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奪うことでしか生きられない世界で、命は形を変える  作者: ちひ王


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7/13

見えない檻

蛇の体を這わせながら、男は頭の中で何度も同じ問いを繰り返していた。

――今の手持ちで、いったい何が倒せる?


うさぎ。カエル。カメ。蛇。モグラ。どれも役には立つ。だが、最強には遠い。


守りならカメだ。殻に閉じこもれば、狼にすら一撃では食い破られないだろう。だが、それでは勝てない。ただ怯えて縮こまるだけだ。

蛇なら獲物を締め上げられる。だが狼の首を絞められるとは思えない。力が違いすぎる。毒があれば話は別だろうが、この森でまだ毒蛇を見ていない。虫程度の毒では、あの金色の目をした獣を倒すには程遠い。


モグラは隠れることに特化している。掘って潜って、逃げるにはいい。けれど地中に潜っている間は何もできない。戦いにはならない。

カエルの脚力はそこそこ役に立つ。だが、あの牙に追いつかれるだろう。


――結局、どれも決め手にならない。


力で負ける。速さでも負ける。道具を使うなら猿のような両手の自由が必要だが、それを得る手立てもない。

思考は堂々巡りになり、答えは出なかった。


男は一度、うさぎの体に戻った。小さく震える鼻、長い耳。あの白いうさぎの姿は、今では「最も慣れた自分の体」になりつつあった。

――考えるより、確かめたほうがいい。


森の奥にいても答えは出ない。ならば外へ。森を抜ければ、人の気配があるかもしれない。街や村があれば、手がかりも増えるはずだ。

男は耳を立て、警戒しながら森の縁を目指した。


森の外れには小高い丘があり、そこから先は緩やかな平原が広がっていた。遠くに、木の屋根らしきものが点々と見える。人間の村だ。煙のようなものも昇っている。

――やはり、人はいる。


胸が熱くなった。あの村に辿り着ければ、言葉が通じるかもしれない。何か事情を知る人間がいるかもしれない。

だが、森を出ようとした瞬間、目の前で空気が震えた。


ぱしん、と見えない壁に跳ね返された。

「......!?」


前脚を伸ばしても、そこには木も石もない。ただ透明な膜のようなものが、森と外の境界を遮っていた。

もう一度、助走をつけて跳んでみる。だが結果は同じ。弾かれ、地面に転がった。


何度も繰り返した。角度を変え、体を変え、蛇になって地を這ってみても、モグラになって地中を掘り進めても、必ず同じ場所で跳ね返される。


――出られない。


森そのものが檻のように、自分を閉じ込めている。


夜、再び縁に来て試した。やはり出られなかった。翌朝、また別の場所を探して試した。やはり同じ。

そのうち、ある異変に気づいた。


最初に跳ね返された境界線よりも、わずかに内側で弾かれる。気のせいかと思い、印をつけて確かめる。次の日、さらに内側で跳ね返された。


......境界が、狭まっている。


男の背筋に冷たいものが走った。

森全体を覆っているのではない。まるで「自分を内側へ押し込める」かのように、バリアの範囲がじりじりと森の中心へ迫ってきている。


何度も森の縁に向かうが、行くたびに境界は近づいていた。確かに縮んでいる。


――このままでは。


森そのものが檻となり、やがて自分を一点に追い詰める。逃げ場がなくなる。

狼や他の獣との戦いどころではない。ここにいるだけで、いずれ圧縮されるように捕らえられてしまう。


夜風が吹き、木々がざわめいた。どこからか、またあの低い遠吠えが響く。

男は耳を伏せ、草の陰に身を潜めた。


――時間がない。


強くなる方法を見つけなければならない。

戦力を増やすだけでは足りない。

この「見えない檻」そのものの正体を突き止めなければ。


村の灯りは遠い。だが、確かにそこにある。

それでも、今の自分には届かない。


見えない壁に阻まれたまま、男は森の暗闇に立ち尽くした。


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