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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第1部3章『罪無き者の贖罪』ペレジス-虚栄の惑星
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インターミッション『銀腕の花嫁』CM41F3C-銃誓の惑星 #1

 「銀腕の花嫁」はこの辺境の星で語り継がれている開拓初期の伝説の一つだ。この星では今も、新郎新婦は撃ち尽くしたブラスターのカートリッジを互いに交換し、(ブラスター)を打ち合わせて愛を誓い合う。過酷な環境を生き抜きながら、互いを支え合う象徴として。




 辺境の惑星、CM41F3Cにモーリオンギルドの開拓団が入植して数十年。まだ歴史の浅いこの惑星には伝統的な由来を持つ独自の祝祭日は存在しない。そのかわり、年に数回訪れる「結婚式の日」が開拓団の全住民を巻き込む特別な祝日として扱われている。

 この惑星での結婚式は単なる二人の門出を祝う日ではなく、共同体全員にとっての祝日となる。結婚式が執り行われる日には通常業務はすべて休みとなるため、住民総出で式場の準備や飾り付けに取りかかり、料理も皆で持ち寄って用意するのが習慣だ。結婚とはこの地で共に生きる仲間たちの新たな門出を祝う日。つまりこの惑星の「祝日」は特定の日ではなく、仲間の未来を祝う日そのものなのだ。


 そして今日、新しく一組の夫婦が誕生しようとしていた。


 新郎の名はジョッシュ・ホルムス。

 新婦の名はヘルミナ・ルーベンス。


 若くして結婚するカップルが多いこの星では珍しい、共に三十路になって初婚を迎える晩婚の二人だ。


 辺境の居留地には小洒落たセレモニーホールなどは存在しないため、式はいつも居留地の隣にあるHLV発着場──広々とした降着用の広場――で執り行われる。普段はがらんとしたこの広場も今日だけは住民の手で飾りつけられ、ちょっとした祝祭のような彩りが添えられたささやかな手作りの装飾が周囲に温かな雰囲気を漂わせている。


 開けた空間に張り巡らされた旗や花飾りはどれも質素ながら心を込めて作られたものばかりだ。リボンや小さな花束が結ばれた柱が、特設のアーチとして二人を迎えるように設置されている。地面に敷き詰められた砂利は掃き清められ、降着用のランプは赤い布を巻かれてランタン代わりとなって周囲を柔らかく照らしている。

 いくつも並べられた長テーブルの上には家庭ごとの料理自慢が一品ずつ持ち寄られ、テーブルを彩っている。大皿に盛られた「四つ脚」のロースト、焼きたてのパン、色とりどりの野菜の煮込み料理、甘いデザート──どの料理にも居留地の仲間たちの心が込められている。

 大人も子供も、老人たちも、結婚という門出を心から祝う気持ちを込めていることが式場全体から伝わってくる。


 ギルドにおける結婚式は人前式であり、参加者全員の前で二人が誓いを交わす形式がとられている。式を執り行うのは開拓団の長、ハロルド・ブースタリア三等管理官。老齢の域に達してなお精力的に開拓団を指導する彼は、厳しくも柔和な笑みを浮かべながらフォトンフラッグを掲げ集まった人々の前で二人の結婚を宣言する。


 ジョッシュとヘルミナは集まった大勢の人々の間を通り抜け、式場の中心に立った。住民たちが笑顔で手を振り、祝福の声が空に響く。二人は晴れやかな表情で見つめ合い、今まさに誓いの言葉を交わそうとしていた。

 向かい合った二人の脳裏には未来への希望と共に、過去の記憶がよぎっていた。十数年前──まだ若く、無鉄砲だった頃の記憶。あの、命を賭けた戦いと、その後の挫折の日々の記憶が。




 当時、ヘルミナとジョッシュはどこか無鉄砲で未熟な若者だった。


 ヘルミナはスクールに在籍していた頃から筋金入りのガンマニアであるだけでなく、銃の改造や撃つことそのものが好きなトリガーハッピーな問題児として知られていた。ギルドの規則にこそ従ってはいたがギルドメンバーとしての使命感や武器を手に誰かを守る意識とは無縁で、ただ自分の興味のままに銃をいじり、射撃に夢中なる。そんな変わり者の少女だった。

