side勇者:訪問
日も落ちかけるころ、町が見えてきた。
馬車で旅をすること数日、勇者一行は無事アカゲ町に着くことができた。
☆☆☆☆☆☆
「あの町は始まりの町ともいわれているそうです。なんでも一流の冒険者は大体この町から冒険を始めるているとか」
ジカの森がある事で新人冒険者が集まりやすいため、必然的にそうなっている。
「そうなんですね。ちょっと冒険者に興味があるので、冒険者ギルドにも行ってみたいです」
勇者は冒険者に対してあこがれを感じていた。しかし、今までは訓練に忙しく、行く機関がまったくなかった。
「そうですか……、残念な事にこの町の冒険者ギルドの職員は軒並み感染しているみたいで、今は閉鎖中らしいです」
「それは……、やはりこの町に来てよかったです。何もせずにこの町が滅んだりしたら、一生後悔することでした」
御者が馬を止めた。
どうやら町についたようだ。
「勇者様、少々お疲れですか?」
「馬車に乗っているだけとはいえ、さすがに疲れましたね」
勇者たちは途中いくつかの町を経由してアカゲ町まで来ていた。
勇者は馬車で数日間の旅をするのは初めてだったため、少々疲れていた。
「そうですか? 私は勇者様との旅が楽しくって全然疲れなんてなかったですけど……」
少々剥れる王女に勇者は焦る。
「僕ももちろん楽しかったですよ!」
「ふふ、ごめんなさい、冗談です。そうですね。私もさすがに疲れちゃいました。でもこれからが本番なんですから、がんばってくださいね」
そう、町に来るのが目的ではない。
魔王の調査のため、そして、この町で起きている謎の病気の調査のために町に訪れているのだ。
「そうでしたね、すみません。たしか姫様のお知り合いがこの町にいるんでしたよね」
「早馬で知らせているので、もう少ししたらあの子が来ると思います」
しばらく待つと目的の人物がやってきた。
「姫、お久しぶり」
ボンキュッボン事キュリーである。
「久しぶりね、キュリー。元気そうで何よりだわ」
「姫のほうこそ壮健で、そちらが勇者かい?」
「ええそうです。とっちゃダメよ?」
「取ったりなんかしないさ、恐ろしい」
そう言ってキュリーは身震いする。
「姫様、そちらの方は?」
王女と一介の冒険者とは思えない距離感に見える。
「すみません、紹介しますね。この子はキュリー、元々は宮仕えの魔術師だったのですが、何を思ったのか今は冒険者をしている変わり者です」
「変わり者って……、姫がそれをおっしゃるの?」
「何か言いました?」
「いえ……、立ち話も何なので私の家で話しましょうかね。最近猫を飼い始めてね、姫にも会わせたい」
「まあ!猫を飼い始めたんですか!私も猫は大好きです。でも大丈夫?」
「?」
「猫を飼うと婚期が遅れるって言うじゃない? ちょっと心配になっちゃって……」
「私にはタマがいるから大丈夫ですよ。ああ、タマは猫の名前さね」
「それは大丈夫じゃないんじゃ……」
キュリーの発言が心配になる勇者。
御者に馬車を任せて、三人はキュリーの家へ向かった。
******
「ここが私の家だよ」
案内されたのは普通の民家で、一人で暮らすには広すぎるように思える。
他の家と比べれば豪華かもしれないが、とても一国の姫を招くような場所ではない。
しかし、王女は驚くほど自然に受け入れている。
王女のその寛容さを勇者は好ましく思っている。
「ニャー」
キュリーの帰宅にタマが出迎える。
「まあかわいい」
タマのかわいらしさに頬を緩める。
「抱いてみるかい?」
そう言ってキュリーはタマを抱き上げ、王女に抱かせる。
「モフモフですね」
タマを抱いて先ほどよりもさらに頬を緩める王女。
「姫様、目的が……」
勇者は少々うらやましく思いつつも、本来の目的を思い出してとどまる。
「そうでしたね。キュリー、早馬で知らせた通り、私達はこの町で起きている異変について確認しにきました。何やら病に苦しんでいる方が多いとか」
「来る途中町の様子を見ましたが、普通じゃなかったですね。外に出ている人が極端に少ないです」
キュリーの家に来る途中、町は極端に人が少なかった。もちろん誰もいないわけではないが、見かけたとしても下を向き、元気がないように見受けられた。
