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少女は大宇宙で虹と歌う  作者: 羽生ルイ
第2部9章『ホーム・リフォーム』第1037技術開発拠点-残技の衛星
316/355

#7

>>Towa


 マリエッタはすごい。古代文明の扉を修理するとか、私には絶対無理だ。

 たぶん私だと許可を取らずにイグナイトで爆破してG17に怒られるんだろうな。いや、怒られるだけで済まないか……。そんな事を思っている間にどんどん扉が開いていった。


 扉の内部には、アルカンシェルと似たカラーリングが施された純白の小型艇が格納されていた。

 どこか見覚えがあるような気がするのはアルカンシェルと色味が似ているからだろうか。


「これがリュミエール?」

『はい。レゾナンスジャンプドライブ実験艇、リュミエール2号機です』

「レゾナンスジャンプ?」


 思わずそのまま聞き返してしまった。どこかで聞いたことのある言葉だけど……たぶん、言葉的にはアルカンシェルと同じ超光速(FTL)航行をする装置なんだろう。

 あれ?どこで聞いたんだっけ。


「ちょっと待ってください!どうして、これがこんなところにあるんですか!」

「……いや、なんとなく想像は付くでしょ……」


 アリサとアイリスはリュミエールという小型艇を見て驚いたり感心したりする様子は無かった。

 アイリスは少し呆れているし、アリサは怒ってるように見える。そもそも二人ともリュミエールに見覚えがあるような事を言ってるけど……。


「これって、オンブルの色違いですよねっ!?」

「オンブル……ああ」


 マリエッタの言葉にようやく私は合点がいった。ギルドが先頃「開発」したっていう、黒い小型超光速艇、オンブル。

 そういえばあれに搭載されているのがレゾナンスジャンプドライブだった。あれ?じゃあ、もしかして……。


「リュミエールとオンブルは同じ?」

『オンブルという存在はデータにありませんが、リュミエールが光を意味する言葉であり、オンブルは影を意味する言葉であることから関係性、対称性が推測されます』

「トワ、たぶんだけど……こっち(リュミエール)がオリジナルで、ギルドの新造船って触れ込みの方はパクりだよ……」


 そう言うとアイリスが呆れた表情で話してくれた。

 要するに諜報部の人がここへ来て、おそらくリュミエールの一機を奪って逃走。持ち帰ったそれを解析して複製したのがオンブルなんだろうって。


「諜報部はメラニーの直属ですし、オンブルもメラニーの肝いりプロジェクトですからね。おそらくその推測で間違い無いかと。G17、リュミエールの性能諸元を見せて貰えますか?」

『承知しました。ドック壁面に表示し、HF-PX00Aのメモリにもデータを転送しておきます』

「気が利く」

「気が利くというより、この船を押しつける気満々にしか見えませんけど……」


 私はG17の手回しの良さを褒めたけど、アリサはちょっと穿った見方をしているみたいだ。素直に褒めてあげればいいのに。

 私がそう思っている間にもアイリスとアリサはデータを真剣な表情で確認している。マリエッタは船体の方が気になるのか、目を輝かせてリュミエールの周囲を色々と確認していた。


「ジャンプ可能距離が3パーセク?オンブルは5パーセクって言ってなかったっけ?」

「アイリスさん、ここを見てください。リュミエールは一度の航行で2度ジャンプが出来る仕様です」

「オンブルは航行あたり1回って言ってたっけ。じゃあ連続で飛べばリュミエールの方が航続距離は2割増しって事だけど……」

「ええ、この差は2割以上大きいですね」


 オンブルの最大ジャンプ距離は5パーセク×1回。

 リュミエールの最大ジャンプ距離は3パーセク×2回で6パーセク。

 計算するとリュミエールの方が2割増しだと思うけど、アリサは2割以上だと言う。私の計算、間違ってるのかな?


「あのタヌキババア……よっぽど未探査領域を探られたくないらしいですね。オンブルとやら、デッドコピーどころかモンキーモデルじゃないですか!」


 アリサが忌々しげにそう吐き捨てた。いつも温厚で上品なアリサらしくないと思った私は、そっとアリサの手を握る。


「アリサ、落ち着いて」

「……すみません、少し感情が高ぶりました」

「でも、何がだめなの?」

「トワ様……オンブルは片道航行専用になってるんです。つまり未知のエリアにオンブルを送り出すと、帰って来れません。ですが元々のリュミエールは往復航行を視野に入れて設計されています」

「リュミエールなら未探査領域へ派遣できる?」

「ええ、探索範囲は狭いですが……それでも、帰ってこられる保証の有無は運用性に大きな影響を与えます。一度の航続距離が同じなら再現する技術力が無かったのだろうと思えますが、オンブルはリュミエールよりも航続距離自体は伸びています。これはつまり意図的な仕様変更で……それを命じられるのは、メラニー・スゥだけです」

「どうしてそんな事したの?」

「メラニーを問い詰めないと正確なところは判りませんが……でも、おそらく彼女ならこう言うでしょうね。『定期航路を跳ぶなら、こちらの方が便利でしょう?』と」


 そうか、片道航行でも跳んだ先に人類の拠点があるなら、そこで補給なり整備なりが出来るから帰ってくることが出来る。

 つまり普通に人類文明圏の中、定期航路を航行する上ではそれで問題無いって事だ。


 そう考えると私はアリサが言う様な悪意というより、そちらの方が使いやすいというメラニーの判断のようにも思えたけど……。まぁ、これは今度あのおばあちゃんに会ったときに聞いてみれば判ることだろう。


「その他は……これ、シンガーじゃなくても乗れる仕様になってるね。良かったじゃない、アリサも乗れるよ?」

「ええ、色も白いですし、あのオンボロ(オンブル)より1000倍は素敵ですね」


 アリサのオンブル嫌いは今に始まった事じゃないけど、今回の件でさらにオンブルが嫌いになったっぽい。まぁ、仕方ないかな。黒いし。


「あとは……あれ?性能諸元のオプション欄が3分割されてるね。1号機から3号機で仕様が違うのかな。1号機はプレーンな仕様。3号機は……げっ、グラビティカノンって、これ武器?で、これは2号機だから……っと。グラビティスリング?なにこれ」

『はい。この機体は小型グラビティスリングユニットの搭載試験モデルです』


 G17の説明によると、グラビティスリングというのは重力制御を使った装備の射出装置らしい。

 確かアルカンシェルがブリーズを発進させるときにも使ってたよね、重力カタパルト。


『グラビティスリングは重力カタパルトとトラクタービームを一元管理してユニット化したものです。本来航宙船に搭載するサイズの装置を小型化したものが装備されています』


 つまり撃ち出すだけでなくて回収も出来る。便利そうな装置だと私は思ったんだけど……。


「でもG17?回収可能範囲が最大で1200Kmになってるけど。リュミエールってエアロプレーンじゃなくて航宙艇だよね?」

『はい』

「……ねぇ、私から言った方がいい?それとも自分で言う?」

『……リュミエール2号機は失敗作です。正確には、リュミエール全機とも、失敗作としてこの施設に遺棄されていました』


 アイリスの言葉に応えたG17の声がなんだか悲しそうに聞こえた気がするけど、どういうことなんだろう。


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