旅立ち【2】
ヤコは順調に育っていき、7歳を迎えようとしていた。
森の中。黒髪の長髪の女の子は木に両手をつき、おでこを木につけて目を瞑っていた。なにかを考えるようにひたすらに祈っているかのような彼女が手をついている木はまるでささやくかのようにカサカサと揺れていた。
「そうだ。木と対話し、もっとその木と一つになるかのように、祈り、仲を深めるようにするんだ。そうすることで、どの植物からも力が借りれる」
そう指導する男はあの日の青年であった、変わらず団子を結っている。あのとき落ち着きすぎていたとおもってた彼もまだ子どもだったのだと納得するほど、今の彼は大人になっていた。
女の子は木が動いていることに気づくと笑いかけ、手を離した。
「対話できるようになったでしょう?」
「ああ、ヤコは木や草、花などの緑のものたちと対話することに長けている、才能もあるからあと数年訓練したら、きっと良い緑の力を借りるものになれるぞ」
「なれたらいいな。ミヤは地の力を借りるものよね」
「そうだ、わたしの場合、土や岩、砂などから力を借りている。土や植物などの他にも借りるものたちがいる。どの力を借りる人も感謝の気持ちと、そこに住むものたちを知り、借りるという気持ちを忘れずに力を使わせていただくのさ。それを忘れないようにね」
「はあい」
気の抜けた返事をしたヤコに少しため息をついたものの、ミヤはそこまでの心配をしていなかった。ヤコは力を使うものとして、他の人とは頭ひとつ分は抜けている。対話をすることがうまいのだ。この才能のある娘に力の使い方を教えて、それを実感した。
「最初に、花束を抱えて帰って来たときは驚いたよ。全て違う季節の花で、とても対話がうまいのだろうとおもったよ。」
「対話することは楽しいよ、わたしは彼らが好きだし、彼らもわたしを好いてくれる。そうして力を貸してくれる、その力の循環は楽しい」
「そういう気持ちが大切だ。さて、今日はここまでにして帰ろうか」
そういい村に戻る。
村では、変わらず髪を高く結んだ女が二人を待っていた。鍛え上げた体に、弓矢を持っている。キリッとした顔をし、今では皆を守るものとして顔立ちをするようになっていた。
「ヤコ!ミヤ!おかえり、今日もお疲れさま!修行は順調かい?」
「ルウ!ただいま!今日はね、木と対話して来たの!今度、赤い身をつけてくれると木と約束したから、取れたらあげるね」
「それはいい、楽しみにしてるぞ」
ヤコの嬉しそうな顔に、ルウも喜ぶ。この三人はよく共によく一緒に行動し、仲睦まじいものとなっていた。それぞれを理解し尊重する。それが良くできていた。
今日の修行について一通り話したあと、ルウは思い出すかのように真剣な表情をした。
「そうだ。さて、二人とも。二人が修行をしている間に決まったことなのだが、この後、村長が大切な話があると言っていた。村全員に伝えねばならぬと、そうおっしゃっていた」
そういった。
「今まで、そんな話を一度もなかったぞ、なにがあったというのだ?」
「わからぬ。ただ、話せばなるまい、今見たことを、と村長は言っていた」
何かを借りるもの。それを極めたものは時に、過去や遠くの今、さらにその先の未来まで見ることができるという。今日は晴天である。光を借りるものである村長がなにか見たのかもしれない。それが良いものであればいいが、悪いものである場合、こうやって過ごす日々ももしかしたら終わってしまうかもしれない。そんな不安をミヤは抱いた。
「そうか、では話を聞きにいかなくては」
「どんな話かなあ、村全員なんて初めてのことだしドキドキだね」
そう脳天気にヤコは笑う。そんなヤコを見てミヤは不安を消し去ろうとするのであった。




