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なつのかけら  作者: kagari
18/27

友情

 お盆が過ぎたと言うのに、夏の暑さは健在のままだ。

 久しぶりに、私は向と一緒に家で夕飯を食べた。

 向は率先して、嫌な顔一つせずなんでもやってくれる。

 それが、いつも楽しそうだ。 本当に、不思議な男だ。

 向は何処に住んでいるのか。結婚しているのか?家族は?向との付き合いは決して長いとは言えないが、私は向のことを何も知らない。

 目の前で幸せそうに、ご飯を頬張っている向に私は聞いてみた。

「向って、結婚しているの?」

 私の質問に、向は喉をつまらせ咳込んだ。

「……突然、なんですか!」

「なんとなく」

「私のことなんかより、先生の方はどうなんですか?」

「どうって?」

「健一さんと、結婚するんでしょ」

「そんなこと、わからない」

「わからないって」

 そんなやりとりを、していた時だった。

 夏の声で、結婚談義は打ち消された。

「こんばんは!あっ、食事中?」

「夏さんも、いかがですか?」

「もう済んだから」

「じゃあ、お茶を用意しますね」

 向は立ち上がると、夏の麦茶を用意した。

 夏は麦茶を片手に、縁側に座った。

「さっきまで、源さんと一緒だったの」

「源さんと?」

「うん。集会所で大豆の講習会があるから行かないかって、源さんに誘われたの」

「夏……嫌じゃなかった?」

「ううん。全然!興味あったし、それに源さんと一緒だったから」

「お昼は、どうされたんですか?」

 向の問いに、夏は待ってました!とばかりに言った。

「おそうざいやに、行ってきたわ」

「おそうざいや……なんです?それ」

 向は、小さな声で私に聞いてきた。

 私も向と同じように、声を低くして答えた

「ほら、商店街にあるじゃん。ケースの中のお惣菜を、自分で取って食べるセルフサービスの店」

「……あの店かぁ。あの〜夏さん。そんな店で、良かったんですか?」

「私、一度行ってみたかったんだ!女一人じゃ、入りにくいでしょ」

「はぁ……まぁ……」

「食事の後は、どこに行ったの?」

 私の問いに、夏は答えた。

「せっかく講習会で、良い話を聞いてきたから、早速実践しようってことになって、源さんの家に行ってきたの。夕飯は、源さんの家でよばれちゃった!」

 私は、声をひそめて向に言った。

「ねぇ、どう思う?」

「どう思うって、言われても……本当に、デートなんでしょうか」

「だよね〜。源さんらしいと言えば、源さんらしいし」

「夏さんが、それで良しとするなら私は何も……」

 私と向が、そんな会話をしているとは知らない夏は、麦茶を飲みながらのんびり夜空を眺めていた。

 しばらくすると省吾の声が聞こえ、向が慌てて立ち上がって玄関に行った。私も、玄関の方に行った。

「省吾、久しぶり……」

 そう言った私の言葉は、そこで止まってしまった。省吾の後ろに隠れるように、高木がいたのだった。

「突然来て、ごめんなさい」

「それは、良いけど。そのバッグ……今日塾は?」

「塾は……」

「さぼったんだ」

「……ごめんなさい」

「休むこと、塾にはちゃんと言ったの?」

「うん」

 省吾が縁側に行くと、高木もその後について行った。夏に距離を置いて、省吾と高木は縁側に座った。

「夏さんこんばんは」

「省吾君元気?」

「はい」

 夏と省吾のやりとりが終わると、高木は夏に向かって無言のまま軽く頭を下げた。

 夏は居心地悪そうに、縁側から部屋に戻った。

 夏と入れ違いに、私は縁側に行った。

 縁側に座ってタバコを吸っていると、それを待っていたように、高木は低い声で切り出した。

「今までずっと、省吾と比べられていたんだ」

 その高木の一言で、なぜ高木は省吾を憎んでいたのか、やっとわかった。

「お母さんが、省吾と比べていたんだ」

「お母さんは、昔から省吾の家庭の事情を知っていて。省吾にだけは負けるなと言われ続けていた。同じ塾に入れられたのもそのせい。俺は、段々省吾を憎むようになった。そして、明るくなった省吾に嫉妬をするようになった。でも、自分が甘えていると気づいた時、恥ずかしくなった」

 うつむいて淡々と話す高木に、省吾はやさしく言った。

「高木君、もう良いよ」

 しかし高木は、黙ったまま首を横に振った。

「自ら大人の世界に飛び込み、明るくなった省吾が羨ましかった。だからさっき、省吾に今までのことを謝った。許してくれとは言わない。でも……」

 そこまで言った高木は、黙り込んでしまった。

 省吾があとを引き継いだ。

「高木君が、この家に来たいって言ったんだ。皆に会いたいって」

「それで、高木と一緒に来たんだ」

「今までのこと全部許したわけじゃないけど、高木君の気持ちがわかったし。それに……この家に来たい。皆に会いたいって言われたら、拒めないよ」

「私も拒めないな。省吾の友達なら、なおさらだ」

 そう言いながら私は、灰皿にタバコを押しつぶした。

「……友達って、思っても良いの?」

 不安げに言う高木に、私は省吾に聞いた。

「あれ?省吾の友達だろ?だから此処に連れてきてもらったんでしょ。省吾の友達なら、大歓迎だよ」

 高木は、恐る恐る省吾を見た。省吾はそっと笑い、高木は安堵の息を漏らしながら笑顔になった。

 私は振り返って、部屋にいる夏と向に言った。

「夏!向!紹介するよ。省吾の友達で、高木だよ。よろしく!」

 夏と向は、笑顔で声を揃えて「よろしく!」と言った。

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