第18話 愛してる
玄関先でヒモオに降ろしてもらった。鍵を開けて手に持っていた靴を置く。
「お邪魔します」
ヒモオが私について入ってきて後ろ手で鍵を掛けた。
「沙耶さん」
熱い視線を直視できない。
「シャワー浴びた方がいいです」
「足、泥ついてるもんね……」
ヒモオが私のシャツをスカートから引っぱり出す。玄関だけど、ここで脱ぐのかな。迷っている間に、ボタンを全部外されてしまった。
「え……見ないで」
ちっさい胸を両手で隠す。
「沙耶さんの嫌がることはしません」
そう言って、スカートを脱がされた。
「ストッキング破れてますよ?」
「もう履かないからいらない」
ブラとパンティーだけになった格好で、ヒモオが私の両脇に手を入れてバスルームに運ぶ。これじゃまるで泥んこになった子どもを運ぶお父さんみたいだ。なんかはずい。
「ちょっと向こう向いてて」
脱衣所で下着を脱いで先に入る。シャワーを出してお湯が出るまで、足を洗う。
「ぎぇ、しみる!」
「大丈夫ですか?」
素っ裸のヒモオが入ってきて、驚いてシャワーを向けてしまった。
「沙耶さん!冷たい!あっ!部屋が水浸しです」
「げ」
ヒモオの向こうに飛んで行った水滴で、脱衣所がびしょびしょになった。拭くの大変そう……と思いながらも……ヒモオ、やっぱいい体。むっちむちの胸筋がたまらない。
「触ってもいいですよ」
そう言ってヒモオが一歩近付いた。
「今日はお好きなだけどうぞ」
うっわぁ……両手で遠慮なくペチペチとヒモオのおっぱいを叩く。ついでにちょっと揉んでみる……な、なんという触り心地!
お湯になったシャワーから昇り立つ湯気でバスルームが霞んでいく。
「沙耶さん」
上を向くとヒモオの顔が近付いてきて唇が触れ合った。
ヒモオの生暖かい舌が口に入って私のと絡まる。気持ちい。
「ヒモ……オ……あのさぁ、もう、ヒモじゃないから、ヒモオじゃなくて名前で呼んでもいい?」
「もちろんです」
「わーい」
「……」
「?」
なんで黙ってこっち見てるんだろう。
「どうしたの?」
「……」
にやにやしてこっち見てる。やばいやつみたい。
「なに?」
「早く」
「早く、なに?」
「早く呼んでください」
「え……こた……えっ、今?」
急に恥ずかしくなって、心臓がバクバクいい出した。やばい、壊れる!
「はい。今。呼んで、沙耶」
ひゃはーっ!沙耶だって!きゃーっ!呼び捨てー!
鼻息が荒くなって息が乱れる。そんな目で見つめないで。まじで心臓やばいから。
「こた、ろ……」
意識が遠くなった。
あれ。
ベッド。
少し頭が痛い。
真っ暗な部屋だ。
あれ。虎太郎は?
夢だったのかな……
あのシャワー……私の妄想だったのかな……!
そんなのやーっ!絶対に嫌だ!跳び起きてリビングに行く。
「沙耶」
「いた!」
飛び付く。もう離さないんだから。
「もう平気か?」
「うん。実は昨日、緊張しててあんま眠れなくって」
「それにしても興奮し過ぎだ」
「えへ」
だって嬉しくって。虎太郎が当り前のようにいてくれたことが嬉しくって嬉しくって。たまらん!むっぎゅーっ!!抱っこ!!
虎太郎がひょいっと私を持ち上げ、片手で私のお尻を支えたまま、もう一方の手でお玉をかき混ぜてる。
「なにそれ?作ってくれてたの?」
「おかゆ……の、つもり」
「なんか、お餅みたいだね」
「そうなんだよ。固くてべっとりして、旨くなさそう。ごめん」
「お水が足りないんじゃない?」
「そうか?結構入れたつもりなんだけど」
コップにお水を入れて鍋に足した。
「そんなに入れるのか?」
「うん」
「まだまだ沙耶には教わりたいことが沢山ある」
「いいよ。私が知ってることならなんでも教えてあげる」
「ありがとう。お返しに、沙耶の知らないことを僕が教えてあげよう」
「なあに?」
生活力なら私の方が圧倒的にありそうだけど。株のことだって負けてないつもり。
「愛」
「あい?」
「愛し合い方を沙耶は知らないだろう?」
「セックスのこと?」
「ただの繫がりの事を言ってるんじゃない。愛される抱かれ方を沙耶はたぶん知らない」
「ふーん。虎太郎は?」
「……」
「虎太郎はどうして知ってるの?」
「やばいな」
「ん?」
「興奮して失神した沙耶の気持ちが分かる」
「え?」
虎太郎と向き合ってソファに座る。
「正直、僕も沙耶に会うまでは知らなかったかもな。名前を呼ばれただけでくらくらしたり、壊したくなんかないのに、壊してしまいそうなほどきつく抱きしめたいとか、そんなこと初めて思ったんだ。沙耶にだけ」
「そ、うなんだ」
言われてみれば私も。不倫してたアイツにだって……名前なんて数えきれないくらい呼ばれてきたのに、嬉しいなんて思ったこと一度もなかった気がする。裸だって何度も見た事あったのに、アイツには触りたいとか、興奮したりはしなかったし、愛……なのか。これは。
「虎太郎、私のこと愛してるの?」
「ああ。愛してるよ」
「なんでそう言い切れるの?」
「分からない。でも分かる」
虎太郎が私の頭を両手で包んで鼻をおでこに当てた。くすぐったい。おでこもハートも。心臓の上を手で摩らずにはいられない。
「虎太郎、好き」
向き合ったまま抱き付いたら、虎太郎の心臓がドンドンって鳴ってた。
「虎太郎、愛してる」
自然と口から出た。
虎太郎の鼓動がドコドコドコって大きくなっていく。
ああ、本当に私のこと好きでいてくれるんだ。愛されてる実感が湧いてくる。やったぁ。やったよ、おばあちゃん。私、リスクを受け入れて、リスクに見合う以上のリターンをゲットしたよ。虎太郎ほどの優良株なんて、他には無いよね。でしょ?
完
『投資先は、訳ありな彼?・その2』へ続く
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
『投資先は、訳ありな彼?・その2』はカクヨムオンリーにてお読みいただけます。
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引き続き、よろしくお願いいたします。
あおあん




