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哀れに思ったから全世界最強のチート能力を持った神が無双してみる  作者: トリ


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1/4

#1神界問題、勇者爆誕。

薄暗い空間に、無数の光が浮かんでいる。

それは星ではない。


世界だ。


世界樹ユグドラシルの枝先に実る、それぞれ異なる生命の世界。その中心に存在する神界では、今日もまた膨大な数の魂が管理されていた。


「……だる」


一人の青年が机に突っ伏したまま呟く。

銀色の髪を雑にかき上げ、片手だけで魂の転生処理を続けているその姿は、とても神には見えない。

だが、彼が指を軽く鳴らしただけで、数千、数万の魂が別世界へと移動していく。


生まれ変わり。


転生_下界では奇跡と呼ばれるそれも、神界にとっては単なる業務の一つだった。


「面白いこと起きねぇかなぁ……」


『縁起の悪いことを言わないでください』


間髪入れず、背後から声が飛んだ。振り返るまでもない。


「今のは独り言だぞ、”地球”」


『あなたがろくでもないこと考えてる時は、大体世界が一つくらい壊れるので本当に厄介です』


白い書類の束を抱えた青年――“地球”の神は、呆れたようにため息をつく。彼は下級神だ。

人類文明を管理し、寿命、因果、文明進行を担当している。

対して、俺はそのさらに上。

魂を世界から世界へ移し替える、“転生”を司る上級神である。


『それより、魂番号34791番の転生先、またズレてます』


「え?」


『科学文明世界へ送るはずが、剣と魔法の世界へ飛んでます』


「……適応するだろ」


『雑なんですよ仕事が!』


神界に怒声が響く。しかし周囲の神々は慣れた様子で誰も気にしない。

その時だった。

バンッ!! と大扉が勢いよく開かれる。


『た、大変です……!!』


息を切らしながら、一柱の下級神が飛び込んできた。

顔面蒼白。

その様子に、周囲の空気がわずかに変わる。


『魔王が……止まりません……!』


飛び込んできた下級神は、その場で膝をついた。

周囲で作業していた神々が、わずかに視線を向ける。だが驚きは少ない。


世界の異常など、神界では珍しい話ではなかった。

俺自体、何回も体験している。面倒ごとはゴメンだ。しかし、かわいい部下が困っているなら放ってはおけまい。

「君はどこの世界だっけ?」


俺は机に突っ伏したまま聞く。


『ラグナ世界です……!』


その一言だけだった。


周囲の神々も、

「あぁ、またか」

と言いたげな顔をし、また各々の作業に戻る。


『もう人類圏の三割が滅んでるんですよ!?助けてください!』


「別にいいじゃないか」


『よくありませんよ!?』


地球が即座にツッコむ。

下級神は涙目のまま続けた。


『すでに対処マニュアルは全て試しました!英雄級魂の投入、天災の発生も行いましたが……!』


「効かなかった、と」


『はい……』


神界に短い沈黙が落ちる。上級神である俺はようやく身体を起こした。


漆黒の瞳が、初めて書類以外へ向けられる。


「千年に一度の大規模バグってとこか。まあ珍しいことじゃないな」


世界は完璧ではない。魂の循環。文明の発展。因果の流れ。あらゆる法則は神界によって管理されている。だが、ごく稀に、その管理を外れた“異常”が発生する。


それが今回でいう――魔王。


『聖級神への報告案件でしょうか……』


まっすぐな瞳を向けるラグナ界の下級神。よほど大変なことになっているのだろう。


「んー」


上級神は気だるげに天井を見上げる。そして地球を見つめる。


「めんどいな」


『仕事してください』


「やだ」


『子供ですかあなたは』


『あ、あの……』


半泣きの下級神を前に、地球は深くため息をついた。そして何かを思いついたように口を開く。


『……勇者を投入してはいかがですか?』


「勇者?」


『はい。魔王を倒すためだけの特別個体です』


「またお前んとこの創作文化か?”なろう”だっけか」


『ですが、分かりやすいですよ。“魔王には勇者”です』


上級神は少しだけ興味を示したように目を細めた。


「……続けろ、地球」


上級神が肘をつきながら視線を向けると、地球は一度咳払いをした。


ラグナ世界はすでに限界だった。

神界に存在する対魔王マニュアルは、既に試されている。

それでも止まらない。

ならば、今必要なのは“前例”ではなく、“発想”だった。


『地球の物語では、魔王には勇者をぶつける文化があります』


「文化って……」


『一種の概念兵器みたいなものです。人々の希望を背負った存在は、時に理論を超える力を発揮します』


ラグナ界の下級神は半信半疑の表情を浮かべる。だが上級神である俺だけが、わずかに興味を示していた。退屈そうだった漆黒の瞳が、ほんの少しだけ細められる。


『勇者には、“魔王を倒す”という目的そのものを与えるんです』


「目的特化型魂か」


『はい。かなり極端な調整になりますが』


上級神は椅子にもたれながら天井を見上げた。神界の遥か上空には、世界樹ユグドラシルの枝葉が広がっている。

無数の世界。

無数の命。

その全てを見続けてきた俺ですら、少しだけ面白そうだと思ってしまった。


「……やってみるか」


その一言で決まった。


魂選定。


血統計算。


因果調整。


未来分岐予測。


神界全体が、一つの“勇者”を作り上げるために動き始めた。膨大な術式が神界中央に展開され、無数の文字列が空間を埋め尽くしていく。その中心で、俺は気だるげに片手を動かしていた。正直、作業自体はそこまで難しくない。魂を選び、適切な器へ流し込み、世界の法則に馴染ませる。