 周囲はそんな彼女を奇異の目ではなく、むしろ同情の眼差しで見守っていた。

 なぜなら幼い頃、彼女は原生生物の襲撃で両親を失っていたからだ。居留地の外で原生生物の群れに遭遇し、武器を持たなかった両親は幼い彼女を逃がすのが精一杯だった。結果として娘を逃がすことには成功したものの、二人はともに命を落とす事になった。

 そんな過去がヘルミナを銃に執着させていると周囲は感じており、それ故に彼女の行動に口を出す者はいなかったのだ。


 しかし、最初は力を得るために渇望していたブラスターがいつしか趣味となり、単なる娯楽へと変わっていったことに彼女自身も気づいていなかった。やがて彼女は軍用パーツを使った違法寸前の改造にまで手を出し……いつしかヘルミナは限度を超えていると、周囲から白い目で見られるようになっていた。


 一方ジョッシュは開拓団の中では平均的な家庭に生まれ、何不自由なく育ったごく普通の子供だった。保安部員だった父に憧れ、将来は保安部に入ることを夢見ていたこともあり、ある程度の正義感は持っていた。しかしその信念は深く考えられたものではなく、どこか軽薄で衝動的な面があった。

 それ故に当時のジョッシュは「カッコいいことをしたい」「他人に頼られたい」という見栄や思いつきで行動することが多く、物事を冷静に分析することもないまま、ただ気ままに過ごしていた。ようするに、彼は普通の子供だったのだ。


 スクールの同級生の中ではジョッシュは比較的優秀な方だった。しかし、彼にとって不幸だったのは……同学年に、飛び抜けた天才がいたこと。アイリスという名の、開拓団長の長女は文武両道で容姿にも恵まれ、まさに天性のリーダーだった。

 普通の男子であったジョッシュはことある毎にアイリスに勝負を挑み、完膚なきまでに叩き潰された。それでもアイリスを恨まなかったのは、なんだかんだと言っても彼が善良な人間だったからだろう。

 やがて学年が進む毎に落ち着きを得たジョッシュは、アイリスと友人関係となった。


 ヘルミナと同じくジョッシュもまたブラスターには興味を持っていたが、それは同世代の少年たちの多くと同じで初めて支給された銃――子供向けと言われるXthキャリバーに惹かれる程度のものだった。ただし、将来保安部に入ると決めていた彼は、アイリスとの勝負に勝つためにも友人たちよりも熱心にブラスターの練習を重ねていたが。


 そんなヘルミナとジョッシュはスクールの先輩後輩として出会った。ジョッシュは、風変わりな先輩であるヘルミナに何故か惹かれ、やがて二人は気の合う遊び仲間となった。

 友人たちからは二人は交際していると思われており、実際に互いに惹かれ合う部分があったのも事実だ。だがそれは恋愛と言うよりも、気楽な趣味友達に近いものだった。恋人関係と呼べるかどうかは二人にも分からない、そんな未熟さゆえに軽やかで自由な関係で、周囲もそんな二人をある意味お似合いのカップルと見なしていた。


 そんなある日、居留地の近くで正体不明の怪物(メタルビースト)と遭遇したことで、二人は望むと望まざるとにかかわらず自分たちの限界を突きつけられることとなった。


 ヘルミナは戦闘中、再び自分の命が本当に危険にさらされる状況に陥り、絶望と恐怖の感情を強く思い起こされることになった。得意だったはずの銃も通用せず、冷静さを失った彼女は怪物の攻撃を受け愛銃と共に左腕を失った。痛みに打ちひしがれながら彼女は自分が思いのほか無力であったこと、そして忘れかけていた力への渇望を思い出していた。

 ジョッシュもまた、ヘルミナが危機に陥る中で自分が彼女を守り切れなかったという事実に苦しむこととなった。既に念願の保安部に所属していたものの、結果として二人の少女たち──友人であるアイリスと、彼女の妹であるトワ──が怪物を倒し、自分たちを救ってくれたことは彼に深い無力感と罪悪感を残した。

