#4
移動中、私とアリサは統括局に連絡を取って装備増強についての申請を行うことにした。
開拓団が放棄された民間の装備で身を守っているという話は統括局にちゃんと伝わっていなかったらしく、慌てて装備の手配が行われることになった。
どうやらクラガン団長の申請にも問題があったらしいけど……ともあれ、新しい装備の手配はできた。
アルカンシェルに戻っていたトワ達にパワードスーツの取り寄せを頼み、開拓団の戦力増強についての目処が立った頃、前方にファームが見えてきた。
「もっとこう、農業プラント的なものをイメージしていたのですが」
「うん。プラントというより完全に農地、農村だね」
見渡す限り広がる農地には、穀物や野菜が植えられている。
荒れ地との境界線に簡単な柵は設けられているけど、防御機構のようなものは備えられていない。
一体どうやって原生生物から農地を守っているのやら。
やがてのどかな農業地帯にかろうじて整備された道を進んでいたビークルの前方に、集落が見えてきた。
うん、あれは町じゃなくて集落だ。
「あれ、木造平屋建て……ですよね?」
「謹慎中にトワと暮らしてたヴェルデナの建物に似てるね。ちょっと懐かしいかな」
「ここまで建材を運ぶのが大変なので、近くの森で伐採した木材を使ってるんですよ。おかげでおとぎ話に出てくる村みたいな生活になってますけど」
運転手さんは笑いながらそう言うけど……私は嫌いじゃないな、そういう生活。
やがて集落の外れにあるガレージ――これはちゃんとした金属製だ――の前にビークルは停車し、待機していた保安部のスタッフが動力甲冑の引き取りに現れた。
「助かったぜ……って、このお嬢さん方は?」
「おい、ランツ!こちらのお2人は管理官だぞ!」
「!?し、失礼しました!」
ランツという保安部のスタッフは、運転手に私達の職位を聞いて目を白黒させている。
まぁ、小娘2人が揃いも揃って管理官だとは普通は思わないよね。
ともあれ動力甲冑のことは彼らに任せておくとして、私達は本題である「話の通じない少年」の相手をしに行こうか。
少年が監禁……いや留め置かれているのは、集落の端にある石造りの倉庫の中らしい。
遠隔でヘルスチェックを行った結果、病原菌や感染症の可能性はないそうだ。
もっとも、私とアリサは多少の病原体になら完全耐性があるから、その点についてはあまり心配していないけど。
話を聞いたファームの人の説明によると、少年は半ば錯乱状態なのか訳のわからないことを口走っているせいで居留地には連れてゆけず、さりとてファームで自由にさせる訳にもいかないので原生生物の襲撃から少しでも身を守れる石造りの建物に「滞在」してもらっているとの事だった。
ファームの人が案内を申し出てくれたけど、それを断り私とアリサは2人でその建物へ向かう。
と……。
「燃え上がれ、血の誓約よ!煉獄より出でし紅蓮の咆哮、ヘルファイヤー!……ダメか……なら!黄泉の門よ開かれよ!屍よ踊れ、冥府の軍勢!……くそっ、これもダメかよ!」
何やら怪しげな言葉が聞こえてくる。
これは確かに……言葉は通じるけど、話は通じない気がするし、聞きようによっては錯乱しているようにも思える。
「ね、アリサ。聞こえた?」
「ええ、はっきりと。ヘルファイヤーにレギオン・オブ・デスと」
「……魔法の詠唱、かな?」
「それっぽいですね。効果は発動していないようですけど」
うん、確かに地獄の炎が燃え上がった形跡も、冥府の軍勢が踊ってる気配もないけど。
……一体彼は何者なんだろうか。
「アリサ、魔法って実在すると思う?」
「一度、魔法で撃たれたことなら事ありますね」
「嘘っ!?それ、何時の話?」
「初めてクレリスへ降りた時に、ローヒーのダンジョンの中で、です」
ローヒーというのは確かファンタジーモチーフのARゲームだったはず。その中で敵が魔法を使っていた?
でも、それってAR上のエフェクトだよね?
私がそう確認すると、アリサは頭を振った。
「いえ、その中でチートプレイヤーが魔法の杖を持っていまして。トワ様にエネルギー弾を放つという蛮行に出たので、私が十文字斬りにしようとしたのですが……」
「ちょっと待って!?トワも撃たれたの!?というか本物の魔法なの、それ!?」
「トワ様は盾で防がれていましたが、それでも許しがたいので十文字斬りに。ちなみに杖に内蔵していたブラスターを撃っていたようです」
トワを狙ったと聞いて私の中の『絆』がざわついた。
そう言えばあの時、私がトワのピンチを察知したのは……そのせいだったのか。
いや、でも今は魔法の話だ。アリサの話だと魔法とはいっていても、それはブラスターの事だよね?
「ええ、ですから厳密には魔法ではありませんね。ですが……私やアイリスさん達の能力は、普通の人から見れば十分魔法的だと思いますけど」
「まぁそれもそうか。それに……よく考えたら超光速航行も、それを知らない人から見れば魔法みたいなものに見えるだろうね」
「ええ。発達した科学技術は、魔法と見分けがつかないとも言いますし」
「なら、この中にいる彼も、そういう存在かも知れないってことだね」
「可能性は。ただ……なんとなくですが、違う気もします」
そんな事を言いながら、私は倉庫の扉をノックした。