いつもの仕事だ。


ただ今回は、やたら周囲が騒がしい。


『座標固定完了!』


『魂適性値、基準を突破しました!』


『勇者因子、正常接続!』


「……文化祭かよ」


『真面目にやってください』


すぐ横から地球の呆れた声が飛んでくる。こいつ、最近ツッコミしかしてないな。まあ、そういう役回りが板についてるから別にいいけど。

俺は転生術式の中心へ視線を向けた。淡い光の中で、一つの魂が静かに揺れている。

特別な魂ではない。

英雄でもなければ、王でもない。


どこにでもいる、ごく普通の魂。


だが――。


『勇者因子との適合率、異常数値です……!』


下級神が驚いたように声を上げる。俺も少しだけ眉を動かした。魂はランダムだ。

偶然か。

それとも必然か。

まあ、どっちでもいい。

面白くなりそうなら、それで。


「流すぞ」


俺が指を鳴らした瞬間、魂が光となってラグナ世界へ落ちていく。神界の視界に、一つの光景が映し出された。

雪の降る夜。

勇者一族の屋敷。

産声。

小さな、小さな命。


紅色の髪を持つ少女だった。


『……女の子?』


「ランダムだからな」


『勇者って普通もっとこう……』


「知らねぇよ」


だが、その小柄な少女の身体には、異常なまでの魔力が宿っていた。

火、水、風、光。

複数属性同時適性。

さらに、歴代勇者を上回る成長予測値。


神界の空気がどよめく。


『成功です……!』


『これなら魔王にも――』


期待。


安堵。


希望。


神々の声を聞きながら、俺は椅子へ深く座り直した。


……さて。


この世界は、どこまで足掻けるか。少しだけ、興味があった。


――そして十五年後。


ラグナ世界、人類最前線。


黒い雲に覆われた魔王城を前に、一人の少女が剣を握っていた。勇者アリス。わずか十五歳。


歴代最速で魔王領へ到達した、人類最大最後の希望。


燃え盛る炎。

崩れ落ちる大地。

空を埋め尽くす魔物。


その全てを突破し、アリスはたった一人で魔王の前へ辿り着いた。神界では、その戦いを静かに見守っていた。誰も口を開かない。


神界の演算を超えた戦闘だった。ただ一つ分かったのは――。勇者は、確かに強かったということ。

何度倒れても立ち上がり、血を流しながら剣を振り続けるその姿は、まさしく“勇者”そのものだった。


……なのに。


届かなかった。


最後に映ったのは。


折れた剣。


崩れ落ちる小さな身体。


そして――。


勇者アリス、死亡確認。


一言だけだった。

その報告が届いた瞬間、神界から音が消えた。誰も口を開かなかった。下級神は青ざめ、報告書を持つ手を震わせている。地球ですら、言葉を失っていた。勇者計画は成功だったはずだ。

アリスは歴代でも最高峰の適性を持ち、わずか十五歳で魔王城へ到達した。


人類史上、最速。最強。希望そのもの。それでも――届かなかった。


「…………」


俺は黙ったまま報告書を眺める。そこに記された最後の記録。勇者アリス、死亡確認。その短い一文を見つめながら、ゆっくりと目を閉じた。不思議だった。たかが一つの魂。数えきれないほど見送ってきた命の一つに過ぎない。本来なら、気に留める価値すらない。


なのに。


妙に、胸の奥が引っかかる。


「……あー」


吐き出された声は、いつもより少し低かった。


「胸糞悪ぃな」


その瞬間、周囲の神々が息を呑む。

上級神が感情を露わにすることなど、ほとんど無かったからだ。

彼はゆっくり立ち上がる。

そして、面倒そうに頭を掻きながら口を開いた。


「聖級神のとこ行くぞ」


『……は?』


最初に反応したのは地球だった。


「ラグナ世界への直接降臨許可もらう」


『いや待ってください!?』


地球の顔色が変わる。神による直接干渉。それは神界でも極めて重い禁則事項だ。下手をすれば世界そのものの均衡が崩れる。


『正気ですか!? 却下されますよ普通!』


「されなかったら行けるってことだろ」


『そういう問題じゃ――』


「あと地球、お前も来い」


『……はい?』


空気が止まった。地球は数秒固まったあと、ゆっくり自分を指差した。


『僕ですか?』


「よっしゃ、決まりだな」


『決まってませんよ!?』


神界中に叫び声が響く。地球は珍しく取り乱していた。


『なんで僕まで行くんですか!下級神ですよ!?戦闘向いてませんよ!?』


「別に戦わせねぇよ」


『じゃあなおさらなんでです!?』


上級神は当然のように言った。


「俺一人で行ったら仕事しねぇだろ、お前」


『…………』


「監視役」


『否定できないのが、、腹立ちます。……』


周囲の神々がざわつく中、上級神はすでに歩き始めていた。向かう先は、神界最上層。

法則そのものを管理する存在――聖級神の領域。


そこは、普段の神々ですら滅多に立ち入ることを許されない場所だった。

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