない。


相手が少しでも警戒をしていれば……避けられる。

運の要素も高い、博打の勝負。


更に真っ直ぐ来ていても

300バートという距離で精密射撃は実は非常に難しい。

先ほどよりも3倍近い距離があるのだ。

彼女が過去に参加した大会では陸でしか撃たなかったが、

今は波で不安定に揺れる海上。

彼女も未経験の領域だ。

いくら海は落ち着いているが揺れているのには違いない。


スコープを覗き込む。

もう敵の軍艦が映っているが、まだ射程範囲外だ。

落ち着けと自分に言い聞かせる。

大会の時と同じ距離なのだ。


オーシャが祝砲祭に出たのは、実はたまたまだった。

彼女が仕えていたのは

砲撃の名手を数多く輩出してきた名家と誉れ高いリブラ家。

大会はお家の面子のかかった重要な行事である。

今回は更に優秀な娘がおりその子のことを

『稀代の天才』と公国中に言いふらしていた。

が、なんと大会当日にそのお嬢様は

非常に間の悪いことに流行り病で寝込んでしまった。


リブラ家の不参加は当然ありえない。

しかしながら恥じぬ結果を出せるほどの実力者が他にいない。


そこで白羽の矢が立ったのが、

いつもそのお嬢様の練習に付き添っていた

孤児でしかなかった使用人のオーシャだった。

そのお嬢様からの自信を持っての推挙もあり

他に代打も出せないリブラ家は仕方なく少女を出場させる。


無様な結果を出していたら、オーシャは打ち首になっていただろう。


けれど、結果は優勝。

しかも今まで誰も成しえなかった

全ての的を打ち抜いての快挙だったのである。


だからこそ、「船に乗ってみたい」だなんて

無茶な要求も通ったのだ。

船旅の旅費は決して安いものではない。

オーシャの給金では到底乗れるものではなかった。


(それが今は、海賊船で大砲を構えているんだなんてね)


船の砲撃手にではなく、船長は私に任せた。

今日出会ったばかりの少女の言う情報を信じて、

そしてそれだけでなく砲門まで撃たせるだなんて

……命すら道楽の一つと考える大馬鹿者なのか、

あるいは相当な器を持つ者なのか。


「そんなの、決まってるか」


さて、一世一代の見せ場だ。

背負っているのは自分と、出会ったばかりの海賊たちの命。

100人いれば99人は外れる方にコインを賭けるだろう。

それだけ分の悪い賭け。


だからこそ、勝つことに意味がある。


「落ち着け……」


風の流れを読め。

波の揺れを計算しろ。

放物線を描く砲弾の軌跡を想像するんだ。

そして、どこにぶち当てれば無力化できるかを考えて。


「これで……いける!」


狙いは定めた。

あとは射程に入った瞬間に発射するだけ。


さて、何を信じよう。

神か?

それとも自分自身か?

……いやどれも違う。

船長は言ったじゃないか。


――ワシを信じろ、と。


私に砲門を託した船長ジーウィルの選択を信じる、それだけだ。


「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


発射された。

長い砲身から炎が噴出されて、勢い良く砲弾が飛ぶ。

炎の柱がまるで槍のように見えるのが

『炎柱槍』と呼ばれる所以。


「さあ……いって……!」


一瞬の静寂。

そして


「砲弾、命中!」


鳥目が叫ぶ。

一瞬、誰もが耳を疑い、


「相手の機関部をぶちぬいた! 敵艦、沈黙!」


海賊たちの歓声が甲板に響き渡った。



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