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なつのかけら  作者: kagari
20/27

花火

 翌日、 駅の待合室にすでに省吾は来ていた。

「おはよう!待った?」

「おはようございます。ううん。さっき、来たばかりだよ」

 私と省吾は切符を買い、ホームへ歩いて行った。

 ホームには、たくさんの乗客達がいた。

 待つこともなく、電車はホームに滑り込んできた。

 電車の座席に座った私は、省吾に早速聞いた。

「泊りがけで出かけること、お父さん何か言っていなかった?」

「そうかって、言っただけ」

「それだけ?」

「うん」

「お父さんって、どんな人?」

「仕事人間だよ。いつも夜遅いから、あまり顔を合わせたことなんてないよ」

「寂しくない?」

「そりゃあ……でも、もう慣れたよ」

「そっか」

「もう、ひとりじゃないし。僕には、皆がいる」

「うん、そうだよ」



 省吾と私が各駅停車に乗っていた時、向は夏の店にいた。

 夏は仕事の手を止め、向と話し込んでいた。

「省吾君、お姉ちゃんと一緒に、お母さんに会いに行ったのね」

「一目でも、会えると良いのですが」

「もし、会えなかったら……」

「そこは、ちゃんと言いました。必ず、会えるわけじゃないって」

「省吾君、承知の上で行ったのね」

「はい……あっ、もうこんな時間だ!では、私は失礼します!」

「お姉ちゃんから連絡が来たら、必ず教えてね!」

 走って行く向の背中に、夏は叫んだ。



 四っつ目の駅で電車を降りた私と省吾は、新幹線に乗り換えた。

 省吾は窓側の座席に座り、流れる景色をぼんやり眺めていた。

 私は持ってきたノートパソコンを出し、キーを打ち始めた。でも、思うように指が動かない。

 キーを打つのをあきらめ、ノートパソコンをしまった。

「もし、もしだよ」

 突然の私の問いかけに、省吾は顔を上げた。

「もし、お母さんに会えたら、省吾はどうするの?」

「何も考えていない。ただ、会いたいだけなんだ」

「向が言ったと思うけど、必ず会えるわけじゃないんだよ」

「わかってる。それでも、いいんだ」



 新幹線を降り、一時間ほど在来線に乗り、目の前に海が広がる田舎町に着いた。

 駅を出ると、潮の香りが漂っていた。

「これから、どうするの?」

「今日は遅いから、何処かに泊まろう。お母さん探すのは、明日」

 幸い駅の目の前には、宿泊案内所があった。

 今夜泊まる宿を案内してもらった。

 宿泊案内所を出た私は、ため息交じりに言った。

「夏休みだから、どこもいっぱいだね」

「でも、見つかって良かったね」

 省吾も、ほっとしたように答えた。

「民宿だけどね。しかも、食事抜き!」

 そう言って、私と省吾は笑い合った。

 宿泊案内所で紹介してもらった民宿は、海の見える民宿だった。建物は年季が入っているものの、中は意外と綺麗だった。 民宿の女将がとても親切で、気持ちよかった。

 女将に部屋を案内され、お茶を入れてもらう。

「すみませんね、お食事の用意が出来なくて。この辺りで、食事が出来るところは……そうだ!今夜、この近くで夏祭りがあります。たしか、花火も上がりますし。良かったら、行ってみてはいかがですか?」

「面白そう!良いこと聞いた。夜行こう!」

 省吾にそう言うと、省吾も喜んで答えた。

「うん、行こう!」



 夏祭りは、民宿の裏山でやっていた。

 暗くなるにつれて人が増えてくる。

 省吾は物珍し気に、きょろきょろしていた。

「僕、お祭りって初めて!あっ、わたがしだ!」

 省吾は、わたがしやの店に走って行き、わたがしを作っている光景を興味深々に眺めていた。

 イカ焼き、焼きそばなど買い込み、ちょうど二人が座れる大きな石を見つけて、石の上に座った。

「凄い楽しいね、お祭りって」

 焼きそばをほおばりながら言う省吾の目の前を、浴衣を着た若者達が通り過ぎる。

「凄い人の数だなぁ」

 ビールを飲み、イカ焼きを食べながら私は言った。

 しばらくすると、大きな音と共に、頭上が明るくなった。

「花火だ!」

 省吾の言葉に、私は夜空を見上げた。

 熱帯夜を吹き飛ばすように、色とりどりの花火が夜空に広がった。

 花火が上がるたびに、周りで歓声が広がった。

 私と省吾は、自分たちの思いを忘れて、黙ったまま花火を見上げていた。


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