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投資先は、訳ありな彼?  作者: あおあん


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第1話 170万円の拾い物

「はあ」


 朝が来た。


 スマホのアラームを止めて、軽くシャワーを浴びる。白湯を飲みながらタブレットを開き、私が寝てる間に起こった海外ニュースを確認する。24時間マーケットが開いている為替市場、先物取引の確認を済ませ、家を出る。


 低血圧だし、本当は朝は苦手だ。だけど日課の散歩は欠かさない。

 体を動かすのは好きじゃないけど、おばあちゃんの教えだから。


 いつもの川沿いを歩いていると、スーツを着た男たちが半袖短パンの男を追っていた。え……寒そう……まだ、一応2月だよ?


「逃げられると思うなよぉ!こらぁ!」


 うわぁ。とばっちりはマジで勘弁だよ。『触らぬ神に祟りなし』ってね、まったく昔の人っていいこと言うよねぇ。見てない、見てない。すたこらさっさ~っと。


「あのおぉ!」


 振り返るとズタボロの半袖短パンが私を追っかけてくる。


「助けてくださいぃ!」


 はあ?私みたいな、未成年に間違われちゃうくらいのちっさい女に頼むことじゃなくない?半袖短パンは、どう見ても……4,50のおっさんで、やたらとがたいが良い。ふざけんなよっ。走って逃げる。関わりたくない。


「ちょっと待って!お願いです!」

「おらぁ、兄ちゃん、借りたもんはちゃんと返さないと痛い目みるのは世の常だよぉ?」

「か、勘弁してください!必ず返しますから」

「そう言って、もう何日待たせてると思ってんだよ。舐めんなよぉ!オラッ!」


 ドスッ


 兄ちゃんと呼ばれたおっさんは、思い切り顔を殴られて芝生に突っ伏した。


「今日中に振り込め!明日また来るから、分かってんだろうな!」


 柄の悪いおっさんたちが唾を吐きながら居なくなった。


「大丈夫ですか?」


 巻き込まれたくはないけど、パトカーか救急車を呼んであげる事くらいなら出来る。


「ちっとも……」


 半べそをかきながら、おっさんは紙切れを私に差し出して土下座をした。


「お金を貸してください」

「は?」

「必ず返します。働いて、何年かかってでも必ずお返しします。だからどうか……」


 震える手に持っていたのは振込先が書いてある請求書だった。


「170万……いったい何に使ったんですか?」

「生活費です」

「はあ」


 やっば。いけない。さっさと帰んないと、前場が始まっちゃう。


「すみません。私、今、時間ないんで。あ、お金も持ってないんで、ごめんなさい」

「そんなこと言わないで」

「ついて来ないでください。警察呼びますよ」

「怪しいもんじゃないんです。少し困っているだけで」


 これのどこが少しなの?怪しすぎる男に捕まらないよう、走って逃げるとするか。


「はあ、はあ、はあ……」

「もうちょっと体力つけた方が良さそうですね」


 一生懸命走ってるのに、おっさんは意外と足が早いみたいで、ジョギングみたいに私に並走してきた。


「あの……ま……じで、迷惑……なんですけど……」


 息が切れてちゃんと話せない。

 これ以上、自宅マンションに近付くのは危険だ。家がバレちゃう。


「なんでもします。お願いですから、お金を貸してくれませんか?」

「な……んでも……?」

「はい。なんでも!」


 私には一つ、どうしてもお願いしたいことがあった。

 このおっさんにそれが出来るなら170万は高くない。取引をすることにした。






「上がって」


 家に招かざるを得ない。私のお願いは、この家で起こることだから。


「すごい家に住んでますね」


 タワーマンションの高層階。亡き祖母から譲り受けた遺産だ。


「まあね。えっと、170万だよね」

「はい。ここに振り込んでください」


 しょうがない。今日の株取引に使う予定だったお金を一部、指定の口座に振り込んだ。


「ありがとうございました。あなたは僕の救世主です。いや、女神様かな」


 ニコニコと嬉しそうに笑うおっさん。年甲斐もなく無邪気。


「で、その依頼って何ですか?」

「今じゃない。その時が来たら声かけるから、しばらく待機しててくれる?」


 リビングのソファを指さす。


「言っとくけど、依頼が済むまで居なくなったりしないでよね」

「当り前です。あんな恐ろしい男たちがいる下界に降りたいわけないじゃないですか。僕はここでゆっくりさせていただき……あ、待機。待機させていただきます」


 まあいいや。


「私、昼まで忙しいから、この部屋入んないでね。出来れば物音も立てないで」

「分かりました」


 おっさんはソファに座ってスマホをいじり出した。


「そのスマホ大丈夫なの?」


 余計なこととは思いつつ、言ってしまった。


「どういう事ですか?」

「居場所がバレてるんじゃない?GPSとか」

「……あ」


 心当たりがあるんかーい!

 私の古いタブレットを投げる。


「それ使っていいよ。悪いけど携帯は電源切ってくれない?ここがバレると嫌だから」

「そ、そうですね。ありがとうございます。ご主人様」

「きも……」


 おっさんは電源を切ったスマホを私に渡してきた。


「捨てちゃってください」

「はあ……」


 とりあえず受け取って部屋に籠る。大きなモニタが3台並び、どんなに長時間座っても疲れないゲーミングチェアに腰掛ける。


「さてと」


 運用資金が少し減ったけど、問題ない。今日の前場はどうだろうな。






「ふぅ。疲れた」


 11:30部屋から出る。


 携帯を手放したおっさんが部屋に残っている確率40%ってところかな。


「あ、ご主人様、お仕事は終わりましたか?」

「あ、いや、終わってはないけど」


 言いつけを守って、静かにここで座って待ってたのね。


「……あの、ご主人様、お腹が空きませんか?」

「空いた」

「お昼ご飯はどうしますか?」

「えっと。何か作ってくれない?」

「あ、それが、ご依頼ですか?」

「んな分けないじゃん。170万も出して、お昼ご飯作ってなんてあるはずないでしょ」


 このおっさんは、待ては出来るが気は利かない?


「で、すよねぇ。じゃあ、あまり料理には自信が無いんですが、最近覚えたチャーハンを作ってみます」

「よろしく。昼休み、1時間しかないから、出来たら起こしてね」

「はい」


 って、言ってあったのに!少し目を瞑ったつもりが13時になってる!後場が始まってるじゃん!


「おっさん、起こしてって言ったでしょ!」

「す、すみません。『出来たら』って言われてたんですけど、まだ出来てなくて」

「うるさい!邪魔しないでね!」


 バンッ


 乱暴にドアを閉めて後場に向かう。

 私は基本的にはファンダメンタルズ、企業の業績を分析して投資を行うスタイルを取ってきた。おばあちゃん直伝の『負けにくい投資法』を実践してきたわけだけど、最近はデイトレをせざるを得ない。一日中パソコンの前にへばり付いて、株を売ったり買ったりしている。


 前場のトレードはお昼前に手仕舞っている。今日の午後は動きがことさら鈍いから、取引に入らなくてもいいかな……15時に東京証券取引所が閉まるまで、株式、金、先物、為替などいろんな指数を3台のモニタに映して監視しながら、今日のトレードを振り返る。


 170万円の拾い物。半袖短パンのおっさん。


 あんなの連れ帰って大丈夫だったのか……考えてももう遅いけど、これも取引だよね。とりあえず約束は守ってもらわないと。




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