「そうさね、私の冒険者としての仲間も全員やられてしまった。いや、やられていない人間のほうが少ないかもしれない」
「でも、空気感染ではないと?」
「ええ、空気感染であれば真っ先に感染するのは感染者の家族。でもねぇ、感染者の家族だからって感染している感じじゃないだよ。たしかに一家で感染しているところもある。けど、感染タイミングも違うし、そもそも感染経路は違うように思える」
「それは、潜伏期間中だっただけではないんですか?」
キュリーの言葉に勇者が疑問を投げる。
「いや、そもそも家族でも病状が違う。夫婦で片方は頭痛を訴え、片方は吐き気を訴える。そしてなぜか先にかかった妻よりも先に死ぬ夫など、誰かが毒を撒いているとしか考えられないのさ。それも、実験をしているような気配すら感じる」
「なるほど、人為的な可能性が高いと」
ふと勇者は疑問に思い質問する。
「キュリーさんは大丈夫なんですか?」
キュリーはこの町で暮らしている。当然リスクが高い。
「正直自分でもわからないのさ、何分初めての事態でね。どんな経路で感染するかわからないから、正直姫や勇者には来てほしくはなかったよ」
そう言って肩を竦めるキュリーに、王女は安心させるように言う。
「私は病気なんかでは死なないので大丈夫です。もちろん勇者様もです」
そう笑顔で自信を持っている王女に、若干のあきれつつキュリーも確信していた。
「そうね。しかし、もしこれを魔王が直接行っているのであれば、勇者でも危険だから気を付けてほしい」
「どういうことですか?」
「魔王の配下程度なら勇者であれば簡単に対処る。やつらは勇者以外の雑兵に対しては強いが、勇者には太刀打ちできないようになっている。魔王の配下では決して勇者を殺すことができない。だけど、魔王はダメだ。魔王であれば勇者を殺すことができる」
「でも、僕は魔王と戦うためにこの世界に呼ばれたんです。お城に引きこもっていては魔王は倒せないですから」
勇者の目には決意が込められていた。ただ呼ばれただけの存在のはずだが、すでに勇者はこの世界を自分の世界として認識している。
「そうか、試すようなことを言った。すまないね。まあ、こんなみみっちいことを魔王が直接やるとは思えないから大丈夫だよ」
「ちょっと町の様子を見て回りたいのですが……」
魔王の調査もあるが、勇者としては町がどんな様子になっているのか気になっていた。
「流石にそれは許可できないね。それに、町の調査は私がやっている。今日はこの家に泊まってきなさい」
「そうですね。私達は明日には帰りましょう。キュリーはどうしますか? 一緒に城へ帰ります?」
先ほどキュリーも言っていたように、この町は危険だ。王女としてもキュリーは連れて帰りたい。
「私はまだこの町にいるよ。少なくとも仲間たちが生きている間はね。それにさっきも言ったように私はこの町で調査をする必要がある」
「わかりました。私達は別の角度から調査します。でもキュリー、あなたが死んだら私も悲しむということを忘れないようにね」
「ありがとうございます。さて堅苦しい話はここまでにして、そろそろ夕飯にしよう」
そう言ってキュリーは食事の用意を始めた。
「昔は料理なんてしてなかったんですけどね。きっと一人暮らしで料理を覚えたのでしょう。少し楽しみです」
******
キュリーの用意したご飯は可もなく不可もなくの出来だった。
しかし、キュリーの手作りのためか、王女はすごく美味しそうに食べていた。
食事をした後に談笑していると、外が暗くなっていた。
「キュリーさん、そろそろ寝る時間かと思うのですけど、僕はどこで寝ればいいですか?」
「そうですね、明日には帰らないといけないですから、そろそろ寝ましょうか」
そう言って王女は勇者を見つめる。
「えっと……」
さすがの勇者も困惑するが、キュリーが空かさず止めにはいる。
「姫は私と一緒だからね? 勇者は隣の部屋が空いているからそこで寝るといい」
キュリーはそう言いながら、王女を連れて寝室へと向かった。
あと2話でこの章が終わる予定です。
予定です。




