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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第1部1章『いつかまた大宇宙のどこかで』CM41F3C-開端の惑星
10/621

#10

>>Towa:3 Days ago


「それは、アイリスも知ってる話?」


 友人達を招いた誕生会が終わり、夜も更けた頃。

 私の過去にまつわる大事な話がある、とお義父さんに切り出された。


「いや、この事を知っているのは、私とお前の父だったアルフレッドだけだ」

「なら、アイリスと一緒に聞かせて欲しい」

「……それはかまわんが……理由を聞いてもいいか?」

「アイリスとはお互いに隠し事はしないと約束してる。どうせ後で話すなら、一緒に聞いてもらったほうが面倒がない」

「……実にトワらしい答えだな。いいだろう、アイリスを呼んできなさい」


 お義父さんの言葉に無言で頷き、私はアイリスの部屋に向かった。


 私の言葉に嘘はない。

 ただ『大事な話』の内容次第では、私がアイリスに話すことを躊躇ってしまうかもしれない。

 私の躊躇でアイリスに隠し事をするのは嫌だった。


 なら、一緒に話しを聞いてもらった方が良い。

 ……そう思っただけだ。


 アイリスは既に寝る準備を済ませていたけど、私の様子に何も言わず同席を了承してくれた。

 二人で執務室へ赴き、お義父さんがいれてくれたココアを飲みながら、話を聞く。


 お義父さんが話してくれた内容は、私の不思議な出自にまつわる話だった。



 今から15年前。

 新しいC3鉱脈の探索を目的に、開拓団保安部の隊長だった私のパパ、アルフレッド・エンライトを代表とした調査隊が編成された。

 調査隊の目的地は居留地のある大陸の反対側、衛星軌道上から確認されたC3らしき反応があるエリアだ。


 その地へ向かった調査隊は探索エリア内の荒れ果てた渓谷地帯の、特に入り組んだ地形の先で、朽ち果てた遺跡のようなものを発見した。

 半ば風化し、砂に埋もれた機械の残骸が無数に横たわる遺跡は、現在よりも高度な文明の産物であるように思われたらしい。


 調査隊のメンバーは遺跡の最奥に、長き時を経て未だ稼働状態にある区画を発見する。


 何かの生物が収容されていた可能性のある、密閉された囲い状の構造物。

 破損したいくつもの冷凍睡眠ポッドと思わしき装置。

 それらのほとんどは朽ち果て、機能を停止していたが、その中の一つだけがかろうじて機能を維持していた。


 ポッド――というより水槽の様な構造体の中に、氷付けの状態で眠っていたのは生後間もない女の子(・・・)だった。


 赤子を保護し、遺跡の外へと向かう調査隊のメンバーの前に機械のような姿の獣が立ち塞がった。

 ポッドを解放するために試行錯誤したことで、獣が収容されていた封鎖施設が開放されてしまったのだ。


 冷たい殺意と共に襲いかかる獣に調査隊はブラスターで応戦するが効果は無く、一人、また一人とその鋭い爪の餌食となっていく。

 やがて戦闘の影響で遺跡は崩落、その混乱に紛れて生き延びたのは、重傷を負ったアルフレッド……パパと赤子だけだった。


 瀕死の状態で居留地へ帰投したパパは事の次第を団長に報告したが、団長は保護した赤子の将来を思い表向きには事実と異なる内容を公表した。

 調査隊は崩落事故によって壊滅。

 赤子はアルフレッドと、調査隊のメンバーであった女性との間に産まれた娘である、と。


「その赤子が、私?」

「……そうだ。あまり驚かないんだな?」


 なんとなく、そんな予感はあった。

 パパと私は全く似ていなかったし、遺伝の影響が強く影響するシンガー能力的にも、パパと私の血縁関係は疑わしかったから。

 なにせ、パパのシンガー能力は最低レベルだったのに対して、私は物心つく前からAランクの調律が出来ていたからね。


 遺跡の中から発見されたというのはさすがに予想外だったけど、遺跡の正体を推測したことで納得できた事もある。


「むしろ諸々納得した。それで、私の正体は異星人?」

「いや、健康チェックを兼ねてかなり精密な検査を行っているが、トワは普通に私達と同じ人間だ」

「ちょっとがっかり」

