騒ぎのあと
「あっ、起きた?」
省吾の声で目を覚ました 私は、しばらく ぼんやりしていた。
体には、タオルケットがかかっていた 。
ぼんやりした頭の中で 、昨夜のことを思い出す 。
壁にかかっている時計は、朝の10時を指していた。
「お腹空いたでしょ 。向さんが、朝ごはんを作ってくれたよ」
顔中 絆創膏だらけの省吾は、 ご飯 味噌汁 納豆焼いた鮭に、サラダが盛った小鉢をテーブルの上に並べた。
私は起き上がり 、タオルケットをたたんだ。
「怪我、大丈夫?」
「うん 。向さんが、手当てしてくれたから」
「 家に電話した?」
「うん」
「お父さんに、叱られなかった?」
「迷惑にならないように、なるべく早く帰って来いって言われた」
「それだけ?」
「仕事に行くからって、すぐ切られちゃった」
呆れた私は、しばらく黙り込んでしまった。
気を取り直して、別のことを聞いた。
「向は?」
「仕事に行ったよ 。向さん 、料理が上手だね 。すごく美味しかった !味噌汁 冷めちゃうよ」
省吾に言われた 私は、テーブルに着いた。
「昨日は、本当にありがとうございました 。僕家に帰るよ」
「大丈夫 ?一人で帰れる?」
「帰れるよ。 子供じゃないんだから」
「子供だろ」
そう言って、私と省吾は 笑いあった。
省吾が家に帰った後 、私は 向に電話をかけた。
仕事中のせいか 、向の周りはざわついていた。
向が場所を変えたのか、ざわつきはかき消され 静かになった。
「先生 省吾君は、どうですか?」
「色々ありがとう。 省吾は、家に帰ったよ」
「そうですか 。よかった」
「あのさぁ……」
「はい?」
「高木が万引きしたって、話したよね」
「万引きの話を聞いた時は、驚きました !常習犯 なのでしょうか?」
「これが初めてみたい」
「担任の前田先生から聞いたんだけど 、ひと目を気にせず 堂々と万引きしたみたいだよ」
「堂々と……変わった万引きですね!最近の流行りなのでしょうか?」
「流行りって……女性週刊誌を、万引きしたんだって。小学生が読むの じゃないよね」
「小学生でしたら、 漫画とかゲームの攻略本ですよね。 あ っ、もしかしたらお母様に頼まれたとか」
「女性週刊誌を取って来いって、そんな母親 どこの世界にいるの?」
「いえ、そうじゃなく 。女性週刊誌を買ってくるようにお金をもらったけど、お金ほしさに 女性週刊誌を万引きしたとか」
「言っていることはわかるけど 、自分の息子に女性週刊誌を買いに行かせる母親 なんて、聞いたことがないなぁ」
「ですよね 。気になります?」
「少しね」
向と電話を終え、タバコを吸いながら省吾や 高木のことを考えていた。
気になるとはいえ、 私は二人の保護者でも何でもない。
正直 私には、何もできない。
そんなことを考えていたら、携帯が鳴った。
電話の相手は 、省吾と高木の担任の前田だった。
前田は、突然の電話と昨夜のことを謝った 。
謝った後、 省吾の怪我の具合を聞いてきた。
「顔は腫れているけど、 応急処置をしたから大丈夫です 。それより、高木 君はどうですか ?」
「今朝 母親と高木君が学校に来て 、教頭と学年主任 も交えて、話し合いをしました」
「そうですか」
「話になりません」
「えっ?」
「何を言っても、 高木のお母さんは息子は悪くないの一点張りです 。万引きのことも省吾君のことも」
「実際 高木君は、万引きをしたじゃないですか !省吾は、殴られたし」
「どんなに言っても、万引きのことは何かの間違いだと言い張るし 。省吾 君のことは、子供の喧嘩に大人が首を突っ込むものではないと言うばかりです」
「子供の喧嘩って……一方的に殴られるのが、子供の喧嘩だって言うの? 万引き だって、店の人がちゃんと見ていたじゃない」
「僕だって、ちゃんと言いました 。でも、聞く耳持たない って感じで 。教頭は、こんなことで事を 荒立てたくないと 。主任も、高木君を頼む。 それだけでした」
「責任を、全部 前田先生に押し付ける 気なの?」
「情けないです」
前田は、小さくため息を漏らした。




