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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部9章『ホーム・リフォーム』第1037技術開発拠点-残技の衛星
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インターミッション『アルカンシェル24時』アルカンシェル-常景の星船 #1

[05:30]

 航宙船アルカンシェルの朝は早い。

 起床したアリサは、手早く身支度を整えると日課となっている朝食のパン作りを開始した。材料は昨夜のうちに計量を済ませているので、朝の作業は生地づくりから。

 手慣れた様子で手早く生地を練り上げ、ボウルで生地を発酵させる準備が整った頃には時計は6時をさしていた。



[06:05]

 アイリス起床。

 セレスティレルとなったアイリスは身体活性化の影響でフェイスケアを必要としなくなっていたが、それでも人間時代の習慣は抜けきらず、手短ではあるが念入りにケアを行う。

 アイリスが私室から出たタイミングに合わせたかのようにアリサもキッチンを離れ、二人は頷きあうと船倉へ向かった。


 さほど広くないアルカンシェルの船倉は現在、空荷ではなく物騒なエクソギアが積み込まれているが、それでもスペースは十分にある。

 アイリスとアリサはここで朝のワークアウトを行う事を日課にしていた。ストレッチに軽い筋トレで身体の目覚めを促し、その後は二人で組み手を行う。

 アイリスは本来ガンスリンガーであるし、アリサの本分は剣士であるから無手での戦闘は二人とも専門外だ。だが、常に手元に武器があるとは限らないため、二人で戦闘技術の研鑽を積んでいるのだ。

 身体能力的にも戦闘経験的にもアリサの方が一回りも二回りも上なので、アイリスがアリサに師事している形に近いが……。


「アイリスさん、ずいぶんと腕を上げましたね」

「…はぁ、はぁ……おかげさまで。でも、アリサ……全然、息上がってない、じゃない」

「そこはそれ、経験の差ですよ」

「年の功って、やつ?そういえば、朝も……早いし」

「人のことを朝の早い老人みたいに言わないで下さい!」


 舌戦ではアイリスに分があるようだが、エキサイトしたアリサの攻撃は鋭さを増し、その後アイリスは白旗を揚げた。



[07:10]

 マリエッタ起床。

 乱れ髪と寝ぼけ眼でシャワーブースへ足を運んだマリエッタは素肌にバスタオルを巻いただけのあられもない姿でアイリスがぐったりと座り込んでいる所に出くわした。

 自らが仕える主のただならぬ様子にマリエッタの意識は一気に覚醒する。


「アイリスさんっ、どうしました!?具合でも悪いんですかっ!?」

「ああ……おはよ、マリエッタ。ちょっとアリサに手加減無しでやられちゃって。あの子、歳の話するとエキサイトするの忘れてたよ……」

「えっと、喧嘩……じゃないですよねっ?」

「もちろん。ただのスパーリングだよ」


 アイリスはそういうとノロノロとシャワーブースを出て行った。

 マリエッタは少々困惑しながらもシャワーを浴び、アリサの様子をうかがいに行く。キッチンでパンを整形しているアリサの様子は普段通りで、特に代わった素振りは見えない。

 となるとアイリスが言ったように、単なるスパーリングだったのだろう。


 マリエッタは一度、二人のスパーリングを見学した事があったが、正直動きが速すぎて何が何だかさっぱり判らなかった。

 アレが味方同士の軽い模擬戦だとしたら、二人が本気で戦うとどうなるのやら。運動音痴のマリエッタには想像も付かないが、きっと相手は悲惨なことになるのだろう。


 マリエッタに気づいたアリサはパンを二次発酵させる間に着替えてくるといって私室へと戻っていった。

 入れ替わるように着替えを済ませたアイリスがラウンジに現れる。普段からお洒落な服装が多いアイリスだが、今日は青のホットパンツに白いタンクトップと言うラフな服装で、上からベージュのジャケットを羽織っている。