「……いや、そこは安心しなさいよ?というか私が安心したよ……」


 何故かアイリスがぐったりした様子で突っ込みを入れてきた。

 解せない。


「妹の正体はエイリアン。そっち方が物語的に盛り上がる」

「いや、物語じゃなくて現実の話だからね?あ、でも……」


 アイリスが眉をひそめ、何事か考え込む。

 たぶん、私が納得した事実にアイリスも思い当たったのだろう。


「そういえば、私の名前。パパが付けたの?」

「ああ、そうだ」

「名前の由来を知りたい」


 出自が不明なら、せめてパパの想いを知っておきたい。

 普段お義父さんはあまり昔のことを話してくれないから、このタイミングで聞くしかないと思ったんだ。


「アルフレッドに聞いた話では、お前を連れて遺跡から脱出する際に声が聞こえたと」

「声?どんな?」

「崩落の最中だったので良く聞き取れなかったそうだが、エトワとか、アトワとかそういう言葉に聞こえたそうだ」

「……それで、トワ?」

「そう聞いている。アルフレッドはそれがお前の本来の名前なのだと思ったと言っていた」

「……わかった」


 パパは「本当の私」を尊重してくれた、という事なんだろうか。

 ふと、割とぶっきらぼうで口数は少なかったけど、いつも大きな手でやさしく頭をなでてくれたパパの事を思い出した。


 あの人(パパ)なら、自分の想いよりも、本当の私を尊重してくれそうな気がして、すっと腑に落ちた。

 ……名前の由来は解けない謎になったけど。


「そうだ、トワ。お前に渡しておきたいものがある」


 お義父さんはそう言うと、親指ほどの大きさのクリスタルがぶら下がったペンダントを差し出した。

 一見するとそのクリスタルはC3のようだけど、調律によって与えられる単色のそれとは異なり、揺らめく色と色が重なり合う、儚くも美しい……虹色の光がそれには宿っていた。


「きれい……」

「アルフレッドが、おまえが眠っていたポッドの中で見つけたものだ。トワが小さな手で握りしめていた、と言っていた。トワが成人したら渡してくれと託されていたのだ」

「パパが?」


 そう呟きながら水晶を手に取ると、その表面が優しく揺らめくように輝き出した。

 まるでパパの温もりが、今もそこに宿っているかのように。


 パパはもういないけど、ここにはパパがいる。

 そんな気がした。


「本当に綺麗だね……。まるでトワの瞳みたい」

「ああ、私もそう思っていた。きっとこれはトワの出自に繋がるものなのだろう」


 クリスタルの事も気になるけど、私にはもう一つ気になった事があった。


「ところで、さっきの話。機械のような獣って」

「ああ、おそらく3ヶ月前にお前達が倒した鋼の獣(メタルビースト)と同種、もしかしたら同一の個体かもしれんな」

「お義父さん。あれ見て思い当たる節があった?」

「ああ。映像は残っていなかったが、報告にあったものと特徴が酷似していたからな」

「ちょっと待って、その話って15年間の事だよね?なんで今頃になって……」


 アイリスの言葉ももっともだ。

 そこは私も不思議に思っていた。


「あれが同一個体だったと仮定しての推測だが、遺跡のあった場所はこの大陸の反対側に近い。そこから各地をさまよい歩いてここまでたどり着くのに、15年の時間が掛かったと考えるのが妥当だろう。地形の厳しさを考慮すれば、そうした年月が必要だったとしても不思議ではない」

「まぁ、あんなのが複数うろついてると思うよりは、15年掛けて来たと考えたいけど。……でも、楽観視はできないかな」

「鋼の獣(メタルビースト)は遺跡に囚われていた。ということは」

「ということは?」

「鋼の獣(メタルビースト)は、私のお姉ちゃんかもしれない」

「どうしてそうなるの!?アレを姉呼びするぐらいなら、私をお姉ちゃんって呼んでよ!」


 冗談はさておき、同じ遺跡に眠っていたということは、私と何か関係がある可能性は否定できない。

 そして鋼の獣(メタルビースト)の正体を調べることが、私の望みを叶える手段になるかもしれない。


 私はそう考えたけど……それはすなわち、アイリスやお義父さんと別れ、CM41F3C(この星)を独り出て行くということと同義だった。

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