花火
翌日、 駅の待合室にすでに省吾は来ていた。
「おはよう!待った?」
「おはようございます。ううん。さっき、来たばかりだよ」
私と省吾は切符を買い、ホームへ歩いて行った。
ホームには、たくさんの乗客達がいた。
待つこともなく、電車はホームに滑り込んできた。
電車の座席に座った私は、省吾に早速聞いた。
「泊りがけで出かけること、お父さん何か言っていなかった?」
「そうかって、言っただけ」
「それだけ?」
「うん」
「お父さんって、どんな人?」
「仕事人間だよ。いつも夜遅いから、あまり顔を合わせたことなんてないよ」
「寂しくない?」
「そりゃあ……でも、もう慣れたよ」
「そっか」
「もう、ひとりじゃないし。僕には、皆がいる」
「うん、そうだよ」
省吾と私が各駅停車に乗っていた時、向は夏の店にいた。
夏は仕事の手を止め、向と話し込んでいた。
「省吾君、お姉ちゃんと一緒に、お母さんに会いに行ったのね」
「一目でも、会えると良いのですが」
「もし、会えなかったら……」
「そこは、ちゃんと言いました。必ず、会えるわけじゃないって」
「省吾君、承知の上で行ったのね」
「はい……あっ、もうこんな時間だ!では、私は失礼します!」
「お姉ちゃんから連絡が来たら、必ず教えてね!」
走って行く向の背中に、夏は叫んだ。
四っつ目の駅で電車を降りた私と省吾は、新幹線に乗り換えた。
省吾は窓側の座席に座り、流れる景色をぼんやり眺めていた。
私は持ってきたノートパソコンを出し、キーを打ち始めた。でも、思うように指が動かない。
キーを打つのをあきらめ、ノートパソコンをしまった。
「もし、もしだよ」
突然の私の問いかけに、省吾は顔を上げた。
「もし、お母さんに会えたら、省吾はどうするの?」
「何も考えていない。ただ、会いたいだけなんだ」
「向が言ったと思うけど、必ず会えるわけじゃないんだよ」
「わかってる。それでも、いいんだ」
新幹線を降り、一時間ほど在来線に乗り、目の前に海が広がる田舎町に着いた。
駅を出ると、潮の香りが漂っていた。
「これから、どうするの?」
「今日は遅いから、何処かに泊まろう。お母さん探すのは、明日」
幸い駅の目の前には、宿泊案内所があった。
今夜泊まる宿を案内してもらった。
宿泊案内所を出た私は、ため息交じりに言った。
「夏休みだから、どこもいっぱいだね」
「でも、見つかって良かったね」
省吾も、ほっとしたように答えた。
「民宿だけどね。しかも、食事抜き!」
そう言って、私と省吾は笑い合った。
宿泊案内所で紹介してもらった民宿は、海の見える民宿だった。建物は年季が入っているものの、中は意外と綺麗だった。 民宿の女将がとても親切で、気持ちよかった。
女将に部屋を案内され、お茶を入れてもらう。
「すみませんね、お食事の用意が出来なくて。この辺りで、食事が出来るところは……そうだ!今夜、この近くで夏祭りがあります。たしか、花火も上がりますし。良かったら、行ってみてはいかがですか?」
「面白そう!良いこと聞いた。夜行こう!」
省吾にそう言うと、省吾も喜んで答えた。
「うん、行こう!」
夏祭りは、民宿の裏山でやっていた。
暗くなるにつれて人が増えてくる。
省吾は物珍し気に、きょろきょろしていた。
「僕、お祭りって初めて!あっ、わたがしだ!」
省吾は、わたがしやの店に走って行き、わたがしを作っている光景を興味深々に眺めていた。
イカ焼き、焼きそばなど買い込み、ちょうど二人が座れる大きな石を見つけて、石の上に座った。
「凄い楽しいね、お祭りって」
焼きそばをほおばりながら言う省吾の目の前を、浴衣を着た若者達が通り過ぎる。
「凄い人の数だなぁ」
ビールを飲み、イカ焼きを食べながら私は言った。
しばらくすると、大きな音と共に、頭上が明るくなった。
「花火だ!」
省吾の言葉に、私は夜空を見上げた。
熱帯夜を吹き飛ばすように、色とりどりの花火が夜空に広がった。
花火が上がるたびに、周りで歓声が広がった。
私と省吾は、自分たちの思いを忘れて、黙ったまま花火を見上げていた。




