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終章:天才に与えられた「究極の理不尽」

「……番号!」

「1番!」「2番!」「3番!」

「……4番!」

刑務官の鋭い怒声に急かされ、俺は忌々しい気持ちで自分の番号を叫んだ。

ここは北海道の某刑務所。高いコンクリートの壁と鉄格子に囲まれた、社会の掃き溜めだ。

あの日、正義の鉄槌を下した俺は、駆けつけた無能な警察官どもによって不当に逮捕された。

裁判では、俺がいかに東田の「貧困ビジネス」の被害者であり、あれが正当防衛にして義挙であったかを論理的に説明してやった。だが、腐りきった司法は俺の真実を一切認めようとしなかった。

『身勝手極まりない動機であり、酌量の余地は全くない。無期懲役を言い渡す』

裁判長がそう告げた時、俺は全てを理解した。

ああ、なるほど。国も、警察も、裁判所も、全員があの「貧困ビジネス」と裏で繋がっていたのだ。俺という真実に気づいた天才を社会から隔離するため、国家権力が総出で俺を罠にハメたのである。

だから、俺は今でも1ミリたりとも反省などしていない。

俺は悪くない。全ては俺の才能に嫉妬し、俺を恐れた社会の陰謀なのだ。

屈辱の単純作業と看守ども

「おい、4番! 手が止まってるぞ! さっさと紙袋を折れ!」

背後から刑務官の容赦ない怒声が飛んできた。

俺は舌打ちを堪えながら、目の前に積まれた茶色い紙を折り、糊付けする作業に戻る。

無期懲役の囚人である俺に与えられたのは、この刑務所の工場での懲役作業だ。来る日も来る日も、朝から晩までただひたすらに紙袋を折り続ける。

冗談ではない。スロットの確率を瞬時に弾き出し、ネットの世論を動かした俺のこの「天才的な頭脳」を、なぜこんな猿でもできる単純作業に浪費しなければならないのか。

一度、「俺にはもっとクリエイティブな作業が向いている。経営戦略の立案でもさせてくれ」と論理的に提案してやったことがある。

結果は、懲罰房(独居房)への連行だった。三日三晩、冷たい床の上に正座させられ、反省文を書かされた。無能な看守どもは、俺の高尚な提案を「反抗態度」としか受け取れないのだ。

あいつらは俺を「人殺しの犯罪者」としてしか扱わない。

東田のように「にいちゃん」と猫撫で声で近づいてくることもなければ、俺のご機嫌を取ることもない。少しでも逆らえば、即座に圧倒的な暴力と権力でねじ伏せてくる。

この刑務所には、俺の知性を理解できる人間が誰一人として存在しないのだ。

究極の劣悪環境

作業を終え、雑居房に戻った俺は、冷たい畳の上にドカッと腰を下ろした。

同室には、見るからに知能の低そうな窃盗犯や詐欺師のジジイが3人いる。俺はこいつらとも一切口を利かない。中流階級出身の俺が、こんな真の底辺どもと馴れ合う理由がないからだ。

「……クソ寒いな」

俺は支給された薄っぺらい囚人服の襟を合わせた。

北海道の冬の刑務所は、まさに地獄だ。コンクリートの壁は氷のように冷たく、暖房設備などという甘っちょろいものは存在しない。

ふと、東田の用意したあの『コーポ・希望』を思い出す。

あそこには、窓用とはいえ一応エアコンがあった。布団に潜り込めば、少なくとも凍死するような寒さではなかった。風呂だって、狭いとはいえ毎日熱いお湯が出た。

ここの風呂は週にたったの2回。しかも、看守の監視下で15分以内に洗い終えなければならない。当然、トイレにウォシュレットなどという文化的な設備はあるはずもなく、便器は冷たい金属製の和式だ。

だが、勘違いしないでほしい。俺は東田のタコ部屋を懐かしんでいるわけではない。

あそこもここも、俺にふさわしくないゴミ溜めであることには変わりない。俺がこんな目に遭っているのも、元を辿れば東田が俺を騙したせいなのだ。死んで当然のクズめ。

豚の餌以下の晩餐

「夕食の時間だ。正座して待て!」

看守の声とともに、房の鉄格子の下にある配膳口から、プラスチックの食器が押し込まれてきた。

今日のメニューは、麦飯に、薄い大根の味噌汁、そしてパサパサの白身魚の煮付けと、味のしない切り干し大根だ。

俺はそれを見て、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「……また魚かよ。ふざけるな、肉を出せ! ステーキを出せって言ってんだろ!」

俺が思わず声を荒らげた瞬間、同室の顔面傷だらけの男(暴力団の元組員)が、殺気を帯びた目で俺をギロリと睨みつけた。

「……おい、オメェ。うるせぇぞ。飯がマズくなるから黙って食えや。それとも、俺が残飯にしてやろうか?」

低くドスを効かせた声に、俺はヒッと喉の奥で悲鳴を上げ、咄嗟に視線を逸らした。

くそっ、野蛮な猿め。暴力でしか物事を解決できない底辺のクズが。俺の優れた論理的思考があればお前なんか一瞬で論破できるが、ここは大人な俺が我慢してやる。

俺は震える手で箸を持ち、冷めきった白身魚を口に運んだ。

味がしない。パサパサして、喉を通らない。

(……あの婆さんのサバの塩焼きのほうが、まだマシだった)

ふと、そんな考えが脳裏をよぎり、俺は慌てて首を振った。

違う! あのババアの飯は残飯だった! 刑務所の飯が不味すぎるせいで、俺の味覚が一時的にバグを起こしているだけだ。

そうだ、俺がこんな惨めな思いをしながら冷や飯を食っているのも、全部東田のせいだ。東田が俺に「自立しろ」なんてウザい説教をしなければ、俺は今頃、自由な金で高級寿司を食っていたはずなんだ!

永遠に訪れない救い

消灯のラッパが鳴り、房の中は完全な闇に包まれた。

同室のクズどもが下品なイビキをかき始める中、俺は冷たい畳の上で天井を睨みつけていた。

「……ネットの奴らは、何をしてるんだ」

俺は小さく呟いた。

俺があの悪徳NPOの代表を成敗したというニュースは、当然世間に流れたはずだ。

ネットの信者たちは、俺の行動を「義挙」として称賛し、今頃は俺の無罪釈放を求めて署名活動でもしているに違いない。

「もう少しの辛抱だ。俺ほどの才能を持つ人間を、社会がこのまま腐らせておくはずがない。必ず誰かが、俺をここから救い出してくれる」

そうだ。

あの時、公園のベンチで誰かが助けに来るのを待っていたように。

俺はただ、待っていればいいのだ。

世の中の愚民どもが俺の真の価値に気づき、この理不尽な鉄格子をぶち壊して、俺を英雄として迎えに来てくれるその日まで。

俺は絶対に間違っていない。

俺は悪くない。

全部、俺を理解できないこの腐った社会のせいなんだから。

――そうして、天才であるトウジの夜は更けていく。

彼が待つ「救い」が永遠に訪れることはなく、その身が老いさらばえ、冷たい刑務所でひっそりと息絶えるまで、この滑稽で惨めな妄想は続くのであった。

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