 「自分は何のために保安部を目指していたのか」「自分は本当に彼女を守れる男だったのか」と問いかける日々が始まった。ジョッシュは無責任だった過去の自分を初めて見つめ直すことになったのだ。


 この戦いは二人にとって、忘れがたい挫折の経験となった。それまで自分の楽しみや見栄のためだけに生きてきた二人が、自分の無力さを痛感し誰かのために戦う意味を再認識するきっかけとなったのだ。



 怪物との戦闘からしばらくして二人の間には微妙な距離が生まれてしまっていた。ジョッシュは自分の無責任さを反省し、ヘルミナを守れなかったことに苦しみながら彼女に対して申し訳なさを抱くようになっていた。そして左腕を失った彼女を支える資格が自分には無いと思い込むと、自然とヘルミナとの接触を避けるようになってしまった。


 一方ヘルミナも左腕と愛銃を失ったことで、自分はいくらブラスターを振り回していたとしても十分な力がないのだと思い知った。

 さらに、自分を守れなかったことを詫びるジョッシュに納得のいかない思いを抱き、かつての関係には戻れないと感じるようになっていた。彼女もまた距離を置くことを選んだことで、周囲の目には二人が破局したように映っていた。


 今までの「趣味」としてのブラスターとは違い、ヘルミナは自分を守るための「武器」としてブラスターを求めるようになった。そしてブラスターを自身の力とするため、義手にブラスターを内蔵するという奇行に出た。

 周囲の人々はジョッシュと破局したことが原因で彼女が精神的に異常を来したのではないかと心配したが、そんな視線をよそにヘルミナは義手を改造し続ける。彼女は他人に頼らず、自らの力と共に生きる道を選んだのだった。


 そして十年ほどの歳月が過ぎ、二人はそれぞれギルドの仕事に従事する中で少しずつ自分自身を見つめ直す機会を得た。

 ジョッシュは無力感と罪悪感を糧に、他人のために行動することの本当の意味を考え始めた。

 過去の失敗を繰り返さないために保安部員として真剣に訓練に励み、誰かを守るための覚悟と責任感を育てるべく努力を重ねたのだ。かつての軽薄さは次第に消え、ジョッシュは無理をせず冷静に判断できる一人前の男へと成長していった。

 そしてジョッシュは、居留地を襲う原生生物との戦いの中で幾度も住民を救うことに成功した。やがて彼は周囲から頼りがいのある男として認められ、小隊を、そしてやがては中隊を任される立場となっていった。


 ヘルミナもまたガンスミスとして仕事をこなすうちに、自分の力だけでなく仲間と協力することを学び、次第に「誰かのために力を使う」という考えが芽生えるようになっていた。

 相変わらずトリガーハッピーな性格で義手の改造にも精を出してはいたが、戦う意味や力の使い方について少しずつ考えを改めるようになっていった。



 ともに三十路に手が届くようになったころ、長い年月をかけて責任ある大人として成長した二人は互いの変化を遠くから見守りつつ、以前とは違う新しい関係が築けるのではないかと考えるようになっていた。

 自立し成長した二人はもはや軽い恋人同士ではなく、責任を持って共に歩む「パートナー」として少しずつ関係を取り戻していった。


 変わり者のヘルミナはともかく、保安部で頭角を現していたジョッシュに憧れる女性たちは彼がヘルミナとよりを戻したことに驚き、嫉妬した。しかしジョッシュもヘルミナもそんな周囲の視線を気にせず、互いの絆を深めていった。


 ジョッシュは今度こそ彼女を支えられる自分になれたと感じており、ヘルミナもまた、ただ自分の力を求めるだけでなく、互いに頼り、守り合う存在でありたいと考えるようになっていた。

 こうして二人は十数年前の苦い経験を乗り越え、ようやく心から信じ合える関係に辿り着いたことで、結婚を決意するに至ったのだった。


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