 一方マリエッタは白いブラウスにベージュのスカートという、かつて彼女が持っていた唯一の私服を着ている。


「あれ、マリエッタ?その服まだ着てるの?」

「はいっ、なんか落ち着くというか……あの、おかしいですかっ?」

「そんな事ないけど……今度また新しい服、買いに行こうね」

「えっと、わたし服のセンスは自信なくてぇ……」


 そんなことを言っている間に着替えを終えたアリサもラウンジに戻ってきた。

 彼女の服装は白をベースカラーとしたスターシルクの上品なドレス。確かに装飾類は少なく、デザインそのものはシンプルだが、マリエッタの目にはアリサの服装はよそ行きというか……フォーマルなパーティにでも行くような服装にしか見えなかった。

 だが、アリサはこれがラフな平服なのだと言う。


「アリサ、いつも思うんだけど、ドレスって着てて苦しくないの?」

「いいえ、そんな事は……それにこれ、普段着ですし」


 さすが良家のお嬢様で、故郷の星で女帝と呼ばれていただけの事はあるとアイリスは納得するが、孤児院育ちのマリエッタにはドレスを普段着にするという生活は想像も出来なかった。

 そんな服装談義をしている間にも時間が過ぎ、時計を見たアリサは朝食の準備をしてきます、と再びキッチンへと戻った。

 やがてパンの焼ける香ばしい匂いがアルカンシェルの船内に漂い始めた。



[08:00]

 トワ、未だ起床せず。

 トワの日常サイクルは日によってまちまちで、誰よりも早く起き出してゴソゴソとなにがしか作業をしている事もあれば、昼過ぎまで寝ている事もある。

 元々一人旅を長く続けていた事もあり、起きたいときに起き、空腹になったら食べ、眠くなったら寝るという野生児スタイルでの生活が体に染みついていると本人は主張した。

 だが、アイリスによってその生活態度を改めるよう指導が行われ……今日も朝食の時間だからとトワはベッドから引っぺがされることになった。


「アイリス、酷い」

「いいから早く起きなさい。折角アリサが焼いてくれたパンが冷めるでしょ?あとトワ、裸で部屋から出ない!アリサが鼻血出すでしょ!ほら、早くシャツ着て!」


 こちらはアイリスにとっては故郷の星にいた頃からの毎朝のルーチンワーク、トワに服を着せるミッションだ。

 船内にいるのは女性ばかりとはいえさすがに全裸でうろうろされるとアイリスも落ち着かないし、何よりアリサにとっては目の毒だ。

 さらにいえばマリエッタの情操教育にも良くないので、アイリスはトワが室外へ出る前に服を着せるべく今日も奮闘する。



[08:17]

 トワ、Tシャツ一枚だけを着てラウンジに姿を現す。

 後ろからはアイリスも続いているが……ジト目でトワを見つめているところから察するに、どうやら今日は説得に失敗して、下着を穿かせることは出来なかったようだ。


「おはよう、アリサ。マリエッタ」

「おはようございます、トワ様。今日も素敵なお召し物ですね!」

「うん。いつものTシャツ」


 お召し物の素敵度で言えば圧倒的にアリサの方が上だが、アリサにとっては自身が身につけている高級素材のドレスよりも、トワの洗い晒したTシャツの方が素敵に見えるのだろうか。

 マリエッタはアリサの価値観に混乱したが、おそらくその疑問は常識的な見解だ。呆れた様子のアイリスがトワに着席するよう声を掛け、朝食が始まった。


 今日のメニューは焼きたて……から少し冷めたロールパンと、スクランブルエッグ、そしてサラダ。デザート代わりにティンバリスで積み込んだリモンのジュースが添えられている。

 全て、アリサの手作りだ。


「アリサ、今日も美味しい。感謝」

「トワ様に喜んで頂ければ、愛妻料理も作りがいがあります」

「あのっ、お二人は結婚されてるんですかっ!?」

「はい!」「ううん」


 これまで二人の関係が気になりつつも踏み込んだ質問が出来なかったマリエッタだったが、愛妻料理というキーワードが出たことで意を決してトワとアリサの関係について質問を行った。

 だが、帰ってきた言葉は異口同音……ではなく異口異音だった。異なる回答に困惑するマリエッタ。

 だがアイリスが二人は義理の姉妹だけど、アリサは恋心を諦めてないと耳打ちすると、納得したような、納得がいかないような表情を浮かべて小首をかしげる。


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