#8
>>Towa
居留地へ戻り、色んな人と色んな話をして、気付いたら真夜中になっていた。
ジョッシュには謝罪と感謝をされた。私達を残して戻ったことへの謝罪、ヘルミナを助けた事への感謝。何故か男泣きに泣いていた。手柄を取られたのが悔しかったんだろうか。
資材部の人達には文句を言われた。ブラスター用のC3を2つも壊してしまったから。結構高いからね、ブラスター用のC3。でも、美少女2人の命と比べると安いと思うんだけど。
保安部の人には称賛された。居留地に対する脅威を未然に防いだことはお手柄らしく、スクールを卒業したら保安部に就職しないかと勧誘された。私はシンガーだし、興味が無いし、保安部はむさ苦しい男所帯なので無論断った。
そして、お義父さんには感謝され、叱られた。団長として、ヘルミナを救い未知の敵を撃退したことを感謝された。そして、父親として危ないことをした娘達に対する愛情のある叱責を受けた。
叱られたのに嬉しかった。私は、この人に愛されてる。そう感じたから。隣にいたアイリスもたぶん同じように思っていたと思う。
一度に多くの感情を浴びて、少し疲れた。結局ご飯は食べられなかったけど……今日はもう寝よう。アイリスには平気だと言ったけど、立て続けの混合再調律はさすがに体力を削るものだったらしい。煩わしい着衣を全て脱ぎ捨て、ベッドに潜り込もうとしたところで記憶が途絶えた。
――翌日は結局、昼前にアイリスに起こされるまで爆睡してしまった。どうやらベッドにたどり着く前に寝落ちしてしまったようで、目覚めたのは床の上だった。
「トワ、もうお昼だよ……ってどこで寝てるのよ」
「空腹で気絶してた。結局、丸一日ご飯食べてない」
「もう、この子は……。家の中で行き倒れられると迷惑だから、お昼にするよ」
「わかった、すぐ行く」
「ちょっと待った!だから、部屋を出る前に服を着なさいって、いつも言ってるでしょ!」
「服を着ている間に餓死する」
「しない!」
Tシャツを頭から勢いよく引っ張られるようにかぶせられた。恒例行事となっている朝の攻防、これがないと朝が来た感じがしない。いや、今は昼だし、アイリスが来なければそのまま出かけていただろうけど。
いつもの1.5倍ぐらいの量のランチを食べ、それ以上食べられなくなったので諦めた。3食も抜いたのにその半分ぐらいしか食べられないのは、なんだかとても損をした気がする。なので、これからは何があっても食事だけは絶対に抜かないようにしようと心に決めた。
食事中に聞いたところによると、アイリスは朝から色々な部署を回って報告や根回しをしてくれていたらしい。アイリスも疲れてただろうに。私はちょっと反省した。
「ごめん」
「別に気にしなくていいよ、管理官としてのお仕事の一環でもあるからね」
「頼りになる。アイリス、好き」
「はいはい。そうだ、ブラスター用C3、新しいのもらってきたよ」
そう言うとアイリスは鈍色のクリスタルを差し出した。この色合いは……。
「これ、Cランク?」
「うん。Dランクだとまた壊しそうだからって」
ランクが一つ上がるごとにC3が充填できるエネルギー総量や増幅効果は倍々になる。元々使っていたのがDランクだったので、ランクアップよる効果倍増は一見すると良いことに思えるけど、もちろんデメリットだってある。それはエネルギーの消費量も2倍になるということだ。
神業レベルの射撃能力を持ち、無駄撃ちしないアイリスには有効なランクアップだけど、射撃が得意な訳ではない私にとっては、ただ撃てる時間が半分になるぐらいのデメリットしかない。ああ、そうか状況に応じて再調律する幅が広がったと考えればいいか。
「そういうこと」
あれ?私、声に出してた?
