#9
>>Towa:3 Month Later
鋼の獣の一件から3ヶ月が経った。自宅の屋根に独り腰掛けた私は、夜風を頬に感じながら静かに星空を見上げていた。満天の星々が瞬く夜空は存在しないはずの遠い昔の……大宇宙の彼方の記憶を呼び起こすように感じられた。
私は無意識に掌中の小さなC3の表面を指で撫で回していた。冷たく滑らかな感触を指先で感じながら、私はこの3ヶ月の事を思い返した。
辺境の惑星にはそうそう重大な事件が起こるはずも無く、毎日は平穏であるけど代わり映えの無い日常の繰り返し。しかしそんな中で私自身にはいくつかの変化があった。
まず一つ目の変化は私がスクールを卒業したこと。ギルドの庇護下にある子供は5歳になる年にギルドが運営するスクールに入学し、15歳になるまでの10年間、様々なことを学ぶ。
最初の5年間は初等クラスとして全員が一般常識をはじめとした基礎的な学問を。次の5年間は職業適性に応じた専門クラス別に、就業に必要な技術や知識を高める実践的な訓練を。私の場合はシンガーとしてC3に関する様々な知識を学んできた。
そしてスクールを卒業したという事は、訓練が満了し就業する準備が整ったということになる。
そして卒業時にシンガーとしての適性を再測定した結果、私はSランクであると認定された。BランクのC3を砕いたことがあるから、おそらくそうだろうと思っていたけど、Sランクは銀河にも数人しかいないと言われてそのレアリティに自分で驚いた。判定結果を告げたリーザロッテ先生にそう言うと、驚く箇所が違います、と思いっきり呆れられたけど。
帰宅してからお義父さんとアイリスに報告したけど、さほど驚いた様子もなく、驚かない理由を尋ねると「トワだから」と口をそろえて言われたことは良く覚えている。
二つ目の変化は私が15歳の誕生日を迎えて成人したこと。無数の惑星に活動拠点を持つギルドでは多くの惑星と同じようにEST……時元標準時(Epochal Standard Time)換算で15歳になった時点で一人前と認められ、正式にギルドの一員となることが許される。
他の惑星や支部の事情はわからないけど、この星にはギルドメンバー以外の住人はいないし、ギルド以外の働き口も存在しない。なのでこの星で生計を立てるにはギルドの一員として働く以外の選択肢は存在しない。
例外的にギルドのC3輸送船の乗員になったり、ギルドを脱退して星外へ移住したりする人もいるらしいけど、それはごく少数派だけと……。ともあれ、成人したことで私は自らの身の振り方を自分で決めることが出来るようになったんだ。
三つ目の変化は……それまで秘密にしていた、私の能力が親友であるエミリーにバレだということだ。
私がSランクシンガーだと言う事が皆に知れ渡った時、スクールの同級生をはじめとした居留地の皆は辺境の惑星で最高位のシンガーが誕生したことを驚き、喜んでくれた。けどエミリーだけはジト目で私の事を見てきたんだよね。
そしてスクールの卒業式が終わり、卒業記念パーティの後に私はエミリーに校舎の裏へ呼び出されたんだ。ホロムービーとかで良くある告白シーンかと聞いた私をグーで殴った後にエミリーは言った。
「トワ?あなた、わたしに隠してること、ありますでしょう?」
って。確かにお義父さんやアイリスに言われていくつかエミリーには話していないことはあったけど、エミリーがぷんすか怒りながらそう言うのはどの隠し事かわからなかったから、普通に何の話かと聞くと……エミリーは言った。私とアイリスのブラスターは普通じゃないよね、と。
なんでもエミリーは破壊された鋼の獣の残骸を見て、その破壊痕がアイリスの朱でも私の碧によるものでもないことに気付いたんだそうだ。つまりアレは蒼……それも強化された蒼によるものだって。
エミリーは最初、ヘルミナが同行していたこともあって彼女による改造かと思っていたらしい。けどヘルミナ本人からそれを否定され、私とアイリスが持ったいたブラスターはそれぞれ朱と碧だと聞いたんだそうだ。
私達はC3を産出する惑星で暮らしているけど、常日頃からC3を持ち歩いている訳じゃない。だから戦闘中にブラスターの特性が変わったのだとしたら、Sランクシンガーである私が何かしたんだろう、さぁ秘密を吐けとエミリーは悪い顔で言った。
私とエミリーは親友だから、隠し事はしても嘘は付きたくなかった。だから素直にそうだと答えた。エミリーはその答えに満足した様子で頷くと、私に口止め料を要求してきたんだ。
「じゃあ、トワ?わたしのブラスターも強化して下さいな。あ、あと最近二丁拳銃の練習をしていますの。あなた、支給されたブラスターを使ってないですよね?そちらも同じように強化してわたしに下さいな」
「エミリー、強盗?」
「それをいうなら強欲か強要……って強欲でも強盗でも強要でもありませんわ!」
念のためアイリスに確認を取ったところ、そこまでバレてるなら口止めのためにエミリーのブラスターを強化するのは仕方ないがないだろうということになった。もちろん、混合するところを見せると騒ぎが大きくなるから現物支給の形になったけど。
結局、エミリーの希望でエミリーのブラスター――と、机の中に放り込んでいた私のXthキャリバー――は藍碧のC3を宿すことになったんだ。でもそんな強化をしてどうするつもりなんだろうね、エミリー。
そして最後の変化。3日前に迎えた、私の15歳の誕生日の夜。私は、私自身も知らなかった自分の出自をお義父さんに聞かされ、アイリスからある告白を受けたんだ。




