#15
>>Iris
定員30名の軌道エレベータを使って200人を軌道ステーションへと上げる。
他の旅行者やパノプティコ市民に対する配慮も兼ねて、私達は8便のエレベータを貸し切り予約していたけど、思ったよりも同乗希望者は多かった。
もちろん、ヨタ達との同乗を選んだのは皆旅行者だったけどね。
私も今回の事業に関する調整で何度か軌道エレベータに乗ったけど、この星の軌道エレベータで穏やかな談笑が行われているのを初めて耳にした気がする。
それはつまり、この空間がシビルスコアではなく、ギルド憲章の庇護下にあるということを意味していて……ヨタの人達が本当の意味で安心を手にしつつあることの証であるように思えた。
ティンバリスへ向かう船は旅客船……といっても豪華客船ではなく、移住者や労働者向けに安価な恒星間旅行を提供する、貨物船に毛の生えた程度の船だった。
だが、このゴールドダックという名の、やや名前負けした感がある船がヨタの人達をパノプティコから脱出させる救いの船となるんだ。
通常、乗船時には手荷物の積み込みに際して検疫がが行われるけど、ヨタの人達は荷物らしい荷物を持たないので身一つで出星ゲートをくぐっていく。
私達が見送れるのはここまでだ。
「トワさん、なんとお礼を言ったら良いか……」
「別に、いい。サクラ、元気でね」
「はい。あと、子供達に名前を与えて頂いて、ありがとうございます」
「私、ネーミングセンスに自信ない。向こうで好きな名前に変えて」
「ぼくはアオ!」
「ミドリ!」
「……2人とも、トワさんの名前が気に入ったようですから、このままにするつもりです」
軌道ステーションで待機していたトワが母子を見送っているのを見やりながら、私は旅客船の船長に「労働者」達のことをくれぐれも頼むと念押しする。
厳つい髭面で白髪交じりの船長は、任せてくれと請け負ってくれた。
そして……旅客船ゴールドダックはパノプティコを離れ、ティンバリスへと旅立って行った。
第一次派遣の出発を見送った後、私達もパノプティコを離れることにした。
第二次派遣以降はギルド支部がとりまとめや引率を行ってくれるから、ずっと私達が付いている必要は無いし、そもそも私達はここへナミを回収しに来ただけだからね。
ナミは既にリュミエールで次の目的地へ旅立ったし、入れ替わるようにマリエッタも戻ってきているから、いつでも出立できる状態ではあったんだ。。
ブリーズに乗ってアルカンシェルへ帰還した私は、ティンバリスのジョイナーギルドへ連絡を入れる。
通信相手はティンバリス支部長のベルナさん。
彼女がまだ支部長を務めていることは謹慎中に様子を見に行ってくれたマリエッタから報告を受けていた。
その縁もあって今回の件を打診してみたんだけど、思った以上に歓迎して貰えたんだ。
なんでもティンバリスでの家具生産が好調で人手不足だったらしく、まとまった人数の派遣労働者の受け入れはティンバリス側にとっても渡りに船だったらしいから。
「第一次派遣の人達を無事に送り出しました。受け入れ、よろしくお願いします」
『はい、もちろんです。もっとも到着は27年後ですから、私が生きているかは判りませんけど』
ベルナさんはそういう。
確かに以前会った時よりは少し老けた印象はあるけど、あと30年ぐらいは現役でいそうな感じはする。
私がそう指摘すると苦笑しながら彼女は言った。
『もし私がいなくても、次の世代に必ず引き継ぎを行いますよ。なにせ大恩あるモーリオンギルドとの事業提携案件ですから』
「別に恩義を感じて頂くような事はしていませんけど……。ともあれ受け入れに協力頂いて感謝します。あと、リーヤ君によろしくお伝えください」
『はい。リーヤが失恋から立ち直ったら伝えておきます』
「ううっ、なんか心苦しいですぅ……」
私の言葉にマリエッタが申し訳無さそうな顔をしている。
そういえばマリエッタ、ティンバリスを再訪した際にリーヤから二度目のプロポーズを受けて、また断ったと言ってたっけ。
リーヤには強く生きて欲しい。
そんな事を思いながら、私は通信を終了した。
今回はもう1話、エピローグ的な更新を行います