「トワが考えてる事ぐらいわかるよ?」
私の姉には隠し事ができないらしい。そういえば時々考えを読まれてる気がするので、頭の中で姉と考えるのもやめた方が良いかもしれない。気恥ずかしいし。あ、もしかしたらアイリスは特殊能力者なのでは。
「別に読心能力とかはないよ?」
読心能力者ではないということは、さては天才か。いや、元から天才だよね、アイリスは。天才な上に努力家だし、おまけにスタイルの良い美少女で胸も大きいとか。ホロムービーのスーパーヒロインでもこんな子いないよ。
昼食の後、救護室にいるヘルミナを見舞いに行った。昨夜のうちに意識を取り戻したらしいヘルミナは、出血の影響で顔色こそ悪いものの思ったよりは元気そうだった。そんな彼女にまずは謝らないといけないことがある。
「ヘルミナ、ごめん」
「こっちがお礼を言わないといけないのに、なんでトワが謝るのさ?」
「腕、回収できなかった」
そう、私が洞窟を崩落させてしまったせいで、切断されたヘルミナの腕を回収することができなくなってしまった。普通の獣による裂傷ならともかく、鋼の獣の鋭利な爪による切断なら、欠損部位さえ回収できていれば、再接合できていた可能性があったのに。
「ああ、そういうことかぁ……。でも、腕のために命を無くしてたら意味ないからね。それに、エピテーゼ手術で新しい腕を付けるから気にしなくていいよ」
エピテーゼ手術とは義肢装具による機能回復治療だ。C3鉱山があり、崩落事故が発生する可能性の高いこの星にはギルドからの支援で十分な医療体制が整えられている。特に外科手術においてそれは顕著で、大きなプラントが必要なクローン施設は無理だけど、辺境の惑星では珍しい中央星域の最先端技術による医療機器や義肢装具ならギルドから支給されていると聞いた事がある。
なので、外見の修復に加えて腕としての機能が失われることはない……けど、それでもやはり生身の腕とまったく同じという訳にはいかないだろう。
「そうだ、どうせなら新しい腕は機械式にしてブラスターを内蔵するのもありかも!威力と弾数を増加したタイプを内蔵すれば……いや、いっそのこと五指すべてから弾を発射できるように?それよりもカートリッジ交換で色々な機能を付加した万能アームにするのもありかも!」
なにやらヘルミナがおかしな事を言い出した。もしかしたら洞窟で倒れたときに頭を強打していたのだろうか。隣にいるアイリスに目でヘルミナの容態を問うと、無言で頭を振られた。なるほど、これはヘルミナの素なのか。私の中でヘルミナと言う女性は「よく知らない人」から「よくわからない人」になった。
……いや、本当はわかっている。私に罪悪感を持たせないようにわざと明るく振る舞ってくれていることは。
「ブラスターに内蔵するC3の希望があれば言って。責任をもって私が調律する」
だから、私に出来るかぎりの事は協力しよう。
「いや、アレは本当に素だと思うけどな……」
アイリスは呆れたようにそう言い、肩をすくめた。
その後は保安部が回収した鋼の獣の残骸を確認しにいくことにした。バギーに積まれたままの鋼の獣は頭部から臀部までを綺麗に撃ち抜かれた状態で、完全に機能を停止しているようだ。
改めて間近で見ると、その異質さに怖気が走る。居留地のルールでは狩りの獲物は狩った当人の所有物になるけど、さすがにこれは持って帰って食べる訳にもいかないし、トロフィーとして飾るには気持ち悪すぎる。
「アイリス、これどうするの?食べる?」
「歯ごたえ十分、鉄分もたっぷり摂れそうだね」
「じゃあ持って帰って晩ご飯?」
「食べるのはトワだけにしてね?」
「私は金属アレルギーだからパス」
「相変わらず仲が良いな、お前達は。ああ、私も歯医者は嫌いだからパスさせてもらうぞ」
アイリスとじゃれているとお義父さんがやってきた。どうやら鋼の獣を確認しに来たらしい。
「しかし、これは……」
鋼の獣を見たお義父さんは眉をひそめ、何事か考え込んでいる。アイリスはギルドのライブラリーに載ってなかったと言っていたけど、何か心当たりでもあるんだろうか?しばらく待ったがお義父さんは何も言わず、黙ったまま鋼の獣を睨んでいる。
「お義父さん」
「あ、ああ。すまん、少し考え事をしていた。ここに置いたままにもできんだろうし、うちへ運ばせておこう」
「アイリスの部屋に飾ると喜ぶと思う」
「喜ばない!」
「ならお義父さんの執務室に」
「トロフィーを飾る栄誉はトワに譲ろう」
「えー、ひどい」
心安い、家族の会話。いつまでもこの人達の家族でいたい。全てを失った私に多くのものをくれた、大事な家族。なのに、どうして、私はこの人達と別れてでも「帰らないといけない」と思うのだろう。私の心はCM41F3Cにいたいと叫んでいるのに。




