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「人間の……」
「ん?」
しまった。人間の街なんて言う言い方、自分が人間じゃないみたいじゃない。
「ま、街までどれくらいかかるの?」
ヴァンさんに抱っこされたまま森の中を進んでいる。
「そうだなぁ、このペースで歩いていけば2か月くらいだな」
そ、そんなに?
「走れば半分だ」
走っても1か月はかかるんだ。
私が住んでた村……いや、エルフの住んでいる森ってずいぶん人間の住む場所から離れてたんだ。そりゃよほどの物好きじゃないかぎりエルフの村に来ることはないか。
「ヴァルさんは冒険者なんだよね?」
「ああそうだ」
「依頼で来てたの?街に戻って大丈夫なの?もしかして私のせいで戻ろうとしてるの?」
もし、依頼の途中でいったん街に戻るなら、往復するだけで何か月も無駄になってしまう。
「あはは、フワリは優しいな」
ヴァルさんが笑って私の頭を撫でてくれた。
頭を撫でられることが嬉しくて胸の奥がポカポカする。
「大丈夫だ。里がえ……いや、知り合いに会いに行っただけで依頼じゃないから大丈夫だ」
「知り合いって、エルフ?」
うちの村では人間との交流は一切なかったけど、別の村だとそうでもないのかな?
「いや、エルフではない」
「でも、森の奥に住んでるのはエルフだけでしょ?」
首を傾げるとヴァルさんが丁寧に教えてくれた。
「人里から離れて生きていきたいという人間が住み着くことはあるぞ?それに人の言葉を解し交流する魔物……聖獣だとか神獣だとか人間が呼ぶものもいる。それから見える者は少ないが、精霊や妖精も住んでいる」
あ、そうだった!
精霊がいるんだ!見えないけど、いるのは知ってる。
私の精霊はこうしてずっとそばにいてくれるけれど、森の中から移動しない精霊もいるんだよね。
「それから今歩いてるこの下にも、ドワーフがいるかもしれない」
「ドワーフ?本当に?会いたい!」
ヴァルさんが変な顔をした。
「ドワーフに会ってどうするんだ?あいつら頑固だし、いつも土まみれで汚いし、酒ばっかり飲んでるから酒臭いし」
ペチン。
ヴァルさんのほっぺたを叩いた。
「ドワーフを悪く言わないでっ!」
ヴァルさんは私に叩かれて驚いた顔をしている。
「頑固なのは仕事に誇りを持っているからでしょう?土まみれなのも、仕事をしているんだもの。それに、酒に飲まれて人に迷惑をかける人間なんて腐るほどいる。酒に飲まれずに飲むだけなら何も悪くないでしょう?お菓子が好きで食べるのと何も変わらないわ!」
抱っこされた位置から見えるヴァルさんの横顔がほんのり赤く見える。
これは、私が叩いたから赤くなったのか、それとも怒りで顔を赤くしているのか……。
しまった。つい……。謝らなくちゃ。
「悪かったな。人間はドワーフよりエルフの方が好きだろう?だから驚いたんだ」
どうせ見た目だけに引かれてるんだろうね、男女とも。
やだやだ。中身腐りまくってるんだよ、エルフ。
いろいろ言いたかったけど、なんでそんなこと知ってるんだと思われても困るので腹の立つエルフのことから話題を変える。
「ねぇ、ヴァルさんはドワーフに会ったことある?やっぱり腕は太い?がっしりどっしりした体つきで、おひげがもじゃもじゃしてて、とっても優しい目をしてるの?」
ヴァルさんが肩を揺らして笑っている。
「あはは、まぁ間違っちゃいないな。鉱石を掘るにしても鍛冶をするにしても、力が必要だからな。腕の筋肉は発達しているし、踏ん張りがきかないとつるはしも振れないないからおのずと足も鍛えられる。重心が下の方にあったほうが安定するから身長が高い者より低い方がモテてる。鍛冶の熱から顔を護るために分厚いひげがあった方が役立つからひげはもじゃもじゃだな。だが、そんな者ばかりじゃないぞ」
なんと!ドワーフは重心が低い、つまり背が低い方がモテるから子孫を残しやすくて、代を重ねるごとにずんぐりした体型になったってこと?
髭も炉の熱から顔を護るためだったなんて!
「すごい!ヴァルさんドワーフのこと詳しいんだね!さっきは叩いてごめんね?もしかしてドワーフのこと好きだから憎まれ口……うちのカーちゃんは口うるさいってつい言っちゃうみたいなそういうことだったの?」
「ははは……」
ヴァルさんが渇いた笑いを漏らして明言を避けた。素直に好きだと言うもんかってやつかな?
「フワリはどうしてドワーフに会いたいんだ?」
「包丁と鍋が欲しい!」
はいっと手を挙げて元気に答えると、ヴァルさんが首を傾げた。
「人間の街でも手に入ると思うが、特別なものが欲しいのか?」
しまった。




